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異世界人は魔法を使えませんって、そら無いでぇ~  作者: 浪花翁
第一章 孤児院編
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036 「継続は力なり」って言葉がありましたね

 翌日からは五歳組から七歳組を午後に一組ずつよこして貰って、投擲紐の練習を始めさせた。投擲紐は最初に自分たちで作らせた。紐の使い方だけを教えて、あとは練習あるのみだ。


 年長組としてはタミールが来ていた。クロスボウの練習をしてもらうことにした。


「俺は年が明けたらここを出てゆくから石弓の練習をしても役に立たねえぞ。エラドに言われたから来たけどな」


 タミールは苦笑いをしている。


「確かにそうだね。でも【虚空庫】に一丁弾込めしたまま持ってれば奥の手に使えるよ。【虚空庫】に余裕があって二、三丁入れて置ければもっと良い」


「確かに俺の【虚空庫】は広い方だから三丁くらい入れても頭を落としたイノシシ一頭六時間くらいは入れて置ける。隠し武器か、ちょっとそそるな。でもデボラは一丁入れられるかどうか」


「たぶん明日はデボラが来るからそこは聞いてみるよ」


「でも石弓もボルトもないぞ」


「ボルトはここで作るから分けてあげるよ。石弓はエラドに頼むと良いよ」


「分かった。そうしてみる」


 タミールはその気になったのかクロスボウの練習を始めた。エラドに頼んだクロスボウはまだできないのでとりあえずは勇人の自前のクロスボウを使っている。


 今日は自分の荷物の中からナイフとハサミ、それに孤児院の備品の中からノコギリを持ってきた。アビーにボルト作りをしてもらうためだ。年少組とタミールが練習を始めたので、勇人は昨日作ったボルトを一本取り出してそれを一旦バラバラにした。


「アビー、こっちへ来て矢を作るのを手伝ってくれよ」


 勇人が、腕組みをして年少組の練習を見ていたアビーに呼びかけると彼女はのそのそと寄ってきて勇人の隣に座り込んだ。勇人はアビーにナイフとハサミそれにノコギリを渡す。


「僕が矢を作るのは昨日見てただろう。あれと同じようにして矢を作って欲しいんだ。部品の見本はここに置いておくから」


「分かったぞ」


 アビーは年少組の師匠になったので気を良くしていたが、更に勇人から頼られてよっぽど嬉しいらしく相好を崩してそう言うと早速篠竹を切って矢柄を作り始めた。思ったよりも器用なようだ。勇人は暫くアビーの様子を見ていたがこれなら任せられると思い、自分の仕事にかかることにした。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 十二月の半ばには、クロスボウが五丁揃った。ボルトも表向き百本、実際には二百本作った。他に狩猟用武器としては孤児院の備品として短槍が五本、弓が二張あるし、エラドが個人的に剣一振りを持っている。


 ある朝、勇人は鍛錬が終わるとエラドのところに向かった。エラドは自分の棒を傍にいたハンナに預けると一休みのつもりか裏庭の隅にある丸太造りのベンチに向かっていた。


「ユージン、何か用か」


 エラドは勇人が近づく気配に気づいたのか立ち止まって振り向くと尋ねた。


「ああ、聖域に狩に行きたいんでその人選をお願いするよ」


「とりあえず腰を掛けようぜ、少し疲れた。まず俺とお前は必須だな」


 エラドはそう言いながらベンチに腰かけた。勇人も遠慮なくその隣に座る。


「僕は良いとしてエラドさんは大丈夫かな。今日の鍛錬でも大して動いていないのに足に来てるんでしょ」


 エラドはため息をつく。


「そうなんだが素人ばかりで狩に出す訳にはいかねえだろう。なあに聖域まで歩いて行っていざというときに手を出すくらいは造作ねえさ」


「そうすると後は槍で獲物を突いたり、クロスボウを引けるだけの腕っぷしのあるやつってことになるのかなぁ」


「あと弓が上手いやつも必要だぜ。なんせ向かってくる獣を遠くから攻撃できるのは弓だけだからな」


「やっぱりクロスボウだけではだめか」


「あれは連射が効かないからなぁ。その点弓だと初手の攻撃を含めて三度は引けるぞ。まあ三度目が撃てるかどうかは度胸の問題だがな」


 どう言う作戦を考えているんだろう、勇人は率直にその疑問をぶつけることにした。


「狩の手順はどう考えてるの」


「それは相手がイノシシかシカかで違ってくるな。イノシシの場合は・・・」


 エラドの作戦は要約すると次のようなものだった。


 イノシシの場合はオスもメスも単独行動が基本でメスは幼体を何匹か連れていることがある。こちらが先に見つけた場合には獣道の両側に槍とクロスボウを持った者が隠れ、弓持ちが最初に弓で射て挑発する。このときに片目を潰せれば最上だが外れても問題はない。イノシシは反撃のために突進してくるのでクロスボウでその勢いを殺したうえですぐにやりに持ち替える。その後勇人が目の前に大石を落として衝突させ、動きが鈍ったところを槍で刺して止めとする。


 先に発見されて突撃された場合には狩猟隊が崩壊する危険性があるので斥候として一人先に出す。


 双方が同時に発見した場合には隊列を組みなおす時間はないので射線が通っている者から各個にクロスボウを撃ち、勇人が大石を落として勢いを止めた後槍で攻撃する。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     


 シカの場合はオスを中心にメス数頭と幼体とで群れをなしている場合があるのでこれには手を出さずに群れから分かれた若い雄を狙う。最初のやり方はイノシシと同じだが直前で石を落としても飛び越える可能性が高いのでクロスボウの斉射と槍で仕留めるようにし、出来なければ頭に直接大石を落として仕留める。


「槍、クロスボウは十三、四歳組四人で良いだろう。十四歳組は年明けに出てゆくんだが、最後に聖域を見せてやりたいからな。それに狩りも経験させてやりたい。弓はシモン、斥候役は一人で身を守れるアビーかな」


 アビーと聞いて勇人はギクッとした。あいつに斥候なんてできるだろうか。勇人の顔を見てエラドがニヤッと笑った。


「アビーは普段はあんなのだからお前が心配するのも分かるがな、役目を与えると何でもそつなくこなすぞ。観察眼の良さといざというときの動きの機敏さはガキどもの中でもピカいちだ」


「エラドがそう言うんならそうなんだろうね。ところで僕の出番は大石を落とすだけ、エラドの出番はなしか。僕としては土魔法で首を落としても良いし、エラドだって剣で首くらい落とせるだろ」


「今はそれでも良いんだがな。お前は十五でここを出てゆく、俺だって後十年も狩りには付き合えねえよ。だから二人とも所詮は助っ人だ。ここのガキどもが自分たちだけで狩りができるようになるまでのな。助っ人はなるべく働かねえようにしなくっちゃな」


 (ああ、時代劇の『先生、お願いしやす』ってやつやな。これってお願いされて出て行ってあえなくやられるちゅう主役の引き立て役やないか)


「なるほど。さすがエラドさん後々のことまで考えてたんだね」


「それほどのもんではないぜ」


 エラドは照れ笑いをした。心なしか頬が紅い。


 (四十過ぎたおっさんが頬染めて照れ笑いて誰得やねん)


「石弓班には【虚空庫】に三丁ずつ石弓を入れて連射させようと思ってたんだけど、これも止めた方が良いってことなの」


「そうだな。おめえの【虚空庫】が使えなくなったら全員で肉を分けて持ち帰る必要がある。余分なものはなるべく入れないで置きてえからな」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 役割分担の確認と役割毎の練習のために十三、四歳組とシモン、アビーと勇人はその日の午後、河原の練習場に集まった。


 十三、四歳組は槍とクロスボウとボルトを受け取り、思い思いに練習を始めた。


「俺は何するんだい」


 シモンが聞いてきた。


「シモンはこれだよ」


 勇人は亜空間庫から弓矢を出すとシモンに渡した。


「シモンは命中させることについては問題ないから速射を練習してほしい。二十間で第一射を撃ってから十秒の間にもう二射出来るようになってくれたら嬉しいってエラドさんが言ってたよ」


「そんなに早く三射するのは難しいぜ」


「エラドさんの話じゃ、まず他の者は隠れていて弓の連射で獲物の注意をシモンに向けさせるんだって」


「なんだ囮かよ。嫌な役回りだな」


「だから二、三射目はできればで良いって。安全第一で無理だったら逃げて欲しいってさ」


「言われなくてもそうするよ。イノシシやシカと命の遣り取りはしたくねえ」


 シモンはこれ以上ないというほど渋い顔をしている。


「そうだよね」


 (問題は獲物の方が逃がしてくれるかどうかなんやけどな)


「ねえ。ユージン、せっかく練習したのに【虚空庫】から出しての三段撃ちってのはやらないの」


 十三歳組のアラヤだ。勇人は午前中にエラドから受けた説明のとおりに答えた。それにしてもボルトを装填したまま保持する装置や安全装置などなかなか凝った仕様になっている。ボルトを保持したまま移動するときに怖いのは暴発とボルトの脱落だ。その防止まで考えて作られたボルトを見て、エラドは戦歴を重ねた熟練の傭兵だったんだと改めて感じた。


 実際の狩りを想定した練習はその日一日で十分だった。みんな聖域で狩りが出来る、即ち肉が鱈腹食えるということで練習にも身が入ったのだろう。問題はシモンだった。


「三射は無理だったよ。撃てないわけじゃないんだけど、三射目は狙いが外れるし三射しようとすると二射目の狙いも甘くなってしまう」


「無理しなくてもそれて良いと思うよ」


「ということはやっぱり俺は囮ってことか」


 勇人もこれには苦笑いするしかなかった。


「一射目には大いに期待してるってよ。片目を潰してくれれば助かるってエラドさんが言ってたよ」


 勇人の言葉にシモンは十歳とはとても思えない乾いた笑いで答えた。


 夕方孤児院に帰るとエラドが待っていた。明日朝一番で聖域に入ると言われた。タミールが叫びとも唸りともつかぬ大声を出した。義弟妹(おとうとたち)思いの彼の念願がそして義兄姉(あにたち)の果たせなかった思いが明日叶うのだ。


 そのあと狩りの作戦が説明されたがタミールにその言葉は届いただろうか。

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