表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/146

118 悪い子はいねが~

 翌朝六時に集合した中隊はノマムの命令一下南門を出てすぐに街道を外れると南東方向へと荒れ地を進みだした。やがて周囲が林となり、それが森へと変化したところで天グリ小隊は東へ逸れてかねて打ち合わせていた待ち伏せ場所に向かい進みだした。


 昼過ぎまで歩くとそれまで急な地形だったオークの巣へと続く川筋が合流する小川のためにその両側だけなだらかになっている場所に着いた。公式にはここを塞ぎオークを主流の川筋に沿ってオーガの巣へ誘導するのが与えられた役割だ。


「オークだってバカじゃねえ。どう考えたってオーガの巣の方には行かねえぞ」


「あたいらのホントの任務はここで逃げてきたオークを通せんぼして、あとから追ってくる魔猟士たちと挟み撃ちにすることだよ」


「あの野郎、綺麗ごとを言って俺達を鉄床代わりに使うつもりだぜ」


「良いじゃないの。ユージンの砦があればそうそう危ない目には会わないわよ。楽して稼げるんなら文句はないわ」


「こちらの方が少し遠いから、本隊も今頃は包囲が完了して攻撃を始めるころでしょうね。こちらも準備しましょう」


「おう。ユージン、一号を頼むよ」


 「天使の羽根」の連中は好き勝手なことを言いながらそのあたりを見て回っていたが、ガリアが一号砦を出すように求めてきた。


「どこに一号砦を出せばいいかな」


「支流の真ん中に出すわけにはいかねえから、こっち側に出してくれよ」


 ガリアは勇人に答えて支流の左岸の少し開けた場所を指さした。そこからなら本流の脇を遡ってくるオークも早くから見えるし、攻撃もし易い。勇人は言われるままに整地をし一号砦を出した。


「ついでに小川の向こう岸の傾斜地も何かで埋めておいてくれ」


「了解」


 そう言答えて勇人は当面不要なバスユニットと寝室ユニットで向こう岸を埋める。小川だけが通り道として残った。


「これで鉄床(かなとこ)の準備はできたな。オークが鉄床に来るか、オーガ村に行くか、後はあたいらの運次第ってとこだね」


 ガリアがそう言い終わるか否かのうちに南西方向で白煙が立ち上り、須臾の後に火の手があがるのが見えた。数キロ下流での出来事のため詳しくは分からないものの予定通り包囲攻撃が始まったのだろう。


 そう思って待っていたのだが何だか様子が可怪しい。煙が上がってから暫くして川沿いの谷を伝って主力の上げる音や声が聞こえてきた。最初はワアワアと言う攻め声のみだったが、そのうちに「逃げろ」とか「引くな」、「二隊で当たれ」などとおよそオークが相手とは思えない声が聞こえるようになった。そして極めつけはギャッとかワッと言う悲鳴としか言えない声が交じるようになったことだった。


「おい。どうなってんだ」


 ガリアも訝しげな言葉を発した。


「ひとっ走り様子を見てくるぞ」


 そう言うなり、イラナが飛び出して川沿いをオークの巣の方へ走り出した。


「気をつけろ!」


 ガリアの声がその後を追う。


「ユージン、『グリフォンの夢』で一番足の(はえ)えのは誰だ」


「オラだ!」


 勇人が答える前にガブルが名乗りを挙げた。確かに【剛力】を足に回したガブルは速い。


「よし。もう一つ先の崖の上へ行ってそこから様子を伺っていてくれ」


「了解だべ」


 ガブルはそう言うなり本流の右岸の崖に駆け上がり、そのまま一つ先の川の湾曲したところまで走っていった。そこからならここから見るより遠くの様子を知ることができる。ガリアも状況を出来るだけ早く知りたいのだろう。


 勇人は一号砦の三階まで上がって、あちこちに子どもの頭くらいの大きさの石を積み上げ始めた。ジェシーとマヤは矢筒を出して腰に着け、弓を左手に三階で静かに座っている。ヨナは砦の外で両手に短剣とナイフをぶら下げて壁に寄りかかったまま目を瞑っているようだ。ガリアは合流点右岸の崖の上で腕組みをして陣取っている。バペットは盾と片手半剣を構えて合流点に立った。イラナやガリアに何かあれば援護に回るつもりなのだろう。


 そうやって三十分も待っただろうか。突然ガブルが大声で報告してきた。


「イラナが全速で後退中。その後方四十間にオーク多数!」


「了解! お前も帰還しろ!」


「そうするだ・・・待って・・・オークの群れの後ろに何か居る。わかんねえがゴブリンキングより大きいだ。それが多数・・・棍棒でオークを殴ってるだ」


「分かった。いいから帰ってこい!」


 今度はガブルも走り出した。【剛力】を足に全振りすると流石に速い。


 (平地で走らせたらウサイン・ボルトより速いんちゃうか)


「ヨナ、ぼっとしてないで砦に入れ」


 声はバペットだが何時もと口調がぜんぜん違う。


 (まあ、いつもの口調で話してたら間に合わんわなぁ)


 言われたヨナは一瞬飛び跳ねたように見えたが、言われるままに砦に入った。名残惜しいのか何度も後ろを見ている。だんだんと戦闘狂になって行く。


「イラナが追いつかれそうだ」


 ガブルが帰り着くなり怒鳴った。バペットがその言葉に即座に反応する。


「向かえに行くよ。ガブル、付いといで」


 彼女はイラナの帰ってくる方向に走り出しながらガブルに指示を飛ばした。


「おう」


 彼も一声出すや否やその後に続いて走り出した。見るとガリアも崖を駆け下りている。一号砦の三階に居る勇人は【亜空間庫】から重力ボルトを飛ばす準備をして様子を見守った。残る間接攻撃組三人もそれぞれ魔法の準備をして三階に陣取っている。


 合流地点の崖に遮られて見えないところで、盾に何かがぶつかるドンという鈍い音が響き、その直後に砦に向かって疾走してくるイラナが現れた。横にはガリアが付いて援護している。


 その回りをオークが取り囲んでいるが、不思議なことにほとんどイラナやガリアを攻撃していない。二人の後をオークの攻撃を楯でいなしながらバペットとガブルが追っていた。


「後から来るデカブツはオーガだ。絶対撃つな!」


 イラナが走りながら大声で怒鳴った。その声に勇人はオークに慎重に狙いを定めた。他の三人もその言葉に従っている。外の四人はその間に互いに身を守りながら砦に入った。


 オークたちは予想通り一号砦に向かってきた。まだ最後尾は見えないが百頭は居るようだ。オーガの巣を避けるつもりなのだろう。障害物の穴になっている小川に入るとバシャバシャと大きな水音を立てながら遡って行く。天グリ小隊もそれを黙って見過ごすはずはなく横合いから攻撃を加える。オークたちはオーガから逃げるのが精一杯なのかこちらの攻撃は一切無視している。


 突然小川の上の方からオークの悲鳴とそれとは違う野太い雄叫びが届き、小川を遡っていたオークの群れが下ってくるオークたちと衝突して大混乱となった。慌てて一号砦の中を走り小川の上流を見るとそこでは十頭前後のオーガが当たるを幸い、文字通りオークたちを叩き潰していた。勇人は初めてはっきりとオーガを見た。


 (ナマハゲや)


 厳つい顔に大きな口から二本の牙がむき出しになって出ている。頭には大きな二本の角、手にしているのが棍棒であることと毛むくじゃらの身体に一糸も纏っていないことを除けば元の世界のテレビで見たナマハゲにそっくりだった。


 (これを「オーガ」言うた奴の感性疑うわ、どう見てもナマハゲやろ)


「全員撃ち方止め! ユージン、屋根を閉じろ!」


 ガリアから命令が飛ぶ。勇人は慌てて三階に閉鎖型の天井を乗せた。


「よし、全員一階に降りろ。ユージン、用心のためだ、二号砦も出してくれ」


「了解」


 ガリアの命令が再度飛び、勇人は一階に降りると中央に二号砦を出した。全員がその中に集まる。


「どうして、攻撃を止めただか」


 ガブルが不思議そうに尋ねた。それを見てガリアは呆れたような顔をした。


「あんた、本当に学校を卒業したのかい。何を習ってきたんだ。オーガはB級小隊でなけりゃまともに戦えねえ。一番最初に習ったはずだよ」


「オラあ、最初の頃は狩りに忙しくて講義は寝てただから」


「まあ、僕も同じだな」


「私は途中入学だから・・・」


「ボクは・・・」


「ジェシーは金勘定に忙しかったんだろう」


 勇人の言葉にジェシーは黙ってしまった。たぶん図星だったのだろう。


「まあ良いや。どうせ暫くは暇だからオーガについての勉強会をしてやるぜ」


 イラナも呆れ顔でそう言うと、机の端に腰を掛けて話し始めた。


「オーガはこの辺りじゃ一番強い魔物だ。食物連鎖の頂点ってのかな。勿論他の魔物と同じで幼体しか肉は食べねえ。他の魔物と違うのは顔に似ず性格が穏やかで人間を見ると襲ってくるなんてこともない。餌にする場合は別だがな。だから、かなわねえ数のオーガに出会ったら、そっと引くか見守るかするのが一番なんだ」


「でも、今はオークを見境なしに殺してるわ」


「オレが見てきたところじゃ、魔猟士隊も攻撃されてたな。たぶん、バカな奴が見境無くオーガを攻撃したか、オークを攻撃した流れ弾がオーガに当たったかして、それが自分たちへの攻撃だと見られたんじゃないかな。オレ自身もそれが怖くって、最初にオーガには当てるなって言っただろう」


「何でオーガがオークの村を襲ってたのかな。今までの話だとオーガって餌にするとき以外はむやみに他の魔物やなんかを攻撃しないんだよね」


 何故あのときオーガの群れがオークの村を襲ったのか、それが一番根本の疑問だった。ジェシーはそれが知りたいと思ったのだろう。


「オレが見たときには既にオークも魔猟士隊も襲われてたから、その辺りは推測しかできねえ。考えられるのはオークの村の若いのが餌を捜していて偶々オーガの幼体を見つけて襲って食っちまったってところかな。オーガは子供ができにくいから幼体をとっても大切にするんだ。それが襲われたってことになると、巣を挙げて復讐に出るってこともあるだろう。


 それが偶々魔猟士隊本隊の攻撃と重なってしまった。オーガが介入してきた時点で攻撃を止めれば良かったんだろうが、本隊には金に困ってる奴が多いからな。分かっていても止められなかったし、隊長も止める気はなかったのかもな」


「おっと、静かになったようだねぇ。ユージン、ちょっと除いてきてくれねえか」


 話が一段落ついたところで、気付くと外が静かになっていた。ガリアの指示を受けて勇人は二階に上がり、狭間を開いて外を見回した。そこには撲殺されたオークの死骸がそこかしこに転がる凄惨な光景が広がっていたが、既にオーガの姿はなかった。


 オークの死骸をよく見ると撲殺の跡の残るものの間に綺麗な死骸が点在している。それは勇人たちが倒したオークの死骸だった。オーガには死骸まで嬲る残虐性はなかったようだ。


「ガリア、オーガはもう居ないよ。僕たちが倒したオークはそのまま残ってる。外に出て回収するかい」


「そうするか。みんな出るよ」


 ガリアの掛け声に従って全員が外に出た。と言っても勇人以外の者には大してすることはない。見張りと自分たちの倒したオークを捜すくらいだ。ここだ、あそこにあるという仲間の声に従って勇人だけが跳び回った。まあ戦闘中はあまり働かないし、普段は血抜きや魔石採取も任せているのだから仕方ないだろう。


「ガリア、オーガに殺られた奴はどうするだ」


「取り敢えず持って帰るぞ。ユージン、頼む」


「わかったよ。血だらけの奴はあんまり【虚空庫】に入れたかないけど、触るわけじゃないからいいよ」


 結局、天グリ小隊が倒したのが十八頭、オーガが倒したのも含めると八十六頭だった。


「こんなの出したらまた僕の【虚空庫】がバカ容量なことが話題になってしまうなぁ」


「今更でしょ」


 勇人の愚痴はヨナに一蹴された。


「さて、本隊の様子を見に行くとしましょうか」


 バペットの言葉でみんな本流を下流に向かって歩き出す。勇人も手早く出した砦などを収納するとその後を追った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ