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084 過ぎたるは及ばざるが如し

 勇人たち「グリフォンの夢」は、半日くらい移動して二泊三日の野営で角ウサギ、一角シカ、角イノシシなどの魔物とイノシシ、シカなどの獣を狩り、道中では見つけ次第ウサギを狩ってゆくという方針で九、十、十一月と順調にD級ノルマを達成していった。


 この分だとD級は間違いなく頂けると算盤を弾いていたときに異変が起こった。十二月になって目立って獲物が取れなくなったのだ。組合の噂ではゴブリンが異常に増えているらしい。


 「グリフォンの夢」も見つけ次第狩っているが実感として確かに増えている。領主も憂慮しているらしく報奨金が二倍の四百文になった。


「どうするだか。ゴブリン狩りでもするだか」


「幾ら報奨金が上がっても一匹四百文じゃ割に合わない。ボクは気が乗らないな」


「そうだね。どこかゴブリンがあまり出ない狩場は無いかなあ」


「ダメ元で受付に聞いてみるだ」


 思案を重ねても情報がない以上話の進めようがないので、とにかく情報を求めて勇人たちは受付に行った。


「あのねぇ。こんな状況なのよ。ゴブリンが少なくて、E級、F級の獲物が多い狩場なんて有るわけ無いじゃないの。そう言うのは真っ先にゴブリンの腹の中よ」


 受付のリオールは勇人たちの質問にぶっきら棒に答えた。勇人が初めて出会ったときに「天使の羽根」のガリアに対応を咎められたのを根に持っているのかそれ以来塩対応が続いている。だが言っていることはもっともな話だ。勇人たちはしおしおともとの席に戻り始めた。


「おい、ユージン待ちな」


 そのとき横から声がかかった。組合長のザミールだ。


「お前たちが希望している狩場が在るぞ」


 勇人たちが立ち止まるとザミールは、辺りを見回して小声でそう言った。


「それ、何処だか」


「あまり大っぴらにしたくねえから、俺の部屋に来な」


 ザミールはそう言うとそのまま組合事務所の二階に上がっていった。


「とりあえず話だけでも聞いてみるか」


 勇人たちは顔を見合わせたが、ジェシーの言葉に頷いて組合長の後を追うようにして二階に上がった。


 組合長室に入るとザミールは執務机に座って居て、顎で応接用のソファーを示した。勇人たちがそこに座るとザミールも自席を立って向かいのソファーに座り、話を切り出した。


「西に半日くらい歩いた所にあるマルテフって村の北側にある森なんだがな。どういうわけかほとんどゴブリンが出なくて、E級、F級の魔物が結構出てるんだ。それで俺のところに内々に魔物の間引きをして欲しいって依頼が在るんだよ。行ってくれねえか」


「何故オラたちなんだべか」


「獲物から言ってE級、F級の分隊しか行きそうもないんだが、そいつらのうちに大きな【虚空庫】持ちを抱えている分隊が無くってな。その点ユージンはかなりの【虚空庫】を持ってるからなぁ。それに距離が微妙なんだよ。日帰りには遠すぎるし、かといって泊りがけとなると獲物の鮮度が落ちる。ユージンの【虚空庫】は時間遅延効果も付いてるってことだから適役だろう」


 組合長は最初にユージンといざこざが在って以来、彼に余り良い感情を持ってないはずだ。そのいざこざを目の当たりにしていたジェシーは胡散臭そうな目でザミールを見た。


「なんでそこだけゴブリンが出ないんだ」


「それが分かんねぇんだ。その原因を突き止めてくれたら三両の賞金を出すぞ。もし原因が村の安全に関わるようなことであれば、出来れば取り除いてもらいてぇ。その場合には別に六両出そう」


「それは僕たちみたいな駆け出しのF級に依頼するようなことじゃないよね」


 勇人もザミールの言葉に疑問を感じた。


 (なんか裏がありそうやなぁ)


「原因の究明や解決は出来ればで良いぞ。無理をしても碌なことねえからな」


 ザミールは如何にも勇人たちのことを心配しているという風に見えた。


「どうせこのままじゃ獲物がねえだ。やって見っべ」


 ガブルは乗り気なようだ。勇人もジェシーもガブルがその気ならやってみるかと言う気になった。


「分かった。行ってみる」


「組合長、その前に今の賞金の約束は書面にしてよ。ラビブのときみたいに後で知らないなんて言われたくないからね」


 勇人は入会のときのいざこざが念頭に浮かんでそう言った。ザミールは苦虫を噛み潰したような渋い顔をして頷くと机に戻って先程の賞金の件を書面にした。


 勇人たちはそれを受け取るともう用はないとばかりに早々に組合長室を出た。


「じゃあ、ちょうど良いから明日から行ってみよう」


 ちょっと入れ込み過ぎの感があるジェシーの言葉に二人は黙って頷いた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 翌朝早くに「グリフォンの夢」の三人は西門を出た。二泊三日の狩猟である。その間の食料および非常食は前日に買い込んだ。マルテフへの街道は皇都とラフィアディアとを結ぶ幹線とあって道幅は広く、整備も行き届いていた。それも良し悪しでその分全くと言って良いほど獲物は出なかった。


 野営道具も食料も【亜空間庫】に入れており武器も各自の【虚空庫】に仕舞っているため防具と水筒以外は身につけていないという軽装だった。そのため十時頃にはマルテフの村に着き、早めの昼食を済ますとそのまま北側の森に入った。


 北の森では組合長の言っていたとおり、ゴブリンはほとんど出ず、獲物が取り放題だった。もう十二月とあってウサギや一角ウサギのほかキツネ、タヌキ

、テン、ヤマネコなどの毛も冬毛に生え変わっており、これらはジェシーが【風刃】で手当たり次第に仕留めて回った。一角シカや角イノシシ、シカ、イノシシなどの大きな獲物はガブルが楯で抑えている間に勇人が槍で仕留めるのが定番の狩りの方法だった。


 森のかなり奥まで進んだ頃、獲物が急に少なくなってきた。


「何か。急に獲物が減っただ」


 異変を感じたのか先頭を歩いていたガブルが振り返って言った。


「そうだね。何か不気味な感じだよ」


「もう、夕方だし、ここらで野営にしないか」


 勇人もジェシーも同じように感じていた。ジェシーは野営を提案したが、これは砦を出せと言う催促だろう。


「そうだね、じゃあ二号を出すよ」


 勇人はそう言うとその辺りの木を切り倒し始めた。


「待って。何か不気味だからここは一号を出してよ」


 三人の中で一番危険に敏感なのはジェシーである。その言葉に勇人は頷くと辺りの木を切り倒して一号砦を出せるスペースを確保するとそこを【次元刀】と【亜空間庫】の合わせ技で平らにし、石床を敷いてその上に一号砦を出した。砦は制作時から改造が施されており、内向きにテーパーになった出入口に外開きの扉が付き、蝶番と下部に埋め込んだ戸車で開け閉めが出来るようになっている。


 三人はそこから砦の中に入ると、扉を閉めて閂を掛け、その後は寝室、台所、食堂、風呂、トイレを出して設営を完了した。領都で買ってきた料理と水で夕食を済ませると後は寝るまでの時間を思い思いに過ごし始めた。順番に風呂にも入る。お湯は沸騰直前まで沸かしたものを【亜空間庫】に大量に保管していた。


 食事を終えた頃から周辺でグギャグギャと言うゴブリンの声が偶に聞こえるようになった。気になったのかジェシーは様子を見に三階に登った。


「暗くて良く見えないけど、何匹か回りをウロウロしてるぞ」


 三階の回り廊下から顔を覗かせて大声で報告してきた。


「ゴブリンでどうにか出来るような砦じゃないから放おっておいて降りておいでよ。風邪引いちゃうよ」


 勇人は焚き火にあたったまま上を向いて怒鳴り返した。その途端だった。ジェシーが外の様子を見ていた壁とは逆の壁に何かが当たる轟音が響いた。ジェシーは一瞬ビクッとして固まっていたが、次の瞬間に音がした壁の方へと回り廊下を走った。


「何か、大きいゴブリンが出てきたぞ。太い丸太で壁を叩いてる」


 ジェシーの悲鳴に近い声に勇人とガブルはすぐに立ち上がって、三階へ駆け上り、急いで回り廊下をジェシーのところへ走った。ジェシーの隣で狭間から

外を見ると、身長が二メートルもあるゴブリンが太い丸太を棍棒代わりにして壁を叩いている。


「オラ見たことがあるだ。こいつはゴブリン・リーダーだべ。この辺りでゴブリンが少ないのはこいつのせいだべ」


 ガブルの言葉にその意味がわからず、勇人は聞き返した。


「ガブル、どういうことなの」


「コイツは普通のゴブリンを手下にするだ。他にファイターやメイジ、アーチャーなんかもだ。普通の奴より少し頭が良くて、自分たちの周辺から狩りをして自分たちが必要なだけ狩るだ。んだからその外側の獲物は減らねえ。奴らの狩場から逃げてくるから増えるくらいだべ。


 んだから気がつくのが遅れて、そのうちにもっと上の奴が出てくるだ。ジェネラルとかキングだべ。此奴らはもっとやべぇだ」


「どうすれば良いのかな」


 ジェシーは冷静になったのか、静かな声で聞いてきた。


「普通なら逃げるしかねえべ。けんど砦が在るべ。ゴブリン・リーダーで壊れるようなものじゃねぇべ。殺るだか」


「このままやり過ごして、翌日組合に報告するのじゃだめかな」


 勇人はあまり乗り気になれない。ファイターやメイジ、アーチャーまで居るとなると矢数が心もとないし、相手にも遠距離攻撃の方法があるのならこちらにケガをするリスクもある。


「証拠もなしに、あの組合長がボクらの言葉を信じるとは思えない。それに信じたとしても、こちらが領都に帰るのに半日、討伐隊を組織するのに半日、討伐隊がここまで来るのに半日、対応するまでに一日半はかかる。その間にマルテフ村が襲われれば全滅だ」


「そうか。じゃあ、殺るしかないよね。武器は足りるかな」


「ボクは、【風刃】があと五十回は使える。矢もそれくらいはある」


「オラは遠距離攻撃用の武器はないだ」


「それじゃ、僕が石を出しておくからそれを使ってくれ。あと今日切った木で即席の長槍を作るからそれも使ってくれ。僕はボルトが装填済みの十本と予備が二十本。あと頭大からその倍くらいの石が二、三十個、直径半間くらいの大石が五個だな」


「闇夜だから遠くは見えないぞ」


 勇人は丸太を削って長さ五メートルくらいな槍を作りながら聞いてみた。


「森人は夜目が効くとかないの」


「あんたねえ、森人を何だと思ってるの。猫や蝙蝠じゃないんだ、夜目が効くはず無いよ」


「う、うん。そうだね。とにかく明かりは何とかするよ」


 勇人はそう言って槍を作り終えると、【亜空間庫】から壺を取り出した。孤児院で誘拐犯の賊を迎え撃ったときに使った油壺の試作品だ。中には油が詰まっている。その首に食用油に浸した布を巻き付けた。即席の火炎瓶だ。


「ガブル、これを連中の後ろの地面に向けて思い切りぶつけてくれ、森には投げるなよ、ゴブリンに中てるのも駄目だ。山火事にはしたくない」


「僕はアーチャーとメイジを狙うよ。ガブルも石礫でそうしてくれ。それを全部倒したらリーダーの攻撃に移る。ジェシーは二階からリーダーを攻撃してくれ。目か心臓か狙いやすい方を頼むよ」


 勇人はそう言うとライターを出して火炎瓶擬きに次々と点火した。ガブルはそれを見て一瞬固まったがすぐにそれを掴むと少し向こうの地面に向けて叩きつけ始めた。壺が割れて油が漏れ、それに火がついて辺りを照らした。


 勇人はそれを頼りに、手を光らせているゴブリンや手製の弓を構えているゴブリンを見つけてボルトを放っていった。せいぜい二十メートル程度しか離れておらず、クロスボウに取っては外す方が難しい距離である。クロスボウ二丁を残してゴブリンの間接攻撃部隊は全滅した。


 ガブルは火炎瓶擬きを投げ終わるとすぐに勇人手製の長槍を持って二階に降りた。狭間からそれでリーダーを突くのだろう。


 ジェシーは二階に降りるとやはり狭間から弓でリーダーを狙ったが、リーダーの身長が二メートル程なのに対して二階の床でも地面から三メートルで、狭間までの高さだと四メートル以上になるので高さが合わず、すぐ近くで壁を殴っているリーダーは狙いにくい。一番狙い易い目を狙うが的が小さく、棍棒を振るうたびに頭が大きく揺れるために中々当たらない。【風刃】に切り替えて首筋を狙ってみるもののこれも同じ状況である。


 ガブルの長槍の方が先にリーダーの左目を捉えた。目は潰したが即席の木槍のため貫通力がなく脳にまでは届かない。それでも大きく仰け反らせた。そのまま数歩後退したリーダーの心臓をめがけてジェシーの速射した矢が飛びかかり、三本が突き立った。


 そのとき上からリーダーの頭目掛けて大石が降ってきて、さすがのリーダーの頭も砕けた。勇人が動きの止まったリーダーの頭目掛けて、三階から大石を落としたのだ。


「やったね。狭間が高すぎて苦労した。とにかく耳を取りに行こう」


 ジェシーは満足そうな顔でそう言うと出入り口に向かった。


「明日でも良くないか。外は暗いよ」


「もう、雑魚しかいねえだ。オラが耳とついでに角と魔石も取るから二人は見張ってるだ。明日まで待ってたら雑魚が食い荒らしちまうだ」


 ガブルは乗り気のようで、ジェシーのあとを追った。


 (見通しの悪い所に出てゆくのはあんまりゾッとせんけど、二人がそう言うんならしゃあないなぁ)


 勇人も仕方なく、クロスボウにボルトを込め直すと、二人のあとをついて行く。


 出入口を開けて外に出ると半周りしてリーダーのところへ行った。間違いなく死んでいる。勇人は大石を【亜空間庫】に収納するとクロスボウを持って周囲を経過する体制を取った。ジェシーも周囲を同じように警戒している。その間にガブルが両耳と二本の角、それから心臓近くの魔石を回収した。


 無事それが終わって三人ともほっと一息ついたときだった。森の木がざわざわと揺れた。

win11の日本語IMEの変換効率の悪さに辟易していたのですが、googleのIMEに変えたら少しはましになりました。atok11が懐かしい。今のatokはサブ・スクになってしまったので貧乏人は使えません(泪目)

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