第23話(田中厚太)「スーパーの買い物かごに人格が宿る」
田中君の休日です。
生活の為にスーパーマーケットでお買い物です。
しかし……
休日、田中厚太は駅前スーパーに寄った。
“月曜の自分を助ける”癖は抜けないが、今度は声に出さない。
買い物だけで済ませる。
健全に。
田中のかごには、きっちり並んだ品物が入っていく。
鶏むね肉。ブロッコリー。卵。ヨーグルト。味噌。
そして、作り置き用のタッパーが二つ。
(よし。生活が整えば、仕事も整う)
そう思った瞬間、背後から声がした。
「田中くん?」
振り向くと、新藤美咲がカートを押して立っていた。
休日に職場の同期と会う頻度がおかしい。
田中はなぜか姿勢を正し、通路で会釈した。
「新藤さん……こんにちは」
「こんにちは。偶然ですね」
新藤さんのカートには、冷凍うどん、スープ、プリン、入浴剤。
“回復”が詰まっている。
田中は目をそらすべきなのに、見てしまった。
そして新藤さんも、田中のかごに目を落とした。
鶏むね肉の規則正しさが、逆に目立つ。
新藤さんが、少し笑いながら言った。
「田中くん、料理するんですね」
田中は即座に弁解した。
「いえ、これは、その……先週の反省で」
「反省で鶏むね肉、買うんですね」
「はい。反省はタンパク質で補うと、来週が違うかな…と」
言った瞬間、田中は理解した。
いまの発言は、誰に向けても恥ずかしい。
新藤さんは笑いをこらえながら、棚からティラミスを取った。
「じゃあ私は、反省を糖で補います」
田中は、ティラミスを見て、高瀬先輩の顔がよぎった。
一瞬、強張る。
しかし、
「健全です」
田中が真面目に返すと、新藤さんは肩を震わせた。
「“健全”って便利な言葉ですね」
レジに進む。
気付けば新藤さんも後ろに並んでいる。
しかし田中は、レジでスマホのポイントカードの
アプリを開くのに手間取った。
後ろに並んだ人に迷惑をかけたくなくて、田中は言ってしまった。
「大変恐れ入ります、少々お待ちいただけますでしょうか」
スーパーで、完璧なビジネス敬語。
後ろの新藤さんが小さく言った。
「……はい、承知いたしました」
田中の耳が一気に熱くなる。
会計を終え、袋詰め台へ。
そこでさらに、現実が追い打ちをかけた。
新藤さんが何気なく言ったのだ。
「田中くん、このスーパー来るってことは……この辺りですか?」
田中はぎこちなく頷いた。
「近いです……たぶん」
「ですよね。たぶん……私も」
二人は袋を持ったまま、軽く会釈し合った。
田中は思った。
ここは、街でも電車でも“同期”がエンカウントする世界線だ。
明日から生活や通勤において
「リラックスする」というタスクの
難易度が確実に上がってしまった。
(つづく)
異性同期が近くに居るとわかると、
少々気まずいですね。
構えちゃいます。
家がわかっちゃった日には…




