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異世界人は魔法を使えませんって、そら無いでぇ~  作者: 浪花翁
第一章 孤児院編
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020 「初めての共同作業です」て、ないわ~

今日、二話目の投稿です

 あきれて先に孤児院に帰ろうと、勇人が小道を上がり始めたときだった。五十メートルほど先で藪が不自然にガサガサと揺れ、下生えの陰からイノシシが顔を出した。大きさは元の世界で見た大イノシシの剥製くらいなので、ここでは大きい方ではないのだろう。それでも十分な迫力だ。身体に似合わず小さな目でこちらをじっと見ている。何となく強い憎しみが宿っているように感じた。


 勇人はアビーに注意しようと後ろを振り返ったが、アビーも既に気が付いていたようだ。右手を指鉄砲のように構えている。


「来るぞ。二十間くらいまで来たらオレが【火箭】で心臓を狙う。走ってる奴に中てるのは難しい。たぶん外すぞ。でも左足は死ぬから走るのは遅くなる。お前はぎりぎりまで近づいたら横跳びをして剣鉈で首を切り落とせ」


 (無茶苦茶言うわ。外すの前提てなんや)


 勇人はイノシシの方に向き直って剣鉈を振り上げながら言った。


「逃げるのは」


「無駄だ。追いかけて来る。足は奴の方が早いぞ」


 そんな問答をしながらも目は離さない。前足で二、三度地面を引っ搔いたかと思うと、イノシシは走り出した。いきなりのトップスピードで突進してくる。三、四十メートルまで来た時にアビーの指とイノシシの肩甲骨辺りがピカッと光った。【火箭】を放ったらしい。


「外した。あとは頼むぞ」


 アビーはそう言うと斜め後ろに跳んだ。


 (おいおい。結局ワイ任せかいな。ギリギリ言うと、剣鉈なんて長さ三十センチくらいやで、そのくらいで右に跳んで横から首を狙うて袈裟懸けやて、無茶言うわ)


 勇人は弾き飛ばされては大変だと思い、右手に持った剣鉈に左手を添えて日本刀のように構えた。一足一刀の間合いなどと言うがこれは剣術の達人に言えることで、素人は突進してくる猛獣に対してそこまで我慢できるものではない。まして日本刀より遥かに短い剣鉈である。

 十メートル、七メートル、五メートル、四メートル。勇人にはイノシシが二メートルにまで迫っているように感じてこのくらいならと読んで左に跳んだ。横から首筋に切りつけるつもりだった。だが慌てているのでかかとが石に掛かってしまい、仰向けにすっ転ぶ。


 イノシシは勇人の動きを見て勇人の方へ向き直るために急制動をかけた。勇人は倒れたまま右手のみでめったやたらに剣鉈を振ったが、そんな攻撃が中るはずもなく剣鉈は空しく宙を切っただけに終わった。


 イノシシは勇人の方に向き直り、牙を下げて勇人を下からかち上げようと迫ってくる。土を跳ねのける強力な下顎と牙を攻撃の手段に用いるのはイノシシ得意の戦術だ。勇人は遮二無二剣鉈を振り回した。その一閃が奇跡のようにイノシシの頸部を捉え、頸動脈を奇麗に断ち切った。


 イノシシの血が雨のように降りかかり作務衣が血まみれとなった。そればかりではなくイノシシの巨体が勇人の下半身に圧し掛かる。十歳の子供に二百キロ近い巨体が圧し掛かったのだ、勇人の右足から聞こえてはいけない音が聞こえ、激痛が襲った。アビーが駆け寄ってきて心配そうにのぞき込んだ。


「大丈夫か」


「んな訳ないだろ。右足が折れたみたいだ」


 アビーの問いに痛みを押して答える。


「すぐに助けを呼んでくるから獲物の番でもして待ってろ。二人の初めての共同作業だな」


 (何が共同作業や。こいつは役にもたたん穴開けただけやないか)


「怪我人に獲物の番させるのか」


 勇人は痛みに悶えながら、やけくそ気味に怒鳴った。


「このあたりにこいつを餌にするような獣は出ないから大丈夫だ。せいぜいタヌキかカラスくらいだぞ。いいか、二人の共同作業だからな」


 アビーはケガもないので余裕でそういうと、ニタリと笑って山道を駆け上って行った。如何にも何か企んでいそうな嫌らしい笑いだ。


 (ワイに惚れとる言う線はない、そんなこと考えとうもないわ。とすると手柄が欲しいんか。まあ現物見たら役に立ったかどうかくらいはわかるからな。所詮はガキの浅知恵や)


 それにしても痛い。勇人はこの年になるまで骨折を経験したことが無かったのでこんなに痛いものだとは思っていなかった。だがそれにも増して心配なことがある。それは治るかどうかである。ここの医療体制がどうなっているのか詳しいことは分からなかったが、孤児が医療対象の最底辺にあることくらいは予想がつく。治癒魔法というのがあってリーアがそこそこ使えるという話だったが、複雑骨折をしていた場合に細菌感染まで防げるのかは未知数だし、治癒魔法で骨が曲がったまま固定されてしまうのも困る。なるようにしかならないことは分かっていても、これから数十年の生活に影響するのだからどうしても悪い方に考えてしまう。憂鬱な気持ちになるのは仕方がないことだ。


 あまりの痛みに気を失ってしまったので、どのくらい時間が経ったのか定かではないが、気が付くと人が何人か山道を駆け下りてこちらに向かっていた。


「おおい、ユージン。無事か」


 先頭を走っているのはエラドらしい。野太い声が聞こえた。


「ううっ。無事なわけないだろ。足の骨が折れたみたいだ」


 (何で、みんな同じこと聞くんや。イノシシに突進されて無事なわけないやろ)


 見るとエラドとアビーの他にタミールとウジそれにリーアが来ていた。


「とりあえず、手当をしてみるわ。イノシシをどけてちょうだい。ユージン、どこが痛いの」


 リーアは勇人の倒れているところに着くと早速にその脇にひざまずいて周りに指示を出した。彼女の言葉にエラドとタミール、ウジが三人がかりでイノシシを勇人の身体から(のけ)る。


「あっちこっち痛いけど、右足が一番だ。膝の下の骨が折れてるみたいだ」


 それを聞いてリーアは勇人の右脛に手を当てると撫でるように少しずつ下へ手をずらしていった。手が微かに光っている。魔法を使っているようだ。そしてそれが済むと他の所にも手を当ててざっと光を当てた。


「右足の膝と踝の間、丁度真ん中辺りで太い方の骨が折れてるみたい。折れた場所がズレてるからそれを元に戻してから治癒魔法をかけないと後で歩くのが不自由になるわ。あとは打撲があるくらいだから放っておいてもだいじょうぶ。ここでは治療できないから教会まで運んでね」


 (このまま治すと後遺症が残るいう事か)


「よし、わかった。タミールとウジは添え木と担架の準備だ」


「オレとユージンが二人で倒したイノシシはどうするんだ」


 (こいつまだ共同作業って言い張んのか)


 その言葉に、エラドは持っていたナイフで勇人が切った頸動脈とは反対側の頸動脈を切った。


「これで当面の血抜きはできるから、ユージンを孤児院に運んでからもう一度ここに来て本格的にやろう。リーア、添え木を当てくれ。タミール、ウジ、添え木が当たったらユージンを担架に乗せろ」


 勇人は担架に乗せられ、エラド、タミール、ウジの三人がかりで孤児院に運ばれた。孤児院では倉庫の作業台まで運ばれ、そこで治療を受けた。三人がかりで右足を上下から引っ張ってリーアの指示で断面を合わせる。なさけないことだが勇人はあまりの痛さに再度気を失ってしまった。


 気が付くとアビーとリーアが傍で見守ってくれていた。


「治癒魔法が効いたからもう心配ないわ。もうすぐ夕飯だから食堂へ行きましょう」


 リーアがとんでもないことを言った。

見出しは、結婚式でのケーキ入刀での定番の導入言葉なんですが、今では知らない人が多いのかも。

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