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新入社員・田中君と新藤さん(短編連作)  作者: 遠藤 世羅須


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13/20

第12話(新藤美咲)「部屋着のまま、社会人になれない」

今回は新藤さんです。週末の終業時は一番の解放感がありますね。

最初の週の緊張感から解きほぐれる安堵感。

精神的疲労感もさぞや。

一週間が終わった夜、美咲は帰宅してすぐスーツを脱いだ。

部屋着に着替えた瞬間、全身の力が抜けた。

やっと“自宅の顔”に戻れる。


鏡の前で、今週の全てを思い出した。

そして何より、敬語が“安全運転すぎる”。


美咲はスマホで「新入社員 敬語 例文」と検索し、

ひとつひとつ口に出して練習した。


「恐れ入ります」

「承知いたしました」

「差し支えなければ」


言えば言うほど、部屋着との落差がひどい。

パジャマで「恐れ入ります」は、世界のバグだ。


そこへ高校時代の親友からLINE。

「社会人どう? もう大人?」


美咲は勢いで返した。

「大人っていうか、敬語が増えた」


すぐに既読が付く。

「敬語が増えた、って何。新藤、面白い」


美咲は赤くなった。


しばらくして、もう一通通知が来た。

「同期はどう?」


美咲は、しばらく画面を開けなかった。

開いたところで、何を書いても少し恥ずかしい気がしたからだ。


そして、しばらく悩んでから「普通」と返した。

挿絵(By みてみん)


美咲は布団に入ったあと、

枕元のスマホ通知に反射で

「承知いたしました」

と小声で返してしまった。


(誰に言ってるの、私)


そして、

今週いちばん言えなかった言葉を、自分にだけ言う。


「……お疲れさま、私」


初日のチャットではうまく言えなかったその言葉が、

部屋着の世界ではちょうどよかった。



(つづく)

週末解放の安堵感は、特に最初の頃は貴重です。

休日がとても貴重なものに感じられます。

学生から変身して、最初に変化するのが、この休みに対する感覚ですね。

時間の大事さも。

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