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049 老い近きエラドの悩み

短いので今日は2話アップします。2話目は6時10分です

教会へと帰る道すがら、エラドは自分の人生についてつらつら考えた。


 小商いの商家の三男坊として生まれた。長男として生まれた兄貴が家を継ぐのが当たり前という家庭で、兄貴も商売人向きの腰は低いが目端は良く聞く男だった。エラドが家を継ぐ当ては無かったし、商売の規模から言って、親と兄貴で回して行くのがやっとでエラドがそこで働く当てもなかった。エラド自身も商売に向いた性格とは言えなかった。


 商売人の子と言うことで読み書きと簡単な算術は教え込まれたがそれ以上の教育は望めなかった。多少腕っぷしに自信があって【剛腕】、【俊敏】がそこそこに使えたことから十五歳で成人するとすぐに家を出て、自然の流れで魔猟士になった。獣や魔獣の獲り方、捌き方は加わったパーティーの先輩に一から教わった。【俊敏】を使いこなせるようになるにつれてパーティー内では斥候に特化していった。読み書き算術が出来たことから組合との交渉役も任されるようになった。


 そんなこんなで十五年ほど魔猟士を生業として生きてきたが、三十歳になったころパーティーが解散した。先輩たちはエラドより十五歳くらい年上でエラドがパーティーに加わったときに既に三十路前後だった。それから十五年たって四十五歳前後になるとこの世界では初老、魔猟士として稼働するのが辛くなって引退を決意したのだ。それなりの実績を上げていたし小金も貯めていたので組合の職員、町や村の猟師などをしながらその後の人生を歩むということだった。


 一人残されたエラドは迷った。若いということもあって金遣いは荒かったので蓄えは無いに等しい。ソロで続けるのか、別のパーティーに加わるのか、ソロでやっている連中に声をかけてベテランパーティーを結成するのか、それとも大人になりたての若者を集めてパーティーを結成するのか。


 斥候役が中心だったのでソロでの活動は厳しい。別のパーティーはそれぞれにがっちりと仲間が組まれていて丁度良い空きはなかった。同年代のソロを集めてのパーティー結成は言うのは簡単だが、三十前後までソロでやっている魔猟士はそれぞれパパーティーに加わらない理由があって集めても集まらず、たとえ集まってもうまく続くとは考えづらかった。若い子を集めるのも自分が一人だということがネックになった。斥候役一人で四、五人の新人の面倒を見るのは正直厳しい。


 そんなこんなで今後の身の振り方に苦慮しているときにある傭兵団から声がかかった。魔猟士で培った斥候技術を買われての勧誘だった。それまで傭兵との交流はほとんどなかったので意外だったが見ている者は見ているんだという自負と提示された高給が魅力的だったことからその傭兵団に加わった。


 それから十年ほどはその傭兵団で傭兵稼業を続けていた。傭兵でもベテランと言われるようになった。傭兵は命を的に戦うのが仕事である。あすをも知れぬ命ということで自然と金遣いは荒くなる。引退を考え始める歳になったが、一向に引退の資金は溜まらなかった。


 エラドの運命が二度目に大きく変わったのは今から五年前である。エラドの傭兵団はラフィア辺境伯に雇われて北で隣国と戦っていた。傭兵団の隣にマハラ領軍三百が布陣しておりマハラ男爵も出陣して陣頭に立っていた。領軍は最右翼でその右は狭い幅の森を挟んで険しい岩山だった。


 岩山からの攻撃はないということで前方にその意識は集中していた。その意識の隙を狙われひそかに狭い森を抜けて側面に回った敵部隊の急襲を受けた。マハラ領軍は総崩れとなり、騎馬で陣頭に立っていた男爵は結果的に敗走する領軍の殿軍になってしまった。


 エラドはそのとき斥候として念のために右翼の森を偵察していたが敵の急襲軍を発見してそれを伝えるためマハラ領軍へと走った。しかし時既に遅く、エラドが領軍に状況報告をして間もなく敵軍の横合いからの急襲を受けた。


 領軍は敗走を始め、エラドもそれに巻き込まれる形で後方へ向かった。そのときエラドの横にさらに後方から殿軍となった男爵の馬が追いついてきたが男爵も自軍の敗走に巻き込まれ馬を疾駆させることはできない状況に追い込まれた。そのとき敵軍から打ち込まれた矢が男爵の背に中った。


 矢は鎧の背を打ち抜いて身にまで届いたらしく男爵は今にも落馬しそうになった。エラドは男爵の後ろを走っていたがそれを見て男爵の馬に飛び乗り男爵の身体を抱えて落馬を防いだ。それから辺りを見回すと自身の所属する傭兵団が右手で持ちこたえていた。それを見てエラドは咄嗟に馬の方向を傭兵団の方に向けて走らせたが、その際に敵の放った矢がエラドの左膝の裏側を打ち抜いた。


 エラドは傭兵団に男爵と共に駆け込んでその命を救ったが、その代償として左足に一生治らない傷を負ってしまった。そのため傭兵を止めるほかなくなった。男爵は大いに感謝して報奨金として金貨二十枚を下賜し、今の職を斡旋してくれた。傭兵の扱いとしては破格と言えよう。


 幾ら領主の身を守って負傷したと言ってもそれは傭兵の仕事の内でありその為に事前に金を受け取っているのだから普通は感謝の言葉一つで終わる話であり、下賜金と職の斡旋など本来なら望外のことである。


 そのときにはエラドはそれからの生活に不安を感じており、有難くその職を受けて今日に至った。しかし教会の下働きの給料は月銀貨十二枚、日本円で言えば十二万円程度であり、村の酒場での飲食で消えてしまう。四十五歳になった今でも独身で、この給料では結婚は夢にさえ出てこない。


 孤児院での仕事が決して嫌いなわけではない。傭兵稼業から考えると穏やかな生活である。しかしこれからの一生を世間知らずな助祭様のお守と汚らしい孤児たちの指導とで終わるのかと思うと鬱々として楽しまないのも事実であった。年ごとにその思いは強くなる。かと言って一発逆転の好手があるわけでもない。そんなことは百も承知だ。


 作付けは一町で十分だ。それで毎食形は小さくても一人一個芋を付けられる。値切りがうまくいったおかげで銀貨四枚が手元に残った。馬鹿正直に助祭に返す必要はあるまい。今月の飲み代が少し増えた。


 領主にウリエルを次期村長として推薦することについては、そんな権限も影響力もない。だいいちエラドが領主館に行ってもおいそれと領主に面会できるものではないし、そんなことをするつもりは毛頭ない。だからウリエルに言質は与えなかった。奴はうまい具合に勘違いしてくれたようだが。・・・明日は誰を連れて行くかな。


 そんなことをつらつらと考えながら歩いているといつの間にか教会まで帰ってきていた。また不味い飯だ。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



何日か後のこと、何時ものように貧しい夕食が始まる。筋の多い芋を蒸かしたものとイモの皮を焼いたものがついてくる。


「この頃、ちっと夕飯の量が多くないか」


 ヨナタンの言葉に同年のヤスミンがあきれ顔で答えた。


「今頃気が付いたの。ばっかじゃない。エラドがこれを仕入れてくれたのよ」


 芋の皮を焼いたものを振り回している。


「まあ、仕入れたと言っても売り物にならねえ細い芋と干し芋を作るときに出来た芋皮を貰ってきただけだがな。銭は掛かってねえよ」


「こんな良い物、タダでもらえるの」


 十二歳のショシャナだ。満面の笑みで筋張った蒸かしイモを頬張りながら見るからに嬉しそうにしている。


「お前たちにとってはご馳走でも世間では捨てる物なんだよ。その違いは覚えておいて損はねえぞ。魔猟士になる奴もこん中にゃ居るだろう。何日も山に入ればこれしか食い物が無えってこともある。そんなときに街の奴らの前で美味えなんていったら馬鹿にされるからな」


 エラドがそう言うと助祭はあからさまに嫌な顔をした。

見出しは、ゲーテの有名な小説のもじりです。原典は読んだことがありません。

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