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異世界人は魔法を使えませんって、そら無いでぇ~  作者: 浪花翁
第一章 孤児院編
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004 異世界に魔物は定番だよね

読んでいただいている方、ありがとうございます。そろりそろりと話が進んで行きます。

 子供たちは料理当番の子を除いて、ぞろぞろと食堂を出ると寝室に向かい、勇人もそのあとに続いた。勇人の寝室は予想どおり最初に寝かされていた部屋で、そんな部屋が七部屋並んでいた。男女に分かれて三室ずつ使っているらしい。あと一つはエラドの部屋だ。部屋に入ると天井からぶら下がっていたランプのようなもが黄色の薄暗い光を放っていた。勇人は自分が寝かされていたベッドが自分のベッドだと見当を付けてそこに座った。シモンと小さい男の子二人が同室だった。


「紹介しとくよ。ヨナタンとモリエル、ヨナタンは六歳組、モリエルはここへ来たばかりの五歳組だ」


 そう言われて、二人は勇人の方を見ると軽く頭を下げて名乗った。ヨナタンはニッコリと笑っていたが、モリエルは表情が硬い。


「知っていると思うけど、僕はユージン。ここには三年居るらしいけど、何も思い出せない。知らないってことではモリエルと一緒だね」


 そう言うとモリエルもはにかんだように笑った。


 (それにしても天井からぶら下がっている黄色っぽい明かりはなんやろ。食堂に行く前から点いてはいたんやけど)


 勇人は自分のベッドを離れてシモンのところへ行くとその隣に座った。


「シモン、ちょっと聞きたいんだけどいいかな」


「ああ、いいよ。分かることならな」


「あの明かりはどう言うものなんだ」


「あれか。あれは光石の明かり皿だよ。光石って言うのは、割とどこにでもある石で、掘り出してお日様に当てておくと夜になったらああいう風に光るんだ。今はそれを使って光ランプが作られている。その方が明るいんで、どこの家でもそれを使っているらしいけど、孤児院はお金がないから昔ながらの明かり皿を使っているんだ」


 (魔法で光っとる言うわけやないんやなぁ)


「寝るときには明かりはどうするんだ」


「小さい子が便所に起きた時に要るだろうし、放っておいてもそのうちに消えるさ」


 (蓄光式の明かりならそんなもんか)


「なあ、シモン。もう一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな」


 (聖域とか教会領の林とか知らんことが出てきたさかい、早めに聞いとこ)


「知ってることならいいけど、難しいことを聞かれても分かんないよ」


「そうか。ありがとう。難しいことじゃないよ。食堂で聖域とか教会領の林とか出てきたけど、どう違うのかなあ」


「教会領の林って言うのは、教会の北側と東側にある雑木林のことだよ。俺たちは裏の林とかもっと簡単に雑木林って言ったり林と言ったりしてるけど、あそこは教会の土地なんだ。それで教会と孤児院の関係者しか入れないんだ。


 北と東は小川に囲まれてて結構広いよ。林って言ってるけど、草地なんかもあって大きな獣は出ないんで危なくないから行ってみるといい。チビたちも自分たちだけで獲物を獲りに行ってる。流石に一人で行っちゃいけないって言われてるけどね。


 聖域は教会領の林の北側と東側にあるちょっと高くなった土地で東にある高い山に続いてる。それで林とは小川やその向こう岸の崖で区切られてるんだけど、行ったことないから詳しいことは分からないや。ユージンも晩飯の後の話は聞いていただろう。エラドさんが許してくれないんだよ。聞いた話では物凄く広くって林や森、草地や池、沼なんかもあるらしいけど、詳しいことはエラドさんかタミール兄に聞いてよ」


「助祭様ではダメかな」


「あはは。あの人は貴族のお嬢様だから聖域どころか裏の林にだって行ったことないと思うよ」


 勇人が助祭のことに触れると、シモンは笑いながらそう言った。


 (やっぱり助祭は貴族やったんや)


「分かった。ありがとう。聖域の詳しいことはそのうちにエラドさんかタミール兄に聞いてみるよ。ところで何で聖域って言うのかなぁ」


「それなら知ってるよ、聞いた話だけど。東の遠くの方に高い山があるだろう。ターセン山って言って聖域はそこまで続いている、っていうか聖域はターセン山の裾野なんだ。そしてターセン山にはドラゴンが住んでる」


 (異世界定番、来よった)


「それ、言い切るんだな。ドラゴンを見たことあるのか」


「取り敢えず黙って話を聞けよ」


 勇人の突っ込みにシモンは少し腹を立てたらしく、鋭い口調でそう言った。


 (何でも疑って見る言うワイの悪い癖が出てもうたな)


「ごめん、黙って聞くから話を続けてくれ」


「何処から話したら良いかな・・・そのドラゴンが住んでいることで聖域とその外側のここいらみたいな土地には魔物が寄り付かないんだ。


 ここでは誰もが知っていることだけど、俺たちの先祖は他の部族と共に遥か西の方に住んでいたんだ。何千年か前に大災厄に襲われたとき、俺たちの祖先は他の部族と別れて、先祖の土地から遠く離れた東の地に移り住んで少しずつ広がって行ったって言われてる。


 先祖がこの辺りまで広がった時に、ターセン山の麓の今聖域と言われている土の周辺にだけ、先住の人たちが残っていたんだ。


 その人たちの言うことには、ターセン山には龍が住んでいて、魔物たちはそれを恐れてこの地に寄り付かず、そのおかげでその人たちは生き延びることができたんだって。そしてターセン山のすそ野のうちでも龍が人に住むことを許さない土地があり、その人たちはそこを聖域と呼んで立ち入ることも禁忌としていたらしい」


「それって、単なるおとぎ話じゃないのか」


「それが、そうでもないらしいんだ。今から千年くらい前にユージンと同じように単なる伝説だと言って禁域に入り込んで村を作った人たちが居たけど、村が完成した祝いの日に一晩で村が壊滅し、村人はほとんどが亡くなったという記録が残っているんだって。それで帝国が勅令で聖域に指定してそこに住むことやそこで農業をするのを禁じている。


 実際には村を造るのはだめだけど、田畑を作るのはだめかどうか解ってないし、禁域を領地に持つ貴族様の中には領民に猟を認めているところもあるらしいよ。現に教会も孤児院保護の名目で周辺の教会関係者の立ち入りと狩猟について勅許を得ているんだ。


 ここの男爵様は領民の立ち入りについての許可は求めず、自分たちが年一回牧狩りをする勅許を貰って知り合いの貴族を呼んで牧狩りをしていい顔をしているんだから呆れるよ。税だと言ってこのあたりの領民をただで勢子役にしてき使ってるんだぜ。俺たちは関係ないからいいけど」


 (ここを治めている領主は男爵か。あんまり()え領主やなさそうやな。領主としては普通なんかなぁ)


「魔物は居ないのに、普通の動物は居るんだよな。なぜなんだろう。魔物って何なんだい」


「そんなこと聞かれても分からないよ。俺は魔物なんて見たことないんだから」


「それもそうだなあ」


 シモンが困惑気味にそう言うと、勇人も、五歳まで街の孤児院で育ってその後は魔物の居ないローレン村の孤児院で生活しているのでは魔物を見たことがないのも道理だと頷いた。


「魔物はドラゴンから自然に出ている魔力が怖いんだってエラドは言っていたよ。普通の動物はそれが感じられないんだって」


「魔物が居なくて普通の動物は居るのなら、ここは住みやすい土地なんだね」


「そうでもないらしいよ。魔物が少ないと獲物になるものが少なくて、俺たちの口に入る肉も少ないんだから」


「と言うことは、魔物の肉は食べられるのかい」


「そうらしいよ。それも普通の動物の肉よりずっと美味しいんだって」


 草食動物が植物を食糧にして生き、肉食動物が生存のためにその草食動物を狩るという食物連鎖が成り立つ限り、自然が養うことができる動物の総量は限られてくる。ここみたいに魔物がいない環境で狩猟する肉が足りないということは、その食物連鎖の法則がこの世界では成り立っていないということなのだろうか。


「魔物だってエサは食べるんだろう。それが肉だったら弱い動物が魔物の獲物になるはずだし、草や木の実なんかだったらそれを食べる普通の動物と競争になるはずだから、魔物が居るからって特に肉が増えるとは思えないんだけどなあ」


「難しい話は分からないけど、魔物が居ると肉が増えるんだって、だから魔物を専門に獲る『魔猟士』という職業があるんだ」


 (魔物を狩る職業があるんや。モン〇ター・ハンターやな)


「へー。魔猟士って、誰でもなれるのかなあ」


「誰でもなれるけど、それなりの能力がないと狩猟士で生活して行くのは難しいらしいよ。でも孤児院出は他の仕事に就くのは難しいから、俺も魔猟士を目指すんだ。風魔法は人より少し上手く使えるからね」


 シモンは得意そうにそう話した。


 薄々感じてはいたが、この世界には魔法もあるようだ。


「シモンは風魔法で魔物を倒せるんだね。スパッと切ったり出来るのか」


「今はそこまでは出来ないよ。弓で矢を放って風で飛ぶ方向を少し曲げたりしてうまく当たるようにするのを練習してる。いずれは風だけで倒せるようになりたいな」


 (何となくやけど、シモンは今のままでは魔猟士で生活するのは難しそうやな)


「そうなんだ。練習あるのみだね」


「おう」


 (やっぱり、孤児院出身者の就職は難しいんか)


 ここが中世的な世界だとすると、職業は世襲で長男が継ぐか、長男が居ない場合には同業者か知り合いの次男以下の子を娘婿か養子に取って継がせる。商家で従業員を雇う場合でも知り合いの子を優先するのが当然と考えられているはずだ。


 農家の場合はもっと過酷だ。長男が世襲して、次男以下は他の農家に養子か婿養子としては入れなければ一生作男並みの生活となる。更に領主の許可がなければ次男以下であっても領地を離れることができない。農民から年貢として徴収する穀物が領主の収入であるため、農民の数を確保することが領主の至上命題なのだ。


 こんな世界では何の伝手もない孤児が普通の職業に就くのは極めて困難である。猟師、魔猟士など人数制限のない職業に就くか、傭兵という自分の命を売る仕事に就くか、最後はスラムの住人になるか。


 (つくづく、ハードモードや。これも異世界あるあるかなぁ)


 異世界に落ちたら孤児で、このままでは体格的にも劣り、わずか十五歳で世の中に放り出されて、まともな職に付けそうもない。考えれば考えるほど気持ちが落ち込んでいった。


 「ユージン、あんまり起きてると腹が減って寝られなくなるぞ。もう寝よう」


 「ああ、そうするよ」


 勇人はノロノロと自分の寝床に潜り込んだ。

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