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080 友を選ばば~♪

 勇人とガブリエルは八号室に戻ったが、エイタンもアセフも帰ってきていなかった。


 (あいつらもう帰って()んのやろなぁ)


 勇人は何となくそう思った。


「ユージンは何か免除申請するだか」


「僕は読み書きと算術は孤児院で散々やらされたからそれは免除申請しようと思ってるよ。あとは全部受けるつもりだ」


「オラは全部受けるよ。特に読み書き算術なんて全然だめだかんな」


「同室の(よしみ)だ。その二つについては分からないことがあれば聞いてくれよ」


「ありがてぇ。そうさせて貰うだ。オラのことはガブルって呼んでくれ。ところでおめえの得物は何なんだか。まさかさっき出してた石弓じゃなかんべぇ」


「いや。あれが僕の主武器だよ」


 その言葉にガブルはいぶかし気な顔をした。


「あれは威力はあるけんど、一発撃ったらお終いだべぇ。外れたらどうすんだか」


「玉を込めた奴を【虚空庫】の中に十丁持ってるんだ。それを次々に入れ替えて使う。それでダメなら短槍か短剣で対処するよ」


 勇人はガブルに【亜空間庫】から石弓を次々に取り出して持ち換える様子を見せてた。


「なぁるほど。大きい【虚空庫】持ちならそう言う使い方もあるだか」


 ガブルは暫く考えていたが、真面目な顔をして切り出した。


「頼みが有るんだ。オラと分隊を組んでくれねえだか」


「いいよ。僕は基本的に後衛寄りだから前を守ってくれる人が欲しかったんだ。だから同室になった人が前衛を任せられるんなら僕の方から頼もうと思ってた。エイタンやその腰ぎんちゃくみたいなのは御免だけどね。石弓の技を見せたのもそのつもりがあったからだよ。だから他の人には黙っててね」


 勇人は右手を差し出した。ガブルは惑いながらもその手を握った。


「これはおめえの出所の挨拶だか。なんか変なかんじだぁな。それはそうと、ユージンは時々小っちゃい女の子みたいな話し方するだな。オラは北の山ん中の出だから土地訛りが強いだが、あんたはこの近くなんだべ」


 (そう言うたら、そうやなぁ。誰にも言われんかったさかい何んとも思わんかったけど・・・)


「僕は七歳のときにローレン村って言う、ここから馬で三日ぐらいの所にある村の孤児院に拾われたんだけど、そのときにはそれまでの記憶を全部失ってて言葉さえ話せなかったんだよ。それで言葉を教えてくれたのが六歳の女の子二人だったんだ。


 そのせいで最初に覚えたのがそのくらいの女の子の話し方で、それが今まで残ってるんだろうね。気を張ってると丁寧な話し方やぞんざいな話し方もできるんだけどね。気が緩んでるときにはつい最初に覚えた言葉の癖がでちゃうのかな」


「ごめん、つまらねぇこと聞いただな。気ぃ悪くしねえでくれ」


「気にしちゃいないよ。昨日まで三か月ほどお世話になった『天使の羽根』の隊員なんてもっと尖がった話し方してたからね」


 (孤児院じゃ「ユージンはこんな人」的な感覚やったやろし、「天使の羽根」のメンバーはみんな個性的やったからなぁ)


「ところであの二人は来ないね」


「あいつらは来ねえだ。三十番の席に二人だけで座ってただよ。きっと学校に貴族風吹かせて自分たち用の部屋を用意させたんだべ」


「三十番の部屋って言うと二階だよね」


「一応女子寮ってことになってるだが、女子は少ないんで、廊下に移動できる仕切りがあって、それで仕切って男子寮にも使ってるだ。裏手にも上る階段があって二階の男子寮にはその階段で登るんだと」


「良く知ってるね」


「朝五時にここに来ただからな。暇だっただから彼方此方探検しただよ」


 勇人とガブルはそれから雑談をしたり、免除申請書を記入したり、時間割を確認したりと時間を潰しているうちに昼になった。


「今日から食堂で三食食えるだ。食いに行くべぇ」


「そうだね。おなかも空いてきたし」


 二人は寮の隣にある食堂に入った。八分くらいの入りだった。食堂は一種類しかない定食で部屋に配られているその日の食券と引き換えに渡された。好き嫌いは言わせない、大食いも認めない管理がなされていた。その日の昼食は肉野菜炒めと根菜のスープ、米飯で、内容的には孤児院の食事に毛が生えたようなものだったが、量は流石に多かった。


 二人は長テーブルの端に向い合せで座って食べていた。ふと少し離れたテーブルを見ると女の子たちがワイワイ言いながら食べている。そこから少し離れて一人で黙々と食事をしている女の子が目に入った。


 (あっ、あの子エルフや)


 勇人は少し耳が長いのを見てそれに気付いた。エルフらしい凹凸のない体形とショートヘア。服装が女性らしいものでなければ男の子に見られても不思議はない。彼女が目を上げてこちらを見たので一瞬目が合った。勇人とガブルを見て不思議そうな顔をしている。あっと思っているうちに彼女は目を自分の食事に戻してまた黙々と食べ始めた。勇人も自分のプレートに目を戻す。


「おっ。誰か気になる女子(おなご)がおっただか」


 ガブルリエルが勇人の様子を目敏く見止めて揶揄った。


「いや、そんなじゃないよ。あの子エルフだよ。珍しいと思って」


 勇人は少し赤くなった。


「ははは。隠さなくても良いだ。おめえも年頃だべや」


「馬鹿言ってないで、早くたべちまえよ」


 そう言うと勇人はやけ食いのように早食いを始めた。顔は益々赤くなっている。


 午後一杯をガブルは持ってきた荷物の荷ほどきに使った。勇人は荷物全部を【亜空間庫】に入れているため荷物の整理の必要はなく、時間を持て余し、庭で六角棒を振り回したり、学舎を見て回ったりして過ごした。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 翌日の午前中は免除申請をした科目についての試験だった。読み書きは組合の「依頼書」、手紙文書、国法の条文を示されて、音読し、それに対する質問に答えるという内容で、一人ずつ部屋に呼ばれて試験された。算術は黒板に書かれた加減乗除の計算と金額換算問題を小さな紙に書いて提出する方法で行われた。


 当然勇人はどちらも合格した。算術は問題が百、千、万などの漢数字方式で出されて少してこずったが。


 午後は各武器の適性を見るのに充てられた。飛び道具以外は教官と手合わせして見せるらしい。知っている者の内ではガブルが最初だった。盾を左手で持ちながら右手で短槍、片手半剣で教官相手に力強く扱って見せた。教官もうんうんと頷いている。次はアセフだった。小盾と片手剣だったが見るべきものはなく、教官に軽くあしらわれた。盾の扱いを工夫することと体力を付けることが課題とされた。


 エイタンは貴族らしく、小盾と片手剣を構え、突きを主体の攻撃を見せた。勇人の見るところなかなかの腕前だったが、教官は魔物や獣相手に突きを放つと剣が折れる危険があるので切ることを攻撃の主体にするようにという指導があった。


 三人とも外魔法は得意でないようで使用していなかった。


 ふと見ると隣の女性の組では、昨日食堂で見たエルフの子が試験を受けていた。得物はエルフらしく弓だった。三十、六十、九十メートルくらいの距離にある三つの的に次々と命中させていた。速射で九射してほぼ中心に中てている。風魔法を使っているようだ。


 次に風魔法の【風刃】で約六十メートル先の藁人形を両断し、【風刃乱舞】で約三十メートル先の数体の藁人形をズタズタにした。【風刃】は空気を薄く刃物のように圧縮してその後端から圧縮を開放してゆくことによって刃状の空気を前方に飛ばして対象を切り裂く魔法、【風刃乱舞】はそれを同時に何体も発生させる魔法である。後者は制御が極めて難しい高等魔法だ。


 どちらも透明で屈折率の違いと魔法が作用した場合の薄い光でその存在が認識できるだけなので極めて発見しにくい。 


 勇人はその名前は知らないが、透明な何かが飛んで行ったと思う間もなく藁人形が両断されたりズタズタに切り裂かれたのを見て、たぶん風魔法なのだと推測した。恐ろしい魔法だ。


勇人は石弓と短槍、短剣を申告していたので、それを見られた。


「石弓は満点、短槍はまあまあ、短剣はだめだめだな」


 それが教官の感想だった。勇人もそのとおりと思う。


「石弓は単発だぞ。はずしたらどうするつもりだ」


「狙う獲物は角ウサギ限定にするよ。それなら万一外して襲ってこられても槍でなんとかなるよ」


 言っていて、嘘くさいなあと勇人自身も思ったが、教官も同じ意見だったらしい。


「角ウサギでは幾らにもなんねえぞ。せめてE級の角イノシシでも仕留めねえと食ってけねえぞ」


「そこそこ大きい【虚空庫】があるから数で勝負するよ」


 勇人がそう言うと教官は手元の書類を眺めた。


「なるほど。運搬士で十分やってけるな。羨ましい限りだ。ここではなるべく早く分隊仲間を捜すんだな。そうでないと強制退学になっちまうぞ」


 勇人の適性試験はそれで終わった。


 あと何人か試験があって、午後の実技の授業は早めに終了した。

見出しは、与謝野鉄幹の詩「人を恋うる歌」の一節です。森繁久彌さんの歌で有名ですが、歌詞は元の詩とは違うところがあります

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