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異世界人は魔法を使えませんって、そら無いでぇ~  作者: 浪花翁
第一章 孤児院編
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015 助祭のお誘い

色っぽい話では全くありませんでした。十歳の男の子を捕まえてそれはないでしょうがwww


少し短いので午前6時10分に016話をアップします。

 ユージンとエラドとの話が終わるや否や助祭がユージンに話しかけてきた。


「ユージン、エラドとの話は終わったかしら。これから勉強会ですけど、その前に少しお話したいことがあるの。このまま私の執務室まで来て下さいな」


(何やここでは話でけんことかいな。面倒くさそうやけど無下にするわけにもいかんやろなあ)


「分かりました。エラドとの話は終わったのですぐに行きましょう」


 勇人がそう答えると助祭は頷いてニコリと笑顔を見せ、教会へと続くドアに向かった。勇人はその後を付いて行った。助祭は教会にある自分の執務室に戻ると勇人を招き入れた。室内には贅を尽くした執務机と応接セットがあり、暖炉が赤々と燃えている。


(なかなか贅沢しとるな。ワイらには節約、節約言うて煩いくせに)


「食後のお茶を淹れるので座って少し待っててね」


 助祭はソファを指してそう言うと茶を淹れる準備を始めた。勇人は言われるままに遠慮なくソファに座る。彼が茶を淹れる助祭を見ていると、彼女は貴族のお嬢様らしい優雅な所作で、陶製のポットに水差しの水を入れ、それを小さなコンロのようなものに乗せてスイッチを入れた。そして別のポットに茶葉を入れ、カップのセットを二組用意した。ポットもカップも見るからに上等そうである。


(貧乏貴族と聞いとったけどさすがは貴族のお嬢様やな。茶の入れ方は上品やし使うてる器なんかも見るからに上等品や。それにしても、ポット乗せてスイッチみたいなもん押したんは湯沸かし器かいなあ。火が点いたようには見えんけどあれでお湯が沸くんやったらまるっきりIHヒーターやな。電気はない世界やし魔法で沸かしとるんならあれが魔道具ちゅうもんか)


 勇人がそんなことを考えているうちにお湯が沸き、助祭はそれを茶葉の入ったポットに注ぐと暫く待ってから二組のカップに注いだ。


「さあ、遠慮なく飲んで頂戴な。これは実家から送られてきたお茶で、サミュエルふぜいではとても持ってこれない茶葉よ」


 そう言いながら助祭はカップを勇人の前に置いた。


(紅茶か。ワイは緑茶かコーヒーの方がええんやけど)


 そう思いながらも久しぶりのまともな飲み物である。勇人は遠慮なく頂くことにして口をつけた。


「確かに美味しいお茶ですね。それに入れ方も手馴れておられる」


 勇人がそう褒めると、助祭はちょっと嬉しそうにして手を口に当てて笑った。


(ちょっと上から目線でマウント取りに行ったんやけど気付かへんのか、気付いてて気付かん振りしてんのか)


「どう。ここでの生活には慣れたかしら。あなたが暮らしていた上の世界とは随分勝手が違うのでしょうね」


「僕は自分で稼いで生活していたからそもそもここでの生活と比べるのがおかしいけど、元の世界にも孤児は居たし、孤児院の様な施設も有りましたよ。でもここよりはずっとマシな生活をしていると思います。まあ、そもそもここでの平民の生活が分からないので基準になるものもない。これでは比べようがないので孤児院がどうと言ってみても詮無い話ですが」


「そうですか。それではこことは子供が受ける教育も随分違うんでしょうね」


(そっちに来るんかい。たぶん算数の勉強会でも押し付けるつもりなんやろな)


「ええ。元の世界では国によって教育の制度も受けられる教育の程度も違いますが、僕の居た国では六歳から九年間は国民の権利として教育が受けられます。それからほとんどの子供が更に三年間中等教育を受け、更にその後かなり多数の子供が二年から六年の高等教育を受けます。人によってはそれから更に進学して二年から五年の間、主として研究者となるための専門教育機関で勉強をします」


「それであなたはどの程度の教育を受けたのかしら」


「僕は四年間の高等教育まで受けました」


「素晴らしい経歴ね。あなたはこの国の教育がどうなっているかご存知かしら」


「いいえ。僕の感覚ではここへ来てからまだ一月(ひとつき)しかたっていませんから」


「それもそうね。この国では国が教育を行うことはないわ。ここの領都くらいの街になると教会が領民の子供向けに読み書き算術の教室を開いていて、誰でも格安、子供なら無料で受けられるわ。それより小さな村や町になると読み書き算術できる人が個人塾を開いて教えたりしているの。商人や職人は自分たちの子供や徒弟に、職業上必要な知識とともに読み書きや算術を教えているし、私達のような貴族はそれぞれ親や家庭教師が貴族として必要な知識や教養を身につけさせるの。教団の修道院に入った人は教団が必要な教育を施して助祭や司祭を養成しているわ」


「この村はどうなっているのですか」


「この村では私の前の助祭様が村の集会所で教室を開こうとしたのですが、親たちが子供を教室に行かせるのを嫌がって殆ど子供が集まらなかったと聞いています。どうも昼間の教室ということで働き手が減るのを嫌がったらしいのです」


(農村では子供も立派な働き手やからなあ。日本でもワイの小学校の頃には農村の小・中学校では田植え休み言うのがあって、田植え時期に何日か学校が休みになった。ワイの家は農家やなかったさかい友達誘うて遊びに行こ思てたらみんな家の手伝いで一緒に遊べる(もん)が居らんかったわ)


「ですが本当は農家でも読み書きや算術は必要なのです。読み書きができないと騙されて不利な証文にサインさせられてしまいますし、作物を売っても代金や相場をごまかされたりします。領主様の布告が読めなければ読める村長や村役の良いように内容が捻じ曲げられかねません」


「それはそうですね」


(話が段々具体的になって来よったなあ)


「孤児たちにはもっと教育が必要なのです。成人した孤児たちの殆どは安定した職に就けずに魔猟士になってしまいます。魔猟士でも依頼票を読んだり、獲物の相場を見たりするのに読み書きは必要ですし、獲物の買取値段は獲物の種類や重さによって変わるので、提示された買い取り金額が正しいか否かを判断するのには少なくとも初歩の算術が要ります。また貴族に対する礼儀作法や商人や職人との交渉の仕方、はては国の地理も必須でしょう。


 商家の勤め人や職人の徒弟などの安定した職に就ける者も少数ながら居ますが、礼儀作法、交渉術とともに読み書き、算術ができればその就職率も上がるはずですし就職後の待遇も良くなるでしょう。


 私がすべてを教えられれば良いのですが、私も忙しい身なので毎晩教室を開いて教えるわけにも行かないのです」


(予想通りの展開やな。たぶん苦手の算術を押し付けるつもりや。苦手やから頼む言うのはプライドが許さへんので色々前振りした言う訳やな)


「それで、上の世界で高等教育を受けてきたあなたに少しだけ肩代わりをして頂きたいのです」


「それで何を肩代わりすれば良いのでしょうか」


「あなたにこの国での礼儀作法、交渉術や読み書きや地理をお願いするのは荷が勝ちすぎると思いますので、算術をお願いしたいと思っております」


(まあそうなるわな。確かに礼儀作法と地理は無理やし、交渉術もワイは総務畑ばっかりやったでそもそも自信ないわ。まして交渉言うのは礼儀作法とからむからなあ。それに読み書きはここの子供と同じレベルやし消去法で算術と。


 この助祭はんのいっちゃん苦手な分野みたいやし。このままやったら足し算、引き算もできずに成人言うのがオチになり兼ねん。これ見過ごすのも何やしなあ。でもなあサミュエルさんからの金をため込んでる強欲女に良いように使われるのもしゃくや)


「算術を教えるのは吝かではありませんが、日当は幾ら頂けるのでしょうか」


 勇人がそう言った途端に助祭の顔つきが一変した。

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