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094 墨俣からアラモへ

 翌朝早く領都東門を出た。食料は調理済みのものを五日分昨日の内に用意している。領都を発って枯れた草原の中を通る街道を1時間弱歩くと北へ続く間道があった。その道に入って歩き始めると、草原は林になり次第に森になった。


 林に入ってから時々数匹のゴブリンと出会うようになり、「グリフォンの夢」の四人はそれを容赦なく狩りながら進んだ。林が森になった頃には頻繁に数匹のゴブリンの群れに出会うようになり、時には十匹前後のゴブリンにも遭遇するようになった。


 間道から更に細い獣道に近い道に入る。この頃から四人はフォーメーションを変えた。先頭はガブル、その後ろにヨナ、ジェシーと続き、殿は勇人だ。ジェシーが風魔法でゴブリンの立てる音や鳴き声を拾ってそちらへ誘導し、勇人は後方を警戒して必要ならば砦を出して盾にする。


 森の中で砦を出すのは大変なので、この頃からなるべくゴブリンの群れとの接触を避けて、騒音の大きな方へと進んだ。


 暫くすると森には珍しく岡と言える土と岩との大きな盛り上がりがあってその側面に高さが五、六メートル、横幅が一番広いところで四、五メートルの穴が空いていた。どうも洞窟の入口のようだ。入口付近には数えてみると八匹のゴブリンが屯しており、どうも見張りらしい。ゴブリンの巣穴でほぼ確定だ。


 暫く物陰から観察していると、時々十ないし三十匹のゴブリンの群れが出入りしている。入る群れが何某か獲物を抱えているところを見ると出入りしているのは狩猟隊なのだろう。


 「グリフォンの夢」の面々は狩猟隊が出入りしていない時を見計らって、遠隔攻撃で一気に見張りを倒すと、勇人が素早く一号砦を出して全員がそこに駆け込んだ。物音に気づいたゴブリンが洞窟からワラワラと出てきたが、砦をどうすることも出来ない。


 当初の作戦通りに四人は三階の回廊まで登ると攻撃を始めた。ジェシーとヨナは主に【風刃】を使って、ガブルは砦に取り付いたゴブリン目掛けて石礫を投げて昏倒させた後長い槍で突いて倒した。


 勇人は最初は砂利を十個前後纏めて散弾銃のように発射していたが、二十から三十メートルの所に居るゴブリン相手にはオーバーキルだったので、次第に個数を減らして行き、最終的には一匹につき三個を胸部目掛けて発射するようになった。十メートル以内に来れば勿論直接射撃である。


「うひょー、大猟だや」


 穴からゴブリンが出てこなくなった。一時間で二百匹を超えるゴブリンの死体が山となっているのを見てガブルが能天気な叫びを挙げた。確かにもう一ヶ月分のD級ノルマは達成しただろう。


「みんな、一段落ついたみたいだけど、体力や魔力は大丈夫なの」


 勇人が何気なく尋ねると、それまで嬉しそうにしていた三人の顔が少し曇った。


「ボクの魔力は残念ながらもう少ししか無いよ」


「私も」


 ジェシーもヨナも魔力切れ間近らしい。


「オラも腕が疲れたべぇ。【剛力】使う魔力ももう無えだ」


 ガブルは魔力体力とも枯渇気味のようだ。三人ともよく見ると疲れが動作にも現れている。尋ねた勇人は気力はともかく体力的にはほとんど消耗していなかったが、主に使った散弾用の砂利が底を尽きかけている。


「昼食を食べて一休みしたら少しはボクの魔力も回復するから、耳と魔石を回収して今日は帰ろうよ」


 ジェシーの提案に三人は一も二もなく賛成した。


 これが地獄の始まりだった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 食休みをしている最中に砦の外でグギャグギャというゴブリン特有の声が聞こえだした。最初は数匹の声だったがそのうちに市場の喧騒もかくやという騒がしさになってきた。


「煩くなってきただな。ちょっくら見てくるだ」


 何かに付けて尻の軽いガブルがそう言うと立ち上がり、二階の回廊に上がって行った。


大変(てえへん)だっ! 窓からゴブが入ろうとしてるだ」


 間を置かずに彼の叫び声が砦内に響いた。その声に三人はバネ仕掛けの人形のように飛び上がり、慌てて二階へと駆け上がった。見るとゴブたちが狭間から身を内側に捻り入れようとして藻掻いている。四人はてんでに槍を取り出して入ろうとしているゴブリンを突き落とした。


 それにしても二階の狭間まで下から三メートル以上ある。どうやって登ってきたのか。少し手空きになったヨナは三階に登って下を覗き込んだ。


「奴ら、五匹で肩車を組んで一番上に乗った奴が入ろうとしてるのじゃ。ガブル長槍で上から突き崩せ」


 ガブルはすぐさま三階に登り、ゴブリンピラミッドを崩しにかかった。一番下の一匹を突き倒せばピラミッドは崩れる。勇人はピラミッドが崩れたところを見計らってその狭間を岩で埋め始めた。岩は自分たちの寝室を壊して作った。


「ガブル、ピラミッドが崩せたら降りてきて狭間を埋めてくれ」


「埋めるって、どうやるだ」


「降りてきて狭間を見れば分かる」


 勇人の言葉に降りてきたガブルは、狭間を見て直ぐにやることを悟り、【融接】の魔法で狭間に入れられた岩と狭間の回りの岩とを溶接し始めた。そのあいだにもジェシーとヨナは入ろうとしているゴブリンを槍で突き落として回っている。やがて窓に岩をはめ終わった勇人もそれに加わった。


 ガブルが最後の狭間を塞ぎ終わると四人はその場に座り込んだ。取り敢えず危機は去った。力仕事もあまりせず、魔力を使うことも無かった勇人は四人の中ではまだしも元気な方だったので見張りのために三階に上がった。


 外を見ると、今度はゴブリンは仲間の死体を洞窟の中に引っ張り込んでいる。


「アイツら、仲間の死体を洞窟内に運んでるよ。葬式でもするつもりかな。でも耳がないと成績と認めてくれないよね」


 勇人が下に向かって言うと、二階からジェシーの声が帰ってきた。


「なにを呑気なことをいってるんだ。アイツら食料不足なんだぞ」


「まさか・・・仲間の死体を食うのか」


「アイツらは食えるものなら何でも食う。仲間の死体かどうかなんて関係ないんだ。奴らにとっちゃ食い物だ」


 勇人は流石に気分が悪くなった。


「取られちゃ具合が悪いわね。勇人、取りに出てきたのを狙撃してくれる。私たちもちょっと休んだら手伝いに行くから」


「分かった。任せといて」


 勇人は三階の手摺に開けた隙間から【亜空間庫】を目一杯伸ばして先端から仲間の死体を持ち帰ろうとしているゴブリンの頭目掛けて一発ずつ散弾用の指先大の砂利を飛ばした。秒速二百メートルの石礫は彼らの頭に当たると大穴を開けて反対側に飛び出した。かなりエグいが二百匹以上の死体が転がる戦場では心に訴えるものはほとんど無かった。


 死体をほとんど持ち帰られなくなると、ゴブリンたちの死体持ち帰り作戦は一旦終了した。一人で一時間半近く狙撃兵役を務めた勇人は流石にぐったりとしてしまった。


「奴らの『死体奪取作戦』は終了したみたいだよ。これでここでの攻防もおわりかなあ」


 勇人が呑気にそう言うと下からジェシカの鋭い声が帰ってきた。


「おかしいぞ。だいたいゴブリンが協力してピラミッドを作ったり、駄目だと思ったら一斉に死体持ち帰りに切り替えたりって普通奴らがやることじゃない。それにこれだけの群れなのにメイジもアーチャーもファイターも出てこない。十中八九上位種が居るな」


「そうね。それもリーダークラスじゃないわ。リーダーじゃこんなに統率のとれた行動を指揮できない。たぶんジェネラルクラスか、ひょっとしたらキングが居るのかも」


「オラもそう思うだ。なるべく回復に時間を使ったほうが良えだ」


 (おいおい、墨俣城のつもりやったんやけど、ひょっとしてアラモになるんかいな)


 今度の攻撃中断は長かった。陽が沈む。夜は奴らの時間だ。

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