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異世界人は魔法を使えませんって、そら無いでぇ~  作者: 浪花翁
第一章 孤児院編
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013 詐欺商法は騙される方が悪い?

昨日011、012の2話をアップしております。読み落としの無いようにお願いします。

 勇人とサミュエルとは今後のことについて二人で話すことになった。


「椅子も机もありますから、倉庫で話をしませんか」


「いえいえ、今日は天気も良いので前の広場のベンチに腰かけて話をすることにしましょう」


 サミュエルは勇人の誘いをやんわりと断った。


 (チッ。「商談は自分のテリトリーで」作戦は失敗や。まあ、広場のベンチならしゃあないか)


 二人がベンチに移動して隣り合わせに座ると間もなくマルカが水の入った木製のカップを両手に抱えてやってきた。彼女は少し戸惑ったが二人の両側にカップを置くと「水です」と言い、ぺこりと頭を下げて田圃の方へ戻って行った。


「三年前に落ちてきた私を助けて頂いたそうでありがとうございます。私の聞いているところではチュードについては国に任せることもでき、大半の方はそうされるとのことです。そうされずにここに預けられたことについては何かお考えがあってのことと思いますので出来れば率直にお話しいただければと思っております」


 勇人がそう切り出しながらそっと横目で見ていると、サミュエルは暫く思案顔をしていたが決心したように一つ頷くと口を開いた。


「駆け引きをするほどのことでもないので率直に申しましょう。例えとしてはあまり適切ではないかも知れませんが、あなたのことを金の卵を産む雌鶏かもしれないと考えています。


 ご承知のようにチュードの大半は何の役にも立たない人です。ですが稀にこの世界にとって有用な知識を持って落ちて来る人も居ます。魔道具の発明、複式簿記、度量衡の統一、銀本位制と銀行制度、為替、同業組合と互助制度、植物紙、印刷機と活字、葛根湯などの生薬、板ガラスなど数え上げればきりがありません。


 あなたは大人の知識と子供としての長い寿命をもってこの世界に来られた。高い確率でこの世界に有用な知識をもたらされるかも知れない。それを僅かの間でも独占できれば巨万の富に繋がる可能性もある、それが私の思惑です」


「雄鶏かも知れませんよ」


 勇人は半笑いしながら言った。


「そこでです。あなたを試させて頂きたい」


「どういう試験でしょうか」


「あなたがここを出てゆくまで八年間毎月大銀貨五枚を生活費として助祭に渡すことになります。その総額は金貨四十八枚です。それに細やかな利子を加えて五十両、まずこれを返済して頂きたい。そのうえであと五十両、合計百両を儲けて下さい。これが私の試験です」


 (百両。約一千万円か。大きい出たもんやな)


「勿論方法は問いません。強窃盗や殺人、それと法に触れるような詐欺でなければね」


「法に触れない詐欺なら良いのか」


「そうです。商取引なんてそんなもんでしょう」


「私の元居た世界では少し違いました。もちろんそういう考えの商人も居ましたが、そういう人は百年続く商売は出来ませんでしたね。


 『三方良し』と言う言葉を知って居られますか。私の生まれた国の近江と言う地方の商人の、商売の心得を表す言葉です。意味は「売り手に良し、買い手に良し、世間に良し」と言う意味です。商売は等価交換、それによって売り手も買い手も満足するものでなければならない。加えてその取引が世間にとっても良いものでなければならないと言う意味でしょうね。


 まあ郷に入っては郷に従えなどと言う言葉もありますから、ここでは取引相手を騙すというのはよほどのことがない限り許されると言うことで、私もそれに従うことにしましょう」


「三方良しですか。ここでそれを守っていては百年どころか一年も持たないですが」


 サミュエルは苦笑いしている。


「それで、あなたの試練に不合格だった場合はどうなるのですか」


 これは是非とも聞いておかなければならないことだ。ペナルティが多すぎれば別の提案をする必要がある。


「それをお話しする前に、私から一つ質問をさせて下さい。あなたは成人した後どのような生活をお望みですか」


「なるほど、試練に合格した場合にあなたから何を提供して頂けるかをお聞きするのが先ですね。


 あなたが以前にチュードを見たことがあるのならお判りでしょうが、チュードは見てのとおりこの世界の人と比べると体格的にも体力的にも劣りますし、それは私についても同様で元の世界の経験からすると私の身長は五尺七寸程度にしかならず体格は普通ですから、この世界の男性と比べると一段見劣りがするでしょう。出来ることならば体力勝負の職業には付きたくないですね。


 あなたのおっしゃるように大発明、大発見をしてその利益で生活するのが理想ですが、これは無理だとしても何らかの商売をする方向で考えています。でもそれには元手も要ることですし他の商人との繋がりも作って行かなければならないでしょう。ですから最初は魔猟士になろうかと考えています」


「丁稚奉公をするには歳が行き過ぎですし、中身が大人であることを考えれば何年も丁稚奉公をするのは耐えられないかも知れませんね。かと言っていきなり手代や番頭として推薦するのもあなたの外見からすると難しいですし」


「あなたの所で雇っていただくのはどうでしょうか」


「あなたを田舎で囲って発明や発見を独り占めしたと言うことが商人仲間にばれてしまった場合のリスクが大きすぎますね。あくまで買取だけの関係にしたい」


 サミュエルは暫く考えた後で話を続けた。


「当面魔猟士として生活するというのであれば、魔猟士の登録は必須ですが、そのあと国立魔猟士学園かラフィア魔猟士組合立魔猟士学校に入学してその基礎を学ばれるのが良いと思います。国立は皇都にあって三年制、組合立は領都ラフィアディアに在って一年制ですが、あなたの場合には読み書きができ、社会の基本的な仕組みもここで学ばれ、算術や簿記も熟されるようですから組合立で十分でしょう。


 領都までの旅費、領都での住居の斡旋、武器・防具や領都に相応しい衣装の提供、生活上の相談、商慣習の説明、万一の場合の資金融通それに行商を始められるのであれば行商ルートの譲渡が私の提供できるものですね」


 サミュエルの話は続く。


「先ほどお尋ねになった失敗した場合のことですが、最初の五十両についてはあなたの生活費の助成金ですから返済して頂きたいと思っております。特に返済期限を設けたり利息を付けたりするつもりはありませんが、返済できるまではあなたの発明や発見については私に譲渡して頂くことになります。タダでとは申しません。対価はお支払いしますし、私の提示した対価が不当だと思われるのであれば発明や発見の秘密が露見しない範囲で内容を開示して他の商人に尋ねて頂いて結構です。


 残りの五十両については純粋にあなたの能力を測る意図ですから達成出来なくても構いませんし、五十両に達しなくても儲けた金銭は勿論あなたのものです」


 (メリットは大したことないけど、デメリット言う程のもんもないなあ。要はワイの能力を試してみたいというのと繋がりを切りとうない言うのが本音やな。助祭は貴族関係ばっかし、エラドは戦場中心で酷う知識が偏っとるさかい、この際やでこの国のこと聞いとこか)


「返事をさせて頂く前に少しこの国についてお聞きしても良いでしょうか」


 サミュエルは笑顔で頷いた。


「もちろんですとも」


「この国の総石高、総人口はどのくらいですか」


「石高は三千万石、人口は二千万人というところでしょう」


 (江戸時代の日本くらいやな)


「随分多いのですね」


「それは考え方によりますね。純粋に国の広さだけで言えばその十倍はあってもおかしくないでしょう。森林や湖沼が全土の九割を占め、川沿いの平地などに村や町が点在しているのが現状です」


「なぜ開拓しないんですか」


「魔物のせいですよ。奴らは森林、沼などに生息していて開拓しようとすると襲ってくるのです」


「普通の肉の値段ってどのくらいですか」


「この村なら売値が十匁四文、肉屋の買値なら二文。ここの領都まで行けば売値八文買値四文ですかね。ラフィアディアは魔物肉が出回っているのでここの領都と同じくらいです。ここで狩猟で百両を貯めるのは難しいと思いますよ」


 (ざっとの計算で週一の狩猟だけでも成人までに五十両以上貯められそうやけど)


「そうですか。色々お教えいただいてありがとうございました。ご提案の試練の件ですが、特に私に不利と言うこともないようなので承諾させて頂きます」


「それはよかった」


 サミュエルは笑顔で右手を出してきた。握手を求めているのだろう。勇人も微笑んでその手を握った。


「それではご健闘をお祈りします」


「ありがとうございます。ご期待に添えるよう努力いたします」


 サミュエルは手を放すと教会の方へと歩いて行った。助祭とエラドに挨拶をするのだろう。勇人は特について行く理由も見当たらなかったので遣り掛けだった作業に戻った。


前話のサミュエルの思いが勇人と交錯します。後々少しだけストーリーの進行に関わってきます。

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