019 豚も煽てりゃ木に登る
短いので020話を10分後に投稿します
マルカを拾ってアビーを捜すと、アビーは田圃を見渡せる土手に座って所在無げに遠くを見ていた。
「アビー、田圃を見てて何が面白いんだ」
勇人がそう言うと彼が来たのに気付いたアビーは座ったまま顔だけで振り返った。
「田圃を見てるんじゃない。村は面白いぞ。人がアリンコみたいに働いてる」
(なんちゅうこと言うんや。まあゴミ言わんだけましか)
「人を蟻に例えるもんじゃないぞ。傲慢に思われる。それとお前も蟻のようにとは言わないけどみんなと同じくらいは働けよ」
「働いてるぞ。オレは敵が攻めてこないか見張ってる」
「どこの要塞だよ。こんな教会、誰が攻めるんだ」
「助祭が小金を貯めてる。きっとそれを狙うやつが出てくる」
(助祭が教会や孤児院に使うための金をがめてることは知ってんのや。こいつが知ってるくらいやからここじゃ有名な話なんやな)
「助祭が貯めてる金を奪われたってかまわないだろ」
勇人がそう言うと、アビーはこいつ何言ってるんだと言うような顔をした。
「助祭は構わない。孤児院の仲間が傷ついたら困るぞ」
(いつも不関旗揚げとる思てたけど、此奴なりに仲間思いなんや)
「怠ける言い訳は堂に行ったもんだな。まあいいや。今日も手伝ってくれるか」
「いいぞ。今日は何をするんだ」
「河原に行って石で薬研と石臼を作るつもりだ。その間の護衛を頼む」
「昨日作った網代は使わないのか」
「ああ、網代は他の子供たちに頼んでいる虫が集まってからだ。本格的に使うのは鯉が卵を産んでからだな」
アビーが重い腰を上げながら聞くので、勇人は網代を使う予定について話した。
「なら、オレも虫取りをするぞ。入れる袋を取ってくるから少し待ってろ」
そう言うとアビーは倉庫の方に走って行った。どうも自分が手伝って作った網代が使われるところを早く見たかったらしい。
(普段は我関せずやのに興味がわくとすり寄ってくるて、猫みたいな奴やなあ。ワイは犬派なんやけど)
勇人も倉庫へ行くと自分の荷物から山刀を出して身に着けた。何となく今日はこれが必要な気がした。そのあと勇人はアビーには構わずマルカを連れて河原へと向かった。どうせすぐに追いついてくるだろう。案の定アビーは走って勇人を追いかけてきた。
「待ってろと言ったぞ」
アビーは少しだけ息を弾ませながら咎めるようにそう言った。
「アビーの方が足が速いからな。追いついてくると思ってた」
「うん。オレは【迅速】も得意だからな。マルカは土魔法だけだぞ」
勇人が少し持ち上げるとアビーは得意げに胸を張った。手には何やら薄汚れた袋と鉄木製のナイフを持っている。
「そんなことないよ。【剛力】も使えるよ、ちょっとだけど」
マルカは不満そうだ。勇人はちょっとフォローした。
「今日はマルカに大活躍してもらうんだ。わざわざこっちへ回ってもらったんだからな」
ついでにアビーもフォローする。
「アビー、虫なら何でもいいからな。ついでに殺しておいてくれると後が楽で助かる」
アビーは勇人と並んで歩きながら、彼の言葉に頷いた。マルカは嬉しそうだ。暫く歩くと河原に出た。もう何度かここに来ていたので様子は分かっている。
勇人は以前から目を付けていた固そうな石を指して言った。
「マルカ、今日はこれを使ってまずこんなものを作ってくれ」
そう言うとあらかじめ書いていた薬研の図面を見せる。
薬研は薬研車と研槽の二つの部品からできており、研槽には磨り潰す材料を入れる溝が彫られている。また薬研車は縁が鋭く尖った円盤状のもので中央に心棒を通す穴が開いている。研槽に薬種を入れて薬研車で磨り潰すのが本来の使い方だが、勇人は乾燥させた虫を叩いて適当な大きさに砕き、薬研で大きさを揃えながら細かくしてゆき、最後は石臼で粉末状にする予定だ。石臼は孤児院にもあったが麦を挽く臼で虫を挽くのはさすがに憚られた。
マルカは思ったより遥かに手際よく薬研と石臼を作って行き、昼前には薬研二組と石臼二組が出来ていた。
「腹減った。帰ろうぜ」
その頃になると虫取りをしていたアビーも林から出てきて昼飯アピールをした。なんか変な踊りをしている。ああ、虫刺されか。
「アビー、マルカ、作った薬研と石臼、【虚空庫】で孤児院まで運べるかな」
「おう。オレは【虚空庫】も得意だからな、このくらいなら六時間は入れて置けるぞ」
アビーはそう言うと、薬研などを虚空庫に入れ始めた。
(薬研も石臼も重さはそれなりやけど、体積は言う程有らへん。アビーの【虚空庫】は言う程やないな)
「あたいはダメだよ。薬研と石臼作ったら魔力なくなっちゃった」
マルカはいかにも疲れた顔をしている。
「マルカ、疲れてるみたいだから先に帰っていいよ」
勇人がそう言うとマルカは頷いた。
「そうする」
言うが早いか山道を孤児院の方へと走って行ってしまった。アビーが収納し続けているので勇人は少し持ち上げておこうと思った。
「いやあ。助かるよ。アビー様々だな」
「そうだろ。ついでにその辺の石も持って帰るか」
そう言うとアビーは頼まれてもいない大石を虚空庫に入れ始めた。
(ブタも煽てりゃ木に登るやな。やりすぎやけど)
あきれて先に孤児院に帰ろうと、勇人が小道を上がり始めたときだった。五十メートルほど先で藪が不自然にガサガサと揺れた。
見出しの出典は意外なことにはっきりしないんだそうです。




