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097 裏の仕事は刺客ぞな~♪

 翌朝、朝食を済ますと今日の段取りを話し合うことになった。


「まず、どこで迎え撃つかってことなんだけど、僕は砦の外で待つのがいいと思うんだ」


「何でだか」


「砦の中で待ってると、相手が遠くから様子見をしただけで攻略できないと考えてそのまま帰ってしまうかもしれないだろう。そうなると次に何時、誰が来るか分からないままになってしまう。


 それじゃあこの先、何も分からないまま刺客に怯えながら生活しなければならないだろう。外で待ってれば相手は姿を現すだろうし、話をすることによって相手の意思も分かる。それによって死んでもらうのか、ブルカン村に軟禁か決められるし、上手くすれば今後どんな奴が現れるのか情報が得られるかもしれない」


「確かにそうだね。砦を出しておけば、いざという時には逃げ込めるし、逃げ込みさえすれば相当の手練(てだれ)でも八人くらいなら十分相手ができるよ。焚き火でも焚いて昼飯を食べながら待つことにしようか。ヨナはどう思う」


「そうね。この先相手がどう出るのか分からないまま待つのは避けたいわ」


「なるほど、それも一理あるだ」


 四人の全員一致で外で待つことになった。次は対峙したときのフォーメーションだ。


「まず、話は僕にさせて欲しい」


 これには他の三人も異存がなかった。


「話をする時には、僕が頂点に立って、その両脇をガブルとジェシーで固めてくれ。ヨナは三人の後ろでフードを被って俯いて顔を相手に見られないようにしてくれ。それで戦闘になったら僕とガブルで前衛をするからジェシーとヨナは後方支援に回って欲しい」


「私が前衛で突っ込む方が良くないか。言っては悪いが接近戦ではこの中で私が一番だ」


 ヨナは勇人の提案に異論を唱えた。確かに一理ある。


「通常の戦闘ならそれで良いんだけど、今回は相手の狙いは君だ。それが前衛で突っ込めば相手全員が君を潰そうと殺到するだろう。そう言う乱戦になると後方支援は難しくなるし、全員が君に掛かれば万一と言うこともある。今回は君が後方支援に回ってなるべく相手から距離を取るのが一番大事だと思うんだ」


「なるほど、その通りだべ」


 (こいつこれしか言わへんなぁ。まあ脳筋の疑いがある奴やさかいしゃあないか)


「それと殺らなきゃならないって場合でも、ヨナとガブルは無理に止めを出すことはないぞ。無理だと思ったらあしらうだけで良い。止めは僕とジェシーに任せろ」


「何でだ」


「僕はヨナやガブルに『凶状持ちになって欲しくはねえ』んだ」


「なによ。その『きょうじょうもち』ってのは」


「なに、僕が居た世界で昔、人殺しをした人間を『凶状持ち』と言ったんだ。酷く嫌われたらしいよ」


「お前はどうなんだべ」


「僕は孤児院にいたときに十人以上殺してる。その内十数人は相手が殺しに来たのを返り討ちにしたんし、五人は山賊で孤児院仲間に死ぬほどの大怪我を負わせた奴らだから悔いてはいないけどな」


「ボクもここへ来る旅の間に殺ったのは両手の指じゃ足りないよ。盗賊、山賊、ボクの貞操を狙ったゲス野郎ばかりだけどね」


 (ふうん。一応需要はあるんや・・・まさか男の子狙い・・・)


「なあ、ユージン。ボクを見てとっても失礼なこと考えてないか」


「そ、そんなことはない・・・よ・・・と思う・・・と良いなぁ」


 二人のそんなやり取りを無視してヨナが話を継ぐ。


「まあ、その時になったら考えるわ。駄目だったら言う通り二人に任せる」


「オラもそうするだ」


 それから後も細々とした打ち合わせをしている内に昼前になった。出来合いのサンドイッチもどきで昼食を済ませると、勇人はその辺りに落ちていた枯れ枝を拾い、焚き火を中心に半径十五メートルくらいの半円、その内側に半径十メートルくらいの半円を描いた。外側の半円が警戒ライン、内側の半円が絶対防衛ラインだ。


 相手の姿が見えたのは意外と早く、勇人が二つの円を書いてから五分もしないうちだった。姿を隠そうともせずに横に広がって近づいてくる。予想通り八人いる。勇人たちも立ち上がって手筈通りのフォーメーションを取った。


「止まれ。そこに溝が見えるだろ。そこからこっちに入ってきたら攻撃とみなすぞ」


 勇人は大声で警告を発した。


「ほほう。入ったらどうするってんだ」


 八人の中で頭目らしい男がニタニタと笑いながら警戒ラインを踏み越えた。勇人は石弓を出すなり、男のすぐ脇の地面に打ち込む。


「こうするんだよ。ゆっくりと下がれ。一歩でも前に出たら身体に風穴が開くよ」


 勇人の手には既に次の石弓が握られていた。男はゆっくりと後ろに下がる。


「まあまあ、兄ちゃん、意気がっても八対四だぜ。一息ついてこっちの話も聞いてくれや。納得してくれりゃあ悪いようにはしねえぜ」


 男は警戒ラインの後ろまで下がると一息ついて話し始めた。


「俺達はおめえとその両脇の二人には特に用は無えんだ。後ろの女の子の顔をちょっと拝ませてくれればおめえ達には何もしねえよ」


「ふうん。ヨナの顔を見て、あんたたちの探している人物だったらどうするんだい」


「上からは報告しろと言われているんだがな、出来そうだったら首だけにしても良いとも言われてる。ここまで正体をバラしてから報告しても、その間に別の場所に移動されれば情報は役に立たなくなるからなぁ。俺達の報酬も貰えるかどうかってことになる。


 護衛が強ければそれも仕方ねえが、どうやって誑し込んだのか駆け出しのF級魔猟士の男が三人だけだ。ここで見逃す手は無いってことよ。悪いことは言わねえ、怪我しねえうちに脇に退いてな」


「ボクは女だ」


 (あちゃ、彼奴ジェシーを怒らせよったわ。こら戦争になったら最初にギタギタにされるん確定や)


「あんたらだってF級の駆け出しじゃないか。ここの魔猟士組合で申告したのを聞いてたぞ」


「確かにおめえたちと同じF級魔猟士の駆け出しだがな、魔道士になったのは組合から情報を得るための方便で、俺達はさる貴族様配下の探索方として長年やってきてんだ。騎士じゃねえが得物はそこそこ使えるぞ」


「ふうん。オオカミかと思って用心したんだけど、犬だったんだ」


 勇人がバカにしたように薄笑いを浮かべて誂ったので男は真っ赤な顔になって怒鳴り返した。


「てめえ、殺してやるっ」


 だが、先程の石弓の威力を見ているので前には出ない。


 (もう少し煽らんと刃物は抜いてくれんのか)


「ねえ。僕たちの後ろに在るものが見えるかな。あれ、僕たちの砦だよ。なぜ砦が在るのにその中に籠ってあんたたちを待たなかったのかわかるかなぁ」


「俺達が来るのに気が付かなかったんだろ。そんなことでごまかせるか」


「理由はね。一つ目はせっかく餌を撒いたのにそこに石を投げ込むのはバカのすることだってこと。あんたら東門での僕らと門番の話を聞いてここに来たんだろ、おびき寄せられたとも知らずに。二つ目は砦に頼らなくてもあんたらくらいは楽に制圧できるって判断したこと。わかったかな」


 勇人は薄ら笑いを浮かべながら思いっきり軽薄な口調で煽った。


「おめえらが俺達を嵌めたってえのなら、おめえらも既に嵌められてんだよ。俺達は侯爵様の探索方だぜ。その第一の役目ってのはな、情報が有ろうが無かろうが毎日報告書を送ることだ。俺達からの報告書が途絶えれば、最後に報告があった場所で何かがあったって侯爵様が知ることになるんだ。それで最低の役目は果たせるんだよ」


「ふうん。それで今日の報告は出したのかい」


「それは、そこの女が侯爵様お求めのものか確認してからだな。それを書けば済むように準備はしてるがな」


「ここで見つからなかったらどうするつもりだったんだい。二手に分かれて東と南に行くつもりだったにかな」


「俺達は南を国境まで、東の道は別の班が回るに決まってらあ」


 勇人はまたしても小馬鹿にしたように笑った。


「ベラベラとよく喋る舌だね。さすが脳筋の犬の舌だ。感心、感心。おかげで大事なことが聞けたよ。ご褒美にこれからどうなるのか選ばせてあげるよ。ここで死ぬのが良いかな、それとも山人のルートで北の国に売られるのが良いかな」


 (まるっきり悪役のセリフやなぁ。言うとって嫌悪感はんぱないわ)


「ク、クソっ。かまうことはねえ、殺っちまえ!」


 男はとうとう切れた。剣を抜いて振り上げ、回りの連中に命令する。男たちはそれに掛け声で呼応して一斉に剣を抜くと警戒ラインを超えて走り込んできた。石弓を警戒して一直線ではなくジグザクに走っている。勇人は向かって右側の三人に向けて【亜空間庫】から石礫を放射状に十五発射ち出して、三人とも昏倒させた。使ったのは単なる石礫だ。それでも二人は頭に当たっているのでたぶん即死だろう。一番外側に居た一人は腹に石礫を受けたものの金属の胴当てが守りとなり命までは失っていないようだ。地面に倒れたまま腹を抱えてのた打ち回っている。


 相手が剣を抜くよりも早くジェシーは下がりながら勇人とガブルの間に割り込み、さっきまで話していた男に【風刃乱舞】を見舞った。風刃の一つが男の頸動脈を切り、そこから鮮血が噴き出す。たぶん即死だな、それを見た勇人はそう思った。チラッとジェシーを見ると笑みを浮かべながらガッツポーズをしている。


 (あいつ、絶対に危ない奴ちゃ)


 勇人の左手ではガブルが自分より頭一つ半くらい上背のある男の繰り出す両手剣を盾でいなしながら片手剣でチクチクと攻撃している。相手の上背と両手剣の長さからなかなか自分の間合いに入れず手間取っているが互角以上に戦っている。これまでゴブ・リーダーやファイターと近接戦闘をしてきた経験は確実に身についていた。


 向かって左の三人はガブルと両手剣男の戦いを避けて回り込み、標的であるヨナに向かって突進してきた。


 (あいつらヨナの情報持ってないんか。一直線に突っ込んだら【火箭】の餌食になるで)


 勇人がそう思った途端、ヨナの右人差し指が淡く光り、同時に先頭で突っ込んできた男の胸にも矢のような光の線が走った。以前見たアビーの【火箭】よりは短かったが、それでも十分な威力があって男はその場にもんどりうって倒れた。二人目と三人目の男らはそれを見て「聞いてねえ」と叫びながら左右に分かれ、ジグザグに走って【火箭】を避けながらヨナに迫った。ヨナは右側の男に向かって走り、間合いに入るや否や腰の刃物を初めて抜いて、抜きざまにその胴を掃った。


 (あれ日本刀や。それに居合や)


 勇人が驚いているうちにヨナは止まることもなく向きを変えるともう一人の男に向けて、その後ろから【電撃】を浴びせた。男はギャッと言う悲鳴とともにその場に倒れ、その体からは煙があがっていた。


 (あれはもうダメやな)


 ガブルはと見ると、両手剣を上手く盾でいなして男の懐に飛び込み、勢いのままに胴に剣を突き立てていた。これで戦闘は終わった。


 (後始末はわいがせんとあかんわなぁ)


 勇人は最初に石礫を当てて生き残っていた一人にそっと近づくと【次元刀】でその心臓を突いた。


「終わったわね。ガブルも一人殺ったし、私も三人殺ったわ。これで二人とも立派な『凶状持ち』ね」


 ヨナが複雑な顔をしながらぽつりと言った。


「そうだべ」


 ガブルが淡々と答える。二人ともさほど動揺は無いようだ。この世界の人間は人の死にあまり感慨を持たないのだろうか。魔物に殺され、魔物を殺すことが日常の世界だからなのかも知れない。


 勇人は死体を【亜空間庫】に収納しながらふと思い出して聞いてみた。


「ヨナ、腰に差してるのは刀だよな。それを抜きざまに相手を切った。あれは居合だろ。誰に習ったんだ」


「我の師匠じゃ。玄町(くろまち)抜刀斎と名乗っておった。齢六十の老人じゃ。『名は秘すが、我が流派は一対多を得意とする古流剣術』などと言うたの。師匠は抜刀術と言っておったが居合とも言うのか。


 抜刀術の他にも『フラッシュ・ダブル・ドラゴン』とか『フラッシュ・アース・ドラゴン』とか『フラッシュ・ナインヘッド・ドラゴン』とか『フラッシュ・ドラゴン・ハンマー』などと言う技があるらしいの。奥義は『シャイニング・ドラゴンフライ』と言うらしい。我には追々教えると言うておったが結局抜刀術しか教えてくれなんだ」


 (ははあ。六十歳の居合抜きを嗜んだ老人が、孫か何かの茶髪で頬に十字の刀傷の剣客漫画に嵌って、この世界に落ちてきたんを幸いにナンチャッテ抜刀斎を名乗ったんやな、知らんけど。それにしても奥義がドラゴンフライて何やねん、トンボやないか。それにしても流派の名前を名乗らん理由がないやろ・・・あ、忘れたんや。あほらし。せやけど教えた居合は本物やな。こいつも逆ろうたらバッサリの口や。なんでや知らんけどワイの回りの女は物騒なやつばっかしや)


「なあ、早く片付けるだ。多分ブルカン村のみんなが宴会の準備して待ってるだ」


 ガブルの声に我に返り、勇人が二号砦を仕舞うとこれでキャンプ地には焚き火の跡以外何も残らなかった。ガブルを先頭に一行はブルガン村へと向かった。

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