030 百聞は一見に如かず、や
本日は1話が短かったので6時10分にもう1話アップします
案の定三人の話を聞いたエラドは、それを一笑に付した。
「俺をかつぐんならもう少しましな嘘を付け。勇人はチョット変わっているがチュードであることは間違ぇねえ。あのサミュエルが落ちてくるのを見てんだからな。それが土魔法が使えて、一番難しい生き物を切るってのを一瞬でやってしまうなんて有り得ねえだろう」
だがシモンが【虚空庫】から切れた切り株を全部取り出すと、エラドの表情が急に真剣なものになった。
「なるほど。シモンの土魔法じゃこれは無理だな。土魔法が一番上手いマルカでも植物を切るとなると・・・何日かかるか見当もつかねぇ」
「だから言ったでしょう。嘘じゃないんですって。ユージンが切ったんですよ」
「俺はこの目で見たもんしか信じねえことにしている。ユージン、悪いが俺と一緒にもう一度林に行ってくれ」
エラドはシモンの言葉を聞き流すと、ユージンに向かってそう聞いた。
「分かったよ」
勇人が承諾するとエラドは頷いて立ち上がり、四人はもう一度林に行った。
「ユージン、悪いがそこの太い奴を切って見せてくれ」
林に着くや否やエラドは幹の太さが三十センチ程の雑木を指して勇人に指示した。勇人は軽く頷くと地面から三、四十センチの当たりを林の奥から開墾地に向かって少し切り口が上向きになるように次元刀で切った。切り口から上がゆっくりと林に向かってズレ始め、雑木はゆっくりとそして次第に速度を増して開墾地の方に倒れた。
エラドとシモンは驚いたように二、三歩後ずさり、アビーは普段の彼女からは想像もできない機敏さで後ろに跳んだ。
「なるほど造作もなく切れるようだな。ユージン、それでお前はその力をどうするつもりだ」
「僕はこの力を隠しておくつもりはないよ、少なくともこの孤児院内ではね。あの場所の切り株を全部取り除いたら二反は畑が出来ると思うんだ。少し林を切り開けば一町歩にすることも難しいことじゃないって思う。
そこで冬は麦を夏はマメか甘藷を作れば、食料は今の倍近くになるよね。そうなれば少なくとも量に関しては十分足りるって思う。知らん顔でそれを見過ごすなんて僕にはできないよ」
(まあ、ワイの食糧事情が改善される機会を見過ごす訳には行かんわな。とにかく贅沢は言わんで腹いっぱい食いたい)
「特に甘藷は痩せた土地でもある程度の収穫が見込めるって聞いてる。今、畑を作れば麦を植えて来年の春には食料も今よりは増えるし、これから秋の終わりまでに開墾地を作れば冬に向けて大麦の種を撒いて、来年の春には出来は期待できないけど大麦も採れる」
エラドは満足そうに大きく頷いた。
「お前がそう決めたんなら何も言うことはねえ。で、開墾の労力はどうするんだ」
「開墾する間、昨日お返しすると言ったチビたちを貸して欲しいな。細かくした切り株を運ぶだけならチビたちでも出来るよ。もし上の子の手が空いたらその子たちも。切り株を取り終わった頃には稲刈りや脱穀も終わっているから牛と犂とそれを扱える年長者を回してよ。それで畑造りができる」
「よし、了解だ。それはそうとして、ユージンはお前の田圃の稲刈りが先だな。収穫量を以前と比較しなきゃならんから稲木は別に組み立てる。そこに干してくれ。ガキどもは芋掘りもあるからすぐには手伝えねえぞ」
勇人はここでもう少し突っ込んでみることにした。
「ついでと言ったらなんだけど、聖域での狩猟を許してもらえないかなぁ。万一剣,槍部隊が仕留め損なっても僕が土魔法の剣で何とか出来そうなんで」
勇人の言葉にエラドは苦虫を嚙みつぶしたような顔で彼を睨みつけた。
「ユージン、お前は自分がここに落ちてきてから何匹獲物を捕らえたと思う。確か二、三羽野ウサギを捕まえただけだ、それも罠でな」
「そ、そうなんだ。覚えてないんで・・・」
「まあ、そんなことはどうでもいい。聖域の獲物はシカやイノシシだ」
日本では草食系のウサギやシカや雑食系のイノシシ、小型の肉食獣であるタヌキ、キツネ、イタチなどは人から攻撃を受けるとそれから逃れようとする。ところがここではそういう場合に逃げるのではなく攻撃をした者を目掛けてとにかく突進してくるらしい。
聖域での狩りの対象は肉目当ての野ウサギ、シカ、イノシシ、毛皮が主目的の小型肉食獣が主なものであるが、生息しているのはそれだけではない。ヤマイヌ、オオカミ、クマなどが多く生息しており、ヒョウやトラなどのネコ科の猛獣も個体数は少ないものの確かに生息しているとのことだ。ヤマイヌやオオカミは群れで襲ってくるため特に対応が難しいとされている。
これらの大型やそうでなくても群れを作る肉食獣にとっては、もはや人は獲物である。
「お前はそんな猛獣と対峙して冷静に剣が振れるか。それに仲間が初撃に失敗したあとと言えば獣が仲間の中に飛び込んで暴れ回っているって状況だぜ。そんなところに飛び込んで刃物を振り回してみろ、獣を倒す前に仲間を倒しちまうってのが落ちだぞ」
勇人はエラドにそう言われると返す言葉がなく、黙り込んでしまった。
「僕が先頭にでて、槍にして突き刺すか、横から薙ぎ払うかすれば」
勇人は逡巡したのちに最後の抵抗を試みた。だがエラドは最後まで言わせずに勇人の言葉を遮った。
「お前の土魔法での切断はよく切れるんだったよな。それは素晴らしい長所だ。あの雑木を一瞬で切ったり切り株を僅か数分で薪にできるとは夢のようだ。だがな、それは同時に欠点でもある。シモン、お前はもう気が付いたんだろう。ユージンに教えてやれ」
エラドはシモンの表情から彼が自分と同じ考えに至ったと感じたのかニヤリと笑って話を振った。
「向かってくる獣の前に立って槍で突くなんてできないよ。突くことは出来ても弾き飛ばされちゃう。やろうと思えば地面に穴を掘ってそこを支えにして斜めに構えるくらいしかないけど、うまくそこに獲物が来るように誘導するのって難しいし、槍が一本だめになってしまう。ユージンの魔法槍は物凄く切れるから槍に刺されて勢いが落ちるってこともなく、そのまま突っ込んで来るよね。横に飛んで逃げる時間がないと思うよ」
エラドが話を引き取った。
「付け加えれば、獣は人に向かってくるんだから、横なぎにするのは不可能だな。という訳で聖域での狩りは許可できない。畑の開墾は許可するからそっちは頑張れよ」
(ひどう叩いてくれよったなあ。でも慣性のことを忘れとったんはワイの失敗や。これから何か提案するときにはよう検討せんと。思い付きではあかんなぁ)
勇人は轟沈した。孤児院に帰ると稲刈りをするために自分の田圃に向かった。
勇人がエラドと別れてから暫く時間が経った。エラドは孤児院前のベンチに座ったまま難しい顔をしている。
ユージンは二反くらいと言ったものの、それは今木を切ったまま放置している開墾地のことである。彼の話を聞いているとそれに加えて五反から一町くらいは切り株まで取り除いて開墾してしまいそうだ。
畑が増えることは嬉しいのだが問題は種芋の方が全く足りないことである。孤児院の主食と言えば米と芋なのだが芋の方が傷みやすい。勢い秋から冬にかけての主食は芋が中心になり、春先になると種芋を除くと残っている芋はかなり少かった。
元々食料に余裕がない中で、芋を種芋に回せば米を先食いすることになる。春以降に食料が足りなくなるのは目に見えている。それを回避すれば種芋に回せる量はわずかである。これでは一丁もの畑を芋で一杯にするには何年かかることか。
「村で調達するしかないか。金は・・・業突くのお貴族様助祭から出せるだけ出させても足んねぇかな。ユージンに出せとは言えねえしどうするかなあ」
彼は大きくため息をついた。エラドはエラドで悩みは尽きない。
見出しは「戦況は遠くからでは分かんねえから、オレがひとっ走り前線なまで行ってみてきてやらあ」と言った言葉の一部だそうです




