116 据え膳食わぬは・・・
「やっと帰ってきただな。エフラは元気でやってただかな」
四人は拠点に帰り着いた。ガブルは端から見ていて恥ずかしいほどウキウキとしている。
「まあ仕方ないわね。種馬さんが二十日もお預け食ってたんだらから」
「そうだね。種が溜まりに溜まったってところかな」
女性二人は品のない言葉を投げかけて喜んでいる。ゲスいこと甚だしい。拠点に帰りついて通常モードに戻ったってところかな。勇人はそう思ったが、そんな気持ちはおくびにも出さない。
拠点のドアを開けると甘い匂いが漂ってきた。女性の匂いだ。まあエフラという年頃の女性が生活しているのだからそれも不思議ではないのだが、いやに匂いが強い。
「おかえりなさい、ガブル」
エフラが居間兼食堂にいて、ガブルを見つけると飛びついてきた。ガブルはそれを両手で受け止めて抱きしめる。
(こいつら、ひと目も憚らんと抱きつくようになりよって。うらやまけしからん)
「無事で帰ってきてくれて嬉しいだ。今日はお前様にええ話があるだよ」
「ええ話ってなんだか」
「聞きたいだか。今言ってもええだか」
「うん。聞きたいだ」
エフラは暫く思案していたが、意を決したように真面目な顔になって言った。
「子供ができただ」
「うん?」
「お腹にややこができただよ」
ジェシーがニヤッと笑った。
「おめでとう、種馬さん。やっとホントの種馬になれたんだね」
「それで、オラは村さ帰るだ」
「えっ?」
「村で子供を産むだよ。ここでは産めねえべ」
その言葉にヨナがガブルより早く反応した。
「あら、種馬さんは卒業なのね。残念よねぇ」
ヨナの言葉にエフラが勝ち誇ったように言った。
「心配ねえだ。村から娘っ子が来てるだ。みんな出てくるだよ」
はあいと言う何人かの声が聞こえ、それとともに離れとの間の扉が開いて山人の娘が現れた。なんとその数三人。
「左からダナとハヤとキネレットだ」
エフラは彼女たちを並ばせるとそう紹介した。エフラは満面の笑みで胸を張っている。
「お前様が帰ってきたのがわかっただで、脅かそうと思って隠れさせてただ。びっくりしたべ」
「エフラの代わりに三人も。これは種馬さん、とうとうハレム持ちになるんだね。離れを建て増ししなければならなくなっちゃったね。ユージン、友達なんだから手伝ってあげてよ・・・あ~、もちろん建て増しの方だよ」
(ジェシーのやつ、こんなとこで振りやがって。ボケようがないやないか)
「そ、そうだね。二部屋作れば良いかな。それともいっそ大きな一部屋にしてしまうか」
「一部屋。いいわね~。3P、4P?。男の子のロマンじゃないの」
(あーあ、ヨナまでノリノリや。ガブルにグサグサ刺さっとる)
「オ、オラそんな趣味はないだ。第一エフラはオラのこと気に入ってくれたみたいだけどダナとハヤとキネレットがオラのこと好いてくれてるかどうか分からねえだ」
「大丈夫だべ。おまえ様が若衆宿に来てるときに三人とも居ただ。お前様のこと好いてると確かめてから来てもらってるだ」
「オラの気持ちはどうなるだ」
「お前様は今から三人と暮らすだ。それから気に入った娘を選ぶがええだ。一人で無くてもええだよ。選ぶのが面倒なら三人纏めてでもええだ」
「オラ選べねえだよ。二人、三人も駄目だ。これ以上種馬ネタで冷やかされるのは勘弁して欲しいだ」
「それなら独り選ぶのね。見た目だけならどの娘も可愛いわよ」
「恥ずかしがってないで早く選んだら良いじゃない。この娘たちも困ってるよ」
「そったらこと言われても・・・そうだ、三人でクジでも引いてくれ。オラそれに従うだ」
ガブルと女性陣との押し問答を聞いているうちに勇人は大変なことに気づいてしまった。ここにいる六人の娘は勇人の好みからそう外れてはいない。まあ、少し外角低めギリギリの娘はいるが。それなのに食指が動かない。
孤児院では上は十五歳まで居たわけだから食料事情はあまり良くなくてもそれなりに発達した娘はいたし、見目の良い娘も気立ての良い娘もいた。そこでも食指は動かなかったが、そこは七歳から一緒に過ごした姉妹みたいなものだし、形も汚いし、いつも垢まみれだし、で気持ちが動かなくてもそんなものと思っていた。
学校にいたときも魔猟士組合でも女性は居たが親しくしていたのは「天使の羽根」の四人くらいだったからあまり気にもならなかった。
だが、ここに来て自覚せざるを得なくなった。女性を見ても気持ちが反応しないのだ。たぷん精神年齢に引っ張られているのだろう。
(これから何十年生きるか知らんけど、女っ気なしかいな。まああっちでは好き放題しとったから仕方ない言うだらそれまでなんやけど、せっかく拾うた余分の人生やのに半分損した気いするわ)
勇人のそんな複雑な思いを他所に、ガブルは贅沢な悩みを抱えて唸っていた。
「ダナ、えらく幼く見えるけどおめえ幾つだか」
「十三だべ」
ダナはガブルの問いに事もなげにそう答えた。
「なんでそんな幼い子が来るだか」
「おらあ、村長の孫だ。初めてはエフラに出し抜かれただが、お爺はそれが気に入らねかっただ。おらに種貰って来いと・・・」
「おめえは駄目だべ。帰れ」
「何でだか」
「幼な過ぎるだ。子供作るのはもっと大きくなってからで良えだ」
「このまま帰ったらお爺が怒るだ」
ダナは困り顔になった。勇人は二人のやり取りを聞いていて思わず口に出してしまった。
「あはは。流石にガブルも『ロリコン』じゃなかったか」
「『ロリコン』って何だべ」
「そうか・・・ここにはそう言う言葉はないよな。『ロリコン』って言葉の意味とは関係がないけど、昔僕の国で二十二歳で十二歳の嫁さんを貰って十三歳で子供を産ませた貴族が居たよ。それから比べたら十七歳で十三歳の嫁さんを貰うなんて普通じゃないか」
「そうね。ここの貴族でもそう珍しい話じゃないわ」
「お前様の気持ちで種付けができねえなら、せめてその気になるまでここにおいてやって欲しいだ。ダナもこのままでは帰れねえだ」
エフラも横合いから助け舟を出す。抜け駆けで寝取った彼女に対する村長の風当たりは相当強いのだろう。
「それで、ハヤって言ったかな。君は何でここに来たの」
それまで黙っていたジェシーがハヤに尋ねた。ニヤニヤと笑っているところを見ると何か察したのだろう。
「それは、ガブルが好きだから」
「へぇ~。ガブルってそんなにいい男なんだ。たかだか数回顔を見ただけで話もしてないのに一目惚れするんだ」
ジェシーの皮肉な口調と視線に耐えられなくなったのかハヤは俯いてしまった。
「お、おらも爺様から言われただ。ダナには負けるなって」
「ハヤは長老の孫だべ。長老はいつも村長と張り合ってるだ」
「結局オラが好きなんじゃなくて、嫌でねえだけだか。で爺さんたちの張り合いの犠牲になってここへ来ただな。お前も帰れ」
「そうよね。どちらか選ぶって訳にはいかないわね」
「そっただこと言わねえで、おらもダナも置いてくれろ」
ハヤは上目遣いでガブルに訴えた。中々にあざとい。ガブルはそれを無視してキネレットに目を向けた。
「それでキネレットは誰の意向で来たんだか」
「おらが来たのは誰の指示でもねえ。おらが一番ふさわしいと思ったからだ。強いて言えばおらはマセフの妹だけんどあいつに言われた訳ではねえ。
おめえは覚えてねえかも知れねえが、最初におめえが来た時に酌をして話もしただ。そん時に男前ではねえがおらと気の合う男だと思っただ。最初に手ぇつけてやろうと思ってたども酔わせたあとでエフラに掻っ攫われただ」
キネレットはちょっとエフラを睨んだ。エフラは明後日の方を向いて鳴りもしない口笛を吹いている。身に覚えはあるようだ。
「あらっ、なぜ自分が一番相応しいなんて思ったのかしら」
「おら、このとおり山人にしては上背があるだ。それて兄貴からお前なら原人の街でもやっていけるかもと言われて三年ほどこの街で働いてた。村でまぐわって子供も居るだ。街での生活も知ってて、子供を生んだ経験もあって、ガブルより五歳年上だ。相応しいと思わねえか」
「へえ、どこで働いてたの」
「『豊穣の森』という宿だよ」
「あっ、ヨエルとディナのところか」
勇人は思わず口を挟んだ。ここへ来て学校に入るまで世話になった宿だ。
「ひとり選ぶんならキネレットで決まりだね。他のふたりを揃って帰せば村長と長老の顔も立つだろうし」
「そうね。それが一番良いと私も思うわ。ガブル、そうしておきなさい」
ジェシーとヨナはふたりで納得している。
「うん、それなら村長も長老も納得するしかねえべな」
エフラも納得した様子で頷いている。こうなってはガブルも「うん」と言わざるを得ない。
「分かっただ。キネレット、残って欲しいだ。ダナ、ハヤ。ふたりにはここまで来てもらって悪いけど村に帰って欲しいだ」
ガブル本人からそう言われては二人とも納得するしかなかった。それにふたりで帰るのなら爺さん連中の顔も立つ。二人が了承してこの話はそれで終わりとなった。
その日は全員で「豊穣の森」へ行き、そこで夕食を取った。キネレットは三年もそこで働いていたので慣れたもので、ディナと話しているうちに領都に居る間、ここで働く話を纏めてしまった。
翌日、グリフォンの夢の四人は、村へ帰る三人を送ってブルガン村へ行き、村長と長老に事情を話した。不満はあったようだがどちらの孫も選ばれなかったことで半分は納得して話は終わり、四人は一晩泊まって翌日領都に帰った。その夜、離れが桃色にうるさかったのは言うまでもない。




