表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/82

070 ある日森の中オークに出会った~♪

 暫く無言で進んでいると前方に森が見えてきた。


「あれが、逢魔の森と言われている夜になると偶にはぐれオークが出る森ですよ。普通オークは四、五頭の群れで出るんですが、ここは一頭なんで多分群れを追い出されたオークだろうと言うのではぐれと呼ばれているんですよ。昼間はでないので、森に入る前に昼食を済ませてあとは一気に駆け抜けましょう」


 サミュエルはそう言って道端の空き地に馬車を止めると馬に水と飼い馬を与え、自分も宿屋で作らせた弁当を食べ始めた。勇人もそれに倣って弁当を使う。一休みすると一時頃になっていた。


「さあ出ましょうか」


 サミュエルはそう言うと馬車を走らせ始めた。明らかに先ほどより早く走っている。二時ごろになるとかなり森の深い場所まで来た。


「あと一時間か一時間半で森を抜けます。順調に進んでいますよ」


 勇人が不安そうにあたりを見回しているのを感じたのかサミュエルは彼を安心させるように告げた。その言葉が終わるか終わらないかの時であった。馬車の後ろの方で木が軋むような嫌な音がした途端に木の爆ぜる音とともに馬車の後方が大きく傾いた。見なくても何が起こったかは分かる。後輪の車軸が折れたのだ。


「不味いですね。車軸を早く取り替えないと」


 サミュエルの声に苛立ちと不安が籠った。早速二人とも降りて予備の車軸に変える作業を始めた。しかし軸受けまで壊れておりなかなか修理は捗らない。やっと修理を終えたときには時刻は四時を回っていた。日の長い季節ではあるが深い森の中には既に夜の気配が忍び寄っていた。


 応急修理の馬車はそれまでのように速度を上げることができない。焦って軸受けや車軸が壊れると再修理は不可能だ。気ばかり急くがゆっくりと走るほかはない。


 そのときサミュエルが息を飲む音が伝わってきた。


「左前方にオーク・・・何でですか・・・三体も。ユージン、私は手綱を離せないので戦闘はお任せします。何とかなりますか」


「やってみるほかないよ。こっちは任せて」


 (【亜空間庫】からボルトを飛ばして【次元刀】で切り払えば何とでもなるんやけど、見せとうないなぁ。とするとクロスボウをダミーにして長距離で【亜空間庫】からボルト撃って一匹、至近距離で模造刀をダミーにして【次元刀】で切って二匹、あと一手足りんなぁ。顔面に石でもぶっつけるか)


 勇人はこう作戦を組み立てるととりあえず左手に模造刀、右手にクロスボウを持って構えた。


 オークたちは左前方から駆け寄ってくる。サミュエルはその前に出ようと馬車を疾駆させていた。だが見る限りサミュエルがその競争に負ける気配は濃厚だった。


 勇人は近付いてくるオークを見て驚いた。手に棍棒を持っている、勇人の頭の中にあるオークと目の前のそれとの類似点はそれだけだった。四つ足で疾駆してくるそいつの顔はブタとは似ても似つかない、カピバラを凶暴にしたようなあるいは肉食の馬のようだった。前後の足先は蹄で、前足の蹄は鉤状になっていてそれと内側にある肉球のようなもので棍棒を握っているらしい。体毛は濃く薄汚れていた。もちろん腰布などは付けていないし皮鎧も付けていない。


 (これ見て、ようオークて言うたなぁ。ラノベ族の無限の想像力に感心するわ。これ野獣や。これやったらワイも食えそうや。異世界人がガ二バリズムの人や無うて良かったわ)


 どうでも良いことを考えているうちにオークとの距離が急速に縮まってきた。両方が疾駆しているのだから当然だ。オークは既に立ち上がって棍棒を構えながら走っている。幸いなことにオークも相当の距離を走ってきたので走力の差がでて三頭の距離が開いている。


 先頭を走り寄ってくるオークとの距離が四十メートルになったとき手に持ったクロスボウをそのオークの頭目掛けて放った。左に外れる。これは予定通りだ。もともとダミーで当たれば儲けもののつもりで放ったのだ。


 ほぼそれと同時に距離が三十メートルを切った。その左目を目掛けて【亜空間庫】からボルトを放った。ボルトは脳を直撃し、オークは転倒しながら走ってきた勢いのまま馬車に近づいた。勇人はそれを【亜空間庫】で掬う。


 そのときには二頭目が十五メートルまで近付いていた。勇人はその頭上に展開した【亜空間庫】からオークの顔の倍ほどもある石をその顔の直前に落とした。それは二匹目のオークの顔面にヒットして跳ね飛ばされたが、オークも脳震盪を起こして昏倒し、やはり勢いのままに転がって近づいてきた。これも【亜空間庫】で掬う。


 最後のオークはもう十メートルまで近付いていた。勇人は【次元刀】に切り替えて最長の長さでその首を薙いだ。そのオークは胴体から離れた首を乗せたまま数歩走り、勇人が広げた【亜空間庫】に自ら飛び込んだ。


 二匹目のオークはやはり脳震盪を起こしただけで生きているようだ。


「サミュエルさん、終わったよ」


 勇人が声を掛けるとサミュエルはフッと息を吐いてそれから馬の手綱を引いた。馬車の速度が落ちる。通常の速度になったところでそのまま走らせながらサミュエルは結果を尋ねてきた。


「二匹は倒して【虚空庫】に入れたけど、一匹は入れそこなった。死んでるとは思うよ」


「そうですか。それなら安心ですね。それにしても普通はここでは出会っても一頭なんですが三頭とは驚きました。死んでるなら狼たちが片付けてくれるでしょう」


 (三匹目は暫くこのままやな。あと二匹は売れるかなあ)


「二匹はどうしようか」


「あなたを護衛として雇った訳ではないので、狩ったあなたのものですよ。肉屋で売っても良いですが、魔猟士組合でも買い取ってくれますからそちらで売る方が良いでしょう」


「護衛の場合はどうなるの」


「持ち帰るかどうかは雇い主の判断、持ち帰った場合には折半ですね」


「どれくらいの値が付くのかなあ」


「百貫くらいのオークなら肉が五十貫として売値で二両くらいですか」


「結構良い値段なんだね」


「君が町で売っていた肉とそう変わりない値段ですよ。十匁四文ですからね」


「じゃあ獣の肉はもっと安いのかなあ」


「そうですねぇ。肉屋の売値は種類や部位によって異なるのですが、買値は組合も肉屋も、どんな肉でも十匁二文ですね。それと皮付き骨付きの場合は魔物も獣もその半値、血抜き、内臓抜きがされてない場合には買取拒否ですね」


「魔猟士も楽じゃないなあ」


 辺りは次第に暗くなってきたが森が薄くなってきたこともあり明るさはそう変わらなかった。もうすぐ森を抜けると言うサミュエルの言葉通りに森を抜けて開けた草原と田畑の中の道を走り出した時には六時を回っていた。


「あれがラフィアディアの街ですよ」


 サミュエルの言葉に前方に目をやると遠くに城壁が見えた。それは近づくにつれて高くなり門に至るころには目測で十メートル近い城壁となってそそり立っていた。


 門はまだ開いており、門衛が二人立っていた。


「おう、サミュエルじゃないか。今日はえらく遅かったな」


 門衛は気安くサミュエルに話しかけた。旧知の間柄なのだろう。


「いやあ。森の真ん中で車軸が折れましてね。おまけにオークが三頭もまとめて出て来るし、慌てましたよ。今日はこの子のおかげで命拾いしました」


 サミュエルは話し返しながら勇人を手で指した。


「そういえば、そいつはどうしたんだ」


「ローレン村の孤児院を卒業して魔猟士になりたいというので同行したんですよ。ユージン、門衛に離村許可証を見せて下さい」


 ユージンは言われるままに離村許可証を門衛に示した。


「おい、あのユージンか。孤児院の子供たちを指揮して四十人で押しかけてきた誘拐の一味を全滅させたんだってな。領兵の間じゃ有名になってるぞ」


 門衛は許可書を見ながら大げさに勇人を褒めた。


「指揮したのは下働きのエラドだよ。僕は一兵卒に過ぎなかった。入城料みたいなものが要るのかな」


「許可書に目的がここの魔導士組合に入ると書いてあるから今日の入城については税金はかからない。魔導士組合の組合員証を持ってれば次からも不要だ。ここの住人ということになるからな。入場印を押しておくから、今日から十日間はこれを見せれば入城料は免除だ。」


 門衛はそう言って仕草で街に入るように促した。サミュエルは荷馬車を操縦してそのまま市街へ入って行く。門から辺境伯の居城へと片道三車線はあろうかという広い一本道が続いて、大通りとなっていた。その両側には一間幅の水路が掘られており、大通りの両側に立ち並ぶ商店には幅広の橋を渡って行くようになっていた。


 よく見る商店と商店との間にも一間幅の水路が掘られている。サミュエルはすぐに右折し、一本裏の道に入った。その道の両側や家々の間にも水路がある。平たく言えば一軒一軒の家が水路で囲まれる構造になっていた。そういえばローレン村でも家の周りは空堀になっていた。


「ははは。水路に驚きましたか。掘った土を土魔法で固めて家の壁にしているのですよ」


 勇人の驚いた表情を見てサミュエルが説明してくれた。なんでも石切場から切り石を運んで来るより掘った土を固めて建材にするほうが遥かに労力が掛からないらしい。暫くすると大通りの店より少し小さい店に着いた。


「ここがサミュエル商会の店舗兼私の住居です。馬車を裏手に回してきますから暫くここで待っていてください」


 サミュエルは勇人を降ろして店の横手の門を開くとその中に馬車を進めた。中から何か話声が聞こえて暫くするとサミュエルが表に現れた。


「馬車は馬丁に任せてきました。家族を紹介するのでこちらへどうぞ」


「先に旅館を紹介して貰えませんか。ご家族には明日ご挨拶させて頂くとして、今日は疲れたのでゆっくりしたいんだけど。サミュエルさんも家族とは久しぶりなんでしょう」


「そうですか。今日くらいは泊っていただこうかと思っていたのですが。ユージンがそう言うのなら。すぐ近くに風呂付の旅館がありますからそこを紹介しましょう。代金は少し高いのですが一日二日なら大丈夫ですよね。明日にでも魔猟士組合で登録を済ませて、もっと手頃な宿に案内しましょう」


 サミュエルは少し残念そうに答えて、先に立って歩き始めた。勇人が後に続いていると数分歩いて「ヒノキの宿」と言う宿屋に案内された。宿泊料は穴銀七枚で夕食、朝食付きだった。


 勇人はそこで一泊することにして料金を払い、サミュエルに別れを告げると早速部屋に入った。


 疲れた、それが偽らざる気持ちだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ