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新入社員・田中君と新藤さん(短編連作)  作者: 遠藤 世羅須


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20/30

第19話(田中厚太)「“令和のダ・ヴィンチ”の誕生」

田中君ターンです。

社会人の雑談、最初結構難しかったりします。

これも距離感?

昼前に、会社のゴロウ先輩が声をかけてくる。

「割引の定食があるから行こうか」


田中は、ゴロウ先輩と昼食に行く。

食事しながら、先輩が聞いてくる。

「田中君は学生時代は何してたの?」


お、自己アピールのチャンスだ。

ここは一つ、知性をしっかり見せなければ。


田中は背筋を伸ばした。

「はい、経済学を専攻しておりまして、

 主にケインズ経済論を研究していました。

 有効需要の原理がマクロ経済に与える影響について…」


「あ、わかったわかった。ストップストップ」

ゴロウ先輩は苦笑いしながら手で制した。

「面接じゃないんだから。そうじゃなくて、

 サークルとか趣味とか、そういう活動だよ」


田中はハッと気づいた。

会話のレイヤーを完全に間違えていた。

ならば文化的なインテリジェンスで勝負だ。

社会人の雑談、難易度が高い。


「あ、はい。サークルで美術館巡りをしてました」

「へぇ、美術館!?それはすごいね」

「はい。ダ・ヴィンチとか好きです」


本当は、女性を誘いやすいという不純な理由で入った

「名前だけの美術サークル」だったことなど、絶対に言えない。

高尚な趣味をアピールしておくのが良い。

ダ・ヴィンチ展に行った事は事実だし。


しかし、社会は甘くなかった。

午後、会社のチャットでゴロウ先輩が、

「令和のダ・ヴィンチ君、この資料だけど…」

と呼び掛けてくる。


そして、他の先輩たちも、

チャットでモナリザのスタンプ付けたりし始め、

田中のことを

「おっ、令和のダ・ヴィンチ」と呼ぶようになった。


ダ・ヴィンチと呼ばれるたびに、

隣の新藤さんが冷めた眼でこちらを見る。


“挨拶や電話でフリーズする男が、芸術なんて”。

そう言われている気がした。


田中は、暫くの間、駅の美術ポスターを見る度に、

新藤さんの冷めた顔が浮かんだ。

挿絵(By みてみん)


(つづく)

私も、随分前にダ・ヴィンチ展示行った事あります。

高尚です。

でも、正直、ダ・ヴィンチに限らず、

何がどこまで高尚なのかわかりません。

芸術って、難しいです。

凄い絵だな、くらいの音痴なので(正直者)。

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