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060 十五の春は泣かせない

申し訳ないけどちょっと短いです。

 勇人にとって十四歳の年末、十五歳の年明けは慌ただしい。十一月の下旬にサミュエルが来た。いつものとおりサミュエルは助祭とエラドの二人と話をしたあと、勇人を呼んだ。教会の応接室でサミュエルは待っており、すでに助祭もエラドもその場を辞していた。


「ユージン、とりあえず座って下さい。立たれたままではお互いに話もしにくいでしょう」


 サミュエルの言葉に頷いてユージンは彼の前に座った。


「約束の百両は出来ましたか」


 サミュエルはいきなり本題に入った。勇人は当然その話が出ることを予期しており、黙って七十七枚の銀貨を出して、それを十枚ずつ積み上げた。


「このとおり、ここに七十七両の銀貨があるよ。あなたから受け取るはずの二十三両の金貨を合わせれば丁度百両になる。僕の力では金貨で集めることは出来なかったからすべて銀貨だけど、これで約束は果たしたことになるよね」


 サミュエルは念入りに銀貨の数を数えた。


「たしかに銀貨七百七十枚あります。老婆心ながら少し訂正しておくと、両と言うのは一般的には金貨のみに使うので、今回のように銀貨ばかりで七百七十枚の場合は七百七十()と言うことが多いのですよ。両を使っても間違いではありませんがね」


「教えてくれてありがとう。それじゃ二百七十分の銀貨を受け取ってよ。これと預けてる分で借金を清算するよ」


 勇人はそう言うと十枚ずつの銀貨の山二十七個をサミュエルの方に押し出した。


「確かに受け取りました。これであなたとの間の金銭的な貸し借りはなしですね。ところで百両分丁度稼いだわけではないのでしょう。全部で幾ら稼いだんですか」


「あれぇ、ラフィアディアの商人はお互いの懐を覗くのが習わしなのかな。あまり上品な趣味じゃないよね」


 勇人は大げさに驚いて見せたが、顔は笑っている。


「これは一本取られました。何で儲けたかお聞きしても教えては貰えないんでしょうね」


「遺憾ながら秘匿させて頂きます。ただサミュエルさんが商えるような商材を他に回したりはしてないよ」


「そうでしょうね。ところで一年間臨時下男で残られるとお聞きしました。ラフィアディア行きはどうされますか」


「助祭様に『離村同意書』で押し切られちゃったよ。まあ、今度最年長になる女の子二人は色々と関りが出来ているので、その成人を見届けるのにはちょうど良かったと思ってる。ところで僕の養育費のことで助祭から何か話が有ったんじゃないの」


「出ました、出ました。でも成人を臨時の下男として雇うのだからむしろその給料を出すべきで私の方から養育費を支払うつもりは全くないと言って断りましたよ。しかし助祭も形振り構わず強権を発動した訳ですね。なぜそこまであなたに固執してるんですかねえ」


 サミュエルはそう言って大笑いした。


「僕が算術の講師料名目で週穴銀六枚を巻き上げたんで、たぶんその意趣返しのつもりなんだろうね。ラフィアディアには連れて行って貰いたいんだけど、それは来年になるよ。それでも良いかなぁ」


「それは承知しました。これまで通りとは行きませんがシイタケの収穫時期には私が行商に伺いますので、細かい話は来年の秋にでも致しましょう」


 そのあと少しとりとめのない話をしてから勇人はサミュエルの元を辞した。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 年が明け、勇人は十五歳になった。一月十五日にはオプラが、下旬にはシモンが孤児院を出て行くことになっている。


 オプラはこの教会で結婚式を挙げて新婦として嫁いでゆく。シモンは一応荷馬車の護衛になることを承諾しており、行商に来るサミュエルの商会の馬車に便乗してラフィアディアに行き、そこから就職する運送業者の馬車で本店のある都市に向かうことになっている。


 一月十五日、オプラは女の子たちが縫った花嫁衣裳を着て教会の祭壇の前に立った。山賊から奪った男物の生地で作った衣装なので少し野暮ったいのはご愛敬だ。子供たちは全員が祭壇前のベンチに腰かけて式が始まるのを待っている。


 新郎はオブラの横に立ち、その両親、兄弟たちもベンチで見守っている。新郎はイサクというらしい。がっしりした体躯の持ち主で身体に似合わない純朴な顔をしている。友達が来ているらしく、冷やかしの声がかかり真っ赤な顔になった。


 やがて助祭が祭壇の前に立ち二人に結婚の意思を確認するセレモニーのあと結婚を宣言した。そして離村同意書と離村許可証を渡し、イサクがそれにサインをしてオプラに渡した。


 オプラはそれを自分の【虚空庫】に仕舞う。それでオプラの離村は確定し、以後移動は自由となる。オブラはイサクにお姫様抱っこされて子供たちに冷やかされながら馬車に乗せられ上ローレン村の婚家へと向かった。荷馬車だったのは、まあそんなもんでしょう。


 勇人は前の晩に金貨五枚が入った小袋を渡した。


「何、これ」


「僕からのお祝いだよ。孤児院のみんなから貰った分と合わせると十枚になる。何か万一のときに使って欲しい」


「そんな・・・悪いよ。サミュエルさんとの約束でお金が要るんでしょう」


「もう一年居ることになったからね。渡した分くらいはまた稼げるよ」


「・・・じゃあ、ありがたく貰っとくわ。ありがとう」


「余計なお世話かも知れないけど、旦那さんやその家族には黙っていた方がいいよ。お金があると思うとあてにされちゃって、いざと言うときにはなくなってるって良くある話だから」


「そうね・・・そうするわ」


「じゃあ、お幸せに。それとあと一年はここに居るから何かあればいつでも相談に乗るよ」


 勇人はそう言ってオプラの部屋を後にした。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 シモンと勇人は十四歳なので二人部屋で生活していた。今までのサミュエルの動きからすれば今月は二十三日頃にここへ来るだろう、勇人はそう読んで二十日の夜に二人の部屋でシモンにやはり小袋を渡した。銀貨が五十枚入っている。


 これで勇人の手持ちは金貨に換算して百二十枚ほどになった。それでもここを出てゆくまで一年にあと三十枚分は手に入るだろう。合計で日本円に換算すれば一千万円以上だ。ラフィアディアで装備を整えても当座の生活費に困ることはあるまい。勇人はそう踏んでいた。


「これは何の金だ」


 シモンから険のある言葉が返ってきた。勇人がシモンの借金を断ってから彼の対応はずっとこんな調子だ。


「僕からの餞別だよ。万一のときに使って欲しい」


 勇人も自然と塩対応になる。


「ふん。お大人(たいじん)様の施しかい。ありがたく受け取っておくよ。感謝はしないけどな」


「この間言ったように本当は渡したくなかったんだ。でもオプラに渡したから君にも渡さないわけに行かないだろう。でも金貨十枚分のお金なんてちょっと良い魔猟士用の装備を揃えたらほとんど残らないと思うよ。特に弓は高いらしいからね。


 僕は形こそこんなだけど君よりは随分歳を食ってる。この世界で生活したのは数年だからここの常識には欠けるところがあるけど、金の使い方なんてどの世界でも一緒だ。これについては君よりはよほど知ってるつもりだよ。


 どうしても魔猟士になりたいんだったら止めはしない。でも、余裕のない金の使い方はしないほうが良い。契約年限の三年間は馬車の護衛として働いて、その間に世間をその目で見てそれでも馬車の護衛よりも魔猟士が良いって思ったなら、その間に儲けた金で装備を揃えるのをお勧めするよ。金貨十枚なんて一年も働けば手に入るはずだ」


 シモンはそっぽを向いたままだ。


「俺の人生だ。余計なお世話だよ」


 勇人にはそれ以上に掛ける言葉が無かった。


 金貨五枚ならシモンは当面魔猟士になるのをあきらめたかも知れない。でも、もしかしたら無理をして安物の装備で当座の金もないまま魔猟士になるかも知れない。


 金貨十枚なら彼は魔猟士になるだろう。少しはましな装備を整えられ、当座の金も残るかも知れない。だが何の予備知識も無く魔猟士になって分隊(パーティ)に加入しても便利使いをされるだけだろう。斥候と言う名の囮にされて命を失うかもしれない。


 はたして五両を渡すべきだったのか否か。


 翌日、シモンはサミュエル商会の馬車に便乗して孤児院を出て行った。笑顔でみんなに手を振っていたが、勇人とは終始目を合わせなかった。

見出しは、知る人ぞ知る蜷川寅蔵知事の推進した京都府立高校小学区制推進キャッチフレーズです。事の良し悪しは別にしてキャッチフレーズとしては良くできていると思います

のちに「銃後の春に泣かなかったら、十八の春に大泣き」などと言う言葉も出ましたっけ

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