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055 大きい~ことはいいことだ~♪

 年が明けて勇人は十三歳になった。種駒を作ってから三か月ほどたったところで、木鉢に入れた木片はいちめんに白い菌糸で覆われた状態になった。マルカに頼んで毎日榾木に魔素を注いで貰った効果が出たようだ。もういいかな、そう思った勇人はその木鉢を持って、以前作った栽培地に行った。特に荒らされた様子はなく、榾木(ほだぎ)も適度に乾燥していた。


 これに種駒を植える穴を掘らなければならない。勇人は【亜空間庫】から鉄木で作ったドリルを取り出した。螺旋の刃は【次元刀】で掘り出したのだがかなり苦労した。それで榾木に穴を開けてみる。二、三か所開けたがかなり力が要る。


 (こら、ワイ一人では無理やな。プランBで行こか)


 勇人はドリルでの穴あけを諦めて【次元刀】で穴を開け始めた。


「なあ。何でそのぐるぐる回すやつで穴開けるのを止めんだ」


 じっと勇人の作業を見ていたアビーが声を掛けてきた。自分でもやってみたいようだ。


「土魔法で開けるほうが簡単だからだよ。アビーがやってみたいなら使っていいよ。そっちにある木でやってみたら」


 アビーは嬉しそうにドリルを取ると別の榾木に穴を開け始めたが、どうにか一つ開けたところでドリルを放り出した。


「オレは護衛だからな。こんなことしてる暇は無いんだった」


 勇人は榾木一本に六十か所の穴を開けると次の榾木に掛かる前に種駒を打ち込む作業を始めた。これに使うのも自家製のハンマーだ。アビーが食い入るように見ている。


「オレも手伝ってやるぞ」


「護衛はどうするんだい」


「それくらいの作業ならやりながらでも護衛は出来るからな」


 勇人は笑ってアビーにハンマーを渡した。


「僕は次の榾木に穴を開けるから、打ち込みはアビーに任せるよ。種駒を表面と同じ高さになるまで打ち込んでくれ。強くたたきすぎて壊さないようにね」


 アビーは任せろと言ってハンマーを受け取るなり、嬉々として種駒を打ち込み始めた。それを見て勇人は次の榾木に穴を開け始める。


 午前中に三本、午後に七本の処理をして一日がかりで十本の榾木が出来上がった。本来ならこの後仮伏せとか本伏せとかしなければならないのだが、ここでこの世界ならではのズルをもう一度することにした。


 翌日、勇人はマルカにもう一度魔素を込めるように頼んだ。


「いいわよ」


 マルカは二つ返事で応じてくれた。個人的に頼まれたのが嬉しいらしい。ここでは何でも当番制か、何歳組で指名されるかで個人的に頼まれるというのは珍しいことなのだ。勇人はマルカを伴って栽培場へ行った。当然アビーも付いてくる。


「マルカ、大変かも知れないけどこの丸太一本一本に魔素を込めて欲しいんだ」


「分かったわ」


 勇人が頼むとマルカは事も無げに答えて榾木の一本に手を当てた。手が僅かに光る。以前に頼んだのは三か月ほど前だったのであまり良く覚えていないのだがその時より光り方が強いような気がした。


「出来たわ」


 マルカは十分くらいでそう言うと次の榾木にとりかかった。


「えっ、出来たの。前に種駒で頼んだときも十分くらいだったよね。それよりずっと大きいのに同じくらいの時間で出来るのかい」


 勇人は驚いた。


「ただ魔素を込めるだけだったら一分もあれば出来るんだよ。込められる相手が受け入れられる速さで込めるから時間がかかるの。前の時は小さい木がいっぱいあったらから少しずつ込めないといけなかったんだけど、今回は大きくても一塊(ひとかたまり)の木だから早くできるわ」


「それは誰でもわかるのかなあ」


「うーん。私はいつも花を咲かせるのに使ってるからだいたい分かるけど、初めての人は覚えるまで大変かも」


 そんな話をしているうちにも二本目が終わって三本目にかかっている。アビーは黙って見ていた。自分の手には負えないと思っているのだろう。


 都合二時間ほど午前中だけで終わってしまった。


「お疲れ様。ありがとう」


「どういたしまして」


 マルカはにっこり笑った。


「それでお願いが二つあるんだ。一つはまた二、三日毎に魔素を入れに来て欲しいんだ」


「いいわ」


「二つ目は、この前頼んでしてもらったことや、今日のことは内緒にして欲しいんだ。特に助祭様とエラドには知られないようにしてほしい」


「なんでなの」


「今は詳しいことは言えないけど、今やってることが上手く行けば僕がここを出て行ってからもずっとみんなにここを出てゆくときの支度金が渡せるようになるかも知れないんだ。でも秘密がばれてしまうとそれが出来なくなってしまうだろ。


 助祭様もエラドも所詮孤児じゃないから秘密を知ったら売ってお金にしようって思うかも知れない。だから孤児だけの秘密にしたいんだ」


「よくわかんないけど。わかった。内緒にしとくわ」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 それから三か月経って四月になった。十本の榾木に百二十本ほどのシイタケが出来ていた。しかも一つ一つの傘が元の世界の一・五倍ほどある。おそらく重量は二倍ほどになるだろう。


 普通元の世界では榾木に種駒を仕込んでからシイタケが出来るまで一年半くらいかかると言われている。それが半年で収穫できる状態になった。ここまではマルカに魔素の注入を依頼した時から予想はしていた。しかし、収穫が一・五倍、大きさが重量で二倍になるのは望外のことだった。


 勇人は榾木のうち適当に一本を選んでそれを【亜空間庫】に入れると一人で聖域に飛んだ。そこは聖域での狩猟の時にいつも休憩場所にしている広場だった。そこに着くまでに勇人は【そこまでドア】を三回使わなければならなかったが、【亜空間庫】の生物が入れられるという秘密を隠すためには仕方ない。そこの木陰に榾木を出すとまた三度飛んで孤児院に戻った。


 翌日は聖域での孤児院狩猟の日だ。この頃は十一歳から十四歳までの八人に勇人を加えた九人で狩りに行くのが当たり前になっており、膝が痛いのかエラドは付いてこなくなっていた。


 山賊をせん滅したときに手に入れた刃物やチンピラたちの持っていた刃物で狩猟隊の装備は勇人が最初に見た時よりも遥かに充実している。


 (まあ、泥棒やカツアゲ屋の上前はねたようなもんやさかい、自慢にはならへんけどな。有効利用したるさかい成仏してや)


 牡シカを一頭仕留めると、勇人が【亜空間庫】に収納し、休憩のために何時もの空き地へ行った。子供たちは思い思いに座ったり寝転んだりして寛いでいる。ここは聖域と裏の林とを結ぶ橋の近くで、しょっちゅう孤児たちの狩猟隊が通るのであまり獣は近寄ってこない。


 一休みしたところで勇人は立ち上がると少し先の林の木の陰から榾木を持って来て、孤児たちに向かって言った。


「これを見て欲しい」


 全員の目が勇人を見、次に彼が右手で支えている榾木を見た。


「シイタケだ。十本はあるぞ」


 年長のダニエルが思わず叫んだ。勇人はニコリとし、事情を知っているマルカとアビーは笑っている。


「これは僕とマルカが栽培したものだ」


「オレもいるぞ」


「ごめん。アビーもだ。今ここにはこの一本しかないけど、これと同じものが裏の林にあと九本ある。数えてないけどシイタケは全部で百二十個くらいになる」


「すごい。去年マルカが見つけたシイタケ、これより一回り小さかったけど干して雑貨屋に持っていったら三十文で買ってくれたわ」


 マルカが去年見つけて踊っていたシイタケを売りに行ったらしいショシャナが驚いている。


「えーと、三十文が百二十本で三千六百文。うわー、銀貨三枚と穴銀六枚だわ」


 ショシャナも計算が随分早くなった。それにみんな現金に興味を持ち出したようだ。勇人が目覚めた頃には金の存在すら知らなかったくらいなのに。これで一つ世間に出てゆく準備が出来た。


「この秋には榾木、このシイタケが生えてる木のことだけど、それを五十本にしよう。そしたら金貨一枚、銀貨八枚になるよ。マルカが見つけたものの倍くらいの重さはあるし、年に二回取れるからサミュエルさんと直接取引をしたらうまく行けば年に金貨十枚近くになるかも。そしたら聖域で狩りが出来なくなってもサミュエルさんから加工肉を買い入れられるよ」


「ああ、そうか。私とシモンはユージンと同じ年にここを出てゆくから関係ないけど、ユージンが出て行ったあとエラドが残った子だけで聖域に入るのを許してくれるかどうか分からないものね」


 大人しくて滅多に口を開かないオブラが珍しく心配顔で言った。


「まずシイタケの栽培方法を教えるから聞いてくれ」


 勇人は子供たちに種駒、榾木の作り方そして早く、大きく育てるためには魔素を込める必要があることを説明した。


「話だけでは分からないと思うし、どうせ榾木を五十本まで増やさなければならないんだから狩猟のときにみんなでここで作業をしようと思ってる」


「それは良いけど栽培はどこでするんだ」


 ダニエルが聞いてきた。


「さっきも言ったけど魔素を込める必要があるから栽培は裏の林の今榾木を置いているところでやるほかないかなって思ってる。そこで、大事な提案があるんだ」


 勇人は子供たちを見まわして言った。


「シイタケの栽培ができることは、助祭様とエラドには内緒にしたいと思う」


 勇人は、助祭が任期が切れれば還俗したいと思っているが実家からの援助は受けられそうもないこと、エラドの足の具合が次第に悪くなっていて数年の内に引退しなければならなくなりそうなこと、そのため二人がシイタケの栽培方法を知った場合にこれを商人に売って金にしかねないことを順を追って話した。これはみんな分かっていたことのようで、誰も反対しなかった。


「でも春秋に大量のシイタケを持ち込んで干しシイタケにするんでしょ。ばれないかしら」


「聖域でシイタケが大量に採れる場所を見つけたってことにすればいい。聖域ってことであれば村の人も探りに行くわけにはいかないから一石二鳥だよ」


「魔素の込め方って分からないわ。どうすればいいの」


「それは僕も分からないから、マルカに教えて貰って欲しい」


「チビたちはどうするんだ」


「十一歳になったら秘密を教えて仲間にすりゃいいだろう。チビたちは何と言ってもまだ口が軽いからな」


「お金はどうやって管理するの」


「一人で持ってると万が一にもエラドや助祭様に巻き上げられるってことがあるかもしんねえな」


「じゃあ全員で分けてもったら良いんじゃないか」


「そうか。それでここを出てゆくとき肉と合わせて金貨六、七枚分取ってもらって、残りは次の十一歳組に渡すんでいいか」


「それでいいんじゃないの」


 孤児たちはみんな口々に意見を言っていたが、大体方向は決まったようだ。勇人は再び口を開いた。


「それじゃあ次の狩猟日から作業開始だね。今日は孤児院に帰って裏の林で胞子の採取と収穫できるシイタケの収穫をしよう」


 子供たちは勇人が持ってきた榾木からシイタケを採取すると袋に入れ、榾木は勇人が【亜空間庫】に入れて空き地を後にした。

見出しは森永エールチョコレートの1967~8年のCMソングです


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