第11話(田中厚太)「母の既読が重い」
長い1週間がやっと終わり、家路につく田中君。
メールが来たようです。
一週間戦った後の帰り道、
田中厚太は駅のホームでスマホを見た。
通知は母からだった。
「会社どう? ご飯食べてる? 胃は大丈夫?」
通知を見て、田中はちょっと笑った。
それから返信に詰まった。
母への返信なのに、既に“社内文体”が染み付いている。
田中は打った。
「無事に配属先へ着任いたしました。各位にご指導いただき——」
母に“各位”はない。
田中は消した。「うん。大丈夫。元気」
短すぎる。誘拐されたみたいだ。
田中はまた打った。
「研修も終わって、部署の人も優しかった。
ご飯もしっかり食べてる。心配しないで」
送信。すぐに既読が付いた。そして返信が来た。
「よかった。厚太のことだから、
歓迎会で緊張して飲みすぎたりしてない?」
(そうか、歓迎会あるってメールしたんだ)
田中はホームで、少し胃が痛み始める。
失敗したとは返せないし……
ホームに電車が滑り込んできた。
通勤帰りの社会人たちが、大量に電車に吸い込まれていく。
そして、ホームアナウンスの後、走り去る。
そんな日常風景を見ながら思う。
母は変わらない。
変わったのは自分だ。
田中は返した。
「飲みすぎてない。ちゃんと大人だった」
少し嘘をついてしまう。
そして、”大人だった”に自分で突っ込みを入れる。
いつ以来だろう、絵文字を入れないメールは。
送信後、ホームの冷たい風では、
頬の熱を冷ませなかった。
(つづく)
新社会人となり、日々の慌ただしさに忙殺される毎日が始まり、
色々な事に振り回されるようになっても、
両親は、しっかり見守っていてくれるものです。
唯一にして最後の精神的な拠り所。
両親を思い出し、感謝していたのを思い出します。




