083 女の子の欠点は見ても見ないふりするダッチャ!
午後、食休みをしてから砦作りにかかった。ガブルが【切断】の土魔法を使って岩の崖から縦三間一尺、横四間、厚み約六十センチの石の板を切り出してゆき、それを隼人が【亜空間庫】に収納する。
石切場の崖の前には、以前ここから石を切り出したらしく、切り出した跡地が石畳のように残っていた。隼人がそこに切り出した石の板一枚を出して横たえると、ガブルが【粉化】と【融接】を巧みに使って板の割れ目を修復してゆく。
全部の板にその作業が終わったところで、勇人は一枚を地面に置いてその端に垂直にもう一枚の板を【亜空間庫】から半分出した状態で立てた。ガブルがその板と板との継ぎ目や繋いでゆく。それを二回繰り返せばL字型の壁が二つ出来上がった。その各々の壁の下から八尺と十六尺の所の内側に幅半間の廊下状の足場を付けて背中合わせに置くと、二段の足場のついた砦の出来上がりである。
あとは床にするための約十メートル四方の板と屋根にするための約八メートル四方の板を作り、砦に攻撃用の狭間を適当に開けた。
「折角だから専用の個室と、バス、トイレは欲しい。これでも女の子だからね」
ジェシーが何食わぬ顔でボソリと言った。
「あっ、自覚は有るんだ」
「『これでも』の方だか。『女の子』の方だか」
思わず二人とも突っ込んだが、すぐにシマッたと顔を見合わせる。
「二人とも電撃が欲しいみたいだな」
「あっ、カミナリ魔法も使えるの」
「凄えだな」
「褒めて誤魔化したつもりか。もう遅いっ!」
隼人とガブルルリエルは電撃を食らい、悲鳴をあげてのたうち回った。
(虎縞パンツないけど、有るべきもんも無いけどやることは鬼娘や)
結局、寝室、調理スペース、風呂、トイレ、二階と三階に上がる階段は別途制作して砦を建てたあと必要に応じて出すようにした。もちろん寝室についてはジェシー専用も作らされた。
入口は内側が狹くなったテーパーになっており、全員が入ると隼人が入口用の石を出して内側から閂で止めるようになっている。これは後日鉄木ででも蝶番を作って開け締めできるようにする予定だ。
隼人は何度も出し入れの練習をし、その結果、最初のL字はほぼノータイムで、二番目のL字はその後数秒で出せるようになった。
「上出来だよ」
作業の間、周囲の見張りをしていたジェシーが自分の手柄のように言った。それが可笑しかったので隼人もガブルも吹き出してしまった。
「笑うな。ボクだって働いてたんだ。これを見てみろよ」
そう言うとジェシーは辺りを指さした。確かにそこには色々な魔物や獣の死骸が散らばっていた。片端から勇人はそれを【亜空間庫】に仕舞った。
「よし、一度入ってみるね」
隼人は入口用の石を一旦【亜空間庫】に収納すると、出来た入口をくぐった。二人もそのあとに続く。それから石で作った階段を一段目の回り廊下に掛けて登ると、そのまま二段目の回り廊下にも階段を掛けて下から六メートルの位置まで登った。
「さすがにここまで登ると手摺でもないと恐ろしくて走り回れねえだ」
「へぇ。山人さんは高い所は苦手なんだ」
ガブルは周り廊下から下を見て尻込みをしたが、森人のジェシーは全く意に介していない。種族の違いなのだろう。隼人は一度下を覗いたあとは壁にへばり付いたままだった。
(あかん。調子こいて六メートルの砦作ったけど、ワイここでは動きが取れへん)
「ああら、原人さんも高い所はだめなようだな」
「オラより屁っ放り腰だで」
「うるさい。高い所は昔から苦手なんだよ」
「それにしても、これは流石に大きすぎるな。野営でこんなものいちいち出してたら、ボクたち目立ってしょうがない」
「確かにそうだね」
「だば、もう一つ小さいのを作るだか」
思ったより早く砦が出来たのに気を良くしたのか、ガブルがそう提案してきた。
「まず、こいつの手摺を作ってからだよ」
隼人はこのままでは砦の中で動きが取れなくなりそうなので慌てて反論する。
「でもどうやって手摺を作るんだい」
「僕の【虚空庫】の中に材木が沢山あるから、回り廊下の縁に穴間を開けて柱を建てて横木を渡せば手摺はできると思うよ」
そう言うと、【次元刀】で回り廊下の縁に沿って杭を刺す穴を開け始めた。
「ユージン、あんたは土魔法もつかえるだか」
ガブルがそれを見て驚いている。
「ああ。使えるんだけど、僕の土魔法はちょっと変わっててね。【切断】だけ、それも長さ一間しか出来ないんだよ。その代わりに動物も植物も一瞬で切れる」
隼人は【亜空間庫】から材木を取り出して適当な長さに切断すると、手摺の支柱にするために開けた穴に次々とそれを刺していった。材木は孤児院時代に聖域で作っていたものだ。アビーが乾燥させてくれていて、いつでも健在に使える。支柱の太さが穴と合わないときには【次元刀】で削った。横木にするためには厚い板と鉄木の釘を出した。これを支柱に打ち付けてゆく作業はガブルが引き受けた。
色々と紆余曲折はあったもののその日の夕方には砦が出来上がった。
「出来上がったね。今日はここで野営だから使い染めだな。ただの砦では味気ないから名前を付けないと」
確かにもう日が暮れかけている。このまま領都に戻れば途中で日が暮れてしまうだろう。視界の制限される夜間戦闘ではオオカミの群れでも危険だ。今日は砦で野営するという提案には二人とも異存はなかった。
「砦の名前だか。ここはユージンに任せるだ。オラはそう言うのは苦手だ」
「ガブルがユージンに任せると言うのなら、ボクに異存はない。作ったのは二人だからね」
任された隼人は困りはてた。七十過ぎの老人にネーミング・センスを求めるものではない。そんなものはとっくに枯れてしまっている。
「とにかく焚き火でも焚いて、夕食にしようよ。そのうちに何か思いつくかも知れないし」
隼人の急場しのぎの提案だったが、二人とも乗ってきた。昼食から五時間、腹は空いていたのだ。隼人は早速、砦の床に直径一間弱、深さ一尺ぐらいな穴を掘るとそこに土を入れて、砦の周囲の林で集めた枯れ木をその脇に積んだ。そのあと夕食の準備をしようとしてはたと困ってしまった。食材がない。【虚空庫】も【亜空間庫】も物の持ち運びには便利なのだが、入れていないものは取り出しようがない。隼人の【亜空間庫】には塩と味噌しか入っていなかった。
「誰か、すぐに調理できるような食べ物は持ってるかい」
隼人の言葉に二人とも困り顔でお互いを見る。
「駄目みたいだ」
「今日獲ったウサキでも捌くだ」
「それしかないか」
隼人は諦め顔でそう言うと外に出て行き、ウサギを二匹取り出すと腹を割いて内蔵を捨て、首を落として血抜きを始めた。
「誰か皮剥ぎをやってくれよ。僕はあんまり上手くないんだ」
「ボクとガブルで一匹ずつやろう」
ジェシーが砦から出てきて血抜きが済んだウサギを台所まで持って行く。ガブルも仕方ないなと言う顔でもう一匹を同じように台所に持って行った。二人とも遠方の里からラフィアディアまで来ただけあって皮剥ぎはお手の物だった。見ている間に皮を剥いで切り分けて正肉にしてゆく。隼人はその間に【亜空間庫】から炭を出してかまどに入れ火を付けると領都に来てから購入した金網を乗せた。その横に塩と味噌を出す。
「ガブル、ジェシー。良かったら塩を振るか味噌を塗って焼いてよ。ボクは外の焚き火を熾してくるから」
「おう。分かっただ」
隼人が火を熾して待っていると二人が焚き火の所に来た。両手に木皿に盛ったウサギ肉を持っている。
「コップは持ってるかい。水しかないけど入れるよ」
「もう空だったから有難いね」
「んだ」
二人分の木のコップが回ってきて、隼人は【亜空間庫】からそれに直接水を入れて手渡した。回ってきた木皿からウサギ肉を取って自分の皿に移すと鉄木製のフォークで刺して食べ始める。
「砦の名前は決まっただか」
隼人が目を逸らしていた話題をガブルがほじくり出してきた。隼人のムッとした顔を見てジェシーがニタニタと笑っている。
「なかなか思いつかないね。『アラモ』か『墨俣』かな」
「何だい、それは」
「昔の砦と城の名前だよ。『アラモ』は救援が間に合わずに全滅しちゃうから縁起が悪いね。『墨俣』は一晩で出来た城なんだけど僕としてはあまり使いたくないなあ」
「何だ。どちらも駄目なのか。駄目なら言うな」
「んだ」
「煩いなぁ。もう『一号砦』で良いじゃないか」
「それもそうだ。明日も作るから、明日作るのは『二号砦』にすれば考えなくてもいい」
安直に砦の名前は『一号砦』になった。
(散々悩んだワイの苦労を返せや)
夕食の後は残った薪で風呂を沸かして汗を流し、しばらく駄弁ってから寝た。風呂は残った薪の関係で一つしか沸かせなかったが当然のようにジェシーが一番に入った。二人とも文句は言えなかった。
静かな夜・・・ではなくオオカミの煩い夜だった。時々体当たりをしてきたのはイノシシだろうか、一角オオカミだろうか。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
翌日は朝から二号砦の制作にかかった。二度目だったことと大きさが昨日の半分、具体的には縦横高さがそれぞれ二間(三・六メートル)、壁の厚さ約二十センチで回り廊下一段のみだったことから半日で出来上がった。これを【亜空間庫】に収納すると昨日の夕食と似たり寄ったりの昼食を摂って領都に帰った。
その間に出てくる魔物や獣は手当たり次第に狩り、昨日の成果と合わせて河原で解体をして組合に持ち込んだ。一角ウサギ四匹、ウサギ十八匹、シカ三頭、締めて一両七分九朱二十文だった。一人頭五分九朱七十三文となる。
一日辺り約三分だ。D級のノルマ一両五分を達成するためには五日間働けば良い。だが十一、十二月のD級ノルマ三両達成のためには十日間、来年以降のノルマ四両五分を達成するためには十五日間働かなければならない。少し日数が足りない。
(まあ、今回は砦作りの片手間の狩りやったし、まる一日狩りに充てるんやったら何とかなるやろ)
隼人は楽観的に考えることにした。




