第19話(田中厚太)「“令和のダ・ヴィンチ”の誕生」
田中君ターンです。
社会人の雑談、最初結構難しかったりします。
これも距離感?
昼前に、会社のゴロウ先輩が声をかけてくる。
「割引の定食があるから行こうか」
田中は、ゴロウ先輩と昼食に行く。
食事しながら、先輩が聞いてくる。
「田中君は学生時代は何してたの?」
お、自己アピールのチャンスだ。
ここは一つ、知性をしっかり見せなければ。
田中は背筋を伸ばした。
「はい、経済学を専攻しておりまして、
主にケインズ経済論を研究していました。
有効需要の原理がマクロ経済に与える影響について…」
「あ、わかったわかった。ストップストップ」
ゴロウ先輩は苦笑いしながら手で制した。
「面接じゃないんだから。そうじゃなくて、
サークルとか趣味とか、そういう活動だよ」
田中はハッと気づいた。
会話のレイヤーを完全に間違えていた。
ならば文化的なインテリジェンスで勝負だ。
社会人の雑談、難易度が高い。
「あ、はい。サークルで美術館巡りをしてました」
「へぇ、美術館!?それはすごいね」
「はい。ダ・ヴィンチとか好きです」
本当は、女性を誘いやすいという不純な理由で入った
「名前だけの美術サークル」だったことなど、絶対に言えない。
高尚な趣味をアピールしておくのが良い。
ダ・ヴィンチ展に行った事は事実だし。
しかし、社会は甘くなかった。
午後、会社のチャットでゴロウ先輩が、
「令和のダ・ヴィンチ君、この資料だけど…」
と呼び掛けてくる。
そして、他の先輩たちも、
チャットでモナリザのスタンプ付けたりし始め、
田中のことを
「おっ、令和のダ・ヴィンチ」と呼ぶようになった。
ダ・ヴィンチと呼ばれるたびに、
隣の新藤さんが冷めた眼でこちらを見る。
“挨拶や電話でフリーズする男が、芸術なんて”。
そう言われている気がした。
田中は、暫くの間、駅の美術ポスターを見る度に、
新藤さんの冷めた顔が浮かんだ。
(つづく)
私も、随分前にダ・ヴィンチ展示行った事あります。
高尚です。
でも、正直、ダ・ヴィンチに限らず、
何がどこまで高尚なのかわかりません。
芸術って、難しいです。
凄い絵だな、くらいの音痴なので(正直者)。




