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異世界人は魔法を使えませんって、そら無いでぇ~  作者: 浪花翁
第一章 孤児院編
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033 右のポッケにゃ夢がある〜♪

 十一月になった。サミュエルへの売り物は出来たが生憎彼が来るのは来月になる。少し暇になったので勇人は開墾地に入った。切り株だらけで放置されている土地が五反ほどある。雑木林から薪にする木を切り倒したあとに残った切り株だ。


 雑木を切り倒しても畑から遠いところは切り株から新しい芽が生えるままに残してあるが畑に近いところは毎年丁寧に新しい芽を取り除いている。そうしているうちに切り株が枯れて芽が出なくなり、根も腐って切り株が取り除きやすくなってゆく。そういう土地を開墾して少しずつ畑を増やしてきたらしい。


 勇人は畑に近い切り株から【次元刀】で縦に割り、根は土ごと切り離し、土地は五十センチ刻みで縦横に深さ一メートルの切り目を入れて子供たちの手が空いた時にいつでも切り株やそれに続く根を取り除き地面を鋤き起こして畑にすることが出来るように準備を始めた。


 【次元刀】は何でも抵抗なしに切って行くので特に重労働というわけではないが一日中続けられるわけでもない。一時間に一度くらいは休憩をとっていた。今もそういう休憩をとっている最中だった。


 そういえば【次元刀】についてはこれまで行きあたりばったりに便利使いしてきたが、何ができて何が出来ないのか十分に検証ができているとは言えない。この際系統だてて検証してみても良い。そう考えた勇人は休憩の間に【次元刀】について検証してみることにした。


 まず長さは最長二メートル弱だ。それ以下に短くすることはできるがどうしてもそれ以上長くすることは出来なかった。その理由は何か。これは推測になるが、自分が今までに目にした刀剣で一番長かったものが日本のとある城下町で見た馬上刀で、その長さが二メートル弱だったからではないだろうか。つまり自分の中に【次元刀】は刃物という認識があり、そのせいで自分が実際に見た刃物以上の長さの物を想像できないからだと思われる。


 【次元刀】とは名付けたものの、曲げるのはV字状でもU字状でも想像しただけで自在にできる。但し空気中限定だ。石を半ばまで切ってそこでV字に曲げようとしたができなかった。また水中でも同じことをしてみたが、手元にかなりの抵抗があった。これも刃物と認識していることが理由だろう。


(刀と一緒で刃の方向には切れやすいが、横には切れない言うことやな)


 それから色々な形を試してみた。数時間も練習していると空中でなら次第に思い描いた形を自在に、そして瞬時に出せるようになってきた。


 そんなことをしているとアビーから声がかかった。彼女はこの頃は勇人がどこに行っても付いてくる。曰く護衛だそうだ。


「お前、変な顔して何やってんだ」


 様々な形を出そうと苦闘していると自然と変顔になっていたらしい。【次元刀】の見えないアビーがいぶかしげにそう聞いてきた。


「土魔法の練習をしてるんだよ」


「変な顔すると土魔法が上手くなるのか」


「そう言うんじゃなくて・・・僕の土魔法は土でも木でも分けることしかできないからな。思う形に分けられるように練習をしてるんだよ」


 勇人は形作りを続けた。だがどうしてもできない形がある。それは輪にすることだ。思うように丸い形を作ることはできるがどうしても隙間が残り完全な円にはならない。小さい円、出来るだけ大きい円、円がだめなら四角形、三角形。色々やってみるのだが手元と先との間にわずかに毛筋よりも狭い隙間が残っている。


(何でや。なんぼ棒を曲げても円にはならんちゅうことか)


 確かにどんな形に曲げても端が二つある棒と端のない円では本質的に違うのかも知れない。ゼロと一みたいなものである。


(しゃあない。力技でやってみよか)


 勇人はU字形に曲げた【次元刀】の先っぽを右手で掴むと少し曲げたり伸ばしたりしてみた。思いのほか簡単に曲げ伸ばしできる。あとはこれを左手の【次元刀】の柄の所にくっつけるだけだ。恐る恐る近づけて行き最後は思い切って柄にぶつけた。


 途端に目の前が真っ白になり、身体中に電撃を受けたような痛みが走り意識を失ってしまった。


「はよー、こっちへおいでー」


 (遠くで誰かが呼んどる。あれはオカンや)


 声のする方を見ると川の向こうは奇麗な花畑で白い着物を着た母親がおいでおいでをしている。


「もう頑張らんでもええー。お前もええ歳なんやし楽になりなぁー」


 立ち上がってそっちへ行ったろ思うたのにものすごい力で押さえつけて体を揺すって来よるもんが居る。誰や邪魔するんは・・・


「おーい、大丈夫かー。生きてるかー」


 目の前の景色が消えて真っ暗になり、嫌々目を開けるとアビーが覆いかぶさるようにして肩を揺すっていた。太い眉、分厚い唇、お世辞にも美少女とはいいがたい顔が目の前に迫っている。


 (ああ、死にかけてたんか。どうせなら奇麗な姉ちゃんに起こして欲しかったけど、ここに居るんは小汚いガキと強欲が顔にでとる貴族女や。微粒子レベルどころか素粒子レベルでもそんなこと有り得へんわなぁ)


「アビーか。有難う。もうちょっとで三途の川を渡るところだった」


「気が付いたか。サンズの川って何だ。この下の川の名前か。そんなことより何してたんだ。いきなりものすごく光ってユージンの方を見たら、お前、伸びてたんだぞ。死んだかと思った」


「土魔法がどれくらい使えるのか色々と試していたんだ。それで僕はどれくらい寝てたんだ」


「ほんの一、二分だ。この前よりずっと短かったな」


「この前って、記憶が戻る前に三日ほど意識が無かったときの話かい」


「それ以外にあるのか」


(こいつ、性格だけやのうて時間の感覚もええ加減やな。まあ一、二分言うのはホンマやろ)


 勇人はそうかと言いながら起き上がった。倒れただけで特にケガなどは無く電撃のようなショックを受けた後遺症的なものもないようだ。【次元刀】を輪にするのは成功しただろうか。早速試して見ることにして左手から円形の【次元刀】が出てくるのをイメージしてみた。するとこれまでどんなに努力してもできなかった円形の【次元刀】がすんなりと出てきた。直径六十センチくらいの輪だ。二メートルくらいの【次元刀】が円形になったのだからこのくらいのものだろう。


 ただこれまでの【次元刀】と比べて大きく違うところがある。輪の内側が真っ暗なのだ。単に黒いのではなく光が反射するもののない底知れぬ穴のような暗さだ。勇人はその暗さに見覚えがあった。元の世界からこの世界へと落ちてきた際に経験した空間の暗さだ。


 勇人は輪になった【次元刀】を見て考えた。


(これ、ひょっとしたらあの狭間の世界と同じ空間なんやないやろか。試して見る価値あり、やな。)


 勇人は座っていた切り株から立ち上がると近くに落ちていた小石を拾ってその輪の中に放り込んだ。すると小石は輪を通った瞬間に消えてしまった。


(おっ、予想通りやな)


 【次元刀】にしたのと同じ要領で輪に意識を集中すると【小石】という括りで一個あるのが分かる。同じように小石をもう一つ放り込んでみるとそれが二個になった。それより少し大きい小石を小石と思って放り込むと小石が三個になった。今度は同じ大きさの小石を中石と思って放り込むと中石が一個、小石が三個となった。どうも勇人の認識によって区分されるらしい。


 今度は出してみる。小石を一個出すようにイメージすると小石が一個()()飛び出した。


(ひょつとしたらベクトルも保持してるんか)


 勇人はベクトルを表示するように考えながら輪の中身をイメージするとすべての石について動きの方向と速さとが認識できるようになった。思い切って力一杯に小石を放り込んでみた。速度と方向が認識できる。その小石を選んで取り出すと放り込んだ勢いのままに飛び出して行った。


 これで取り込んだものがベクトルを保持していることがほぼ確定した。視覚的にと考えたら矢印があらわれた。


 今度は残った小石の一つの矢印の方向をいじってみた。考えただけで方向が変えられる。そして出てゆくのは変えた矢印の方向に向けてだった。


「おーいユージン、何してるんだ」


 雑木林の方からアビーの声がした。そちらを見ると雑木に登っていたらしく、その枝に腰かけて身を乗り出すようにしていた。


(こいつ、相変わらず行動の読めんやつやなあ)


「これが見えるか」


 勇人は輪の暗い面をアビーに向けて尋ねた。アビーは枝からひょいと跳び下りると勇人の方に寄ってきて覗き込んだ。


「ユージンの顔が見えるぞ」


(なに当たり前のこと言うとんのや)


「黒いものが見えないかい」


「見えるのはお前の汚い顔だけだ」


「悪いな。お前の顔よりはましだ。僕は毎朝洗ってるからな。お前、週に一度風呂の時だけだろ、顔洗っているのは」


「うるせえ。顔なんて週一で洗えば十分だ」


「汚ねえ奴だな。それじゃあもてないぞ」


「ふん。放っとけ」


 アビーは不貞腐れたようにさっきの雑木の所まで走って行きスルスルと登って何か赤っぽいものを採った。


 (あっ、あれ柿の実や。あいつ普段はものぐさやのに何で木に登ったんか思てたけどあれが目的やったんか。目敏いやっちゃなぁ)


 それは横に置いておくとして、この空間にはどれくらい入るんだろう、勇人の次の疑問だった。と言っても入口が直径六十センチでは大きいもので試してみることはできない。勇人は畑脇の用水路まで行って輪を水の中に沈めてみる。あまり意識しなかったが用水路の水という括りで水が輪の中に溜まって行く。表示はリットルである。

 三千リットルになったところで止めた。実際に最大どれくらい入るのか判らないがとりあえずそれだけ入るのであれば【虚空庫】の代用としては十分だろう。


 次は何が入るかだ。そう思って用水路の水をイメージしてみるとメダカのような小魚が入っている。


(用水路の水だけかと思うたら魚も排除されずに入ってたんか)


 小魚とその周辺の水数リットルを選んで倉庫から河原に出してみると魚が河原でピチピチ跳ねている。この空間には生き物を生きたまま入れることができるようだ。今度は水だけ入れるということを強くイメージして用水路の水を入れてみた。

 用水路の水(純水)という括りで五十七リットルの水が入っていた。少なくとも生物を排除して倉庫に入れることは可能なようだ。


 次は倉庫内の時間が動いているのか止まっているのかだ。中の魚が動かないところを見ると止まっているようにも思えるが念のため出来るだけ実験をしておくことにした。腕にはめていたスマートウォッチをストップウォッチモードにしてスタートを押すと同時に倉庫に収納する。一分くらい待って取り出すとストップウォッチを止めて経過時間を見た。二秒で止まっている。スタートから入れるまでの時間と出してからストップするまでの時間を考えれば内部では時間が止まっていると考えて良いだろう。


 これで機能はほぼ判った。ふと見ると最初より十センチほど輪が大きくなっているような気がした。試しに何度か小石を出し入れしてみたが特に広くなった様子はない。


(何で輪が広がったんやろ)


 そこで気が付いた。小石と水の違いは固体と液体の違いだ。水は入口以上に無理に入ろうとして、その結果少しずつ入口である輪が広がったのではないか。今度は水を入れたり出したり、それを繰り返してみた。案の定入口が今度は直径二十センチほど広がっている。暫く見ていたが元の直径まで縮む様子はなかった。


(安物のパンツのゴムみたいやな。すぐ伸びてまう。まあとりあえず入口が広がる言うのは入れられる物が大きゅうなる言うことやしええことや)


 次の問題は、この輪のことを秘密にするかどうかだ。どのくらい入るのか、入口の大きさはどこまで広がるのかにもよるがこれを人前でも使うようにすれば魔猟士や猟師を職業としたときに獲物やその他の道具を運ぶのが極めて楽になる。所謂パーティーからもお呼びがかかりやすくなるだろう。商人の荷物運び役として猟師、魔猟士よりは安全な生活ができるかも知れない。


 隠しておくとそういう利点は一切放棄せざるを得なくなる。これは大っぴらに使うしかない。ただ他人には【虚空庫】だと偽るしかない。そうすると生き物を入れられることと内部時間が止まっていることを秘密にするのは当然だし、容量も公言するのは無理のない範囲に止めおこう。あとこの空間をどう呼ぼうか。


(問題は脳内でどう呼ぶかやな。ラノベなんかではストレージとか言うのもあったけど横文字はなあ・・・亜空間とでも呼ぶか。なんかカビの匂いがしておまけにハンソンはんあたりに逆襲されそうやなあ。ほんでも安直やけど【亜空間庫】でええか)


 勇人は【次元刀】の実験から【亜空間庫】の発見という予想外の事態が起こったことで何か疲れてしまった。


「お~い、アビー。今日は帰るよ~」


 アビーが木から跳び下りて勇人の所に走り寄ってきた。


 (「ましらの如く」跳んで来よったけど、ましら言うよりか犬やな。いや猫かなあ)


 あまり意味のないことを考えながら勇人は帰路に就いた。

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