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066 よつぴいてひやうど放つ

「そうか。逃げねえのか。こっちはガキども二十人に俺と仮助祭それにお前とアビーにリーアで二十四人か。入ってきたばかりの五歳組は役に立たねえし、リーアは【治癒】専門、仮助祭は役に立つかどうかわからねえ。実質二十人だな。それも半分は半人前のガキだ。よっぽど上手え指揮者が必要だな」


 エラドは難しい顔で腕組みをした。ここは彼の傭兵としての経験に頼るところだ。とにかく今後の見通しを聞いてみよう。


「帝国軍か領兵の救援は受けられないかな」


「奴隷商会の残党が襲ってくるってのは憶測に過ぎねえ。それじゃあ帝国軍はおろか領兵の出動も当てに出来ねえだろうよ。まあ言ってはみるがな」


「相手は何人くらい来ると踏んでるんだい」


「帝国軍は優秀だぞ。それにリトフと言やぁブルガン辺境伯領の街だ。領軍も精鋭ぞろいだ。おそらく相手が気付かないうちにアジトを急襲しただろう。


 で散り散りになった手下や他所に出張っていた者を集めて、そのまま東寄りを南下してハッシバー大公国へ逃げる算段をするとして二、三十人ってところだな。これなら集団で行動するかばらけて逃げるかどっちでも選べるし、集めると言ってもこれが限界だろうよ」


「そうか。教会の敷地内に入り込まれて白兵戦になったら勝ち目はないなあ」


「おうよ。相手も交渉役も居れば小間使いも居る。手練れぞろいってことは無えだろうが荒事専門の奴や護衛やってた奴も居るだろうから白兵戦になるとガキどもじゃ手に負えねえな」


「それじゃあ籠城戦だね。防備の強化は僕がやるからエラドには子供たちの訓練と当日の指揮を頼むよ」


 指揮をエラドに任せるのは勇人の当初からの予定だった。教会の防御の強化についてはざっと腹案を立てて、エラドの意見を聞くことにした。


 教会の西側は十メートルくらいの切り立った崖になっていてここを下ってくるのは難しい。北側と東側は畑とその向こう側の雑木林だ。迂回攻撃があるとすればこちらからだろう。南側は教会から村へ続く下り坂の道以外は棚田ばかりだ。棚田の教会側には幅四メートル、深さ二メートルの用水路兼養殖池とその土を盛り上げた水面から二メートル、教会側から一メートルの土塁がある。一気呵成に攻めるとすれば道を通ってだろう。道幅は四メートルくらいあって押し寄せるのに不都合はない。


「防御の設備はどうすんだ」


 (近代戦なら塹壕なんやけど、鉄砲ないしなあ。スコップ投げる訳にもいかんし・・・)


「今考えてるのは、まず橋をはね橋にすること、土塁の内側を掘ってそれを土塁に積み上げて内側高さを一、二尺増すこと、東側の水路を幅一間半、深さ四、五尺にしてその土を内側に積んで土塁にすること、それから北側は畑と倉庫との間に同じように堀と土塁を作る、でもこれは勾配の関係から空堀になるだろうね。教会の鐘楼は見張り台として使わせてもらうよ」


「そうか、堀と土塁で野戦築城か。まあそんなところだが、道の防御をもう少し考えねえとすぐに攻城戦が始まっちまうぞ」


「そうだね。なんとか田圃の中に誘わないと」


「田圃の下の端に丸太で門でも作るか。お前、丸太を作るのは得意だろ」


「でも、すぐに回り込んで道に戻られてしまうよ」


「何重にも門を作れば良いじゃねえか」


「丸太を作るのは良いけど、乾かさないと運べないよ。アビーが伸びちまう」


 (危なっ。危うく生木でも運べるのがばれるとこやったわ)


「そういや、そうだな」


 そんな話をしていると土まみれの仮助祭が通りかかった。畑仕事を手伝っていたようだ。


「何の相談をされてるのでしょうか。私にも話して頂けますか」


 前の助祭と違って仮助祭は庶民派らしいので手助けをしてもらえるかも知れないという思惑もあって、エラドと勇人とは代わる代わる今まで話していたことを伝えた。


「教会が襲われる恐れがあるということですね。それでは私も手伝わないと」


「助祭様は何か武術の心得でもお有りなんですかい」


「私はここの子供たちと同じ孤児院の出なのよ。孤児院では弓で鳴らしたもんだわ」


「で、具体的にはどのくらい使えるんですか」


 勇人が疑いを含んだ声で聞いた。それが仮助祭のプライドを傷つけたらしい。その口調が少し変わった。


「あたいはねぇ、孤児院の鳥肉係だったんだ。百発百中だったよ」


「弓で鳥を撃つんでは矢が勿体ないって言われませんでしたか」


「馬鹿にすんじゃねえよ。あたいの矢は矢尻が矢柄と同じ太さで返しもねえんだ。頭を打ちぬくんだからそれで充分さ。矢が壊れることなんてなかったよ。鐘楼からつるべ打ちにしてやろうじゃねえか・・・ですよ」


 勇人は頭を掻いた。


「ごめんなさい。今度弓の腕前を見せてよ。あと、素が出てるよ」


 仮助祭は豪快に笑った。


「ははは。お里が知れちまったね。それにまだ疑ってんのかい。まあ仕方ないさね、後で見せてやるよ。それで矢は何本あるんだい」


「五十本くらいはあったと思います」


「十分だね。それで道に戻られないようにするのはどうすんだよ」


「それは・・・」


 勇人はたった今思いついたことを口にした。


「おまえならできそうだな。門も一つで済むし、アビーの負担も少なそうだ」


「お前さんなかなかの策士だね」


「それで人員配置はどうするんだ」


「僕の腹案としては十歳以下から石弓の上手い子を五人選んで石弓隊として正面に配置する。石弓を撃つのに力はいらないからね。それから十歳以上の子から力があって槍の上手い子を同じく五人選んで槍隊としてこれも正面に配置したらどうかなって考えてる。石弓隊には石弓を二丁ずつ持たせて撃つのに専念させ、槍隊はまず投擲紐を使って油壷を投げてもらい、その後は敵が堀に入るまでは石弓の装填手を務める。これである程度間断なく石弓を撃つことができるよ。


 敵が堀に入ったら槍隊は槍に持ち替えて迎撃、石弓隊は後退して伝令になるる。アビーは正面で遊撃が良いと思う。リーアは五歳組と食堂で待機して治癒隊をやってもらう。


 残りは石弓とあとは好みの得物を持って西と北を守る。伝令役を付けるので手に負えないと思ったら表に伝令を飛ばし、アビーまたはエラドが救援に向かう。東は僕が受け持つよ。こんな布陣でどうかな。エラドは出来るだけ表で全体の指揮を執ってよ」


「傭兵崩れでよけりゃ指揮ぐらいはとるが、東側がお前一人で大丈夫か」


「僕の場合は土魔法を振り回すので近くに味方がいない方が存分に働けるから。危なくなったら北側に後退するよ」


「お前さんとんでもない土魔法を使うんだってね。追々見せてもらうよ。それであたいは鐘楼かい」


「ええ、そこから弓で好きなだけ狙ってね。ああ、それと弓持ちとか魔法使いが居たら優先的にお願いするよ。あと敵が堀まで来たら『見ろ、領兵が助けに来たぞ』って叫んで欲しいんだ。でも仮にも聖職者が人を殺しても良いのかなあ」


「ははは。敵さん慌てるだろうな。それと教団には襲ってくるものを殺っちゃいけねえって教義は無えぞ」


「それは好都合だね」


「だがな。連中はたぶん夜中に襲ってくるぞ。明かりも無しに戦うのは難しいぜ」


「うん・・・それもあっての正面槍隊の投石紐なんだ。マルカに頼んで火炎壺を作ってもらうよ。近くになったらがんどうででも照らしすかな。白兵戦になったときに備えて表の広場にかがり火の用意もしておいた方が良いね。月夜なら月明りで戦った方が有利だと思うんだけど、エラドはどう思う」


「地の利はこっちにあるからその方が良いだろうな」


 大体、防御構想が固まったと見たのか仮助祭が声を掛けてきた。


「それじゃあ、あたいの弓の腕を見せてやるよ。どこか射撃の出来る場所はあるかい」


「おう。ユージン、河原へ行くぞ。弓を持ってきてくれ」


 エラドは珍しいものが見られるとあって、機嫌よく指示を出した。


「そうするよ。先に行ってて」


 勇人はそう言うと倉庫まで行って弓矢を持ち出し二人の後を追って河原に行った。


 那須与一が居た。


 仮司祭は百メートルも離れたところから十発続けて二十センチほどの的を射抜いた。


「弓が弱すぎるな」


 発した言葉がそれだった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 仮司祭はその後、近くの池に行きカモを五羽仕留めた。そのうちの三羽は、水に浮かんでいる一羽を射て、驚いて飛び立った他のカモの内の二羽を矢継ぎ早に見越しで射て落とした。与一も真っ青の神業だった。


 カモはその日の夕食に焼き鳥となって出た。味噌の溜りで味付けがされている。他に鯉こくと葉物野菜と猪肉の炒め物、玄米ご飯がその日の献立だった。


 焼き鳥を別にすれば特別な料理という訳ではない。味噌も溜りもふんだんに使えるほどの量を作れるようになった。料理用の酒も購入できるようになった。食生活に関しては勇人が目覚めた時とは雲泥の差だ。


 食事のあと仮助祭から賊の襲撃の可能性とそれに対する備えや人員配置について説明がなされた。子供たちは静かにしかし真剣な眼差しではなしを聞いている。勇人は食堂内に闘気が満ちて行くのを肌で感じた。


 もうここには五歳未満の弟妹たちへの義務感だけで動くものはいない。それを越えて自分の生活を守るために何かすべきだという積極的な動機があった。


 翌日から敵を迎え撃つための準備と訓練が始まった。


 勇人はアビーと門の材料を集めた。門を作るのは年長組に任せたが【虚空庫】をうまく使って手早く作っている。


 それから二人でもう一つのバリケード材料を集めに聖域に入った。あちこちの雑木林や灌木の林を回って手当たり次第に集め、それを堀の中に沈めたり、裏の林の中に置いて回ったりした。そして最後に道路に沿ってその両側に並べ、南を守る子供たちに【虚空庫】に入れて持たせた。嵩張ってはいるが容積は見かけほどはないので【虚空庫】に入れられない子はいなかった。


 勇人はマルカに頼んで揮発性の強い油を封入した壺を試作も含めて三十個前後作ってもらうとその口に襤褸布を巻き、南の防塁の内側に並べた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 三月十日を襲撃予想日として、三月一日から教会は臨戦態勢に入った。昼間は年少組が夜は年長組が二人一組で鐘楼に上り見張りをしている。襲撃者を発見した場合および村の村長宅付近で異変が生じた場合には鐘を鳴らす手はずになっている。


 他の者は日常の仕事の他に日に一、二度演習を続けた。突発的に鐘を鳴らすやつだ。


 エラドも勇人も夜の攻撃だろうと予想していた。月齢は新月に向かっている。十日前後は晴れていても闇夜だろう。攻める方と守る方、どちらが有利だろう。

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