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065 大団円?

 助祭とヤコブは順に礼拝堂の真ん中に連れ出されて封魔の枷を付けられた。ヤコブからは奴隷商会とのやり取りの手紙や袋に入ったままの二百五十両の金貨が出てきた。


 そして助祭の【虚空庫】からもこれまでに貯めていた教団の金庫に入った金の他に袋入りの二百五十枚の金貨が出てきた。


「手紙によると奴隷商会から帝国軍人と偽って能力の見分役を送るとありますね。ヤコブ、このことは助祭に告げたのですか」


「も、勿論です」


 ヤコブは完全に観念したようだ。


「知りません。村長、何でそんな嘘をつくの。去年の八月に見分に来た人は帝国軍人だと思っておりました」


「それではナヴァ見習い助祭に真偽判定をさせます。嘘をついているとますます立場が悪くなりますよ」


 司教にそう言われて助祭も観念する。その後は聞かれたことに素直に答えて行った。二人の証拠調べが終わると司教はマガルとガードを見て言った。


「次はあなた方の番です。あなた方については名指しで告訴があったわけではありませんが、本件の関係者として職権で審理を開始します。まずバラク、馬車の捜索は終わりましたか」


「はい。作り付けの金庫以外に変わったものは有りませんでしたが、金庫の中には金貨が推定二千枚ほど入った袋がありました。あとは奴隷商会のものらしい便箋、封筒、路銀と思われる貨幣が金貨三、四枚分です」


「わかりました。マガルに尋ねます。パディア商会と名乗る名称不詳の奴隷商会の依頼または命令で皇都に行くと偽って連れ出されたアビゲイル及びリーアをリトフまたは国境を越えた某所まで外から施錠可能な馬車に両名の承諾なしに乗車させて連れて行こうとし、抵抗したアビゲイルを暴力で制圧し、会合場所まで二人を連れて来るなどして協力したヤコブ及び助祭にその報酬として金貨五百枚を渡した事実に相違ありませんか」


 二人は【虚空庫】から書類が出たことで抵抗する気力を失っており、そのとおりだと認めた。


「それでは被告四人はアビゲイル及びリーアの人身売買及びそれを目的とする誘拐について有罪とします。ヤコブ、マガルおよびガードの三人は一般人であるのでその刑についてはマハラ領主に一任します。


 レヴィナ・二サン助祭については聖職者であるためこのまま教団に連行して聖女会の審判を受けさせます。判決結果については追って領主及び教団使者からアビゲイル及びリーアに伝達されます。不服があれば教団使者またはその時点でのこの教会責任者に不服申し立てをすることができます。


 アビゲイル及びリーアには迷惑料としてヤコブ、助祭の犯罪収取金五百両のうちからそれぞれ金五十両を取らせるものとし残り二千四百両については領主と教団とで折半して没収することとします。以上にて閉廷し・・・」


「司教様、ちょっと待ってよ」


 勇人は声を上げた。


「盗賊を捕まえた場合その持っていた財産は捕まえた者の物になるんだよね。僕がマガルとガードを捕まえて連れてきたんだし、ヤコブと助祭の罪を告発したのも僕なんだから国法に従えば金貨二千五百枚は僕の物だよね」


 司教はニッコリと笑った。


「ユージン、よく勉強していますが少し間違っていますね。国法では盗賊をせん滅したり捕縛したりした場合にはその盗賊の持ち物は討伐者の物になると規定されています。


 そして『盗賊』の定義として国法では『人の居住地の外に本拠を構え、暴力を持って他人の財産を奪う者』とされています。所謂山賊なんかですね。今回の場合四人とも人の居住地外に本拠を構えてはいませんからそもそも盗賊に当たりませんよ」


 (そんなアホな・・・)


「それはそうとして、この件には時間的に少しおかしいところがあります。ヤコブたちは一月十日が当初の会合予定だったがこの日にマガルたちは来ず、所用のために来られなかったので二十二日に改めて会いたいとの手紙があってその日にアビゲイルたちの受け渡しをしたと言っていますが、マガルたちはそんな手紙を出した覚えはないし、今日は十日だと言っているのですよ。確かに手紙は見当たらないのですが今日は二十四日です。どちらの言い分も証拠上の事実と異なっているのです」


 (やば。藪蛇やったか)


「確かにそうだけど、それが何か」


 司教はますます口角を上げた。


「いえね。もしかしたらあなたが何か知っているかと思いましてね。真偽判定に掛けても宜しいかしら」


「お断りするよ。それについて僕が何かしたという証拠はないと思うし、第一日付についての両者の認識が違うことは今回の犯行には何の関係もないよね。真偽判定を強制する理由はないと思うんだけど」


「確かにそうですね。でももう一つ、護衛のガードの言い分では彼が乗っていた馬が居なくなっています。あなたが盗んだのではないかと言っていますよ」


「確かに彼がそんな供述をしていたのは聞いてるよ。でもそれが何か」


「馬一頭が盗まれたのであれば、これは犯罪ですね。しかも現場に居てそこを支配していたのはあなただけです。あなたが盗んだという疑いをかけられてもやむをえませんね。これは強制的に真偽判定にかける理由になりますよ」


「ではどうぞ命じて下さいな」


「ナヴァ見習い助祭、真偽判定を」


 見習い助祭は返事をすると原告席のユージンに近づき、その手を取って目を見ながら聞いた。


「あなたはガードが乗っていた馬を盗みましたか」


「いいえ」


「あなたはガードが乗っていた馬がどこにいるか知っていますか」


「いいえ、今どこに居るか知りません」


 見習い助祭は頷くと司教の方を向いて言った。


「どちらの答えも真実です」


 司教は半ば落胆、半ば安堵したような顔をして言った。


「そうですか。ユージンに対する馬の窃盗の嫌疑は晴れました」


「当然ですね」


 (危な。馬を【亜空間庫】から出して空き地に放置しといてよかったわ。これやったら盗んでへんし、『今』はどこに居るか分らへんからな。ギリセーフや。やっぱり保険は掛けとくもんや。あとで回収に行こ)


「もう一つ疑問があります。金貨五百枚は二人の誘拐を手助けする報酬でした。では二千枚は何でしょうね、マガル」


「俺は知らねえ。上の奴から、受け渡しが済んだ後隣の村で待ってれば取りに来る奴が居るからそいつに渡せって言われただけだ」


「レヴィ」


 言われる前に真偽判定に入っていた見習い助祭は即座に答えた。


「嘘はありません」


「そうですか・・・他の事件の報酬ですかね。かなり高額ですね。本件には関係なさそうですし、詮索すれば際限がないですから終わりにしましょう。


 それでは閉廷します。バラク、マガルとガードは封魔の枷を付けたまま馬車に監禁しなさい。村長は倉庫に、助祭は空き部屋に監禁してください。どちらも念のため封魔の枷は付けてください。それから足労を掛けますが領都まで行って領主に事情説明をし罪人受け取りの手配をするように申し入れて下さい。


 レヴィ見習い助祭、急ぎ四人の供述書を二通作成しなさい。それから新しい管理者が着任するまでここの管理をして貰います。その間は私の権限で助祭待遇とします。あなたにとっては良い経験になると思いますのでしっかり勤めて下さい」


「はい。謹んで承ります」


 見習い助祭は緊張したのか頬を少し紅潮させているが嬉しさは隠せない。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 翌日の午後、領兵数名を従えた代官が到着し、助祭を除く三人を連行した。ナヴァ仮助祭が徹夜で作った供述書一部が代官に託された。司教はその日に引き渡しの手続きを終えるとレヴィナ助祭を連行して次の教会へと向かった。


 半月後代官から三人が公開斬首刑に処せられることが決定した旨の通知があり、一週間後処刑された旨の通知があった。前後してレヴィナ助祭が毒杯を与えられたが飲めなかったため縊首された旨の通知があった。


 仮助祭から新村長を通じて領主に対して帝国軍からアビーとリーアの二人について士官待遇での任官の見分をするように要請するよう意見具申がなされ、一月後に帝国軍魔導大隊から見分の士官が派遣されることも決まった。


「これで一件落着だね」


 二月も半ばの昼下がり、いつものとおり表の広場のベンチに座って何とはなしに勇人はエラドに話しかけた。


「だったら良いんだがな」


「どういうことだい」


 エラドの意外な返事に勇人は身を乗り出して思わぬ大声をだした。


「ユージン、相手の身になって考えて見ろ」


「金貨二千五百枚を見返りなしに失ったってことか」


「勿論それもあるが、それだけじゃ無え。首謀者の某商会ってのはハッシバー大公国じゃ合法組織だろうがこの国じゃ非合法組織だ。こういう組織はなめられたら後の活動に支障が出る。けど、おそらく今回の件でこの国の裏社会での面子は丸つぶれだろうな。おまけに二人も関係者が捕まって緊つい尋問を受けてるんだ。全部吐かされてらぁな。拠点は壊滅状態になっただろうぜ」


「それでせめて面子を守るために何かすると」


「おうよ。村長の一家皆殺し、この孤児院の関係者皆殺し、これくらいはしねえと面子が立たねえんじゃねえか」


 エラドの話は物騒極まりないが、有りそうなことだ。勇人も同意せざるを得なかった。


「エラドはどのくらい時間があると思う」


「そうよなあ。リトフの町からマハラディアまで十日、リトフから奴らの本拠地までどのくらいかかるかは不明だがそこへの往復と評定に十日かかるとして、マガルの言い分に従えば一月十日が本来の受渡日だったらしいから、マガルらが帰って来ねえってんで、リトフの拠点が異変を感じるのが一月二十日だな。そこから奴らは状況を把握するために偵察員をマハラディアまで送るとして、リトフ、マハラディア間の往復に二十日かかるとするとその情報が持ち帰られるのが早くて二月十日、そこから奴らの本拠地までどのくらいあるかはわかんねえが往復で十日かかるとして二月二十日、そこから襲撃隊を組織してここまで来るのに二十日とすると三月の十日前後じゃねえか」


「じゃあ、もう一月も無いじゃないか」


「どうする。アビーとリーアを連れて逃げるのも手だぞ」


 エラドは暗い笑みを見せてそう言い放った。


「僕にはこの孤児院を見捨てる選択肢はないよ」


「おっ、かっこ良いねえ」


 (いちいち癪にさわる言い方するやつやけど役に立つんは間違いないし、利害が一致してる間は裏切る心配もあらへんから使えるだけ使い倒したろか)


 勇人はあと一月弱でここの防衛を固める決意をした。

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