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新入社員・田中君と新藤さん(短編連作)  作者: 遠藤 世羅須


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16/19

第15話(田中厚太)「“大変丁寧な言葉ですね”の絶望」

田中君のターンです。

週明け、月曜日の通勤電車です。

社会人、月曜朝の通勤は憂鬱ですけど、

田中君はまだその前段階です。

頑張る気持ちはあるようですが…

月曜日の朝、

通勤電車は混んでいた。


田中はスマホで見つけた「新入社員の心得」の動画を

ワイヤレスイヤフォンで聞きながら、

今週を生き延びる為のイメージトレーニングをしている。


会社で朝の挨拶、先輩、上司への返事。

田中は目を閉じ、動画の音声に合わせて

小さなのつもりで反復練習をする。

(おはようございます。本日もよろしくお願いいたします……)


ふと目を開けると、

目の前の席に座っている女性と目が合った。

女性は少し驚くような仕草で目をそらす。


田中は少しバツが悪く、左右に目を向けると、

なんと両隣の人もこちらを見ている。


何か変な雰囲気だ。

しかし、社会人は取り乱してはいけない。


きっとイヤフォンの音が漏れていて、

「音楽でも口ずさんでいる若者」として見られたのだろうと、

田中は勝手に結論づけた。


イヤフォンを外し、隣の男性に

「音漏れてました?」と聞いてみる。


男性は、少し逡巡した後、

「……大変丁寧な言葉で、良かったですよ」と

「褒めて」くれた。


田中は、一瞬で状況を理解してしまう。

小さな声のつもりだったが、

ノイズキャンセリングの中で、声は外に出ていた


慌てて動画を消し、

イヤフォンをケースに封印する。


前の女性は顔を下げて、一瞬で“仮眠”に入っていた。

小刻みに肩を揺らしながら……


今週も社会はとても優しい。

少なくとも、表面上は。

挿絵(By みてみん)


(つづく)

私も、音楽聞いていて、友人と話した時に大声になり注意された事があります。

イヤフォンは、便利なようで地雷な感じがします。

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