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073 天使の羽根

 ガリアは組合の屋内に戻ると飲食コーナーの一番奥まった席に座った。


「ほれ、ユージンも座りな」


 勇人は言われるままに席に座った。そこへ「天使の羽根」の他の隊員も集まってきて、思い思いに席についた。中にはビールのような飲み物を手にしている者もいる。


「このごっついのがバペット、盾役だ。で、こっちのちっちゃいのがイラナ、斥候だ。最後にひょろ長くエールを抱えているのが飲兵衛のマヤ、弓と氷魔法の弓士兼魔術師だ」


「やあ、バペットよ。よろしくですわ」


 確かに女性とは思えないほどの体格だが、ブラウンの長い髪を奇麗に整え、洒落た衣装をまとっている。


「ちっちゃい言うな。斥候のイラナだ」


 イラナはガリアの頭を叩いてから自己紹介をした。頭には緑色の帽子をかぶり、そこから出ている髪も明らかに染めたとわかる緑色、小作りの美人顔。緑の上下を着ている。


 (これ丸っきり緑の小人さんやな。と言うかリトル・ジョン?いや、あれは大男やったなぁ)


「わたしはマヤ。弓を風魔法で操る。氷魔法も使える。おかげでエールはいつも冷え冷えよ。・・・わたしも飲兵衛って言われるのは心外だわ」


 そう言うと同じようにガリアの頭を引っ叩いた。


「それでね。『森人』だってのがわたしの最大の秘密なの」


 そう言うとマヤは帽子の片側をちょっと持ち上げた。そこから見えたのは少し長い耳だった。


「あっ、エルフさんなんだ」


「最近はそうとも言うわね。わたしたちは『森人』って名乗ってますけど」


 そういうとウインクしてきた。勇人は年甲斐もなく思わずドキッとした。


「僕はユージン。ローレン村教会の孤児院出身だよ。昨日この街に出てきたんだ」


 その言葉にバペットが反応した。


「へえー。あのユージンなのね。君、知ってる人は知ってるくらいには有名人ですわ」


「ははは。大して有名じゃないってことだよね」


 バペットの言い方がおかしくて勇人は思わず笑いながらそう返した。


「ええ。領兵連中は殆ど知ってますわ。逆に街の普通の人にはほとんど知られてませんけど。ここでは職員とB級以上はほぼ全員、C級は三分の一くらいですかねぇ」


「そんなことより、こいつを臨時メンバーにしたいんだが良いかな」


 話が進まないと思ったのかガリアが強引に割り込んできた。


「ははは。良いも何もあなたもう勝手に決めちゃったじゃありませんか」


「オレは良いぞ。どうせ一緒には行動しないんだろ」


「わたしも特に反対はしないわ。良い子そうだし、一、二度は連れてって鍛えるのも良いかも知れないね」


 バペットは勿論、イラナもマヤも異存はないようだ。


「ラビブが僕を強引に入れようとしたのはたぶん僕の【虚空庫】狙いだったと思うんだけど、あんたたちは興味ないのか」


 勇人はそのとき疑問に思ったことを率直に聞いてみた。


「実はね。わたくしが【虚空庫】持ちですのよ。殆ど知ってる人は居ないんですけれど、オーク二頭くらいは余裕で入りますの。だからあなたは『要らない子』なのですわ」


 そう言ってバペットは上品に笑った。なかなかの迫力である、色んな意味で。勇人はその迫力に唖然とした。


「みんなも反対は無いようだし、登録に行こうか」


 ガリアは勇人を伴って受付に行くと、受付嬢に声を掛けた。


「おい、リオール。こいつを『天使の羽根』に加入させるから手続きを頼む」


 受付嬢はリオールという名前らしい。ちょっと驚いた顔をした。


「へえー。男の人を入れるんですか」


「半分はお前の所為だ。何でもべらべら喋るんじゃねえ」


 リオールはガリアから行いを咎められて少し拗ねたような顔をしながらも書類を用意した。


「ここに名前を書け」


 ガリアは先分隊名と自分の名前を記入してから勇人に書類を回した。勇人は何も言わずに言われた場所に名前を記入してガリアに返した。ガリアはそれをリオールに渡す。


「ユージン、組合員証を出しな」


 勇人が慌ててそれを出すとリオールがそれを受け取ってさっきの刻印の下に「所属︰天使の羽根」と打ち込んで返してきた。


 ガリアはそれを見届けるとその場を離れて元の席に戻りかけた。勇人がどうして良いのか分からずその場に突っ立っているとガリアから声が掛った。


「ユージン、お前もこっちへ来て一緒に座れ。これからお前をどう扱うか決めるんだからな」


 勇人はやれやれと思いながらもその言葉に従って元の席に戻った。


「あたし、さっきも言ったのだけど、一、二度は一緒に狩りに行って実力を見た方が良いのかなって思うのよ」


 マヤが話の口火を切った。


「僕、これまで散々イノシシやシカは狩ってきたし、昨日はオーク二匹も狩ったしソロで十分やれるよ」


「お前だけの話じゃねえぞ。オーク二頭は狩れても、角オオカミの群れや、ゴブリンの群れに襲われて対処できるか。オレたちがF級隊員にソロ活動を許しててゴブリンの群れに殺られました、なんてことが起こったら俺たちの評判が地に落ちるんだぞ」


 勇人の言葉に対してイラナが強くダメ出しをした。


「まず、お前の得物は何だ」


「僕の武器は槍と石弓だよ。あとは岩石落としと『メテオ』だね」


「ラビブとあたいとの模擬戦で槍と石弓は見せてもらった。槍はあれじゃゴブリンは倒せてもオークは無理だな。石弓の方は威力のある武器だけど単発だ。そこんところはどう考えてんだ」


「槍はイノシシやシカでも苦労してたからオークなんかに通用しないことはわかってるよ。石弓が連発が効かないことも。だからこれから武器屋に行って石弓を十張くらい買うつもりなんだ。


 さっきの模擬戦で見せたように上に出した【虚空庫】から右手に落として、撃ったら下に落として【虚空庫】に入れて代わりに新しい石弓をまた【虚空庫】から右手に出して撃つ。これを繰り返せば石弓の数だけ連発できるだろう」


 模擬戦で使った石弓は勇人が元の世界から持ち込んだクロスボウではない。これは文明的にあまりにも違いが大きすぎて勇人がチュードであると身バレする危険があったからだ。エラドが孤児院で作っていた中から一張だけ餞別として貰ってきた物を使った。


 見せてみろと言う言葉に従って勇人は【亜空間庫】からそれを出してガリアに渡す。ガリアはためすがめつ暫くそれを眺めた後で言った。


「引き金を引いても、ここを下げておかないとボルトが出ない仕組みか。こっちはボルトが落ちないように保持しておく仕組みだな。それが引き金を引くと先に外れてそのあと弦の止めが外れるって訳か。良くできてんな」


「ああ。孤児院の下働きをしていた者が元傭兵で、そのときの知識を元に作ってくれたんだ」


「岩石落としと『メテオ』って何だい」


「岩石落としは【虚空庫】を上に開いてその場に応じた大きさの石を相手の顔面や頭に落とす技だよ。『メテオ』はそれの応用でいろんな大きさの石を最大十メートルの高さからばら撒く攻撃方法だよ。相手が比較的弱くて多数の場合には効果的だと思う」


「使ったことあんのかい」


「メテオはないけど岩石落としはよく使ったよ」


 天使の羽根の四人はそれぞれ頷いている。勇人の攻撃力にはおおむね満足してくれたようだ。


「じゃあ、買いに行かなくったゃならないわねぇ。他には何が要るのかしら」


「槍の穂先と皮の胴鎧、皮手袋、後は鉄製の小手が欲しいんだけどこれは高いだろうなあ」


「手持ちのお金は幾らなのかしら」


「ええと・・・今日受け取った九両を含めて三十五両弱ですね」


「あなたの腕なら十両くらいはすぐ稼げそうだから手元に五両くらい置いておくとして使えるのは三十両だわね。それだけあれば今貴方が言ったものはたぶん全て買えるわよ」


「ダビッドの武器屋に行こうぜ。あたいが値切ってやる」


「あらあ、いくらガリアが顔が効くっていってもあんまり値切っちゃだめよぉ。お店が潰れちゃうわ」


 いきがるガリアを見て、バペットが笑いながら言った。


「値段はともかくダビッドの店にそんなに大量に石弓がある訳ないわ。石弓なんて不人気武器なんだから一、二本置いてりゃ御の字ね」


「マヤの言うとおりだぞ。それにどっちみち安全装置とボルトの保持装置の改造が必要だし、直ぐには手にできねえぞ」


 勇人の思惑を抜きにして話が勝手に進んで行く。


「ユージン、頭はどうすんだ。それにズボンとか、ベルトとかも要るだろ」


「それは孤児院にあったから貰ってきた。昔落ちてきてそのまま死んじゃったチュードが持ってた物だって」


「良いものなのか」


「兜は兵隊が使うものより軽くて丈夫そうだってエラドが言ってた。ズボンは分厚い生地でポケットが一杯付いてるよ」


「それじゃ、明日朝八時に狩りに行く格好でここに来な。買い物に行くよ」


「そのことなんだけど、サミュエル商会のサミュエルさんが今日、明日にも武器屋に連れて行くって言って呉れてるんだけど」


「サミュエルかい。知ってるよ。あいつの世話になってんのか。まあ、商売人だから武器屋にも知り合いは有るだろうけど餅は餅屋って言葉もある。武器屋と武器の良し悪しについちゃあたいらの方が詳しいよ。サミュエルに『天使の羽根』が世話するって言っときな。それで納得するぜ。ところで今日の寝床は決まってるのかい」


「いや。それもサミュエルさんに教えてもらうつもりだった」


「そうかい。あたいたちが定宿にしている『夜明けの梟』って宿にすりゃ都合が良いんだが、ちょっとお高いからなぁ」


「そうなの。毎日銀貨が飛んで行くのよ」


「それはマヤが毎晩しこたま飲むからだわ。わたくしはそんなにかからないわよ」


「その代わりあんたは毎日風呂屋へ行って散財してるでしょ」


「あら、身だしなみと清潔な肌は女の嗜みですわよ」


「大女に言われたかないね」


「あなたも相当大女よ。背丈だけはね、この竹とんぼ」


 話がカオスになってきたので、勇人は勇気を振り絞って言った。


「もう帰っても良いかな。サミュエルさんとの約束もあるし」


 それを聞いてガリアも少しはしゃぎすぎたと思ったらしく居住まいを正して言った。


「これは悪かった。宿は、そうだな、『豊穣の森』が良いだろう。値段が手ごろだし、店主が強面の魔猟士上がりで態度の悪い客は叩き出すから変な奴に絡まれることもない」


 そう言って【虚空庫】から紙と筆記具を出すとそこまでの地図を描いて渡してくれた。


「ありがとう。サミュエルさんと相談してみるよ。それじゃ明日八時にここでだね」


 そう言うと勇人は席を立って足早に組合を出た。

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