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056 スクルージVSシャイロック、て大げさな

 その春のシイタケの収穫は百十八本、生シイタケの重さにして一貫百九十六匁(四・四八四キロ)、干しシイタケにして百二十匁だった。何と子供たちは全員一致でその半分をラフィアディアの孤児院の取り分として巡回司教に託そうとしたのだが、勇人が現金にして託そうと提案してそれで事なきを得た。余りにも少ないと商談に差し支える。


 助祭とエラドには聖域で偶々シイタケの群生地を見つけて採ってきたと言ってあり、特に疑ってはいないようだ。助祭は露骨に欲しそうな顔をしたが。


 五月にサミュエルが来た。いつものように助祭とエラドに出会い、助祭に勇人の生活費を渡したのち勇人を呼んだ。勇人が教会の応接室に行くと三人が何となく気まずそうな顔で向かい合って座っていた。


「ユージン君、まあ、そんな所に突っ立っていないでこちらへ来て座ってください」


 サミュエルはそう言うと自分の隣を軽く叩いた。勇人は軽く会釈をすると言われるままにそこに座った。


「お二人からお聞きしたんですが、シイタケが大量に採れたそうですね」


 サミュエルは言外にそれについて商談をしたいという気持ちを滲ませながら話を向けた。


「うん、大した量じゃないんだけど、聖域で偶々群生しているのを見つけて干しシイタケにして百匁ほど採れたんだ。でも半分はラフィアディアの孤児院に送るつもりだから、お金としてはここにはあまり残らないけど」


「それを私の方で買い取りましょうか」


 サミュエルは単刀直入に商談を持ち掛けてきた。


「商売の話だよね。それじゃあ二人だけで話をさせて貰いたいんだけど」


 勇人がそう言うとサミュエルは助祭とエラドの方を見て、片方の眉を少し上げた。


「それじゃあ、俺たちは席を外さなきゃなんねえな」


 エラドが立ち上がって助祭に向かって言葉を掛けると、助祭も仕方なくという所作で立ち上がり応接室を後にした。


「商談をするのですからそちらに移って下さい」


 サミュエルは二人が出て行ったことで空いた自分の前のソファーを示した。勇人は異論なくそちらに移動すると早速商談の口火を切った。


「サミュエルさん、正確な所を言うと干しシイタケにして百十九・六匁ある。幾らの値を付けてもらえるの」


 サミュエルは暫く沈黙を続けた。幾ら提示するか思案をしているのだろう。


「まあ一匁二十文ですね。色を付けて切りの良いところで二分四百文でどうでしょう」


「それはないよ。昨年の秋に雑貨屋に持ち込んだ一本でさえ三十文での買取だったんだよ」


 サミュエルの付けた買値があまりにも低かったので、勇人は実績を挙げて反論した。


「それでは一度現物を見せて貰えますかね」


 その言葉に応じて勇人は【亜空間庫】から笊に入れた干しシイタケを出し、テーブルの上に置いた。それを見たサミュエルは内心で唸った。普通より大振りで肉厚な干しシイタケがそろっており、見るからに高級品と言える品質だった。


「匁当たり三十五文で引き取りましょう」


「顔色が変わったよね。最上級の高級品でしょ。そんな金額では取引できないよ」


 勇人は別にシイタケの専門家ではないが、元の世界で「どんこ」と呼ばれる状態のものが高級品として取引されることくらいは知っていた。テーブルのシイタケはほとんど開ききる前に収穫して干したもので元の世界の「どんこ」の状態だったうえ大きさは一回り大きい。サミュエルの顔色など分からなかったがそれを踏まえてブラフを掛けてみた。


「参りましたね。顔に出てしまいましたか。匁当たり四十文出しましょう。これで目一杯ですね」


「その金額で売っても良いけど、その場合にはこの秋以降、春秋に獲れるシイタケは他の商人に売ることにするね。そうだなあ、今回は群生地を見つけた時期が遅かったからこれだけしか採れなかったけど、時期を外さなければこの十倍前後の収穫は見込めるくらいの群生地なんだ」


 今度はサミュエルが息を飲む声が微かに聞こえた。


「うーむ。それは困った。分かりました。匁当たり五十文出しましょう」


 (どうせ売るときはその二、三倍で売るんやろけど、まあ落としどこやな)


「少し不満はあるけどそれで手を打つよ」


「では今回の買値は六分、銀貨六枚ということで」


 勇人の答えを聞いて、サミュエルは懐から銀貨六枚を出しながら言った。


「今日の取引の十倍と言えば千二百匁、一貫二百匁ですか。生シイタケにすると十二貫、幾ら手付かずの聖域だと言ってもそんなに大量に採れる群生地があるものですかねぇ。秘密は何でしょうか」


 サミュエルはシイタケが自生しているという説明に明らかに疑問を持っている。


「何も秘密はないよ、聖域なんだからそんなこともあるでしょ。領主様の許可がない限り平民は入れないし、領主様は狩猟にしか興味をお持ちでないようなんで。もし群生地の秘密をお知りになりたければ金貨千枚も出して貰えればお教えするけど、さて採りに入れるかなあ」


 (ここはあくまで群生地を見つけた言うことで突っぱねんとなぁ)


「入れるか入れないかは横に置いても金貨千枚では手が出ませんね。年に金貨十二枚で、それ以上に欲をかくことはよしましょう」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 数日後、勇人は肉を売りに領都マハラディアまで行ったが、そのついでに鍛冶屋に寄った。鋼でドリルを作ってもらうためである。


「こりゃ、なかなかに難しい注文だあなあ。この螺旋のところが特にだなあ。それに鋼でっつうのもだなあ。鋳造ってわけにゃいかねえだわなあ。鍛造鋼の棒から削り出すべえか。オラっちの魔力じゃあ三日分くれえ持ってかれそうだあなあ。まあ出来ねえことはねえだあよ。ドワーフみてえにはいかねえだがよう、それでよければなあ」


 鍛冶屋は妙に間延びした話し方で長々としゃべったが、煎じ詰めると出来るということらしい。


「それでいいよ。幾らだい」


「一両だあなあ」


「二本作るとして何日かかるかな」


「二週間だなあ」


「じゃあ二本作ってよ。大きさの見本はこれ、今日は半金で残りは引き渡しのときってことで」


 勇人は【亜空間庫】から一両分の貨幣と鉄木製のドリルを取り出して鍛冶屋の前に置いた。


「おう、それでええだあなあ。再来週の今頃取りに来ればいいだあなあ」


「そうするよ」


 勇人はそう言うと鍛冶屋の店を出て、何時ものとおり街から死角になった場所まで行くと文字通り孤児院まで飛んで帰った。ドリルが必要になるのは二か月くらい後だ。これで種駒用の穴を開ける準備は整ったし、種駒作りや榾木(ほだぎ)作りも順調に進んでいる。


 シイタケの売り上げと肉の売り上げを合わせれば年間二十二両になる。成人の餞別に一人五両を渡すとして年間十二両貯金ができる。十年で百二十両。シイタケの秘密はいずれ漏れるからそれで儲けられるのはせいぜい十年だろう。あとは肉の売り上げだけとして年間五両、百二十両を毎年五両ずつ取り崩すとしたら、今から三十四年は一人五両ずつ渡せることになる。


 (それから先は・・・知らんわ。ワイかてその頃にはアラフィフや。この世界やったら引退年齢やないか)


 とりあえず孤児院の子供らの将来の目途は立った。ここで世話になった分の義理は果たしただろう。あとは割り切るしかない。      


 (半分はラフィアディアやてぇ~知らんがな)

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