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046 復讐するは我になり

 その日は早々に帰った。夕食にはギリギリ間に合った。翌日からは孤児院の狩りの日、自分の狩りの日とその翌日の売買の日の三日間は午後のみ、その他の日は午前、午後とも例の村の東の山へ入ってアジト探しをした。と言っても歩き回る訳ではない。見通しの良い場所に腰を据えて【そこまでドア】の望遠機能で怪しいところを除きまくった。


 幸いなことにタミールは命を取り留めた。そうなってしまえば【治癒】の威力は元の世界の医療を凌駕する。傷は跡形もなくなくなっており、足りないのは流した血だけだ。これもアビーが捕まえたカモや養殖の鯉など血になりそうなものを食べさせ一週間も養生すると若い体は急速に回復して旅に耐えられるようになった。あまり長居をすると路銀が心もとなくなるということで一週間で二人は旅立っていった。


 アジトの探索は根気のいる仕事だったが十二日目に如何にもな洞穴を見つけた。暫く見ていると人が出入りしている。その数七人、一人左肩に包帯を巻いて具合の悪そうな顔いろの男がいる。決まりだな、勇人はそう思ったが確定ではない。勇人は【そこまでドア】を直径十センチにし、向こう側のドアを叢にまぎれさせて山賊たちの話を聞くことにした。


 (【そこまでドア】は盗聴器にもなるんやなあ。こっちの声も筒抜けやし、密室での密談は聞けんけど)


 なかなか核心的な話は出なかったが辛抱強く待っていると、ケガをした男が頭らしい男に(なじ)られているのが聞こえた。その内容は四両と聞いて掟を破って宿屋で手を出したこと、失敗して相手を殺しそこねたばかりか土魔法の得意な仲間を失い街中での押し込み強盗が出来なくなったこと、強盗と自分たちとが結び付けられ堂々と町や村に入れなくなったことなどである。そのため縄張りの場所を変えるという話にまでなっていた。これで確定的だ。


 正直なところ一人でやりたかったのだが、アビーから自分を呼ぶように強く言われていたのでやむを得ない。勇人は一旦孤児院に戻った。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「アビー。見つけたよ。今から行くつもりだけどどうする」


 勇人は何時ものように何をするでもなく土塁に座り込み、何もない田圃を見つめているアビーに声を掛けた。


「オレも行くぞ。護衛だからな」


 アビーは立ち上がると大きく伸びをした。目が輝いている。


 勇人とアビーとは現場の一歩手前、すなわちアジトの前の広場を覗いていた場所まで移動した。


「それで、どうするつもりだ」


 身支度をしながらアビーが聞いてきた。


 アビーの主武器は言うまでもなく火魔法の【火箭】だ。サブの武器兼盾代わりとして両手に鉄木製のククリナイフを持つ。それを持ったまま両手の人差し指を立てて【火箭】を放つのがその先頭スタイルだ。ちなみに偵察のときは左手にだけ持っている。


 防具としては厚手の皮ジャケットと皮のガントレット、グリーブどちらも鉄木の細い板が何本か仕込んである。頭は木をくり抜いて薄い鉄木の板を埋め込んだ昔のドイツ軍風ヘルメット内側はぼろ布のキルティングが張ってある。どれも聖域で狩猟をするようになってから作ったものだ。


「最初は取っ捕まえて突き出すつもりだったんだけど、七人も居るからそんな中途半端な考えじゃ危ない。殺るよ」


 勇人も身支度をしながら答えた。


 勇人の主武器は【次元刀】だが、それをごまかすために短槍を持っている広いところではそれを使い、【次元刀】をそれに沿わせる形で展開する。ときに槍の長さで、そしてときには槍の穂先から一メートルほど先に出して。洞窟内では短槍は使いにくい場面もありそうなのでカムフラージュは左腰に差した模造等の脇差にするつもりだ。


 中距離の攻撃が必要な時にはクロスボウを使うが、これもアビーが見ていなければ打ち込んでおいたボルトを【亜空間庫】から打ち出す。


 防具は下に着こんだ防刃ベスト(まだ背が低いので尻まで隠れる)、厚手の皮のジャケットとアビーと同じガントレット、グリーブ、アビーと同じヘルメット。ヘルメットは元の世界の物を使いたかったのだが大きすぎた。


「殺す『つもり』じゃなくって本当に殺すんだな」


「そうだよ」


「それがオレたちの勝利条件だな」


「アビー、お前随分難しい言葉を知ってるんだ」


「おう。前にエラドに教えてもらった」


「どう言う意味か分かってんのか」


「ばかにすんな。戦争をするときの目標だ。話し合いで解決できないものがあって武力での解決を選んだときに、話し合いで目指した自分たちの解決と同じ結果をどういう方法でどこまでやれば得られるかを決めることだ」


「まあ、当たらずといえども遠からずというところだな」


「ここでの勝利条件は敵の完全無力化だ。方法としては捕縛して領兵に引き渡し巡回司祭の判断を仰ぐのもありだ。まあ死刑だからな。


 でも生かして捕縛するって難しいぞ。相手の何倍も上を行く武力の量がないとだめだってエラドも言ってた。特に相手に殺す気がないって知られると一方的に必殺攻撃を食らうんだ。


 もう一つの方法はこの場で抹殺だな。これだって難しいけど不意打ちならなんとかなりそうだ。それでお前は二番目の方を選んだんだろう」


「アビーが軍人志望だと知って、エラドも軍人の基礎を教えてるんだな」


 アビーが胸を張って笑った。それから真面目な顔になる。


「お前、怖くないのか」


「まあ、人を殺すんだからな。怖くないと言えば噓になるよ。でも僕がいなけりゃタミールはまず死んでたよね。ここの医療技術ではあれを助けるのは無理だ。そんなことに友達を巻き込んだ奴だよ。復讐を神様にまかせておくわけにはいかないよ」


「タミールが助かったのって上の世界の技術か」


「上の世界にもあれを治す技術はあるけど僕が使った方法とは全く違うよ。タミールは僕しかできない方法で治した」


「そうなんだ。それでどんな作戦で行くんだ」


「お前はどうなんだよ。怖くないの」


「ラフィアディアの孤児院に居たときに人の死体も人が切られたり刺されたりするのも嫌と言う程見たよ。


 人って簡単に死ぬときもあるし苦しんで死ぬときもある。食い物がなくって死ぬなんて最悪だぜ。可哀そうに思って昼飯のパンをやったら食って翌日には死んでた。


 強盗も見たよ。行き成り何度も刺すんだ。死んだらそいつの虚空庫に入っていたものが全部出てくる。そっから金目の物だけ盗ってゆくんだ。陰に隠れて何度も見たよ。死体を見るのも殺すのも怖くない・・・殺されるのも」


 アビーは俯いていた。歯を食いしばって泣くのをこらえているように見えた。


「それで段取りはどうするんだ」


 アビーが顔をあげて聞いてきた。


「そうだな。まず・・・」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



さっきの場所の叢に潜む勇人とアビーの前には横長の覗き穴のような【そこまでドア】が展開され、その中を覗くと五メートルくらい先に山賊が二人、木の椅子を持ち出して座っていた。一応見張りのつもりなのだろう、二人とも抜身の片手剣を膝の上に置いている。


 アビーは右手をピストル型に構え、勇人はクロスボウを構えていた。アビーが空いている左手で勇人の膝を叩く、一回、二回、三回。アビーの右手が光り山賊の一人が頭を光らせて倒れた。同紙に勇人のボルトがもう一人の山賊の左胸に突き刺さる。心臓をわずかに外したらしい。倒れながら声を上げようとした。


 勇人は【そこまでドア】を広げて飛び出した。それより先にアビーも飛び出している。声を上げようとしていた山賊は突然に表れた二人に驚愕し一瞬声を出すのを忘れた。勇人は短槍でその山賊の喉を突いた。


 その間にアビーは洞窟の入り口に向かって走っている。勇人も短槍を捨てると腰の模造刀を抜きながらその後を追った。アビーが先行したので勇人はそのフォローに回ることになった。事前に取り決めた役回りとは逆だ。


 山賊の大半は奥のフロアに居たのでそこで戦闘となった。アビーはいつの間にか両手にククリナイフを握っていてそれを攻防に使いながら一人、二人と頭を【火箭】で打ち抜いて行く。勇人はフロアへの入り口に立ってアビーの死角から攻撃をしようとする山賊に目を光らせていた。


 その勇人に向かってくる者が一人居た。勇人はアビーの動向に注目していたため少し反応が遅れた。両手剣を振り上げて上段から攻撃を加えようと迫ってくる山賊。


 勇人は模造等の間合いの範囲外から軽くそれを一閃した。まだ間合いの範囲外、そう思っていた山賊は自分が胴のところで防具ごと奇麗に横断されていることに気づく間もなく倒れた。切断面からは多量の血が噴き出て辺りを血だらけにした。


 (あーあ、防具一着使い物にならんようになったし、あたりは汚れるし、次元刀で切るんはなしやな)


 アビーの死角から攻撃しようと近づく者がいた。それは亜空間庫からのボルトの零距離射撃で仕留めた。


 最後に残ったのはボスらしいやたらガタイの良い男だった。


「ま、待ってくれ。何でも好きなものを持って行って良いから命だけは助けてくれ」


 アビーが何か言おうとしたが、それを押しのけて勇人が前に出た。


「お前なあ、そんな往生際の悪い悪人のテンプレみたいなこと言うな」


「テンプレが何か分かりませんが。命だけはお助けを」


「また、テンプレ発言になるけど、お前らそう言って命乞いをした被害者を見逃したことがあったか」


「い、いえ。私どもが襲った被害者様は皆さん一言も言わずに抵抗されましたので」


「さよか。異世界あるあるだな」


「それで、私共は何で襲われたのでしょうか」


「半月ほど前に宿屋で押し込み強盗をやって、泊まっていた男女に大けがをさせたよな。その仇討ちや」


「あれは、現場で死んだ奴とそこで真っ二つに切られて死んでるやつが勝手にやったことで・・・」


 (あっ、ワイが次元刀で切ったやつがそうやったんか。左肩に包帯しとる。間違いないな。もっと甚振って殺すつもりやったのに。まあええわ。代わりにこいつ責めたろ)


「おまえなあ。おまえは山賊会社・・・言っても通じないか・・・山賊組合・・・しっくりこない・・・山賊パーティー。三角帽子被ってクラッカー鳴らしてる雰囲気。違うなあ。まあ何でもいいや。お前はここの山賊どもの頭だよな。メンバーのやったことの責任は頭目が取る。当たり前だろ」


「いや、それはそうなんですけど。私がやれと言ったことで生じた責任は私に有りますが、ちょうどあの日はあいつらは休みをとって羽伸ばしに行った、その時の事件でして、いわば業務外のこととしてわたしの与り知らぬことで」


「ま、まあ。そういう考え方もあるかなあ・・・」


 勇人の口撃の手が緩んでしまった。なんとなくこいつ許してやろうかななどと言う気分も有ったり無かったり・・・


 その時、アビーが勇人を押しのけて前に出て、何も言わず頭目の頭に【火箭】を打ち込んだ。そして勇人を振り返る。


「こういうやつはラフィアディアにも居た。上手く自分に有利なように話を纏めてしまうんだ。こういうやつの話は聞いちゃだめだ。聞く前に殺れ」


「ごもっとも」


 勇人もなぜそうなったのか分からないものの相手の話に乗って許す方向で検討していたことを否定出なかった。


「ところで確認したいんだけど、盗賊を討伐した場合そのアジトにあった物は討伐者の所有としてよいんだよね」


「エラドからそう聞いた。お前も聞いたはずだ」


「そうなんだけどね。一応確認してと思って」


 そう言いながら勇人はそのフロアを調べ始めた。金が約二十両、貴金属少々、衣類、反物。おそらく最近服飾品の行商人を襲ったのだろう。武器防具はありがたかった。胴鎧が大小合わせて二十着、脛当て、手甲当て、兜。中には金属鎧まであった。鎧としては要らないが鉄材としては心底欲しい。鉄製ナイフ、山刀、片手剣、両手半剣、手槍、短槍、手斧、戦斧、武器についてはより取り見取りだ。それだけ連中は殺してきたということなのだろう。分け方については落ち着いてから話し合おう。勇人は手当たり次第に役立ちそうな物を【亜空間庫】に放り込んだ。


 穴を掘って山賊どもを埋める作業を終えるともうここですることはない。夕食の時間も迫っている。二人は孤児院へと帰った。

見出しの原点は聖書です。もともとは復讐は神がするもので人がするものではないという意味だそうですが、ここでは一字変えて全く逆になっています

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