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異世界人は魔法を使えませんって、そら無いでぇ~  作者: 浪花翁
第一章 孤児院編
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025 コイのきせ~つよ~♪

本日は2話投稿しています


2話目は6時10分です

 そんな日々を続けて五月も終わりに近づいたある日、夕方に目を付けていた浅い場所でバシャバシャと波が立った。待ちわびていた鯉の産卵だ。


 念のため翌日ぱ一日水面を見張っていたが、水面の泡立ちはなかった。どうも一日で終わったらしい。この日の為に準備していた網代で産卵場所を大きく囲い始めた。そこで卵を産み付けられていた水草を持ち帰る準備をしていなかったことに気づいてしまった。


「アビー、悪いが孤児院まで戻って桶をここまで持ってきてくれよ」


 勇人はいつものように着いてきていたアビーに頼んだ。


 アビーは頷くと一人で孤児院の方へ向かい、暫くすると桶を二つ持って戻ってきた。そのころには網代で産卵場所を囲う作業も終わって勇人はアビーが返ってくるのを待ちわびていた。彼は礼を言って桶を受け取り、川の水を入れると卵のついた水藻を採取して桶に入れた。あとは少しでも早く孤児院に帰って孵化場に入れなければならい。勇人とアビーは桶を一つずつ持って孤児院に急いだ。


 孤児院の養殖池となった水路に着くと、その幅の半分を仕切って網代で囲い孵化場にした場所にそっと水藻を植え付ける。さて、これがいつ孵化するのか、最初の餌は何が良いのか。判らないことだらけだ。


 (判らんことだらけやけど、川で孵化したのを獲ってくるのが本命でこっちは予備やからまあ良えか)


 もともと川で繁殖している魚なのだから川で稚魚が成育できることは明らかだ。それを大量に入手するために産卵場所を網代で囲ったのだが、何か想定外のことが起こってそれが壊れた場合には稚魚は逃げてしまう。そんな万一の場合に備えて産卵した川藻の一部を持ち帰って孵化させる、それが勇人の考えだった。だから最低どちらかが上手く行けば良い。

 勇人は川藻を植え終わると傍でそれを見ていたアビーを振り返った。


「アビー、面白いかい」


「水草を植え付けるのは初めて見たぞ。鯉の餌か」


「いや。この水草には小さいけど鯉の卵がついているんだ。鯉が孵化したら食べるかも知れないけどな」


 アビーは興味深そうに水草を見ていた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 五、六日経つと孵化場に小さな稚魚が大量に孵化した。年少組がいち早く見つけて騒いでいる。


「ウジャウジャしてるよ」


「気持ち悪い」


「オタマジャクシみたいだけどよく見るとお魚だね」


 なかなか姦しい。あと林の中でムカデは平気で捕まえるくせに稚魚を気持ち悪いとは。


 勇人は孵化場の様子を見て、慌てて河原へ出てみた。こちらも稚魚が大量に孵化している。両方である程度まで生育させてこのままでどこまで成長するのか見てみよう。特に孵化場の方は昆虫粉で育つか様子を見るのも大切だ。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 それから二週間ほど経った。その間に孵化場の稚魚はかなり死んでしまい二、三千尾にまで減ったが、その辺りで昆虫粉でも餌に出来るようになったのか死亡率が下がってきた。河原の方は芋の子を洗うような状況だったので早い段階でかなりの個体を川の中に放流した。その後これまでの間に鳥に獲られたりしてだいぶ減ったが一、二万尾は残っている。


 勇人は目分量ではあるが、河原から七、八千尾を笊で掬って持って行った桶四つに分けて入れた。水も入っているので子供の身には一つ一つがかなり重い。


「アビー、桶を二つ持って上がってくれよ」


「桶四つ持ってきたってことは、最初っからオレを当てにしてたんだろ。手伝ってやるぞ」


「ははは。分かってたか。上には大勢いるからお前も仕事してるって見せつけるのにはいい機会だよ」


「オレはユージンの護衛係だ。いつもちゃんと仕事してるぞ。桶運ぶのは仕事外だから貸一つだな」


 そんな他愛のないやり取りをしながら二人で稚魚の入った桶を孤児院まで持ち帰って子供たちが見ている前で生け簀に放流した。


「ちっちぇえな、いつになったら食えるんだ」


 シモンが聞いてきた。


「ううん。僕も魚を育てるのは初めてなんで、何時頃と言われると困るんだけど秋には一人一匹くらい毎日食べられるくらいになってればいいなあ。それまでに数を減らさなければならないから、小さいのを間引いて焼いたり煮たりして食べられるとは思うけど」


「ふうん、意外と早く食えるんだな。こんなに小さいのに」


 これからやることと言えば、大きくなるのに合わせて目の粗い網代で区切った養殖池に移してやる。それと少しずつ間引いて行って、間引いたものは焼き魚にするかに付けてしまうかいずれにしろありがたく頂く。


 二十センチくらいになれば一人一尾で十分おかずになる。三十センチになれば二人一尾で十分だろう。一年でどのくらいになるかはやってみないと分からないが、この秋の時点で三千尾も居れば十分なのではないだろうか。




 コメの増産についてはまだ目途は立っていないが、塩水選、正条植え、水管理がうまく行けば来年秋には二、三割くらいは増産できるだろう。養殖で不十分ながら蛋白源の確保の目途も付いた。カロリー的にはまだ足りないが、開墾地も徐々に増えることだし、助祭から吐き出させた金で肉の代わりに芋を買えば何とかなるだろう。


 勇人の腹いっぱい食べるという夢は来年には叶いそうだ。


 (うん、コイの季節やな。イモでもええで。狙い撃ちや。ぱっくり行ったる)


「忘れられないの~あの(とと)が好きよ~黒い肌してさ髭が生えてた~私は右手に~鉄木の包丁~握って笑った~鯉の季節よ~♪」


 浮かれて鼻歌まで出る勇人であった。


「おい、なにニタニタ嫌らしい顔して変な歌、歌ってんだ」


「鯉が育って腹いっぱい食えると思ったら自然に笑いがでて止まらなかったんだよ」


 (イモでも良えけど、ガキはいらん)


 勇人はちょっと悲しくなった。女性と言ってもこの世界に来てから見たのは、汚いガキと腹黒い助祭と怖い聖司教だけなのだ。


 (十五歳になって街に出たらもうちょっとましな女に出会えるかも知れんし、その頃にはワイの大砲も『打ち方用意』になってるやろ・・・なってるかも・・・なってたらええなぁ)


 なんと言っても勇人は頭脳は(じじい)、体は子供(推定十歳)なのだ。枯れてるか咲く前か違いはあっても縁がないのは同じだ。


 あと三年もすれば何とかなるかしらん~

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