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異世界人は魔法を使えませんって、そら無いでぇ~  作者: 浪花翁
第一章 孤児院編
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037 計画は破綻するのがお約束

 翌朝、何時もの鍛錬の後孤児たち全員が孤児院の前の広場に集まっていた。狩猟隊の面々を中央にして他の孤児たちがその周りを取り巻いている。誰もが笑顔だ。暫くするとエラドが槍と弓矢を携えて現れ、それぞれの役割に応じてそれを手渡していった。勇人も亜空間庫からクロスボウとボルトを出して配って行く。


 武器が全員に行きわたるとエラドがもう一度その日の作戦と各々の役割を伝え、出発の合図が出される。居残りの孤児たちが声援を送る中、狩猟隊は雄たけびをあげてエラドの後に続いた。


 一行はまず東の水路と開墾地の脇の道を北に進んだ。やがて開墾地は終わるが水路の脇をたどるように道はさらに北に続いており、その両側には林が迫っていた。三十分くらい道をたどると東側の林が尽き水路のかなり下に川が見えるようになった。勇人が鯉の稚魚を取った川の上流だ。


 対岸には崖が続いている。道は少しずつ上って行き更に三十分くらい歩くとこちら側と対岸の崖がほぼ同じ高さになった。そこに向こう岸つまり聖域へと渡るつり橋が掛かっている。水路はさらに北へと向かっている。そこに取水口があるのだろう。


 橋を渡ると聖域に入ったが灌木の林が視線を塞いでおり、遥か彼方のターセン山の頂が見えるだけだった。エラドは一行を率いて南へ少し下り小高い丘に登った。水の関係か丘の頂付近は灌木が生えておらず草地になっていた。その頂上に登った孤児たちはそこからの眺望に息をのんだ。


 そこから遥か十数キロ先のターセン山の麓に至るまで広大な土地が広がっており、深い森、その周りを囲むようにある雑木や灌木の林や草地、所々にある池や沼、そして湖、その間を縫うように走る川、崖の下へ落ちる滝。そこには冬にも拘らず豊穣を予感させる壮大な景色が広がっていた。


「仕事にかかるぞ」


 エラドは呆けている孤児たちにそう告げた。にやけた顔をしている。丘から聖域を見せて驚かせるという仕込みが上手くいったという顔だ。


 (癪やけど、これはやられたわ)


 一行は丘を降りると雑木林に入り獣道を辿った。アビーが五、六十メートル先行して偵察し、残りはエラドを先頭にそれぞれ数メートルの間隔を開けて槍組のタミールとデボラ、シモン、勇人、最後尾にやはり槍組のウジとアラヤの一列で進む。獣道なので一列縦隊がやっとなのだ。


 アビーは曲がり角毎にその先を見て、獣が居ないことを確認すると合図をして先に進んでいる。十分くらい進んだところで獣道が二股に分かれているところに差し掛かった。アビーは丹念に地面を調べていたが右側の道を選んで先へ進んだ。アビーの五十メートルくらい後を進んでいたエラドがその三叉路に至り、やはり地面を調べて頷くと右側に進んだ。


 シモンが三叉路に差し掛かった時左手奥にイノシシが現れた。シモンが叫ぶ。


「左からイノシシ」


 その声で右の道を先へ進んでいたタミールとデボラは間の林に飛び込んだが右の道から真横に入ったため左側の道のかなり先に出ることになった。二人は道の脇からクロスボウを構えて放ったが慌てたために急所は外してしまった。


 一方後方を進んでいたウジとアラヤは三叉路の先で左の道の左側の林に飛び込みクロスボウを構えたが射線の先にタミールたちが入るのですぐには発射できず、ほとんど真横に来てからの射撃となった。それでも余裕があったためイノシシの右目と心臓付近に命中させることはできたがこれも致命傷にはならなかった。


 シモンは一射するのがやっとでその後は勇人の逃げろという声に応じて逃げたものの真後ろに逃げたために勇人とぶつかりそうになった。


 勇人はイノシシの前に大石を落とそうとしていたがシモンとぶつかりそうになったため彼をよけながら落とすことになった。そのため狙いが外れてイノシシの尻をかすめただけだった。次の石はやむを得ずイノシシの頭上数十センチからその頭めがけて落とした。これはさすがに命中し昏倒させたがまだ致命傷には至っていない。


 そのときになって林から槍組の四人が飛び出してイノシシをめった刺しにしてさすがのイノシシも絶命した。先行していたエラドとアビーが戻ってきたのはその後だった。


 長いように思えたが発見してから仕留めるまでわずか十数秒のことだった。


「ケガはないか」


 エラドの声にみんな口々に無事を伝える。


「最初の出会いにしちゃ厳しいものだったがケガもなしに乗り切ったんだから上出来だ。さっさと後処理を済ませて凱旋するぞ」


 エラドの言葉にみんな頷いて動き始めた。なるべく近くで太い枝のある木を見つけてその下に穴を掘る。内臓や血を処分する穴だ。勇人は次元刀で根切りをして穴掘りは他の者に任せ、【亜空間庫】で穴の傍までイノシシを運んだ。そこにイノシシを出すと後ろ脚を綱で縛って穴の上に吊り上げ、エラドが血抜きと内臓抜きの処理をして行く。小一時間でその処理が終わり穴を埋め戻してイノシシと大石二個を【亜空間庫】に戻すと一行は帰路に就いた。


「今日は俺とユージンで後処理の大部分を済ませたが、次からはお前たちにやらせるからな。狩りをするからには後処理もしっかり覚えて次の奴らに伝えて行くんだぞ」


 途中でエラドが訓示を垂れたがみんな初の大物猟に興奮しており果たして聞いていたのだろうか。


 孤児院に帰って居残りの孤児たちに獲物を見せると勇人とエラドは河原に降りイノシシを水に沈めた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 その日の午後、勇人はエラドに呼ばれ、エラドの部屋へ行った。孤児院の棟の食堂に一番近いところにある。話は肉の処分についてだった。


「今日のイノシシの肉は二十貫(約七十五キロ)ある。これを一週間で食うとして一人頭何匁になるんだ」


 いきなりエラドが切り出した。


「約百二十四匁(四百六十五グラム)だよ」


 勇人は電卓を取り出すと数字を打ち込んでそう答えた。


「便利な物持ってんだな」


「電池が切れてるから昼間じゃなきゃ使えないけどね」


 勇人は亜空間庫が使えると分かったときに自分の持ち物を全てその中に入れていた。盗難防止はここでは考えたこともない。劣化防止のためだ。


「やっぱりそのくらいになるか。多すぎるとは思わないか」


 エラドは電池云々はスルーした。もっとも確かに毎日猪肉四百五十グラムは他の食べ物が少ないことを考慮しても多すぎるだろう。


「確かに多いなあ」


 朝昼百グラムずつ肉料理を食べて夕食に二百五十グラムのトンテキと考えると三日で飽きそうだ。


「なあ。半分に減らさないか」


 なるほど一日二百グラムなら豆やイモも有ることだし、タンパク質の摂取量としては十分だろう。


「で、残りの十貫はどうするつもりかな」


「簡単な話だ。地元の肉屋に売る。売値は十匁二文にしかならねえがそれでも十貫目となれば二千文、銀貨二枚だ。一年で・・・幾らになるんだ」


「百四枚だよ」


「百枚として金貨十枚か。ちょっとした収入じゃないか」


「そうだね」


 勇人は適当に相槌を打ったが、肝心なところが抜けている。誰が保管し、何に使うかだ。


 (助祭に任せるつもりはないだろう。自分が預かるつもりかなあ。こいつにまかせといたら酒代に消えそうやな。助祭・エラド対策が必要やな)


「取り敢えず先週末にお前からこの間預かった穴銀六枚、まだ使ってねえから返しておくぞ。これからは要らねえからお前の貯金の足しにしな」


 エラドはそう言って虚空庫から穴銀六枚を取り出し勇人に渡した。


「そうか。これからは算術教師の報酬はサミュエルさんへの返済資金に回せるんだね」


 (穴銀三百十二枚が四年で千二百四十八枚やから千二百五十枚として金貨十二・五枚やな。サミュエルはんへの借金はこれで金貨三十七・五枚まで減った勘定や)


「明日の晩飯のあとで肉の売却の話を持ち出すから宜しく頼んだぜ」


「分かったよ」


 (肉で腹いっぱいになったとこ見図ろうて言うつもりやな。肉の売却の話は乗っちゃるけど、金の預け先と使い道は聞いてへんからワイの考えで行かせてもらうで)


「エラドさん、石弓をあと五丁頼むよ。それからタミールとデボラも頼んでたと思うんだけど、それも出来たら一度こっちへ回してよ。こっちの手持ちも加えて一番良いのを選んで貰うんだ」


「俺の作った石弓に出来の悪いのがあるってえのか」


 言葉はきついが顔が笑っている。


「ここなら万が一壊れても名工エラドさんに作り直して貰えるけど、二人はそうはいかないからね。逸品中の逸品を持って行って貰いたいんだ。それじゃあ仕事に戻るよ」


 勇人は出口の方に向かいながら手をヒラヒラとさせた。さあ鯉の餌やりと開墾だ。忙しい、忙しい。

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