第22話(新藤美咲)「コンビニ寄り道が“事件”になる」
今週も終わりました。
週末の帰り道、少し解放感があります。
金曜の退勤。
新藤美咲は、エレベーター前で田中厚太と鉢合わせた。
同期とはいえ、帰りが一緒になると少し気まずい。
“同期”という言葉は便利だが、
距離感の正解をくれない。
駅までの道。
周囲の人々が急ぎ足で過ぎていく。
沈黙が長くなる前に、美咲は言った。
「……今週、長かったですね」
田中が即答する。
「体感、三週間くらいありました」
少し笑って、少し楽になる。
その流れで、美咲はつい言ってしまった。
「コンビニ、寄ってもいいですか。甘いものが欲しくて」
田中はうなずいた。
「僕も寄ります」
二人で入店。
美咲は棚を見ながら、頭の中で考え始めた。
(これ、寄り道っていうより……一緒に買い物?
いや、ただの補給。補給です。変な意味はない)
ところが、田中が真面目な顔で言った。
「新藤さん、どれがいいですか」
「え?」
「甘いもの。僕、こういうの詳しくなくて。おすすめあります?」
質問が急に友人レベルになる。
美咲は焦った。おすすめ。しかも同期の週末の補給を左右する。
あまり女子っぽい甘味好きを見せたくない。でも変に冷たくもしたくない。
思考が滑り、口が先に出た。
「……じゃあ、これ。定番です」
無難な定番を選ぼうとしたのに、
テンパりすぎて一番派手なものを掴んでしまった。
手に取ったのは、”季節限定”のいちご系スイーツだった。
派手なPOPまで付いたピンク色の目立つ包装。
(しまった。全然定番じゃない。
一番浮いてたのを掴んでしまった!)
田中はじっとそれを見て、なぜか神妙に言った。
「それ、やっぱり“正解”ですかね」
「正解とかじゃなくて……」
美咲は頬が熱くなる。
たかがコンビニで、急に評価軸が生まれる。
会計で、
田中が美咲の分まで一緒に支払おうとして、
「……じゃあ、……情報提供のお礼ということで、僕が」
美咲は即座に止めた。
「ダメです! 同期ですから!」
レジの店員が一瞬動きを止める。
「同期だとダメなんですか」
「ダメというか……駄目です!」
周囲の客の注目を集めた気がして
美咲は目線を動かせなかった。
言い方が最悪だ。
美咲は慌てて補足した。
「割り勘というか、各自です。各自が、健全です」
田中は一拍置いて、静かに頷いた。
「健全……」
その一言が、妙に面白くて、二人とも笑ってしまった。
店を出ると、夜風が顔の熱を冷ましてくれた。
でも美咲は思った。
“同期と寄り道”は、想像以上に難易度が高い。
そして、少しだけ楽しい。
それが、また困る。
(つづく)
帰り道の寄り道って、それだけで何か楽しいです。
ましてや週末だと。
その先にある解放感が何とも心を豊かにしてくれるようで。




