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異世界人は魔法を使えませんって、そら無いでぇ~  作者: 浪花翁
第一章 孤児院編
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009 銭が~飛ぶ~♪

 孤児院まで戻ると、エラドは先ほどと同じくベンチに座ってのんびりと子供たちの農作業を見ていた。


「エラド、少し話があるんだけど」


 そう言いながら、勇人はエラドの隣に腰掛けると、鯉の養殖の話をした。それを聞いてエラドは独り言のように話し出す。


「水路を養殖池にするにゃあまず水を抜く必要があるが、今は稲も植わってねぇからしばらく流れを止めても問題ねぇな。土魔法と収納魔法については他の農作業もあるからチビどもが中心になんだが・・・八歳以下の八人と、監督としてシモンを使えば良いか。八歳のマルカが土魔法が得意だ。役に立つぞ。それで養殖する鯉はどうやって獲ってくるつもりだ」


「ここでは詳しいことは知らないけど、元居た国では鯉は大体五、六月頃に浅瀬の水草や倒木なんかに卵を産むんだ。それを水草や倒木ごと獲ってきて池で孵化させる。

 それと親鯉が卵を産んだ後で産卵場所を網代で囲ってそこで孵化した稚魚を持ち帰って池に放すつもりだよ。この二つの方法で稚魚は手に入ると思う」


「それでエサはどうすんだ」


「虫を使うよ。裏の林で虫を集めて、乾燥させて粉にするんだ。鯉が大きくなったらそのまま与えても良いと思う。それと、林の中に粟や稗、カラスムギ何かもあればそれも使えるし、野菜の切れ端なんかも使えるよ」


「雑穀は林を探せばあるかも知んねえ。野菜の切れ端は全部食っちまうから当てには出来ねえぞ。・・・柔らかい草なら使えるか。エサ集めはチビども四人にさせれば良いな。遊びの延長みたいなもんで連中も喜んでやるぞ」


 鯉の養殖の話がすんなり通ったので、勇人はついでに他の養殖の話も向けてみた。


「ウサギも鴨も無傷で獲んのは難しいな。ニワトリは相場的に言えば雌鶏は銀貨一枚、雄鶏は穴銀三枚だな」


 そう言われても隼人には値打ちがわからないがエラドはお構いなしに話を続ける。


「まあ、あの助祭だから、ここの教会から出せる金額じゃねえな」


 そう言われてしまえば、ニワトリは今の隼人としてはあきらめるしかない。蛋白質確保については鯉の養殖に力を入れるほかないようだ。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 その日の午後、五歳から八歳までの孤児たちを集めて、水路を拡張する工事を始めた。


 水路は東側から西側に向かって孤児院と教会の前の広場に沿うように続いており堀の役目もしている。水利については村へ続く道の両側の田にそれぞれ一番北側の田から水を入れて順次それが下の田に流れるようになっていた。


 水路を拡張して養殖池にするためににはまず水路の水を抜く必要がある。そのために水路から堀へはいるところを土で堰止めて東の田だけに水を入れるようにし、道路を横切るように水路を掘削して東の田から西の田へも水が回るようにした。


 小さい子には慣れない作業で午後いっぱいかかったが、マルカが道を土魔法で切り取り、それをみんなで【虚空庫】で運んで水路の堰止めに使うという方法で夕飯前に水の堰き止めと誘導は終わった。


 あとは堀の(のり)や底の土が乾くまで放置するしかない。それには一週間はかかりそうだった。勇人とシモンは他の孤児たちと一緒に食堂へと向かった。


 「夕飯の後は勉強会だな。明日は何の作業をするんだい」


 そんな話をしているうちにみんな食堂に着いた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



相変わらずの貧しい夕食ののち、勉強会が始まった。今日はさしずめ社会科の勉強会だった。


 レヴィナ助祭によると、この国、タイラー皇国は千五百年くらい前にチュードのタイラー一族が周辺の原住民族を征服してできた国で、そのときの一族および早くに降伏して征服に協力した部族の長が貴族に任じられたらしい。


(落ちてきたタイラーて、平家のことやろ。何のことない、平家の落人がこの地を征服した言うわけや。チュード言うのも『落人』がなまったもんやな)


 ローレン村は人口が上下合わせて約千人で、マハラ男爵が領主のマハラ男爵領に属している。石高三万石の平均的な男爵領でその全体の人口は二万人、領都マハラディアは人口約三千人の小都市である。ターセン山を囲むようにして大小の男爵領が点在している。その北側にこの周辺では有数の石高を誇るラフィア侯爵領があり、領都ラフィアディアは人口十万人を誇る大都市である。


 レヴィナの話はその後も、各高位貴族家の所在地とか、その来歴などの細かな話が続いたが、勇人の覚えきれる範囲を超えていた。


 その後レヴィナ助祭は貨幣をテーブルの上に並べ始めた。


「これが一文、そしてこれが十文。どちらも銅貨ですわ。穴の開いた方は一文銅貨または小銅貨と呼ばれ、俗に穴銅貨、穴銅とも呼ばれてますのよ。穴の開いてない方は十文銅貨または大銅貨と呼ばれてますわ」


 (見たとこ青銅製みたいやな。一文銅貨は小そうて穴があいとるし、十文銅貨は穴がないだけで一文銭と同じおおきさや)


 確かに一文銅貨も十文銅貨も見たところ直径一センチ強しかない。元の世界の貨幣で言えばアメリカの十セント硬貨より一周りほど小さい。どちらも厚みは一ミリもない。プレスしたのだろうか、片面に十を表す文字、もう片面に稲穂のような模様が浮き出ている。


 (穴開き銭て、ここにも銭〇平次が居るんかもな。『男だったら一つに賭けよ』。て、予断と偏見で捜査に当たってもろたら困るやろ。


 ようラノベでは銅貨の下に鉄貨が有ったりするけどあれはないわなぁ。銅より価値が下や思うてるんやろけど、実のところ近代製鉄以前の鉄は銅より遥かに高価やったはずやし)


 明後日の方に意識が跳んでいる間に助祭の話は進んだ。


「これが百文銀貨、これが一分銀貨ですのよ。一分は千文に当たります。これが十枚集まると一両金貨になりますわ。百文は一朱とも言われますが、あまり使われない言い方ですわね」


 (これも同じや。百文の方には穴が空いとるだけで、同じ銀貨や。それも色が悪い。かなり混ぜもんしてるなぁ)


「銅貨のときと同じで、穴あきの方は百文銀貨、小銀貨と呼ばれ、俗には穴銀貨とか穴銀と呼ばれてもいますの。穴のない方は千文銀貨で、一分銀貨、一分銀、大銀貨とも呼ばれてますわ」


 (それにしても文、朱、分、両て、かなり昔の日本人の影が見えるわ)


「助祭様、お金って小さいね」


 五歳組の女の子の感想。貨幣は毎年見ているらしく、六歳組から上はニコニコと笑っている。毎年五歳組から同じ反応が出るのだろう。


「大きいと重くなるし、虚空庫に入れていても嵩張るでしょう。だから普段たくさんのお金を持ち歩く商人さんでも邪魔にならないように小さく作られてるのよ」


「それに穴が開いてる」


「お金はみんな同じ大きさでしょう。一文と十文の銅貨、百文と一分の銀貨はちょっと見ただけでは見間違うかもしれませんわ。ですから値打ちの小さい銅貨、銀貨に穴を開けて間違えないようにしてるのですわよ」


 黄色っぽい銀色の硬貨で、大きさは一文銅貨と同じ、どちらも片面に一分を表す文字が、もう片面に鳥のような文様がプレスされている。要は十文と一分の貨幣しか作られておらず、その真ん中に穴を開けて一文と百文の貨幣として使っている訳だ。


「そしてこれが一両金貨ですわ。金貨は一種類しかないので、単に金貨と言えばこの一両金貨を指すのよ」


 一両金貨も同じく、如何にも混ぜ物の多い鈍い金色をしている。


「全部の硬貨が金銀や銅で作られていますが、使われている金属の値打ちは額面ほどはありませんわ。たとえば十文銅貨は鋳つぶしてしまうと十文では買ってもらえないのよ。


 ただ一分銀貨はこれを王都の両替所または各領都の教会に持って行くと、一分相当の純銀貨と交換して貰えますの。そしてそれをそのときの純金と純銀の価格に見合った枚数を持って行くと純金貨と交換してもらえますわ。ただし、純銀貨や純金貨を国内での取引に使用することは禁じられており、外国との貿易にしか使うことはできません」


 (なるほど一分銀貨と純銀貨との交換を保証し純銀貨と純金貨の国内流通を禁止することで一分銀貨の価値を国内的に保証し、純銀貨と純金貨との交換比率を可変にすることで対外的な貨幣価値を保持する。一種の銀本位制が採用されてるんか。流通している硬貨は紙幣代わり言うこっちゃな。碌な紙がない、まともな印刷技術もないという世界ならこれも有りやなぁ)


「ここの領都でなら金貨三枚あれば一家六人が一か月普通に生活できると言われてますわ」


 (三両つまり三万文で一家がひと月生活できるいうことはおおよそ三十万円、一両は十万円て考えてもええか。一文が十円くらい・・・『親父、今何刻だい』言うのが出来そうやな)


「助祭様、一家六人というのは大人ばかりですか」


 十四歳組の女の子デボラから質問が出た。真面目な子だ。


「夫婦に子供三人、夫婦の片親というのが町人の普通の家族と聞いていますよ」


「大人三人、子供三人ってことですね。子供は大人の生活費の半分で済むとした場合、大人二人、子供四人の生活費はいくらになるんでしょうか」


 社会の問題が算数に変身した。しかも算数レベルでは結構難しい問題になってしまった。


 (二元一次連列方程式やな。ワイの小学生の頃は、X、Yは習うとらん言う建て前やったで鶴亀算しか教えてもらわんかった。大体鶴の足と亀の足見間違えるもん居るか。もっと言うたら鶴かて一本足で立ってることもあるやろし、亀も逆立ちしとるかも知れんやないかい)


 助祭は眉を顰めて暫く宙を見つめていたが、やがて後ろを向くと石板に向かい隅っこの方に石筆で何やら書き付け始めた。


 (気の毒に、あんまり算数得意やなさそうやし。それにしてもデボラはやらかしてしもたかな)


 勇人がそう思っていると助祭は晴れ晴れとした顔でこちらを向いた。


「今、デボラが出した問題が解かる人は手を挙げて下さいな」


 当然のことながら誰一人手を挙げる者は居ない。解けないわけではないが、もちろん隼人も答えるつもりはない。解けないわけではないが。


「これは算数の問題なので、次の算数の時間にみんなで考えることにしましょう。今日の勉強会はこれで終わります」


 (さすが貴族のお嬢様。うまく躱したなぁ。これで算数の時間は当分来んやろ)


 助祭の言葉で一気に空気が緩んだ。随分短い勉強会になってしまったが、文句を言う者は誰も居なかった。

すみません。見出しと内容に全く関係はありません。

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