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098 春が来た、春が来た、誰に来た~♪

 ブルカン村に着くと一行はまず村長の家に挨拶に行った。


「今日来たということは、首尾よくいったと言うことじゃな。四人だけで来たのなら追っ手は処分したということかのう」


 村長のケレンはニコニコしながら言った。勇人らがケガをしていなかったこともあるが、自分たちが八人を預かるという面倒事を引き受ける必要がなくなったことも機嫌が良い理由だろう。


「そうなんだ。大人しく顔を見せれば帰るとでも言って欲しかったんだけど始めっから自分たちの役目を超えて殺すつもりで来てたからね。『帰る』と言っても帰すつもりは無かったから村長に引き受けて貰えるようにお願いしたんだけどね。でも先に抜かせるのには苦労したよ」


「皆殺しにするつもりなら、そんなことを気にする必要も無かろうに」


「相手は貴族様の手の者だからなあ。色々策を弄されて、万が一にも真偽判定官の審議を受けることになったら僕たちが正当防衛を主張できるようにしとかないとと思ってね」


「それは何とも用心深いことじゃ。後先考えずに突っ走るよりは遥かにましじゃがのう。よしよし、それでは今日は一日遅れの歓迎の宴じゃ。お前さんらは準備が出来るまで何時もの集会所でゆっくりしておるが良いぞ。始まる前には迎えを送るからのう」


 村長はそう言い残すと自宅を出ていった。勇人たちも集会所の客室に行くと前に来た時に通された居間に入って囲炉裏の回りで寛いだ。


「村長はさっき『いつもの』って言ってたよな。僕たちがここへ来るのは二度目だ。いつものって言うのはおかしくないか」


 勇人はふと先程の村長の言葉を思い出してそう言いながら他の三人を見回した。みんな心当たりがないと口々に言ったが、ガブルは明らかに挙動がおかしい。


「ガブル、何か心当たりがあるんじゃないの」


「うん、ボクもそう思うよ」


「な、何の話だか」


 ガブルは否定するが、挙動が明らかにおかしい。目が泳いでいる。


「そう言えば、最近ちょくちょく単独行動を取ってたよな、それも一泊二日で。そのときここに来てたんじゃないかな」


「ま、まあそうだけんど、同じ山人どうしだべ、仲良くなっておいても良いかなって思っただよ」


「黙って行くなんて水臭いね。言ってくれれば良かったのに」


「いや、その・・・呼ばれたのが若衆宿だから・・・」


「それって、何なのよ」


 勇人は分かったがヨナは分からないらしい。貴族の娘だから仕方ないだろう。


「僕の生まれた世界でも昔は在ったらしいよ。それこそ大昔から何百年も続いていて、地方によって呼び方も遣り方も少しずつ違ったらしいけど、若い男たちが共同生活をしながら村の仕来りとかその他諸々を教わってゆく風習なんだ」


「何故無くなったのよ」


「僕の国でも百五十年くらい前までは各地にあったんだけど、中央集権の政府ができてからそのトップに立った貴族階級が儒教っていう若衆宿とは相容れない考えを平民にも押し付けた結果無くなったんだ」


「若い女には無いの」


「僕の国には娘組とか娘宿とか言うのがあったらしいけど、ここの風習は分からない。ガブルに聞いてくれ」


 突然話を振られたガブルは目を白黒させながら話した。


「ブルカン村には在るだ。と言うか、若衆宿と娘宿は山人の村にはどこでも在るだ」


「何で、あなただけが呼ばれたのよ」


「そりゃあ、オラが山人だからだべ」


「月に一度行ってブルガン村の風習を覚えたって仕方ないじゃないの」


 ヨナの追求で話が次第に核心に迫ってくる。勇人は苦笑するしか無かったし、ジェシーは結論が分かっているのか、頬を赤らめて下を向いてしまっている。


「そ、それは・・・月に一度交流会があるだ・・・娘宿との・・・」


 ガブルが言葉に詰まりながら小さな声で白状した。


「交流会で何をするの」


「ここに酒と食べ物を持ち込んで、宴会して・・・お互いに気があったら・・・その一緒にここの二階に部屋があるから・・・」


 今度はヨナが真っ赤になって俯く。四人とも黙り込んだまま、時間だけが過ぎてゆく。


 突然若い娘の声がした。


「ガブル、入るだよ」


 そういうなり、入口の戸が空き、可愛らしい顔をした山人の娘が顔を覗かせた。小柄だが山人らしいシッカリした体躯をしていて、ジェシーと対象的にメリハリの在る体つきをしている。


「ガブル、宴会の容易が出来たからみんなを広場に連れてくるだ。今晩は温かいから宴会は外で焚き火を囲んでするだよ」


 その言葉を潮に、四人は立ち上がって広場に向かった。勇人はそっとガブルに近づいて囁いた。


「おい、あの娘か」


 ガブルは黙って頷く。


「やること、やったのか。お前が誘ったのかい」


「最初んときはやったか、やられたのか分かんねえだ。しこたま飲まされて、気がついたら朝になってて、隣にあの娘が寝てただ。それからは来る度に一緒に寝てるだ」


「なんだ。結局やったのか」


 勇人は呆れ顔になった。


「で、どうするつもりなんだい」


「どうするって、何をだか」


「まず、魔猟士を続けるつもりなのか。それと続けるとしてあの娘との関係はどうするんだよ」


「おう。魔猟士は続けるだ。エフラとの関係もだ」


「魔猟士やってると月に一度も会えないよ。それに子供ができても世話もロクにできないし、危ない稼業なんだから命を落とすこともある。どうするつもりだよ」


「心配しなくてもええだ。元々山人の村じゃ子供はみんなで育てるもんだ。若者になれば若衆宿が面倒見てくれるだ。オラが死んでも同じだべ」


「なるほど。そういうもんか」


「山人の村には孤児院なんか無えだぞ。教会はあるだが」


「あんた、あの娘の身体よね。男なんてそればっかりだ」


 ジェシーが口を挟んできた。かなり機嫌が悪い。宴会が始まるとその機嫌は益々悪くなってきた。エフラがガブルの隣にピッタリと引っ付いて座り、酒を注いだり料理を取ったりと甲斐甲斐しく世話をし続けたからだ。それに輪をかけるようにガブルが脂下がっているのでヨナの機嫌まで悪くなってきた。


 勇人は見かねて肘でガブルの脇を突いた。


「ガブル、今日はそれくらいにしてジェシーとヨナの機嫌を取ったほうがいいんじゃないかなあ。明日から、狩りのときに後ろから矢が飛んできたり電撃が飛んできたりしても知んねえぞ」


「そ、そうだか。でもそんなことしたらエフラの機嫌が悪くなるだ。二人のことは頼んだべ」


 (こらあかんわ。一遍死んでみいや)


 勇人は舞い上がったガブルを見て呆れてしまい、とうとう匙を投げた。そうこうしていると村長のケレンが酒を注ぎに勇人の前にやってきた。


「ユージン、楽しんでるかのう。まあ一杯飲めや」


 そう言って勇人の杯になみなみと酒を注いだ。


「良え男を連れてきてくれて感謝しておるのじゃ。なんせここは小さい村でのう、どうしても血が濃くなり過ぎて困っておった。そこへガブルがきてくれたからの。今はエフラだけじゃが、あれに種が付いたら、次は幾らでも居るわ。せいぜい仰山種を撒いて貰わねば。なあに、あの男にとっては極楽じゃろうて」


 (うわあ、種馬扱いかいな。まあ極楽言うたら極楽かも知れんけど)


「じゃあ、最初に若衆宿に来た日のあれは」


「エフラはその気じゃったようじゃが、ガブルは酔っ払って何にもせんと寝てしもうたらしいぞ。ははは」


 村長のあけすけな物言いに呆れてしまってふと横を見るとジェシーとヨナを前に村長の妻が話をしていた。


 三人とも良い雰囲気で時々笑ったりしている。ところどころ聞こえてくるのを聞くともなしに聞いているとどうもガブルの「武勇伝」を肴に酒を飲んでいるみたいだ。さすが内助の功、ジェシーとヨナとをうまくなだめてくれているらしい。


 安心して勇人も心置きなく酒を飲みだした所へ村長と入れ替わりにマセフがやってきた。彼も酒を勧める。


「女の子を一人取られて、癪に障るってことは無いのかい」


 勇人は恐る恐る聞いてみた。


「ここじゃ、若いうちは男も女もお互い気持ちが合えば付き合うし深い仲になることも結構あるだ。で、気持ちが離れれば別れるだよ。その間に子が出来れば夫婦になることもあるしそうでないこともあるだ。


 どっちにしろ子供は村で育てる。親が誰かなんて子供もあまり気にもしねえだ。ある程度の歳になってコイツはってお互いに一生一緒に暮らすつもりになったら夫婦になるだ。


 エフラは今はガブルが気に入ってるみてえだべ。それならそれで良いだ。気が合わなくなって別れるならそれでも良いだ。誰も気にしねえべ」


 (文化の違いやなあ)


 ふとみるといつの間にかガブルとエフラの姿が消えていた。やることをやりに行ったのだろう。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 翌朝、眠そうな顔をして二階から降りてきたガブルを急かせて「グリフォンの夢」はブルカン村を発った。道すがらの話題はもっぱら昨日のガブルだ。


「種馬さん、昨日も随分頑張ったようだね」


 ジェシーが昨日とは打って変わって上機嫌でガブルを誂いに掛かる。


「これからあなたのことは、種馬ガブルと呼ばせて頂くわ」


 ヨナも機嫌よくそれに乗ってきた。


「そのあだ名は止めて欲しいだ」


 ガブルは俯いて小さな声で哀願した。だが二人は即座にそれを拒否する。


「せめて、仲間内だけにしてくれ。他の人が居る所では普通に呼んで欲しいだ。でないとオラ恥ずかしくて人前に出られなくなるべ」


 二人はガブルの哀願にニッコリ笑っただけで何も言わない。


 (こいつらも結構鬼畜やなぁ)


「山人の風習ってことで許してやってよ。それはそうと森人や野人では結婚とか男女の風習とかはどうなってるんだ」


 勇人は少しだけ話題をずらすことにした。


「森人は山人みたいに軽々しく男女の関係にはならないよ。何年もかけてお互いの趣味、嗜好が自分に合うかどうか確かめ合って、お互いの気持ちを確認して夫婦になるんだ。だから夫婦になったらたいてい相手が亡くなるまでは別れないよ」


「そうか、『死が二人を分かつまで』ってことだね」


「ユージンも結構ロマンチックな言い回しをするんだ」


「僕の宗派じゃないんだけど、結婚のときの決まり文句らしいよ」


「なぁんだ。受け売りか」


「それで原人はどうなんだい」


「私は貴族の娘だから、平民の風習は知らないわ。貴族は結婚の相手は当主が派閥関係、家柄の釣り合いを考えて決めるわ。まあ、政略結婚ね。


 時には寄り親と言う派閥で上の立場にある貴族家の斡旋や上位貴族からの申込で当主の意向とは関係なく決まることも在るの。私みたいにね。


 ても、結婚して第一子が生まれるとその後は浮気に走る人もあると言うわ。男女関係なくね。相性なんて無視した政略結婚だものそういう事があっても不思議はないのよ。これも結構歪な関係だわ」


 相変わらずうるさく出てくるゴブリンを討伐する合間にそんな話をしなから先を急いでいるといつの間にか領都に着いていた。


 色々騒動のあったブルカン村旅行も終わりを迎えた。ガブルは月に一度二泊三日でブルカン村に行くことになった。昼間に出てくる魔物くらいなら彼一人でも何とかなるだろう。

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