062 就職戦線異状あり
話の都合上短いです
年が明けた。一月十日にアビーたちの迎えが来ることになっている。勇人は前年にサミュエルに頼んでいて金貨六十枚分の銀貨を金貨に交換して貰っていた。一月九日の夜、勇人はアビーたちの部屋へ行くと金貨四十枚を出した。
「これはアビーが僕の狩猟に協力してくれた分け前と二人への餞別だ。分け方は二人で相談してくれ」
勇人がそう言って渡すと、直ぐにアビーが反応した。
「じゃあ、半分分けだ」
「わたしは何も協力してないし、師匠からは医術のことでお世話になってばかりだったから五枚でいいわ。オブラが貰ったのも五枚だって言ってたし」
「オレとリーアは二人で一人だからな。半分分けだ。今まで何でもそうしてきたぞ」
「そう言われればそうだけど、これは少し違うと思うよ」
「とにかく今は半分分けだ。オレに金が必要になってお前が持ってたら貸してもらう、それで良いぞ」
「分かったわ。特に使う当てもないし、持つだけ持っておくわ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
翌日、村長が荷馬車で迎えに来ることになっている。なんでも魔導大隊の馬車は南から北上して有望な人材を拾いながらマハラディアを経由して皇都に向かうことになっているらしい。ここへ来る途中の分かれ道を通るのでその少し先にある峠近くの空き地で村長の馬車と落ち合ってそこでアビーたちが乗り換える手はずになっているらしい。
朝八時ごろに村長の荷馬車が着いた。アビーは新しい作務衣を着て、頭に自慢の赤い防災頭巾、腰に短剣をぶら下げた出で立ち、作務衣は大量にある男物の生地から冬ものを選んで子供たちが縫ったものだ。巡回司教から女の子らしい衣装を貰ったのだが『オレにはこれは似合わないぞ』と言ったので子供たちが態々縫ったらしい。
リーアは巡回司教から送られた程度の良い中古のブラウスと上着、下はスカートだ。二人とも寒さ除けのマントを羽織っている。ちょっとしたケガを治してもらった子も多いのでリーアとの別れを惜しむ子は多いが、アビーはあまり人気が無い。それでも二人とも孤児院からの餞別と今日の弁当を貰い、嬉しそうにしている。助祭が静々と二人の前に進み出るとそれぞれに書類を渡した。
「あなた方の離村承諾書と離村許可証です。行き先は皇都の魔導第一大隊、目的は入隊となっています。あなた方は不幸な生い立ちでしたがこれからの人生が幸多きものであることを祈っております」
「お世話になりました。ありがとうございます」
「孤児院のみんなには世話になったぞ。オレはこんなだから追い出されてもしかたねえって思ってたんだが最後まで居させてくれた。ありがとうだ」
(こいつ、自分がここでは役立たずやったて自覚はあるんや。それにしても最後まで助祭に世話になったて言わんかったな。見上げた根性や)
やがて荷馬車は二人を乗せて発車し、それを見届けた勇人は何も言わずにその場を足早に立ち去った。
予想外のことが起こった。午後二時ころ、村長の荷馬車が戻ってきたのだ、二人を乗せて。その場に居た子供が泡を食って教会に飛び込み、その知らせを受けた助祭が慌てて外に出てきた。
「どうしたと言うのですか」
「いやあ。待ち合わせの場所まで行って二時間ほど待ってたんだが、一向に迎えの馬車が現れないんでな。取り合えず一旦帰ってきたんだよ。何か事故でもあったんかなあ。軍のことだからこのまま何も連絡なしちゅうことはあるめぇ。そのうちに何か言って来らあな。それまで待つしかねえから、もう暫く置いてやってくれ」
「二人が暫くここに残るのはかまいませんが、何があったんでしょう」
「まあ、そのうちに何か連絡があるだろうぜ。待つしかねえな」
そう言われてしまえば反論の材料は誰も持ち合わせていない。結局エラドのその言葉でひと段落がつき、集まっていた者も三々五々それぞれの作業に戻った。村長も馬車を操って村の方へと帰って行った。
「こんなところでぼっとしてても何も解決しねえ。リーア、取り合えず部屋に戻るぞ」
「うん。そうするしかないわね」
二人は暫く所在無げにその場に立ち尽くしていたが、アビーの言葉にリーアも同意して二人はそれまで二人が使っていた部屋に戻った。幸いにも部屋替えはまだだった。
翌々日、村長が助祭を訪ねてきて、暫く二人きりで話をしていた。どうも今回のことらしい。そしてその日の夕食後、助祭から話があった。
「魔導大隊から手紙が来たそうです。何でも突発的な事故があって南で足止めに会ったため期日にこれなかったとのことで、足止めが解けたので二十二日の同時刻に同じ場所で乗り継ぎをしてもらいたいと言う内容でした。アビゲイルとリーアはその日の朝に村長が荷馬車で迎えに来るので準備をしておくように」
助祭の言葉に食堂内にはほっとした空気が流れ、アビーとリーアも安どの表情を浮かべた。やはり万に一つも間違いはないと思ってはいても宙に浮いたような立場に置かれてしまって随分と気になっていたのだろう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
一月二十二日の朝八時に村長が荷馬車で迎えに来た。アビーとリーアそれに助祭とエラドはその場にいたが他の者は近くで作業をしているものもその場から見ているだけだった。無理もない。出立の二番煎じなのだ。今更集まって送るのも何か違うと感じた子供が多かったのだろう。勇人も居なかった。
「二度目ですけど、行ってきます。お世話になりました」
「うん、二度目だな。一度目に同じ」
リーアはそれでも礼儀正しく助祭とエラドに挨拶をしたがアビーはいい加減なものである。二人が荷馬車に乗ると村長も複雑な目で二人をチラッと眺めてからすぐに目を逸らして手綱を揺らした。近くで農作業をしている子供たちが小さく手を振って送る中に馬車が動き始め、やがて村の方へと消えていった。
「行きましたね。もう帰ってくると言うことはないんでしょうね。肝が冷えました」
「まあ、二度目ってことは無えだろうよ。心配かい」
「それはそうでしょう。出立した子がその日のうちに帰ってくるなんてここでは初めての出来事ですから」
「まあそうだな。そう頻繁に有っちゃ困るってもんよ」
助祭の言葉にエラドが軽く返し、助祭は教会へ、エラドは食堂へと入っていった。
午後一時頃、村長が教会を訪れた。今度は一人だった。彼は出迎えた助祭とエラドの顔を見た。二人とも安堵の表情が浮かんでいる。
「無事送り届けましたぜ」
「まあ、ご苦労をおかけしました」
「村長、世話になったな」
「なんのこれも村長の役目の一つですからな。それでは報告も済んだのでこれで帰らせて貰いますか」
村長は馬車の踵を返し、村の方へと去って行った。
「なんちゃって推理仕立」にしてみました。何が起こったのでしょうか。ここまでで伏線はすべて貼り終わりました。あとは回収回及び後始末が数話続きます。




