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131 また会う日まで~♪



 それからは忙しかった。まずヨナは従士二個大隊と共に帝城からネリア皇女別邸に移動して、従士大隊が防御を固めた。


 その間に勇人は近衛連隊の練兵場に赴き、そこに【亜空間庫】から近衛兵たちを出した。兵士たちは非番で就寝中だったり、待機中に暇つぶしをしていたり、任務で巡回や立ち番をしていたところで急に昼間になったので訳がわからず呆然としていた。


 だが、元老院議長本人が登壇してキシェフ侯爵が失脚しネリア皇女の謀反の疑いが晴れて摂政に就任する予定であると状況をかいつまんで説明した。


 そして、そのうえで近衛兵に持ち場に戻るよう命じると納得はできないものの、頭をかしげながらも彼らは各自の持ち場にもどった。もちろん勇人の【亜空間庫】に入っていたことは殆どの者が気付いていない。


 元老院議長は薄々勇人が特殊な「魔法」を持っていることに気がついてい

が、その場では何も言わないだけの分別はあった。


 それから勇人はヨナの護衛についた二個大隊を除いて領兵を全部【亜空間庫】に収納した。彼らは勇人がテレビジア領に帰還してから、そこに出す予定だ。


 一方、元老院はネリア皇女の冤罪を宣言するとともに、それに関連するキシェフ侯爵の皇女署名文書の偽造について皇族署名文書偽造の罪で告発した。


 更に皇女を摂政に任命する旨の建議も行った。これについては偽造された文書とそれを偽造と判断するために作成された書類一式、真偽判定官リアット聖司教の虚偽陳述は無かった旨の報告書を添えた証言録が貴族院内で公開されたため、速やかに承認された。


 摂政に就任したヨナはキシェフ侯爵の宰相職解任とエラザール皇太従弟の宰相任命を行い、これらについては貴族院で満場一致で同意が得られた。


 キシェフ侯爵自身については、摂政から同人に対して伯爵位への降爵及び減封が言い渡され、それについては貴族院の同意がなされた。


 ヨナとしては爵位を剥奪して処刑したいところだったが、貴族院内部にキシェフの与党が多く、その内容では同意がえられそうも無かったのでやむを得ず降爵、減封に留めたのだ。


 ヨナによると、エラザールは宰相就任を依頼されて呆れ顔をした。


「俺としちゃ、皇太従弟の地位もあの子が成人して世継ぎが生まれるまでの当て馬だって思ったから引き受けてるんだ。それを宰相だと。冗談じゃねえや。ネリア、お前がキシェフと同じように両方兼ねれば良いじゃねえか。俺は遊んくで暮らしてえんだよ」


「お主、そう言う腐った心根をしておったのか。そこまで言うのなら我が摂政を兼ねようぞ。ただしそうなったらあの子に世継ぎができた途端にお前を廃嫡して家財一切没収のうえ、何が何でも庶民に落としてやるからな」


「そ、それは止めて欲しい。お前が言うと冗談には聞こえねえ。お前の摂政の肩書が取れるまでは名前だけでも宰相を務めるから、それで勘弁してくれ」


 などというやり取りがあったとか無かったとか。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 勇人は帝都での自分の役割が終わると宿を取った。別にアビーといちゃつくためではない。少し未練はあったが。


 彼はアビーとリーアを出した。


「二人とも聞いて欲しい。僕はキシェフ侯・・・伯爵の件で自分の能力を見せ過ぎた。


 一つは【亜空間庫】に生き物が入れられ、中の時間が停まっていること、これは僕の分隊仲間、リーアは出会ったことなかったね。ヨナと他にジェシーという森人、ガブルという山人がいるんだけど、この三人にしか話してない。


 もう一組僕たちの分隊が懇意にしている『天使の羽根』っていう分隊員も話してはいないけど察してる。でもそれ以外の人は知らなかったはずだ。


 二つ目は【そこまでドア】の能力だ。これについてはお前ら二人しか知らなかった。ラフィアディアに出てからこれだけは注意深く使ってたから。


 でもヨナがキシェフ伯爵に狙われ続けて、逆襲に出るって決意してからは、二つとも思いっきり使ってしまった。


 テレビジアでは諜報隊長と従士長には話したし、諜報部隊員も知ってる。運んだ兵隊たちの中にも聡った者は何人もいるだろう。


 同じことは元老院議長や近衛兵にも言える。議長は明らかに知っているし、近衛兵の中にも気付いた者は多いだろう」


「それがどうしたってんだ」


「煩わしいことになるかも知れないわね」


 二人は違う反応を見せた。


 (知ってた。まあ、こうなるわな)


「アビー。それで絡んでくる奴をいちいちぶっ飛ばしてたらきりがないよ」


「オレがぶっ飛ばしてやるぞ。お前の護衛だからな」


 勇人は呆れ顔でアビーを無視して話を続けた。


「国家がその気になれば民に対して大抵のことは出来てしまう。ヨナは僕を拘束しようとは思わないだろう。でも元老院は、近衛部隊長は、そこから話を漏れ聞いた貴族は国の利益の為に、自分の権力の為に僕を捕まえて使おうってするかも知れない。僕の大切な人たちを人質に取ってね」


「そんなもの、リーアを助けたときのようにお前の力を使えば簡単に取り返せるだろう」


「駄目だよ。僕の力にはやはり限界が有る。たとえば【そこまでドア】なら、中が見えないところには飛べないし、中が見えても僕の身体より狭い隙間を越えては飛べない。能力の限界が知られてしまえばそれを封殺する方法なんて時間はかかっても編み出されてしまうものだ。


 それで僕はこの国を離れようと思う。僕がどこに居るか分からなければ人質を取っても脅迫のしようがないからね。


 お前らに考えて貰いたいのは、自分の身の振り方なんだ。僕に着いてくるというのも一つだし、この国に残るってのも一つだ。その場合には一番安全なのはテレビジア領だけど、ラフィアディアに残るってのも在りだ」


「なんだ。そんなことか。オレはユージンについて行くぞ。護衛だからな」


 アビーは即決したが、リーアは考え込んでいる。暫くして口を開いた。顔色が悪い。


「私も着いてゆきたい。でも無理だわ」


「何故だ」


「魔物を狩りながら旅から旅の生活。アビーは私が治癒魔法以外は壊滅的だって知ってるでしょう。体力も保たないし、危険から身を守ることも出来ない。


 それに私は孤児院で生活してて良く分かったの。不衛生なところ、汚れたところには居たくない。アビーは私が上流家庭の家庭教師になりたかったことは知ってたでしょう。メイドでも侍女でも良かった、あの不潔な環境から抜け出せるのなら。


 軍隊に入らなかったのはそれが一番の理由だったの。それから清潔な施療院、自分だけの家、都会の綺麗に掃除された孤児院、伯爵家。私の理想の生活だった。もう、ローレン村孤児院のような生活には戻れないわ。師匠、ごめんなさい」


 リーアは吐き出すように言った。俯いた顔から涙が溢れ落ちた。


「リーア、僕に気兼ねすることはないよ。リーアの自由が奪われたって聞いたから助けに行っただけだ。


 着いてきて欲しいとは思うけど、それよりも自分の気持ちを大事にしてくれ。それでどこに落ち着くつもりだい」


「ここが一番なんだけどやっぱり無理よね」


「帝都にはまだキシェフ伯爵の力が残ってるし、その与党の貴族もいる。できれば止めたほうがいい」


「それじゃあテレビジア領にするわ。あそこはネリア皇女のお膝元なんでしょう。この国では一番ユージンに心配をかけない場所だと思うわ」


「そうか。それじゃヨナに頼んでみるよ。二人とも個々で待っててくれ。いろいろ話すこともあるだろう」


 勇人はそう言うと二人を残して部屋を出た。向かう先はネリア皇女の別邸だ。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 別邸では誰何を受けることもなく、中に入れた。


 (どえらいとこに顔パスになってもたなぁ)


 ヨナは専用の居間でソファにもたれ、如何にもお疲れの様子だった。


「おお、ユージンか。いつの間にか姿が消えたから心配しておったぞ」


「ホテルで部屋をとってアビーとリーアの三人で話をしてたんだ。そのことで伝えたいことと、頼みたいことが有る」


「うむ。ユージンの頼みなら大抵のことは聞くつもりぞ。言うてみるのじゃ」


「僕は当分の間この国を離れることにした」


「それが良かろう。まだキシェフは力を持っておるからな。それにしてもまたあの生活に戻れるとは羨ましい限りじゃ。それでジェシーとガブルはどうするのじゃ」


「二人にはラフィア領に帰ってから話す。彼らは彼らで考えもあるだろうからそのとき決めて貰うよ」


「そうか。それで頼みは何じゃ」


「アビーは僕に着いてくるつもりなんだけど、リーアは自分には旅行は無理だって行ってる。どこか安全なところに落ち着きたいらしい」


「それならばテレビジアに来れば良い。あそこは十五歳からほぼ全員が兵隊としての訓練を受けているし、四十五歳までは現役兵士として定期的に訓練をしておる。皆が物事を兵士の目で見ているから怪しい奴は入り込めぬわ。


 それに訓練をすれば怪我人もでるからリーアに仕事もある。自分に役目があると思うのは良いことぞ。従士長には我が直接命じておくのじゃ。


 誰か居るか。従士長を呼ぶのじゃ」


 ヨナがそれまでより少し大きな声でドアの外に声を掛けると、静かに侍従が入ってきて優雅な一礼をし、そのまま優雅に退出した。


「それで、お主、何か入り用のものはあるかの」


 勇人は言われて少し考えた後に答えた。


「毛染めの薬を分けてほしい。僕も毛の色を変えて変装しようと思うんだ」


「それは丁度良かったの。アビーの為に毛染め薬と毛染めしゃんぷーなるものを手に入れたのじゃ。お主も最初に毛染め薬で全部毛の色を替えてしまって、その後はしゃんぷーを使えばよい。この頃南方から廻ってきたものでの、毛を洗う機能と少しずつ毛の色を変える機能があるらしい。これがあれば伸びてくる髪の毛も自然に染まるじゃろう」


 ヨナはそう言って立ち上がると控えの間の扉を開けた。そこには五箱ものシャンプーがあった。一箱に二ダース入っているらしい。


「お主なら持ち運びに苦労は無かろう」


「ではありがたく頂くよ」


「ここにはアビーが使った化粧品も揃えておるぞ。これも持ってゆけ」


 そう言われてヨナの指さす方を見るとこれまた大量の化粧品があった。勇人はそれらを【亜空間庫】に入れた。


 ヨナは控えの間の扉を閉めながら言った。


「他に欲しいものはないかの」


「もう、十分だよ。あとは自力で大抵手に入れられる」


「それもそうじゃ。何でも揃えられてはつまらんからの」


 ヨナがソファーに戻って暫くするとノックの音が響いた。


「従士長です。お呼びにより参上致しました」


「うむ。ユージンがテレビジアに帰還する際に同行せよ。友人のリーアがテレビジアに定住して施療院を営むので良きに計らうのじゃ」


「御意のままに。二個大隊の指揮は副従士長に委譲致します」


「では、明日の朝、帝都ホテルまでおいで下さい」


「承知いたしました」


 そう言うと従士長は一礼して退室した。


「それでは、僕も失礼するよ。これで暫くは会うこともないね」


「うむ。名残惜しいのう。永久に帰って来ぬという訳ではなかろうな」


「旅は途中で何が在るか分からないから絶対にとまでは言えないけど、僕の気持ちとしてはいずれはこの国に帰ってきたいと思っているよ」


「そうか・・・そのときには是非話を聞かせるのじゃ。楽しみにして待って居るでの」


「では、また逢う日まで」


「うむ。逢える時まで」


 勇人にはヨナの目が潤んだような気がした。慌てて背を向けるとネリア皇女の居間から退出した。

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