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047 聖女の更新

 翌日勇人とアビーは戦利品の分け方について話し合った。金は二十両強あったので勇人が金貨、銀貨、小銀貨、銅貨を各九枚と小銅貨を十枚取ってあとはアビーに渡した。アビーは小銭がジャラジャラとあるのが嬉しそうだ。


 (そう言うたら、息子もワイが海外旅行して残った現地硬貨をやるとひどう喜んでたわ。渡すんに石鹸で洗うて大変やったけど)


 貴金属は金、銀の地金が幾らかと指輪、イヤリング、首飾りなど価値の分からない物が十六個あった。布は反物にして二十四本、すべて男性向きの背広生地のようだ。服も背広の上下が中心で見本なのだろう同じサイズ、無地でデザインの違うものが五着あった。背広の行商人の持ち物だったようだ。


 武器、防具については鉄の槍が七本、片手剣が五本、片手半剣が二本、ナイフ、短剣が合わせて二十一本、半弓が一張り、硬皮の胴鎧、肩当、ガントレット、グリーブ、兜の揃いが一組、半端な硬皮の胴鎧が二個。


 片手剣の内で良さそうなのを二本と長めのナイフ一丁をアビーが自分のものにし、勇人は短剣を一振り取った。


 あとは自分たちで持っていても仕方ないので孤児院に寄付することにした。当然入手した経緯を助祭やエラドに話さなければならず、ひどく叱られた。だがタミールが助かったと聞いたときエラドは半泣き顔で上を向いた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 一月も下旬に入るころ、巡回司教が教会を訪れた。二頭立てのホロ付き馬車を従えての来訪である。中に乗っているのは新たに五歳組として各地の孤児院に配置される子供たちと、入れ替わりに乗り込んでラフィアディア方面に向かう新成人となった孤児たちだ。


 ここローレン村孤児院でも新人二人が下ろされた。巡回司教が二人をみんなの前にやさしく押し出した。


「新しくこの孤児院に配属されたバズとイラナです。初めての地方孤児院での生活ですから慣れないことも多いと思いますが、良く教え導いて一日も早くここでの生活に慣れるように皆さんの助けを期待しております。さあ、二人とも挨拶なさい」


「バズだ、です。よろしく」


「イラナと言います。よろしくお願いします」


 二人とも初めての経験に固くなっている。無理もない。二人とも赤ん坊のときからラフィアディア孤児院で育ったとのことだったから、新しく入ってくる子を迎え入れることはあっても、自分たちが他の集団に入って行くのは初めての経験だった。すでに世話役に決まっている十三歳組のイサクとダリアが二人に声を掛けて孤児院の中へと連れて行き、子供たちは解散となった。


 公事ごとが終わるとエラドが呼ばれ、そのあと暫くして勇人も呼ばれた。教会の応接室に入ると巡回司教から目の前の席へ座るように促された。助祭も見習い助祭も室内には居なかった。たぶん助祭の居室だろう。


「エラド、あなたも一度退席してください」


「分かりました」


 巡回司教の言葉に逆らうことなく同意してエラドは部屋の外へと出て行った。


「あなたはチュード、こことは別の世界からここへ来た人ですね」


「そう、です」


「普段の話し方で良いですよ、その方が話しやすいでしょう。ところで、年齢は見たままではないのですね」


「そうさせて貰うよ。年齢については見た目より歳をとってるよ」


「お幾つですか」


「それは聞かないでほしいな。言いたくない。少なくともここの教会と孤児院に住んでいるだれよりも年上と思ってよ」


 司教はにっこりとほほ笑んだ。


「では聞かないでおきましょう。ところで、あなたは土魔法と【虚空庫】魔法が使えるようになったそうですね」


 司教は勇人をじっと見つめる。


 (さあ、どう答えよかな)


「はい」


 司教は不思議そうな顔をした。


「手を出してください」


 勇人が言われるままに両手をテーブルの上に出すと司祭はその手を包むように握った。


「もう一度聞きます。あなたは土魔法と【虚空庫】魔法を使えますか」


「はい」


「使えないのですね。では、土魔法を使えると言ったことがありますか」


「はい」


「それをエラドに見せたことがありますか」


「はい」


「そうですか。これは私の推論ですが、あなたは土魔法に似た力を持っていて人には土魔法と言ってごまかしていると言うことですね」


「参ったな。正直に話すよ。その代わり秘密は守ってよね」


 司教はため息をついた。


「あなたは実質的にはこの世界に来てから一年もたっていないのでしたね。でも聖女会のことはここの助祭から聞いているでしょう。私たちは審議判定に関してうそを言わないことと聖職者として知った他人の秘密を洩らさないことを私たちの権威のよりどころとしています。


 あなたがここで話したことは私の口から外へ漏れることはありません。見習い助祭とこの教会の助祭を退席させたのは二人とも聖女会員ではないからです。私が連れてきていたのが聖助祭であればあなたの同意を得て同席させました。聖司祭であれば同意なしに同席させたでしょう」


「僕はチュードだから魔法は使えない。でもここに落ちてくるときに穴の縁を掴んで破り取ってしまうというおかしなことがあったんだ。そのせいだと思うんだけど、土魔法に似た力と【虚空庫】魔法に似た力を手に入れたんだ。


 たぶん土魔法に似た力はこの世界と落ちてきた真っ暗な空間とを分かつものとして、破り取った膜のようなものが本来持っている空間を分ける力が発露したのだと思う。また【虚空庫】魔法に似た力はその暗黒の空間への入り口を開く力なのだと思うよ。


 どちらも魔法じゃないんで魔力は要らないし、それ以外の力も必要だと感じたことはないよ。見た目の年齢が実際より若くなってしまった理由は分からない」


 司教は暫く思案顔をしていた後で言った。


「二つの力を実際に見せて貰えますか」


 司教の求めに応じて勇人は【亜空間庫】から直径十センチくらいな丸太と大きめの石を取り出して二つとも真ん中から切って見せた。


「驚きました。あなたに対する認識を改めなければなりません。自称土魔法は木が切れるのですね。それで自称【虚空庫】にはどのくらいの量が入りますか。入れる物の大きさに制限はあるのですか」


「量については測ったことがないので分からないけど、僕としては無限かそれに近い量が入るのではと思ってる。入口は直径三間ほどだけどその円周の範囲でだったら形は自由にできるんだ」


 司教が手を放していたので少し嘘を混ぜた。司教は目を瞑ってじっと考え込んでいる。


「あなたは自分の言っていることがどれくらい重大なことなか分かっていますか。木材が簡単に切れることはこの世界の開拓にとって極めて貴重な資質です。現に二、三か月で二町も開墾したそうですね。それも片手間で。ここの孤児たち全員が十年かかってもできないことですよ。それに無限大の容量があって魔力での維持が必要ない【虚空庫】。軍隊が遠征をするときにどのくらい輸送部隊が必要か分かりますか。それを一人で運べるなんて。


 あなたも土魔法とか【虚空庫】魔法などと言って胡麻化している以上お判りになっているのだと思いますが。あなたの能力が国に知られれば間違いなく捕らえられて奴隷のように働かされることになります。まさに戦略兵器ですね。


 あなたの平穏な生活の為にはこの力は絶対に人、特に国の要人に知られてはなりません。チュードと言うことも隠しなさい。魔法の使えるチュードと言うだけで研究対象になってやがてはその異能のことも知られてしまうでしょう。そうなればあとは同じ運命ですね」


「やはり巡回司教様もそう思うの。これからも出来るだけ隠していかないとならないね。でもチュードだってことまで隠すのは難しいような気がするよ。僕のような黒目黒髪の人はこれまで出会ったことがないもの」


「ここはあなたの世界の日本という国から落ちてきたタイラー一族が建てた国で、その後も落ちて来るチュードの殆どは日本からです。確かに黒目黒髪は珍しいですがここで生まれた人の中にもある程度は居ますよ。それよりも立ち居振る舞いの方が問題でしょう。


 ここを出るまであと四年ありますね。その間になるべくこの国の慣習に慣れて下さい。エラドに教えてもらったり見習ったりするのが一番だと思います。あと孤児院育ちだと強調するのも良いでしょう。特に地方の孤児院は何かと浮世離れしていますから少し常識外れの行動をししても納得されやすいですよ」


 そういうと司教は自嘲気味に笑った。


「私たちも生活面では随分浮世離れしているのですよ。お酒は一滴も飲みません。飲んでいると分かればたとえ聖司教であっても解任されて修道院に入れられます。


 食べ物もそうです。何を食べても良いのですが身長と体重で基準があって基準を一割以上超えると標準体重に戻るまで職務を停止されて修道院行きです。何かの宴席に呼ばれても出席しませんし、呼ばれもしません。貴族からは嫌われていますのでね。こうやって巡回して各地の教会に泊まり孤児たちと話をするのが唯一の楽しみです」


 司教は面白そうに話した。満面笑みが浮かんでいる。


「そうそう。鯉の養殖を始めたのでしたね。今日の夕食は前回より少しは大きいのを頂けるのかしら。それに聖域での狩ももぎ取ったんですってね」


「鯉は七、八寸にはなってる。一匹食べてもらえると思うよ。聖域での狩は自称【虚空庫】の威力頼みだね。空中に大石を出してぶつけるという大技でエラドを納得させたんだ。それと石弓の三連発も有ってこれもエラドが納得した理由かな」


 雑談ばかりになったので、そろそろ切り上げる潮時かな、勇人がそう思った時司教から先にその話が出た。


「まあ。随分話し込んでしまいました。名残は惜しいのですがここの助祭と話をしなければならないこともあるのでこれでお開きにしましょう」


 勇人は礼を言って応接室を辞去した。


 (偉い人や思うとったけど、雑談になったら話好きの近所の叔母はんになってもたわ)


 夕食まで中途半端な時間が残った。何か金儲けのネタでも考えるか。

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