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異世界人は魔法を使えませんって、そら無いでぇ~  作者: 浪花翁
第一章 孤児院編
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029 土魔法使い(?)にクラスチェンジや~

 サミュエルの来訪から数日が過ぎた。年少組は相変わらず魚掬いをしている。鯉も大分大きくなった。


 今日の年少組の監視は勇人のほかにシモンと員数外のアビーだ。他の子供たちは田圃の水抜きと稲木の組み立てをしている。年少組も魚掬いが終わったらそちらに合流して手伝うことになっている。


 年少組の子供たちも慣れてきたのか静かに掬うようになった。もう慌てて落ちることもないだろう。


「なあユージン、ここへ連れてこられたときには何にも覚えてなかったんだろ。でも今は思い出したんだよな。サミュエルさんがものすごい光があってそのあと空から降ってきたっていってたけど何の光だったんだい」


 暇なのもあってシモンが聞いてきた。


(そう言うたらあの変な穴から落ちるときに左手で穴の縁掴んで、その拍子に縁が破れたんやったなぁ。ビリビリと破れていって完全に切れてしもた途端に強烈な電気ショックみたいなんが来てそれからあとは覚えとらん)


「なあ、どうだったんだ」


 勇人がその時のことを思い出していると、黙っているのを不審に思ったのかシモンが再度聞いてきた。


「あ、いや、光のことは覚えてないんだ。あの時の僕が最後に感じたのは雷に打たれたようなショックだ。そのあと気が付いたのは今年の三月だよ」


「ユージンは本当はサミュエルさんより年上なんだろ。なぜ子供になったんだい」


「それについても、なぜそんなことになったのか分からない。記憶がなくなったのは子供になったからかも知れないね。子供の脳では僕の元の世界での記憶をそのまま覚えているだけの容量がなかったから身体が記憶を圧縮して脳の隅っこに置いたのかな。それで成長して脳が元の記憶を入れるだけの容量が出来たから記憶を戻して、ここでそれまでユージンとして生活してきた記憶を圧縮したのかもしれないね」


「脳って何だ」


 アビーが割り込んできた。彼女はこういう話には必ず首を突っ込んでくる。


「イノシシでもシカでもウサギでも頭の中に白い塊があるだろ。あれが脳だよ。人にもあるんだ。そこで考えたり、覚えたり、身体を動かしたりするんだ」


「嘘だ。そういうことは心臓がするんだぞ。だから心臓が止まると動物も人も死ぬんだ。町の孤児院の司祭様が教えてくれたぞ」


「確かに俺もそう教わったな」


 (ありゃあ、ここはそう言う世界なんや。江戸時代やな)


「心臓はね。血を体中に送り届けるポンプなんだ。だからそこが動かなくなると身体に血が回らなくなって死んでしまう。ついでに言うと血は食べ物から摂った栄養分、身体を動かすもとになるものや、肺から取り込んだ空気を筋肉や内臓に送り届けるものなんだよ。僕の居た元の世界ではそういう事が確かめられている」


「ふうん。ユージンの元の世界では身体のことが解ってるのか」


「全部じゃないけど、基本的なことは解ってるらしい。僕は詳しいことは知らないけどね」


「そうか。お前の知ってることをリーアに教えられるか」


 アビーがえらく食いついてきた。食いつくのは何時ものことだがなぜリーアなんだろう。勇人は少し違和感を覚えた。


「僕が受けた教育とは内容が全く違うから極々基本的なことしか知らないけどそれで良ければ教えるよ」


 (ところで、左手で千切ったあれ、どうなったんやろ。穴から落ちたら困る思うて結構強う握ったさかいほかしてしもたとは思えんのやけど、左手に残って・・・はおらんわなぁ)


 そう思いながら勇人は自分の左手を見た。するとどうだろう、今まで何も無かった左の掌からあの時裂けたのと同じ形の何かが出ているのが見えた。

 「シモン、アビーこれを見てくれ」


 「うぅっ。青臭い」


 いつの間にか勇人の傍に来ていたアビーが手の臭いを嗅ぐと顔を顰めて唸った。


「何を見るんだい。ユージンの汚い手しかないけど」


 勇人が左手で握った穴の切れ端をシモンの目の前に突き出すと、シモンはそう言いながらも目の前の空間を探ろうと手を伸ばした。


 「あぶない」


 勇人は咄嗟に大声を出したが、シモンはそれに構わず穴の切れ端のある空間を弄った。


 「何だ、これ。見えないけど硬いものがある」


 あの暗い不思議空間とこちらの世界の境界を成す「何か」に開いた穴の縁である。ひょっとしたら空間を断ち切る、ついでにそこにある物を断ち切る力があるので手はないか、その切れ端を見たとき勇人は何となくそんな気がしていた。そのため勇人はシモンが手を出して弄ったときその手が切れると思ったので思わず大声を出してしまった。結果的にはそうならずにシモンが触れるだけで終わったことでホッとしたが、その反面ガッカリもした。


(そううまく刃物代わりにはならんかったんか)


 我ながら不謹慎だ、そう思いながら勇人はその何かを振り回した。土手の草が断ち切られて宙に舞った。斜めに振り回したそれは土手の土を深々とえぐった。何の手ごたえもなく、左手の何かは左手の命じるままに土に切れ目を入れ左手の命に応じて止まった。


 幸い年少組の子供たちは魚掬いに夢中で何も気が付いていない。シモンは固いものがあると感じただけ、アビーはそれを聞いただけで二人とも草や土が切れたことには気付いていないようだ。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 勇人は何時ものように年少組が掬った魚を選別すると彼らに道具を倉庫に仕舞うように言い、選別した鯉を台所に届けた。シモンはそのまま稲木立てを手伝いに行こうとしたが勇人はそれを止めた。


「シモン、ちょっと林まで付き合って欲しい」


 そう言うと勇人は林に向かって歩き始めた。アビーは何も言わずについて行く。


「わかった」


 勇人の真剣な表情を見て何かあると感じたのかシモンは言葉少なに答えると勇人の後に続いた。


 勇人は開墾地と林の間に広がる切り株だらけの土地に入ると今度は一つの切り株を縦に何度も切りつけた。その度に切り株を分ける切り目が入って行く。次にその切り株の周りの土に斜めに切り込みを入れ始め、その周りを一周するように切り目を入れた。最後は切り株を地面ギリギリのところで水平にカットしてみた。これで切り株はバラバラになったはずだ。


 シモンはその作業を可哀そうな子を見る目で見ていた。それはそうだろう、勇人が開墾予定の土地に入るとやおら切り株の周りを回りながら手を上下左右に振りだしたとしか見えなかったのだから。シモンからすると気が触れたと思うしかなかったのだ。


 勇人は作業が済むとシモンに声をかけた。


「シモン、切り株が切れてると思うから、虚空庫に収納してくれよ」


「何言ってんだ。切り株の周りで手を振ってただけじゃないか」


「あ~、チョット効率の良い土魔法を身に付けたって思うんだ。出来るのは土魔法の中でも【切断】だけだけどね。今それで切り株を切ったんだよ」


「勇人、お前なあ、植物や動物を切るってのは土魔法の中で一番難しいって言われているんだぜ。石や土を切るのとは全く違うことなんだ。チュードのお前に出来るわけないだろう。魔法が使えないって分ってショックなのは分かるけど夢みたいなことを言うなよ。現実を見てどうするか考えないとみじめになるだけだぜ」


(まあ、シモンがそう言うのも無理ないわ)


 勇人は切り株の前に屈むとさっき切った切り株の一片を持ち上げ、シモンに放った。


「さあ、虚空庫に入れておいてくれ、ついでに残りも頼む」


 シモンは一瞬ポカンとしたが、慌ててそれを受け止めると収納魔法を使って虚空庫の中に入れた。それから言われたとおりに切り株の他の部分も次々に収納してゆく。切り株の上部を割ったものは問題なく収納できたが、根の方は土もついており、それを払うだけ少し面倒な作業になった。だが切り株を掘りおこすことから考えれば何でもない。見る見る間に切り株は根ごと無くなり、小さな穴が空いているだけになった。


「どうも僕は土魔法が使えるようになったらしい」


 隼人は暫く考えて、今手に入れた能力を対外的には土魔法と強弁することにした。ただ脳内では本物の土魔法と区別するために仮に【次元刀】と呼ぶことにする。

 

 まず最初に勇人はさっきの出来事で分かったことを整理してみる。


 【次元刀】は自分には薄い色がついたガラスのように見えるが、シモンには見えていないようだった。つまり自分にしか見えないと考えて良い。これは土魔法と強弁するのには甚だ都合が良い。


 最初【次元刀】を振り回したときには切ることは全く意識の外だったから、草や土手つまり植物でも無生物でも切ることを意識しないで切断できるのは明らかだ。土やそれに含まれていたはずの石も同じだ。それに切るためにほとんど力は必要なかった。少なくとも勇人が感じるほどの力は使っていない。切れ味抜群というか神器レベルの切れ味だった。そう言うものがあるとすればだが。


 シモンの手が【次元刀】に当たったとき、勇人はシモンの手が切れると思ったが、現実には手は切れず、シモンは固いものに当たったという認識だった。


 このことの説明は次のどれかだろう。

 【次元刀】は、

 一、動物は切れない

 二、生きている動物は切れない

 三、勇人が切ってはいけないと認識したものは切れない

 四、勇人の認識の有無を問わず、切ってはいけないと考えているものは切れない


(一は台所で肉でも切って見ればええ。二ならその辺の昆虫切ってみれば分かるし、何ならそれで一も分かる。三は切ったらあかんと思いながら何かに次元刀をぶつければええんやから簡単なんやけど、四との区別がつかんなぁ。これ結構重要なんやけど、こればっかりは実験言う訳にはいかんし)


 隼人の分析方法がいい加減なのは文系仕様だ。切り株に座ったまま黙り込んでしまった勇人を見てシモンは痺れを切らした。


「土魔法ってか。土魔法では植物は切れないぞ」


「そうだ。土魔法は役立たずだ」


「僕の土魔法はちょっと変わってるみたいだ。植物も動物も鉱物も何でも切れる。でもくっつけることは出来ない」


 勇人はそう言いつくろった。もっとも動物についてはまだ検証していない。 ちょうどそこにいたバッタのような昆虫を切ってみる。問題なく切れた。これで二はない。たぶん一もないだろう。


「土魔法で出来るのは、土や石を切ることと、切り目を繋いだり、土を固くしたりすることだ。そのうち切ることしかできないのか」


「うん。その代わり植物や動物を切るのに土や石を切るのと同じくらいしか労力が要らない」


「土や石を切るのと同じ魔力で生き物が切れる。それは良いなあ」


「『魔力』か。まあそんなところだね」


「よし。林を切り開いて畑にしよう。芋がたくさん食えるようになるぞ」


 アビーが嬉しそうに言った。


「もう少し考えたいことがあるんだ。暫く待っててくれよ」


 次元刀は今は左掌から出ている状態だ。これを身体の他のところに移せるかどうか。まず右手に移そうとして色々と試してみたが左手から離すことはできなかった。


(左手で掴んでちぎったから左手にくっ付いてしもうたんやろなぁ。次は形とか長さを変えられるかどうかや)


 形については日本刀をイメージすると日本刀のような形に、包丁をイメージすると短くなって包丁のような形になった。だが西洋の直剣や中国刀をイメージしても変形しなかった。


(自分の知ってる物の形ならイメージするだけで変形するみたいや。実際に見た物だけで、絵とか写真で見ただけの物には変形させることは出来へんのやなぁ)


 次に長さを変えて見ると、「日本刀」は二メードルにまで伸びたがそれ以上は出来なかった。勇人は以前にとある城下町で戦国時代に使われていたと言う刃渡り二メートル位の日本刀を見たことがある。恐らくそれが日本刀でイメージできる最大の長さなのだろう。包丁は刃渡り三十センチ位にしかならなかったが、これもとある催しで見たマグロの解体ショーの包丁を思い出すと片刃の直刀のような刃物ができた。まあ出来たからと言って特別に意味がある訳ではない。


 鉄の棒のようなものは実物をよく知っているので問題なく再現できた。


 直刀にしたまま先を曲げてみるとこれは問題なく曲がる。


(曲がった直刀なんちゅう物は見たこと無いんやけど、ご都合主義の謎仕様やなぁ)


「俺はこんな量の物を長く入れて置けるだけの虚空庫の容量はないから、早く薪置き場に持って行かなきゃならないんだけど、その前に一度エラドさんに見せに行こう」


 確かにエラドに話してこれからどうするか方針を決めなければならないが、シモンやアビゲイルと同じで話だけでは本当にしてくれないだろう。「百聞は一見に如かず」だ。


 勇人が「そうしよう」と言うとシモンは先にたってエラドの所に向かった。

やっと勇人も魔法らしきものが使えるようになりました。長かった・・・

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