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050 赤ずきんちゃんに気をつけて

本日2話目です

 毎週狩猟を続けていると狩りにもなれてきた。今日も二人で聖域に入っている。この頃はシカ、イノシシだけでなくウサギや毛皮目的でキツネ、テン、イタチなども見つけ次第に狩っている。


 【亜空間庫】に放り込んで孤児院に帰ってから毛皮を剥ぐ。この作業は孤児院総出だ。毎年裏の林で獲れたウサギの皮剥ぎをしているとのことで年長組は慣れたものだ。鞣しの材料となる柿渋は林にある柿の実を夏前に間引きして、それと塩とを使う。


 柿渋による鞣しは完成するまでに二、三か月かかるので毛皮を売るのは春以降になってしまう。毛皮は村の雑貨屋に売り、雑貨屋はサミュエルの店の者が行商に来た時にそれを転売する。


 勇人が来てからサミュエルが定期的に様子を見に来るようになったのでサミュエルに直接売った方が良いという意見もあった。だが勇人が出て行った後もサミュエルが孤児院に寄ってくれる保証がないのでそれまでまで通り雑貨屋を通している。


 代金は聖域に狩りに入るようになるまではしれていたのでサミュエルが預かって孤児院の営繕に必要な道具や材料を購入する資金にしていた。だが今年は聖域に入れるようになって売り上げも大きく伸びそうなので資金の管理をどうするか検討中である。冬毛の毛皮は良い金になる。肉屋に肉を卸す比ではない。勇人と孤児院との間では勇人が獲った分の三分の二は孤児院、残りは勇人と言うことで話は付いている。


 芋の苗床になる室も新たに今までの五倍に増やさなければならないし、田圃の種まきの準備もある。今年は筋蒔きにすることにした。冬の農作業は存外忙しい。そんな中でも聖域での狩猟は続いている。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 林の中の獣道をアビーが先頭で先の様子を伺いながら進む。それから二十メートルくらい後に勇人が続く。最近はこの体制で固まってきた。ウサギやキツネを狩りながら、今日、アビーは妙に浮き浮きとしている。赤い頭巾のせいだろう。


 赤いと言っても若い男の上着用に使う記事なので真っ赤ではなく濃い赤紫と言った方がよい色合いだ。頭巾といってもケープやポンチョに付いている可愛らしいものではなく、まるで防空頭巾だ。今では防災頭巾というのか。二重の表地の間に厚手の布布や毛皮を挟み込んでキルティングで補強してある。頭巾の裾は肩まであり、首のところで太い紐で止めている。


 頭巾と言うよりは防寒具兼ヘルメットといった方がシックリくる。アビーの話ではアラヤが布を沢山手に入れてくれたお礼にと言って作ってくれたものらしい。下は色あせてつぎはぎだらけの冬用の作務衣に毛皮のジャケット、ごつい手製の皮ブーツなのでこれじゃない感が溢れている。だが本人は至極満足のようだ。勇人は後ろからついて行きながら何度も吹き出しそうになった。


 そのアビーが立ち止まってしゃがみ込んだ。右手で止まれの合図をしている。勇人は即座にその場で止まって様子を見ることにした。アビーが右手を右耳の上に突き出し、指を揃えたまま手のひらを前後に曲げたり伸ばしたりした。


 (なんやあれは。獲物がおるんか。ウサギのつもりかなぁ)


 そんなことを考えていると今度はその手のひらを勇人の方に向けて二回握ったり開いたりを繰り返した。


 (ウサギが二羽か、それとも十羽か。どっちやろ)


 ウサギが十羽ならアビーの【火箭】が間に合わずに取り逃がしてしまうのがでてくる。自分も行くか。勇人がそう思い立ち上がろうとしたときアビーが立ち上がって腰を曲げた格好でゆっくりとこちらへ戻ってきた。


「どうした」


「オオカミの群れ。十匹はいるぞ。どうする」


「痩せてたか、太ってたか」


「そんなこと分かるか。オオカミなんて初めて見たんだぞ」


「なんでオオカミとわかったんだい」


「イヌは見たことあるからな。イヌみたいなのが山に居たらオオカミだろ」


「とりあえずあの岩の所まで戻ってやり過ごそう」


 勇人は五十メートルくらい後方の岩の露頭を指さした。二人はそろそろと戻り始める。そのとき気付いた。風向きが悪い。自分たちが風上だ。


「アビー、連中に匂いで気付かれるかもしれない。戦闘準備はしておこう」


 アビーは黙って頷き、右手にもナイフを握った。刃渡り三十センチはあろうかというククリナイフだ。左手にも同じものを逆手に握っている。勇人は岩の所に着くとすぐに【次元刀】で岩を垂直に切り取ってそれを【亜空間庫】に収納し、一メートルくらい前に出した。これで即席の防塁ができた。その左右がそれぞれの持ち場だ。


 それから右手にクロスボウを持つ。二人で猟に行くときにはクロスボウを十丁持ってきている。【亜空間庫】から直接打ち出すのは最後の手段だ。これ以上アビーに秘密を知られたくない。


「アビー、防塁の右側を守ってくれ。オオカミの攻撃方法は噛みつきだ。ネコと違って手は使わないからそっちはあまり気にしなくても良い」


「分かった。噛みつかれたら喉を切り裂くか頭に【火箭】を打ち込めばいいんだな」


 勇人とアビーはごく簡単に分担を打ち合わせた。


 見逃してくれるかなという期待も空しく、間もなくオオカミの群れが現れた。動物園で見た森林オオカミと同じくらい大きい。見た感じで体高七、八十センチはあろうか。群れのボスらしき個体は体高九十センチ近くあるようだ。そんなのが十匹、こちらを完全に捕捉して取り囲むように迫ってくる。


 横目でちらっとアビーを見ると目はオオカミにくぎ付けになっている。今なら使える。勇人はそう思い群れとの距離が三十メートルを切ったとき【亜空間庫】からゼロ距離射撃でボスの頭に向けて三本ボルトを放った。西洋甲冑を射通す威力を持つクロスボウから打ち出されたボルトをゼロ距離で三本も食らったボスはたまらずもんどりうって倒れた。


 (よし、一番厄介なやつを倒せた)


 ボスが一瞬のうちに倒されたので他のオオカミはどうすべきか逡巡した。その隙を突いてアビーが【火箭】で一匹を倒すとそのまま飛び出した。


 (おいおい、右側守れ言うて了解したのに飛び出すんかい)


 愚痴を言っても仕方がないので、アビーが飛び出したのを良しとして勇人も【亜空間庫】からつるべ打ちに投石やボルトを打ち出した。相手が高速で動き回るので命中率はかなり落ちたがそれでも三本に一本は当たる。しかしなかなか致命傷にはならない。


 防壁越しに撃っていると左側から回り込んできた個体があったので【次元刀】で薙ぎ払う。身体が首のあたりで真っ二つになって血が噴き出る。ボスの他に三匹を倒して、アビーを見るとオオカミの群れの真ん中で両手のグルカナイフを振り回しながら【火箭】を放ってすでに五匹のオオカミを倒すか深手を負わせていた。


 アビーを後ろから狙っていたオオカミを右に回り込みながら投石の乱射で動きを止めてボルトを打ち込み倒したところであとの二匹に【火箭】が撃ち込まれてオオカミとの戦闘が終わった。


 勇人はその場にへたり込んだがアビーは元気一杯でオオカミを調べては息のある個体に止めをさして回ってた。勇人が倒したのが五匹、アビーが七匹。勇人よりも二匹多い。アビーの機嫌が良いのはこのせいか。十匹と言っていたが結局十二匹いた。


 少し休んでからアビーが倒したオオカミを見てゆくと頭を割られたのが二匹、首が切られているのが三匹、頭を【火箭】で打ち抜かれたのが二匹だった。ナイフでいなしながら機を見て急所を攻撃したらしく、どれもボロボロになっていた。対して勇人のは首ちょんばされたのが一匹、頭にボルトを三本生やしているボスが一匹、石礫で滅多打ちにされたうえ頭にボルトを撃ち込まれたのが一匹、ボルトをあちこちに三、四本撃ち込まれて力尽きたのが二匹だ。


 (まあ、ワイの方が倒し方は綺麗やな。誤差の範囲やけど)


 それにしても、アビーが真剣になると運動能力が半端ないことはエラドからも言われていたし勇人自身もその一端を目にしたことはあったが、さすがにこれほどまでとは思わなかった。あの群れの中に飛び込んで大立ち回りをやって掠り傷程度の怪我しかしていない。


 (おっとろしいガキやな)


 そう思いながら勇人はオオカミたちを【亜空間庫】に収納した。勇人が暫く座り込んで休憩しているとアビーが寄ってきた。見るからに上機嫌である。


「防塁のところで防御しながらって打ち合わせたのに勝手に跳び出してどうするんだよ。後ろから来たのを僕が倒さなかったら危なかったよ」


「山賊の時と同じ。オレが前に出て、ユージンを守る。オレはユージンの護衛だからな。ユージンがオレの後ろを守るからオレは前に出れる。これが一番いい」


 (くそ。泣かせること言いよってからに)


「僕の背中は誰が守ってくれるんだい」


「岩か壁に守ってもらえ。なければオレに背中を預けろ」


「お前について行ける訳ないだろ。いつの間にか居なくなってたら洒落にならねえわ。もう良いよ、アビーに何言っても右の耳から左の耳に抜けるだけだしね。とにかく今日の獲物を獲って帰ろう」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



それから一時間後、シカ一頭を仕留めて孤児院へと帰った。オオカミの毛皮はボスの分と首を切られたもの、それに石礫で滅多打ちにしたのち頭にボルトを撃ち込まれたもの、この三匹分しか売り物にはならないそうだ。ただ他のも孤児院での使い道はあるので一応鞣すことになった。


 このころにはイノシシ、シカの皮も剥いで自分たちで鞣しにかけ、肉は正肉として持ち込むようになった。骨は乾燥させて砕いて肥料にする。 

見出しは庄司薫さんの1969年の小説の題名のもじりです。内容は全く関係ありません。

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