第20話(新藤美咲)「議事録の小説化」
新藤さんです。
段々任される仕事が増えてきました。
今日は会議の議事録です。
会社の文章は難しい。
社内通達文書、会議議事録、報告書、稟議書、etc.
種類も多いし、文体も違う。丁寧のランクが違う。
今日、美咲は初めて会議の議事録作成を任された。
PCでのタイピングは得意な方だ。
ただし、先日のような“誤変換”には細心の注意を払う。
加えて、会議の温度感を記録しておかないと、
後で清書する時にニュアンスが伝わらない。
美咲は発言の後に、自分のメモ用として“状況”も記録していった。
「課長は強い意思を込めた表情で発言した」
「ゴロウさんは、大げさな身振り手振りで力説する」
「田中君は恥ずかしそうに顔を赤らめる」
その他…
会議が終わり、自席のPCで文章をまとめる。
一通り書き終わった後、まだ下書きだが、
確認のために、高瀬先輩へチャットで
ドキュメントのリンクを送った。
すぐに高瀬先輩から返信が来た。
『新しくて良いんじゃない。
皆のチャンネルに共有しておいたから』
えっ!まだ下書き…
先輩に送ったチャットには、
「確認してください」の文字はあったが、
「下書き」の言葉が抜けていた。
「場面状況(ト書き)」がフルに入ったままの議事録が、
部内全員に回覧されていく。
次々と♡やイイネが画面に通知される。
ゴロウ先輩もチャットでサムズアップ送って来る。
課長から個別チャットメールで
「新藤さん、イイネ。でもこれ、ちょっと小説っぽいね」
小刻みに手が震えている。
穴があったら入りたい…
隣の田中君から
「新藤さん、僕そんなに顔赤かったですかね」
高瀬先輩も通りがかりに親指を立てて
「いい感じの情景描写だよ」
課長が追撃する
「次の会議、新藤さんの『情景描写』がつくから、
みんな良い表情でね」
美咲は、また椅子から立ち上がりかけて座りなおす。
周囲の視線が痛い。
怒られない優しさが、逆に深く刺さる。
美咲は思った。
社会は言葉遣いだけじゃない。
優しさという刃が刺さる世界なんだと。
(つづく)
議事録はその場で同時入力ですから、
情景描写出来るのは、なかなかにスキルがあります。
でも、確かに、情景も入れておけば、
会議の熱は伝わりますね。
でも、今どきは、
「それ、あなたの感想ですよね」
とか言われそうですけど…。




