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異世界人は魔法を使えませんって、そら無いでぇ~  作者: 浪花翁
第一章 孤児院編
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008 天然か養殖か、それが問題や

 糖質は十分とは言えないが取り敢えず今やれる範囲で増産の目途が立ったから、次は蛋白質を何とか確保したい。何といっても成長に必要な栄養素だし、腹を満たす役割も果たす。だが今まで聞いていたことからすると、裏の林や草っ原はそれなりの広さはあるが大きい獲物は少ないという話だった。きっと取り尽くしたんだろう。一方、聖域には獲物が多いという話だったが、こちらはエラドから入域の許可がもらえそうにもない。


(狩猟で満足な獲物が得られんのやったら、安定的な蛋白源の確保には後は養殖しかないなぁ。野うさぎ的なものが飼えれば良えんやけど・・・鴨はどうやろ。それか川なら鯉の養殖か。鯉の方が現実的やなぁ。昔から鯉農法言うのもあったはずやし。とりあえず川のことも聞いてみよか)


「ところでここの田圃の水源は川なの」


「おお、そうだ。一里ばかり上流から水路を引いて使ってる」


(一里言うたら四キロくらいかなぁ)


「川まで一番近いところでどのくらいかなあ」


「五町くらいだが、流れがここより低いからわざわざ上流から水路を引いてるんだ」


 エラドは農業用水のことと思っているらしい。


(五百メートルくらいか。これやったら歩いて見に行けるわ)


「今から見に行こうと思うんだけど大丈夫かなあ」


「以前のお前だったら一人でも十分だったんだが今はなあ。暇そうにしているやつは・・・おーい、アビーちょっと来い」


 エラドが大声で呼びかけると、棚田の(あぜ)に腰掛けて所在無げにショナを見ていたアビーが立ち上がり、勇人たちの方へのそのそと近寄ってきた。


「何だ」


「ユージンが川を見たいって言ってるから、お前、案内役兼護衛ということでついて行ってやれ」


「分かったぞ」


(案内はともかく、ワイより年下の女の子が護衛て何でや)


 勇人の不服そうな顔を見て、エラドはニヤリと笑った。


「そんな顔をすんなよ。これでもアビーはここでは一番の凄腕なんだ。まあ、俺を除けばだがな。それに槍じゃなくて魔法でだ」


 勇人は意外な言葉に苦笑いするしかなかった。


「オレはエラドより強いぞ」


「はは、どうかな」


「行くぞ。こっちだ」


「お、おう」


 アビーは言うだけ言ってエラドの返しには応じず、面倒くさそうに林の方を顎で指し示すと、さっさと指した方へ歩き出した。勇人が付いてくるのか確かめもしない。さっきからの態度を見ていると相当ものぐさで協調性も低いようだ。


 勇人には、聞いていた田舎の孤児院に送られる子供の基準からはアビーはかなり外れているように感じられた。


(訳ありかなぁ。いつかエラドに聞いてみよか)


 林の中にはけもの道に毛が生えた程度の細い道が続いていた。まだ木々の新芽は出ておらず下草もないので見通しは良い。栗、クヌギ、シイ、カシ、タブノキ、クスノキなどまさに雑木林だ。竹林も在り、さまざまな竹が生えていた。アビーは下りの道を選び結構な速さで下って行ったが、勇人は自分でも驚いたことにそれに遅れずについて行けた。


(子供になったせいか、そやなかったらここでの生活で体力が付いたんか。どっちゃにしても体力があるっちゅうのは良えこっちゃなあ。「ユージン一号様ありがとうごぜーますだ」)


 曲がりくねったうえに小さな上り下りの続く悪路だったが、小走り気味に五分も歩くと川べりについた。川まで三十メートル程度の河原が続いており、その先に幅五十メートル程度の川があった。川は対岸に行くほど深くなっていて対岸は数十メートルはあろうかという崖になっていた。


 河原の左手は岩棚でふさがれており対岸の崖との間を縫って川は上流へと続いていた。下流はどこまでも河原が続いている。河原には直径数センチから拳大の石に交って、恐らく洪水のときにでも上流から流されてきたと思われる大石が点在している。流れは緩やかで淀みとさえ言える。


(魚は居そうやな。聞いてみよか)


「魚は獲って食べるのかい」


「獲るのは難しいぞ。釣りは時間ばかりかかる。槍で突くのは無理だ」


「網で獲るとか、かご漁とかは」


「網は無いぞ。かご漁って何だ」


 アビーは不思議そうな顔をした。


「そうか・・・魚の養殖って聞いたことあるか」


「何だ、それ」


 アビーは小首を傾げて眉を寄せた。


「魚を小さいうちに獲って来たり卵を(かえ)したりして、大きく育ててから食べるんだ」


「魚は食いたければ獲ってくれば良い。育てんのは面倒なだけだぞ」


 見ると正論を吐いたと言うようにどや顔をしている。


「色々と()い点はあるよ。卵や稚魚は他の魚なんかに食べられてしまうから僕たちが食べでがあるくらいまで育つのはほんの少しなんだ。だから獲るのは大変だろ。


 養殖だと自分の池で育てるから害敵が少なくて卵や稚魚のうちに食べられてしまう数も減ってくる。だから大きくなった魚が大量に手に入るし、何時でも欲しいときに池から獲ってくれば良いから手に入れるのにも手間がかからない」

 

「良さそうだけど、池を造るのが大変そうだ。それにエサも必要だぞ」 


 なかなかに鋭いところを突いてくる。


「確かに池を造るのは大変だなぁ。土魔法でできないかな。エサは何とかなるよ」


 エサについては勇人に一つアイデアがあった。


「土魔法は土を切ったり繋いだり固めたりするだけ。役立たずの魔法だ」


「土魔法で切った土を収納魔法で収納して運ぶってことは出来るんだよね」


「それはできるぞ。家はそうやって積んで土魔法で固めて造るんだ」


 勇人は教会や孤児院の壁が全部土壁だった理由が分かった気がした。ここまで来る林の中にかなりの広さの竹林があったから、きっと壁の心に竹組を入れて補強しているのだろう。もう少し具体的な話を聞きたい。


「一番上の田圃から教会前の広場まで十尺くらいの(のり)になってて、その下に幅三尺くらいの用水路と同じくらいの幅のあぜ道があったよね。水路の両側の法を垂直に立ててあぜ道を細くすれば田圃まで幅二間くらいの溝にできるから、深さも六尺くらいにすれば十分養殖池になると思うな。足りなければ少し広場を削らせてもらっても良いし、掘った土は法の上に積んで固めれば土塁になるしね」

 

「・・・出来るかも知んねえな。エラドに相談すればいい。最初の鯉を獲るのが大変だぞ」


 アビーは思案顔でしばらく考えたのちそう言った。孤児院育ちで歳の割に良く頭が回るのだろう、すぐに最初の問題に行き着いた。


「鯉を手に入れる方法もエサについてもチョット考えがあるんだ」


 勇人がそういうとアビーはウンウンとさも分かっているかのように肯いていた。とりあえずエラドと相談しなければ何も始まらないのはそのとおりだ。エラドに相談する前に自分なりの腹案を作って置きたいので、勇人はこの機会に他の生き物についても聞いてみることにした。


「野ウサギを生け捕りにすることはできるかなあ」


「この林には野ウサギは少ないぞ。聖域ならたくさんいるって話だけどエラドが行くなって言う。それに生け捕りは難しいぞ」


「どうやって獲ってるんだい」


「弓か火魔法か罠だな。弓は三つ上のイサク兄と一つ上のシモン兄が上手い。風魔法をうまく使う。火魔法はオレだ。獲るのは一番上手いぞ」


 アビーは少し自慢そうにそう言って胸を張った。


(まあ、いくら欧米系や言うたかて、九歳児に胸張られてもなぁ)


「罠はどんな感じかなぁ」


「踏むと締まって空中に持ち上げるやつだ」


(くくり罠やな。昔田舎で爺さん連中がやってたわ。ウサギでも死んでしまうか脚痛めるか、無傷で言うのは難しいかも知れん)


 今の日本では空中に吊り上げるくくり罠は禁止されていたはずだが、それでも暴れてかなりの確率で脚を痛めると聞いた。


「ウサキの生け捕りは難しいか。鴨なんかの鳥はどうやって獲ってるの」


「鳥は弓か火魔法だ。風魔法が上手いのがいたら風魔法でも獲れるけど、今はイサク兄とシモン兄はへたくそだから矢の方向を少し変えるくらいしかできないんだぞ」


(小さい鳥は昔は霞網で獲ってたけど、鴨も捕れるんかなぁ。どっちにしろ霞網が手に入らへんやろし、結局養殖するとしたら鯉一択やな)


「生け捕りは難しいなあ」


「ムリ、ムリ」


 勇人の半ば独り言に対して、アビーが訳知り顔で相槌を打つ。


(こいつ腹立つやっちゃなあ)


「あんまり飛ぶのが上手でなくて、毎日卵を産む鳥っているのかな」


「ニワトリのことか。村では結構飼ってるぞ。親鳥の値段が高いから孤児院では飼ってないけどな」


「おっ、ニワトリは居るのか。親鳥はいくら位するんだ」


「く、詳しいことはエラドに聞け。もう帰るぞ。オレにも仕事があるんだ」


 そう言うとアビーは明後日の方を向いた。よく見ると目が泳いでいる。


(こいつニワトリの値段は分からへんのやな。まあ、十歳にもなってへんし、孤児院暮らしで買い物なんかしたことあらへんやろから仕方ないわ。そやけどニワトリが居るちゅうのはええこと聞いたで。金で解決出来るんなら何とか貯めればええんや。案外こいつが一番手っ取り早いかも知れん)


 あらためて川を見ると手前の浅瀬に藻が繁茂していたり、上流から流れてきた木の枝や倒木が集まったところが何か所かある。勇人はウンウンと肯いた。


(田圃と鯉の養殖、これは六月までが勝負やな。後は独り立ちのための金儲けのネタ捜しや)


「川も見たし、アビーから大切な話も聞けたし満足だよ。教会に帰ろうか」


「おう」


 アビーは役に立ったと言われて嬉しそうに返事をすると先に立ってもと来た道を帰り始めた。帰りは基本的に上り坂だったが、特に疲れを感じないことに勇人は少し嬉しくなった。

見出しはご存じハムレットのもじりです。

タンパク質の獲得に本腰を入れ始めます。爺が若い時に爺たちから聞いた話ですので、戦後すぐまでの話です。このころは霞網も括り罠も空気銃も野放し状態でした。

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