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093 起こる可能性の在る事は、必ず起こる~確率を度外視すれば

 翌日学校へ行くと全校生徒に講堂に集まるように指示があった。校長から何か大切な話が有るらしい。


 講堂内には特にイスが並べられては居らず、三々五々分隊で固まって立っていた。話の内容を予想するざわめきで満ちていたが校長が演壇に立つと静まり返った。


「今日集まってもらったのは他でもない本校のノルマについてじゃ」


 校長の話が始まった。ノルマのこととあってみんな真剣な顔になり耳を欹てた。


「承知のとおり、本校では毎月のノルマを設定しておる。今はそれが最低月三両じゃ。これを三か月連続で達成できなければ強制退学となっておるのは知っておろう。


 じゃが皆も承知のとおりゴブリンが異常発生しており、E級、F級の魔物や一般の獣の数が極端に減少しておる。そのため今月のノルマを未だ達成できて居らぬ者が全校生徒の三分の二に達しておるのじゃ。このままの状況が続けば本校始まって以來の強制退学者数になってしまうじゃろう。


 本来は組合が率先してゴブリン退治に乗り出さねばならぬのじゃが未だその対策は取られて居らぬ。そこで本校としてはゴブリン対策と強制退学者救済のためにノルマについて特別措置を講じることとした。


 すなわちゴブリン一匹の討伐についてノルマとして一分の達成を認めることとする。つまり月三十匹のゴブリンを討伐すれば三両分に換算してノルマ達成を認めることとしたのじゃ。D級ノルマならば四十五匹じゃな。勿論他の魔物などを狩ったことによる報酬と合算でもよいぞ。


 ただし、無理はせぬように。一攫千金を夢見てゴブリンの巣穴なんぞに飛び込むではないぞ。お前たちの実力では万に一つも生きては帰れぬわい。もう一つ、上位種が居る場合にはやむを得ぬ限り手を出すな。特にリーダー以上の上位種に遭遇した場合には可能な限り逃げよ。


 それとな、実際に得られる金は組合からの討伐報酬だけじゃぞ。一分と認めるからと言って学校がその分を出してやるわけではないからのう。勘違いせぬようにな」


 校長は最後を冗談ともつかぬ言葉で締めくくり、演壇から生徒たちを見回した。


「何か質問はあるかのう」


 誰も何も言わない。しかし生徒のそこここから安堵の溜息が漏れた。ノルマ達成が危うい者が三分の二に達しているとの話は決して大げさなものではなかったのだろう。それからあちこちで分隊の仲間内で今後の方針を話し合う小さな声が聞こえてきて講堂内はざわめきに包まれた。


 勇人たちも四人で車座に座って今後の方針を話し合った。


「十匹以下の群れを見つけて狩っていくだ。それくらいならオラたちの分隊の実力から言えば楽勝だべ」


「十匹の群れというとかなり森の奥になるよ。平地(ひらち)で戦ってて横合いから他の群れに襲われるのはいやだなあ」


「巣穴に飛び込むのは論外だ。でも巣穴を見つけたらその前に砦を出して決戦というのは有りだね」


 ジェシーが分隊の能力を考えた提案をする。


「そこまで行くのが大変ね。ユージンが言ったような状況になりかねないわ」


 ヨナが異論を唱えた。村娘らしい言葉使いも結構上手い。着ているものも昨日帰りに買ったらしく、女物の衣装に着替えている。


「横合いから出てきたら一号を半分出してそれを防壁にするか、二号を出して立てこもるって方針で良いかな」


「んだば、巣穴を見つけに行くで良いだか」


 ガブルの言葉に三人は頷いた。


「それじゃあ、今度の休みはまずヨナの防具を買って、その後、石切場だね。ヨナの寝室と、リーダーやキング用の砲弾を作らなきゃ。ヨナはお金は持ってるの」


「我はこのような状況に陥ってはおるが子爵令嬢だぞ。逃走資金はたんまり持って出ておるわ」


「それは道理だね。あと、言葉遣い」


「おぬしに言われたくないのう。なんじゃその男言葉は」


「ボクはこの街に来るまで男のフリをして長い一人旅をしてきたんだ。今更直せないよ」


 (女どおし、マウントの取り合いやな。放っとこ)


「今度の休みの予定は決まったね。じゃあ解散だ」


 勇人とガブリエルは席を立つと早々にそれぞれ今日の教科を受ける教室へと退散した。女性二人はまだ何か言い合っている。


 その日の放課後、勇人は河原に出た。石礫と散弾にする小石を仕入れるためだ。石礫はピンポン玉くらいの大きさの石、散弾は人差指の先ほどの大きさの砂利のことだ。石礫についてはなるべく丸い石を選んで【亜空間庫】に入れた。散弾については選んでられないので指先ほどの砂利の集まっているところで一気に浚った。大きさに多少ばらつきがあるがなんとかなるだろう。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



次の休日はヨナの防具を買うと、その足で石切場へ言った。まず主目的であるヨナの寝室を作った。今まで散々石での工作をしたのでガブリエルも勇人も石で大きな物を作るのは手慣れた作業となっており、一時間もたたないうちにサクッと作り上げた。


 次に砲弾の制作である。勇人のイメージとしては大きめのボルトないしAPFS弾だったのだが、出来上がったものはむしろRPGー7の飛翔体部分に似ていた。細めの円錐を二つ底辺どうしをくっつけたような弾頭部分の後方に四枚の安定翼が付き、その二つをロッドが繋いでいる形だが全部一つの切石から削り出したものだ。勇人は一応「対魔弾」と名付けた。


 先端の円錐には縦に十文字の切り込みが入れてあり、魔物に当たると爆発的に割れる魔物の体内で広がって殺傷効果を高めることを狙っていた。これは二十本作った。


 勇人はその後、一号砦の半分を出してその狭間から外に【亜空間庫】を出して、それをコの字型に曲げ、上から対魔弾を落として下で受けるという作業の繰り返しを始めた。繰り返しの回数が五百回になったところで落とすのを止める。何回落としたかは何となく感覚で分かった。これで計算上は秒速三百メートルになっているはずだが、空気抵抗もあるので二百五十メートルも出ていれば御の字だろう。


 同じようにして手製のボルトも落とす。鳥の羽でできた安定翼は早い段階で外れて落ちてしまったが、回転は付いたので真っ直ぐに飛んでくれるだろう。これも感覚的に秒速二百五十メートルくらいだろう。鉄木の鏃はかなり熱くなったが燃えだしはしなかった。これは重力ボルトとでも呼ぶことにしよう。


 石礫は投石紐で投げ入れたものはそのままにしておいて、新たに取ってきたピンポン玉くらいの石を同じように落とした。秒速二百メートルくらいになったところで効率が悪くなったのでそれで止めた。これにも「重力」を付けて重力石礫と言うことにした。


 砂利は一つずつ落としていたのでは時間ばかりかかるので効率重視で【亜空間庫】の出口を広げて一気に採取した分の十分の一を落とした。これで考えている散弾二十発分になる。この落とし方だと大方の方向の修正しか出来ないので結局一割くらいは下の入口に入れないくらいに外にそれてしまい、中には建てた砦の壁に当たるものもでてきた。まあ、そのために砦の壁を盾代わりに置いたのではある。


 砂利はやはり空気抵抗が大きかったのだろう。感覚で秒速百五十メートルくらいになったときから効率が悪くなったのでそれで止めた。


 これで勇人の準備は整った。一休みしてみんなで昼食を摂ることにした。勇人が準備をしているあいだは他の三人は周囲の警戒にあたっていたのだが、以前来た時には結構獲物が在ったのに今回はゴブリン以外は数匹角ウサギが出ただけでほとんど獲物らしい獲物は無かった。


「やっぱり獲物はないな。ゴブリンを狩るしかないか」


「ボクもそう思うよ」


 ジェシーが諦めたように言うとヨナもそれに同意した。


「砦作戦だね」


「砦だか。確かに確実だども、あれ使うだば、オラの出番が無くなるだ」


 なるほどジェシカは遠方なら弓で近くは風魔法で対処できる。ヨナなら遠近とも風魔法、火魔法、雷魔法を駆使して対応できる。勇人も【亜空間庫】にボルトや石礫が残っている限りどちらにも対応可能だ。だがガブルには遠距離攻撃の手段はない。一号砦の三階に立つと下まで最低でも七・五メートル。普通の槍が届く高さではない。


「ガブルは力が強いよね。四間半の槍は使えないかなぁ」


「力はあるだし【剛力】も使えるだども、四間半の槍振り回すのは無理だで」


「いや、振り回す必要はないんだ。上から突くだけで良いんだけど出来ないかなあ」


「突くだけなら出来るかも知んねえだ」


「じゃあ試してみようよ」


 勇人はそう言うと【亜空間庫】から十メートルはある針葉樹の丸太を取り出した。


「おめえ、そったらもんまで入れてるだか。たまげた【虚空庫】だべ」


 勇人はガブルの驚く声を無視して材木を縦に割るとそれを削ってやりの形にした。それを一旦【亜空間庫】に収納するとガブルを誘って二人で壁代わりにしていた一号砦の半分の三階まで登った。そこで収納していた模擬槍を砦の外側に立てかけるように出してガブルに渡す。


「これで六尺くらい持ち上げてから地面に刺してみて」


 ガブルは言われたとおりに槍を上下させた。


「うん。突くだけだば出来るだ」


「何回もやることになるけど大丈夫かな」


「おう。大丈夫だべ」


「じゃあ、ガブルの役目はこれで決まりだね」


 勇人は模擬槍を仕舞うと二人で下へ降りた。


「あんな槍でどうするんだ」


 ジェシカが言った。


「それは我が説明してやるの。この砦の最大の欠点は何か分かるか。砦の真下が死角になることよ。


 普通は砦を作る際には死角がなくなるように四隅を張り出させるか星型にするものであろうが、この大きさでそれをやると極端に居住性が悪くなるからのう。やむを得ずこの形にしたというところであろう」


 日本では五稜郭が有名だが、銃器を使うようになった近代の城郭は五芒星型に作って死角をなくすのが普通だ。


「それで死角を潰すために上から真下を突くガブルの役目が出てくるわけよのう」


 勇人は思わず拍手をした。


「さすが貴族のお嬢様だね。でも言葉には気をつけてよ。村娘じゃないってすぐばれてしまうよ」


「ここはわれら以外誰もおらぬわ」


「壁に耳あり、障子に目ありだよ」


「『障子』とは何かのう」


 (あっ、障子はないわな)


「まあ、誰も居ないと思ってもその辺の叢に誰か潜んでいるかも知れないってことだよ。それからガブル、お前の力なら石弓の弦も片手で引けるんじゃないか。戦闘になったら五丁渡すから遠距離攻撃するときにはそれを使ってくれ」


「そりゃ良いだ」


「将来的には投石機か投石紐を使えるようになると良いんだけど」


「ねえ、明日からの狩場はどこにするの」


「領都から東に一時間ほど行って北に折れる道に入ると深い森が在る。ディア東の森って言われてる。組合の情報ではここが一番ゴブリンが多いところらしい。そこでの狩りはどうだ」


 ヨナからの問いにジェシカが答えた。


「危なくはないんだろうね」


 腕力にはからきし自身のない勇人は心配顔で聞いた。


「ゴブリンが出まくってるんだ。危なくないわけないだろう。あいつらきっと飢えてるから見境なしに襲ってくるぞ」


「襲ってくるのは他の魔物でも一緒だよね」


「他の魔物は襲うだけだ。やつらは食べるんだよ。目の前で仲間がやられてその場で食われているのを見たら普通の人間なら恐怖で闘争心を失ってしまうよ」


「ジェシーは見たことが有るのか」


「ああ。ボクはそれなりに長い間旅をしてここまで来たからね。見たくないものもいっぱい見たよ。それに上位種が居る可能性も高い。リーダーくらいだったらなんとかなるけどジェネラルやキングクラスになると砦なしではヤバいね」


「砦があれば何とかなるんだ」


「オーガが出てこなければ、だよ」


「オーガは上級に進化するとき以外は肉は食べないんだろう。なぜ出てくるんだい」


「オーガはゴブリンを食べないけど、ゴブリンはオーガを食べるんだよ。仲間が食べられると復讐に乗り出す。と言うか害獣退治に乗り出すんだ。そして出てきた先で人間を見つけるとそれも奴らにとって駆除対象になってしまう」


「砦作戦、やめようか」


 勇人は話を聞いている内に怖くなってきた。D級昇格もE級昇格も命を掛けるほどの値打ちはない。


「滅多なことじゃ、そんなことにはならないよ。オーガがゴブリンにやられるなんてそんなに在ることじゃないからね」


「んだべ」


「ゴブリンにしたって、オーガみたいな大物を狙うよりは獣や人を襲ったほうが安全ですもの」


 がブルとヨナがジェシーの援護に回る。ここで勇人に弱気になられると卒業どころかいずれは資金が枯渇して生活まで危なくなってしまうからガブルに取っては死活問題だった。勇人も三人に勧められると大丈夫という気持ちが強くなった。


 (交通事故怖がって外出せんみたいな話やな。確率度外視したら籠った家に隕石やらミサイルやらが落ちてくるかも知れんのや)


「ここまで準備したんだしやってみるよ」


「じゃあ、今日は領都まで戻って、明日の朝、ディア東の森に出発ね」


 そう言うが早いかヨナは片付けを始めた。それを合図に残りの三人も動き出し、瞬く間に片付けを終えるとラフィアディアに向かって帰り始めた。

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