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081 妻を娶らば~♪

 翌日の午前中は免除申請をした科目についての試験だった。読み書きは組合の「依頼書」、手紙文書、国法の条文を示されて、音読し、それに対する質問に答えるという内容で、一人ずつ部屋に呼ばれて試験された。算術は黒板に書かれた加減乗除の計算と金額換算問題を小さな紙に書いて提出する方法で行われた。


 当然勇人はどちらも合格した。算術は問題が百、千、万などの漢数字方式で出されて少してこずったが。


 午後は各武器の適性を見るのに充てられた。飛び道具以外は教官と手合わせして見せるらしい。知っている者の内ではガブルが最初だった。盾を左手で持ちながら右手で短槍、片手半剣で教官相手に力強く扱って見せた。教官もうんうんと頷いている。次はアセフだった。小盾と片手剣だったが見るべきものはなく、教官に軽くあしらわれた。盾の扱いを工夫することと体力を付けることが課題とされた。


 エイタンは貴族らしく、エストックとレイピアを構え、突きを主体の攻撃を見せた。勇人の見るところなかなかの腕前だったが、教官は魔物や獣相手に突きを放つと剣が折れる危険があるので切ることを攻撃の主体にするようにという指導があった。


 三人とも外魔法は得意でないようで使用していなかった。


 ふと見ると隣の女性の組では、昨日食堂で見たエルフの子が試験を受けていた。得物はエルフらしく弓だった。三十、六十、九十メートルくらいの距離にある三つの的に次々と命中させていた。速射で九射してほぼ中心に中てている。風魔法を使っているようだ。


 次に風魔法の【風刃】で約六十メートル先の藁人形を両断し、【風刃乱舞】で約三十メートル先の数体の藁人形をズタズタにした。【風刃】は空気を薄く刃物のように圧縮してその後端から圧縮を開放してゆくことによって刃状の空気を前方に飛ばして対象を切り裂く魔法、【風刃乱舞】はそれを同時に何体も発生させる魔法である。後者は制御が極めて難しい高等魔法だ。


 どちらも風魔法なので透明で屈折率の違いと魔法が作用した場合の薄い光でその存在が認識できるだけで極めて発見しにくい。 


 勇人はその名前は知らないが、透明な何かが飛んで行ったと思う間もなく藁人形が両断されたりズタズタに切り裂かれたのを見て、たぶん風魔法なのだと推測した。恐ろしい魔法だ。


勇人は石弓と短槍、短剣を申告していたので、それを見られた。


「石弓は満点、短槍はまあまあ、短剣はだめだめだな」


 それが教官の感想だった。勇人もそのとおりと思う。


「石弓は単発だぞ。はずしたらどうするつもりだ」


「狙う獲物は角ウサギ限定にするよ。それなら万一外して襲ってこられても槍でなんとかなるよ」


 言っていて、嘘くさいなあと勇人自身も思ったが、教官も同じ意見だったらしい。


「角ウサギでは幾らにもなんねえぞ。せめてE級の角イノシシでも仕留めねえと食ってけねえぞ」


「そこそこ大きい【虚空庫】があるから数で勝負するよ」


 勇人がそう言うと教官は手元の書類を眺めた。


「なるほど。運搬士で十分やってけるな。羨ましい限りだ。ここではなるべく早く分隊仲間を捜すんだな。そうでないと強制退学になっちまうぞ」


 勇人の適性試験はそれで終わった。


 あと何人か試験があって、午後の実技の授業は早めに終了した。


「晩飯まで大分時間があっから、組合に行ってみるだか。面白れぇ依頼が有っかも知んねえべ」


 居室に帰るとガブルが盾と剣を仕舞いながら提案してきた。勇人はすることがないのでガブルの終わるのを待つ間ベッドに寝転がっていたが、その提案に乗ることにした。


「それも良いね。行ってみようか」


 二人は連れ立って組合に行った。まだ組合員の仕事が終わるには早い時間帯だったので建物の中はがらんとしていた。まず依頼票が張り出されているボードを見に行ったが、都合よくE級でも受けられる依頼が張り出されて、しかもその時間まで残っているなんてことはない。


「お茶でも飲んで時間つぶししようよ」


「オラはあまり手持ちがないだからなぁ」


 ガブルは金欠を強調して渋ったが、このまま帰っても暇を持て余すだけだ。


「今日はぼくが奢るよ。何が良い」


「そうだか。それじゃあお茶と・・・あと、何か果物が乗ったケーキが良いだ」


 ガブルはこういう時に遠慮するのは損だとばかりにケーキまで欲張った。勇人は思わぬ出費に苦笑いする。


「分かった。それじゃ買いに行こうよ」


 二人は連れ立ってカウンターまで行き、各自お茶と好みのケーキを買って席に戻った。勿論支払いは勇人である。


 それを前にして駄弁っていると、だれかが組合に入ってきた。勇人もガブルもチラッと見ただけで無駄話に戻った。成人に達したか否かと言う年頃の男の子のようだった。


 その子は暫く辺りを見回していたが、突然つかつかと二人の所に歩いてきた。


「君たち、分隊を組むつもりなんだろ。ぜひボクも加えて欲しい」


 突然の申し入れに驚いて二人はその子を見上げた。ショートヘアとスレンダーな体形それに男物の着衣からてっきり男の子だと思っていたのだが、女の子、しかも学校の食堂で、そして実技の授業で見かけたエルフだった。


 彼女は二人が向かい合って座っていたテーブルの横合いにある椅子に遠慮なく腰かけた。ガブルは突然のことにビックリして口がきけないようだったので

勇人が言った。


「僕はユージン、こいつは同室のガブルだよ。君は何ていうの」


「失礼。ボクから名乗るべきだった。ボクはジェシカ。勿論偽名だ。ジェシーって呼んで欲しい」


 そう言ってジェシカはニコッと笑った。愛想笑いとでも言うのだろう。


「ジェシーは何で僕たちが分隊を組むって思ったの」


「入学式の日に二人同じ長椅子に座ってたから同室だ。それに食堂でも仲良く食べてたし、今日の実技見てたらガブルは完全な前衛でユージンは後衛寄り、組み合わせとしては悪くない。組まない訳ないと思った」


 なかなかの洞察力だった。


「でも、僕らと君とは今まで話したことも無かったよね。なぜ僕たちと分隊を組みたいと思ったの。普通同室の女の子とか選ぶんじゃないの」


森人(もりびと)山人(やまびと)もこの国じゃ、野人(のびと)から下に見られてる。だから普通の人はボクたちと口を利くのも嫌がる。学校に入るようなF級は一般人と変わらない。だからそういう差別意識のままだ。同室でも口も利いてくれない、食堂でも同席は拒否。分隊なんて組める訳ない。


 その点、ユージンは山人のガブルと拘りなく付き合ってる。森人のボクも拘りなく受け入れて貰えそうだと思った」


「何だか。ユージン、森人と付き合うだか。結婚するだか」


 固まっていたガブルが復活したが、ジェシカの最後の言葉だけ頭に入ったようだ。盛大に誤解している。


「ガブル、何言ってんだよ。ジェシーが言ったのは山人のお前と僕とが仲良く付き合ってるって話だよ。いきなり結婚なんて話になるわけないだろ」


 勇人はすぐさまガブルの誤解に反論したが、なぜか真っ赤になっている。


 (どうも、年々見かけの年齢に考え方が引っ張られるようになってんなぁ。なんで七十にもなった爺がこんなことで(あこ)うならんなんのや)


「とにかくガブルはどう思うの。ジェシーが僕たちの分隊に入りたいって言ってるんだけど」


「ボクは役に立つ。ユージンは石弓がメイン。外すと後がない。ボクは後衛専門だけど長弓と風魔法だから色々手数は多い」


 ガブルが何か言いだしそうだったので勇人は慌てて目配せした。石弓の連射はここで話すべき話ではない。


「オラは良いと思うだ。手数は多い方がええだ」


「じゃあ、決定だね。ジェシー、僕らの分隊にようこそ」


 勇人が右手を差し出すとジェシカは逡巡した後にぎこちなくその手を握った。どうもこの世界には握手の習慣はないみたいだ。


「ところで、言いたくなければそう言ってもらえば良いんだけどね、ジェシーはどうして男言葉で男の子みたいな恰好をしてるの」


 勇人がそう聞くとジェシカは思案顔をして暫く考えたのちに話し始めた。


「ボクは、この国のずっと西の方にある森人の村の出身だ。十五になって村を出た。ここに来るまでに三年かかった。ずっと旅をしてたわけじゃない。旅費を稼ぐために途中で二年働いた。だからそれだけの年数がかかった。


 旅の間、女の子だと分かるとやはり色々危ないことがある。だから髪の毛を短くして男の子の服装をして言葉も男言葉にしてここまで来た。でも男の子の振りをしたら、それでそっち系の人に絡まれたりした」


 ジェシカは最後は笑いながら言った。


「なるほど、分かるだよ。男の子って言われたらそのまま信じてしまうだ」


 ガブルがそういうと、ジェシカはキッと睨んだ。


 (おいおい、それは地雷やで)


「ふうん、苦労したんだね。ところで何で偽名なの。それも偽名って自分で言ったら意味ないよね」


「ユージンは森人の風習を知らない。森人の真名は人に知られてはいけない。それで森人どうしでは通名(とおりな)を名乗る。でもそれは山人や野人にはかなり発音しにくい。だから野人らしい偽名を偽名と言って使う」


「ややこしい話だね。でも分かったと思うよ」


「じゃあ、『三人で分隊を結成』で決定だな。登録するには分隊名が必要だ」


「森人や野人が山人と分隊組むんだべ。オラたち山人の夢だべ」


「ボクもそう思う。野人は何かと言うとボクたち森人や山人を下に見るからな」


「話を聞いてると山人は元々力が強いうえに【剛力】の魔力も強いから力は野人より遥かに強いうえに土魔法か火魔法に長じてる。森人は元々敏捷な上に【俊敏】の魔力がつよい。それに風魔法が得意なんだね。


 それに比べると野人は人口は多いけど寿命は短いし、特に得意な魔法もない。たぶん劣等感からくる僻みが山人や森人を下に見る風潮に繋がってるんじゃないかな」


 あてずっぽうだが、そう的を外しているわけではないだろう、そう思いながら勇人は思いつくままに言った。


「ボクの考えも同じだ」


「じゃあ、『キマイラの夢』なんてのはどうだか。ライオンの頭とヤギの胴、蛇の尻尾と三つの動物が集まってるだ」


「キマイラはあまりイメージがよくない。ボクとしてはあまり気が乗らない」


「それなら『グリフォンの夢』はどうかな。ライオンの身体と鷲の翼を持った生き物だろ。もう一つ何かが加わるのが望みだったりして」


「そりゃ良いかも知れねえだ。三族がお互いに尊敬しあい対等になるのがオラたちの夢だべ」


「うん。そのとおりだ。ボクも良いと思う」


「それじゃあ僕たちの分隊名は『グリフォンの夢』で決まりだね。届け出て組合員証に刻印して貰わなくっちゃ。受付に行こうよ」


 勇人が立ち上がりながら言うと二人とも頷いて立ち上がった。三人で受付へと向かう。途中で勇人が聞いた。


「ところでキマイラとかグリフォンとか出てきたけどどこに生息してるの」


 それを聞いたジェシカが茶目っ気たっぷりに右手の人差し指で自分の頭をトントンと叩く。


「ここに住んでる。そんな魔物が現実に居るわけない。チュードが持ち込んだ空想上の魔物だ」


「ははは。ユージンは魔物を何だと思ってるだか。奴らは遠い昔に人や獣が魔素の影響で変化したものだべ。他の魔物と合体したり羽が生えたりなんてするわけないだ」


「そ、そうだね」


 勇人は恥ずかしくなってそっぽを向いた。


「えーと。ガブルリエルさん、ジェシカさん、ユージンさんは学生ですね。それで三人で分隊を組むと。分隊名は『グリフォンの夢』ですか。申請書に記載して、それから組合員証を出してくださいね」


 受付のリオールから申請書を渡しながらそう言われた三人は組合員証を出して渡した。リオールが組合員証に刻印をしている間に申請書に記入して各人が署名をし終え、それと引き換えのようにして刻印済みの組合員証を受け取る。申請書は二枚綴りになっていて、リオールから一枚に組合の印象を押したものを渡された。


「これを学校に提出してくださいね」


 三人はそれを受け取ってもとの席に戻ると、新たに分隊名が刻印された暫し眺めていた。


「いつから活動を始めるだか」


 ガブルの声に我に返った二人は思案顔になる。


「ノルマがあるから三日後の休日から連日狩りだね。具体的なことは明日か明後日の放課後にでも決めようよ」


「そうだね」


 そんなことを話していると組合の入り口の扉が開き、「天使の羽根」のメンバーが入ってきた。狩りの帰りらしい。ガリアが手を挙げて挨拶してきたので勇人も手を挙げた。運搬役のバペットを除いた三人が勇人の方にやってきた。


「ユージン、その子たちは何だい」


「ああ。僕と同じ学生だよ。今分隊を組んだばかりなんだ。ジェシカとガブリエルだ」


「へえ。もう女の子を捕まえたのかい。隅に置けないね」


 ニヤついた顔でそう言いながらマヤはジェシカを見た。途端に真剣な顔になる。


「あんたは・・・」


「ああ、ボクは森人。君と同族だ。この街で森人は珍しいから驚いたのか」


「あ、ああ。確かにビックリしたよ。この街に森人が居て、魔猟士組合にはいってるだなんて」


「そうか。あまりボクのこと、言いふらさないでくれ。面倒事に巻き込まれるのは嫌だ」


「わ、分かったよ」


 何かマヤが挙動不審になっている。


「ねえ。長居しすぎた。早く帰らないと晩飯がなくなってしまう」


 ジェシーの言葉に勇人とガブルははっとして立ち上がった。夕食時間に遅れると食堂では希望者に残った料理を配ってしまうのだ。三人は「天使の羽根」への挨拶もそこそこにその場を立ち去ると学校へと急いだ。

見出しの出典は前話と同じです

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