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058 僕ら道はそれぞれ違っても~♪

 この世界での成人は十五歳である。孤児院で生活の面倒を見てくれるのもその年齢になるまで、十五歳になる年の正月までだ。実際にはそれから一月くらいの猶予期間はあるが。


 従って十四歳になると孤児院を出た後の生活について色々と考えるのだが、大半は魔猟士か猟師としてやって行くことを考える。そして秋になると進路についての考えも固まってくる。


 今年は少し特別感がある。まず勇人は狩りと算術教師代理で百七十両以上儲けており、サミュエルの課題はクリアしているのでサミュエルとラフィアディアに行って魔猟士学校に入り、そこで基礎知識を学んで魔猟士としてやって行くつもりである。


 魔猟士が無理なら【亜空間庫】を利用して商店に雇われてもいいのだが、あまり【亜空間庫】の宣伝はしたくないと考えている。それに最近ではそういう生活は詰まらないと感じるようにもなっていた。


 次に影の薄かったオブラだが、上ローレン村の中堅農家から嫁にという申し込みがあり、本人も乗り気だ。なんでもその農家の跡取り息子が一目惚れしたらしい。


 オブラ自身はそう美人でもないのだが愛嬌と屈託のなさに惹かれたとのことで、両親もオブラの丈夫そうなところと算術が出来るのを気に入っているらしい。勇人に言わせれば労働力の補填かとなるのだが、この世界ではそういうものらしい。


 最後にシモンだがこれが難物だ。勇人と割と近い位置にいたためサミュエルの目に止まり、弓がそこそこ出来ることから取引先の運送商会の荷馬車護衛として推薦すると言われている。荷馬車は運送途中で魔物に襲われた場合に逃げながら飛び道具で追い払うのが常套手段なので遠距離攻撃ができる弓の手練れはなかなかに需要があるらしい。


 ところが本人は魔猟士志望なのだ。魔猟士の気ままな生活と上級魔猟士の高収入にあこがれているようだ。そんな初秋のある日のこと、稲刈り前、芋の収穫も少し後で鯉の世話くらいしかすることもなく、それも今ではほとんど後輩任せになっている勇人は孤児院裏のベンチで日向ぼっこをしていた。今日は珍しくアビーも居ない。そこへ人目を憚るようにしてシモンがやってきて横に座った。


「ユージン、少し話があるんだけど良いかな」


 勇人が頷くとシモンは誰も近くに居ないのを確認するように辺りを見回して話を続けた。


「ここを出てゆくときに少しお金を貸してほしいんだ」


 彼は囁くような小声で言った。


「孤児院の収入から五両は出るだろう。それ以上にって、何に使うんだい」


 勇人は大体の見当は付いていたが敢えて尋ねた。シモンは少し言い淀んでいたが、決心したように話し始めた。


「色々考えたんだが、俺は魔猟士になりたいんだ。その為には装備を整える金が必要になる。五両じゃ足りないんだよ。皇都まで行くのにどんなに節約しても五分はかかるだろ。


 それに弓と矢を購入するとなるとそれだけで三両くらいは飛んでゆくらしい。セカンドの短剣も必要だし、剥ぎ取り用のナイフ、皮の防具なんか備えてると五両じゃとても足りない。せめてあと五両は持ってたいんたよ」


 ああ、やはりこの話かと思った。シモンが魔猟士に憧れていることは以前から知っていた。


 (こいつ、憧れと可能性とを区別出来てへんなあ。十四歳言うたらそんなもんか)


 誰もがホームランバッターになれるわけではない。それ以前にプロになれるわけでもない。そんなことは六十五歳の老人には当たり前のことだが、元の世界ではいい年をして今だに『子供には無限の可能性がある』なんて世迷言を言う大人が居るから困る。


 さすがにこの世界ではそんなことを言う大人は居ない。少しばかり背伸びをしただけで命を失う可能性のある世界なのだ。そこでどう考えても出来ないことを進めるのは大人のすることではない。


「シモン、サミュエルさんが馬車護衛の仕事を紹介するって言ってくれてるんだろう。良い職だと思うんだけどなぜそっちへ行かないの」


「馬車護衛なんてひがな馬車に揺られてて偶に出てきた魔物を弓で追い払うだけの仕事だ。つまんないよ」


「仕事って、面白いか詰まらないかだけで選ぶものじゃないだろ。自分がやっていける仕事かそうでないかも考えなくっちゃならないし。せっかく馬車護衛の仕事があるのなら数年でもそれに就いて自分の回りの状況を見ても良いんじゃないかな」


「その数年がもったいないよ。魔猟士として働けるのはほぼ四十歳までだから若い内の数年は貴重だ」


「シモン、魔猟士になって役割は何をするつもりなんだ。お前の得意なのは弓術だろ、でも弓じゃ魔獣を殺るのは難しいんじゃないかな」


「ここで棒術を十年習ってたから槍も使える。斥候のいろははエラドから教えてもらった。斥候から遊撃、後衛に下がって弓術で弱らせる立ち位置になるつもりだ」


 やって出来ないことはない、十四歳の少年にはそう思えたのだろうが、客観的に見れば相当無理がある。勇人はそれを指摘してみることにした。


「随分中途半端な立ち位置だね。それに正直なところ斥候術はアビーから遥かに劣るし、エラドとは比べようもないと思うよ。前衛に立って遊撃を務める程の腕力も敏捷性も無いよね。


 弓術は風魔法の後押しで一人前だと思うけど弓の威力がどの程度魔獣に通用するかは疑問だし、弓術士は矢が使い捨てになるから黒字にするのは大変だよ。


 それに役割の順番から言えば前衛のさらに前に立つ斥候が一番目で例えば獲物を発見したら獲物からの直接攻撃を受けないように前衛の後ろに下がって弓で牽制、その後前衛に出て盾士と協働して獲物に止めを刺すって本当に出来ると思ってるの。弓士の位置に就くまでに戦闘終了なんじゃないかなぁ」


「機敏に動けば出来るよ。それに矢は分隊持ちにしてくれる所を探すさ」


 (向こう合わせの釣りみたいなもんやな。ワイの親父の鯉釣りと一緒や。一週間通うて一匹も釣れへん)


「エラドには相談したのかい。彼はどう言ってた」


「いや、相談それは・・・」


 シモンは言葉を濁した。


「じゃあエラドの話を聞きに行こうよ」


 勇人はシモンとエラドとの間に何か在ったと感じて敢えて水を向けた。


「必要ないよ。エラドは弓術のことは分かっちゃいないんだから」


「そんなことはないだろ。エラドは長年魔猟士もやってきてるんだ。弓術が魔獣相手にどれくらい役に立つかはわかってると思うよ。聞きに行こうよ」


 勇人が詰め寄るとシモンは下を向いて不貞腐れたように言った。


「エラドには相談した。【剛力】の適性が弱いから俺の弓術では活躍の場が少ないし矢の代金もかかるからそれだけでは魔猟士は難しいって言われた」


 シモンの顔が悔しさに歪んだ。勇人は委細構わず言葉を突きつける。


「そういえば、弓はどうするんだい。エラドに作り方を教わってたみたいだけど、自前のが出来たの」


「エラドに教わり始めたんだけど、何々の木を取ってこいとか骨を煮て膠を作れとか色々うるさいからやめたよ。どうせ街に出れば自分で作るより数段出来の良い弓が売られてるんだ」


 シモンはあのものぐさなエラドが弓の作り方を教えようとした意図を全く理解していなかった。


 強度があり精度の高い弓は高価だ。槍の比ではない。エラドはそれを知っているから、魔猟士になるという考えに凝り固まって何を言っても言っても聞かないシモンに、せめて出来るだけ良い弓を自作させようとしたのだ。


「自分で弓士に成りたいって決めてる割には随分投げやりなんだね。良い弓は高いと思うよ。だからエラドは、君に少しでも節約させようって考えて弓の自作の指導を引き受けてくれたんだと思うよ。それに遊撃で前衛をするとなればそれなりに頑丈な皮鎧が要るだろう。でも頑丈ってことは重くて動きにくいってことだよ。斥候や弓職には不向きな装備だね。そこも中途半端な感じがするよ」


「煩いなあ。金を貸してくれるのか貸してくれないのかどっちなんだ」


 とうとうシモンが切れた。


「はっきり言って今のシモンにお金を渡す気はないよ。サミュエルさんから馬車の護衛の職を紹介するって言われてるんだろ。給料が貰えて、旅先では旅費、宿泊費、食費は雇用主持ち、魔猟士になるよりよっぽど安定しているよ。


 どうしても魔猟士になりたいならその間に金を貯めて、世間のことを学んで、魔猟士分隊での自分の立ち位置を見定めて、その方向で技量を高めてからでも良いんじゃないかなあ。


 僕はタミールとデボラが出てゆくときに選別として金貨を渡した。その結果危うくタミールが出た日の晩に死にかけた。シモンにも誰にも二度とこんなことは起こってほしくない」


 勇人も柄にもなくエキサイトしてしまった。


「御託を並べて結局は金を出したくないってことか。分かったよ」


 シモンは憤然としてその場を立ち去った。勇人はその後姿を見つめながら、果たしてこれで良かったのかと改めて自問するのだった。

見出しは舟木一夫さんの「高校三年生」の歌詞の一部です

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