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異世界人は魔法を使えませんって、そら無いでぇ~  作者: 浪花翁
第一章 孤児院編
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022 捕った魚はオレの物

 翌日から、勇人は川に降り、目星を付けていた淵の近くの岩の上に陣取って流れを見続け始めた。鯉の産卵時期が分からないので見張り続けるしかないのだ。アビーはこの頃ずっと勇人に付いて回っていた。今も勇人の座っている岩の下で石に腰かけて川面を見ている。


「アビー、仕事をしなくても良いのか」


 何時ものようにからかいを込めてそう聞くと、


「お前の護衛がオレの仕事だ。川っ淵は危ないからな。お前こそ仕事もせずにこんな所で何をしてるんだ。エラドは知ってるのか」


 これまた何時ものように答えにもならない答えが返ってきた。おまけに逆ねじまで食わせて。


「鯉がいつ卵を産むか分からないから見張ってるんだよ。エラドに聞いたんだがエラドも卵を産む時期については知らなかったからね。ほんとはアビーか年少組にでも任せたかったんだけど鯉の産卵なんて知ってないと見分けられないだろうし、第一お前はぼーっとしてるだけ、年少組に任せたら昼寝をするか遊びまわるか、当てにできないからなぁ」


「それでチビどもは虫取りか」


「そうだ。まだまだ餌は要るからなあ。アビーも虫取りをしてくれるか」


「オレはユージンの用心棒だ。お前はいつも危なっかしいからな」


 先日虫に刺されて虫取りは懲りたらしい。


「よくそんなことが言えるな。この前のイノシシのときだって火魔法の狙いを外して、それからは何にもしなかったくせに」


「あれは共同作業だぞ。二人でやっつけたんだ」


 アビーは気色ばんでそう強弁した。外したのがよっぽど悔しかったのだろう。勇人は鼻で笑って川に向き直り淵の見張りを再開した。


(それにしても)暇やな。何かしとらんと眠ってまいそうや)


 淵については黙って見張っているしかないが、四六時中見ていなければならないものでもない。浅瀬で魚が跳ねる音が聞こえてからそっちを見るだけで十分だ。暇つぶしを何か用意すれば良かった、今更ながら自分の段取りの悪さに腹が立った。


 先日危ない目にあったがたまたま剣鉈を持っていて命拾いをしたので今回もそれは持ってきている。そのほかにも鉄木の穂先のついた孤児院の槍、組み立てを終えたクロスボウ、予備のナイフ、まさに完全武装である。その内の剣鉈を腰から抜いて眺め、頭の中でそれを使う練習を始めた。


「何やってるんだ」


 アビーが聞いてきた。勇人がやっていることは傍から見れば剣鉈を見つめているだけだったのでもっともな質問だ。


「イメージトレーニングをやってるんだよ」


「いめいじとれいにんぐ。何だそれ、食えるのか」


「食えるわけないだろ。イメージトレーニングってのは、頭の中だけで練習することだよ。アビーだって魔法の練習をするのにいつでも魔法を撃ってるわけじゃないだろ」


「何だ、そんなことか。オレは何時でも撃ってるぞ」


 そういうとアビーは十メートルくらい先の木に右手の人差し指を向けた。パッとアビーの手元と木が光り、木から薄っすらと煙が昇る。目を凝らすと木の幹に直径一センチくらいの穴が開いている。


 これがこの世界の魔法の怖いところだ。魔法が直接目標とされた場所で発動するので、火魔法や氷魔法で狙われたときに盾や遮蔽物で魔法の威力を減殺することはできないし、基本的に魔法使いと対象物との距離も意味がない。


 それでは魔法で狙われると逃げられないのかと言うとそうでもない。火魔法や氷魔法では発動させる場所を正確に知らなければ無駄玉になるからその意味では姿を隠す盾や壁のような遮蔽物はそれなりに意味があるし、距離についても目測なので遠くなればなるほど命中率は下がる。それに魔法の力が弱ければ例えば火魔法の場合、対象の温度を上げるのに時間がかかるので撃たれてから避けるということも可能になる。


 アビーの火魔法が凄いのは一つにはその温度を上げる時間が短い、つまりは魔力が極めて高いことと、それに付随して魔法が発動する範囲を広く取れることである。つまり有り余る魔力を縦長に投入することによって目測による距離測定が多少いい加減でも高い命中確率が得られるわけである。そのときに魔力は細長い線となって光る。これが【火箭】と言われる理由である。


「お前の火魔法、いつ見てもすごいな」


(まじ怖いわ。あんまりからかわんとこ)


「そうだろ。まあこの間のイノシシみたいにちょっと狙いが外れることは時々あるけどな」


 そう言うといつものように腰に手を当てて胸を反らせた。何度でも言うがないものはない。発育不良の九歳女児である。


 勇人はまた色々と試し始めた。アビーは暇そうにしていたが、林の木に向かって火魔法を撃ち始めた。


「おいおいアビー、林を燃やすなよ」


「そんなへまするか。今度やったら追放って言われてるからな」


(あっ、やったことあるんや。自白しよったわ。ここははスルーしといたろ、怒らせたら怖いし)


 イメージトレーニングにも飽きたので本当に振り回しだしたが、どうにも様にならない。やはり専門家に習わないとだめなようだ。こんどエラドに頼んでみよう、そう決意すると勇人は今度は岩を降りてクロスボウの練習を始めた。


 川の土手が土壁になっているのでそこに的になる円を描いて、最初は二メートルから始め、約二十メートルになったところで止めてしまった。何せ命中率が高いのだ。数回練習すると二十メートルでもほぼ的の中心に中てることができるようになった。


 石弓の良いところは銃器と違って弓の中で作用と反作用が拮抗するので反動が腕に及ばないところだ。そのためボルトが直進する範囲では銃器より遥かに命中率は高い。弓でも同じことが言えるが、弓は狙いをつけること自体に技術を要する。


 その点発射にほとんど技術を要しない石弓は反動がないという利点をフルに享受する武器だ。さすがに中世ヨーロッパで異端の兵器とされただけのことはある。その辺の女性や子供に持たせて柵の内側に並べただけで全身鎧の騎士を倒せる戦力になるのだから騎士即ち貴族にとっては許しがたい兵器だったのだろう。


 あとはやることがない。槍を持ち出して魚を突いてみることにした。少し川下におあつらえ向きの瀬がある。点在する岩陰の淀みに魚が居そうだ。勇人は川に降りて流れを見続け始めた。


「魚突いてるのか。オレもやるぞ」


 勇人が三十分も魚を突こうと頑張っていた後のことだ。いつの間に用意したのか槍を手にしたアビーが水音が立つのも頓着することなく近寄ってくる。せっかく見えていた魚影が一瞬で消えてしまった。勇人は思わず舌打ちをした。


「アビー、いつの間に槍を用意したんだ。確か来るときには持ってなかったよな」


「おう。今作った。この先に鉄の木があるからな。それで槍穂を作って、竹の柄にくっつけた。魚突くくらいならこれで十分だぞ」


 アビーはそう言うと少し離れた場所に陣取って魚影を追い出した。暫くするとその槍が一閃し、引き上げた時には槍の先には胴を貫かれたヤマメらしい魚が付いていた。アビーはそれから三十分くらいの間に合計五匹もの魚を突いた。対して勇人は何度も魚影を見ては突いてみるが空振りばかりしており、未だ坊主である。


「帰ろうか。今日は鯉も産卵しそうにないし」


「少し待ってろ。もう一匹取るぞ」


 アビーはそう言うと五分ほど水面を見つめていたが、突然に槍を水中に突き入れた。引き上げると魚が一匹穂先に付いている。


「アビー、一匹取ったからもういいだろう」


「これで六匹だ。チビどもに一人一匹食わせるぞ」


 勇人の言葉に、アビーは今取った魚を笹竹に刺し、それを掲げて得意顔で応じた。


「それじゃあ、帰ろうか」


「おう。今日のは共同作業じゃないぞ」

見出しは「お前の物はオレの物、オレの物はオレの物」のもじりです。

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