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115 癌は切るのが一番(素人の個人的な見解です)

 ドロス島での騒ぎはお互いが約束を守って何事もなく終了した。下手な貴族より盗賊のほうがよっぽど信用できるというのが勇人の率直な感想だった。それから五日、勇人たちはラフィアディアに帰ってきた。


「早く依頼料を貰って飲みに行きましょう」


「マヤはそればっかりだね」


 そう言ったのはティルザ、「魔獣の悪夢」という勇ましい名前の分隊の前衛を務める二十歳前後の女性だ。分隊が「天使の羽根」の弟分的な立ち位置なのでティルザもマヤには気安い口をきく。


「うるさいわね。あなたも結構飲むくせに」


「ふふふ。姉さんほどウワバミじゃないわよ」


 ひとしきりお互いを詰りながら組合事務所へ向かう。笑いながらだから何時ものじゃれ合いなのだろう。


 組合事務所に着くとガリアは一行を代表して受付に行った。他の者はてんでに食堂に座って好きなようにしている。マヤは早速カウンターへ行ってエールを注文していた。二杯頼んでいるのは多分ティルザの分なのだろう。


「依頼完了証明を持ってきたから三十人分の手数料を払っとくれ」


 ガリアが大きな声で言っているのが聞こえた。


「ちょっとお待ちください。組合長がこの案件については直接関与するとのことでしたので連絡してまいります」


 受付係はそう言うと慌てて二階へ上がって行った。暫く待っていると彼女が戻ってきた。


「直接お話があるそうなので組合長室へおいでくださいとのことでした」


 受付嬢の言葉にガリアの顔が曇る。こんな対応をされるのは魔猟士になって初めてのことだ。何か違和感がある。


「駄目だね。組合長が降りてきてみんなの前で話して欲しい。それともこっちが全員で組合長室に押しかけようか」


「伝えてまいりますのでお待ちください」


 受付嬢が泣きそうな顔でそう言って再度二階に上がっていった。暫くすると降りてくる。


「三階の会議室を開けるので全員来るならそちらにして欲しいとのことでした」


 それを聞くとガリアは後ろを向いて仲間たちに向かって言った。


「みんな、三階に行くよ」


 ガリアが階段を登りだすと、仲間の全員がその後にゾロゾロと続いた。


 三階の会議室で暫く待っていると組合長のザミールが入ってきた。


「あたいらは、ハブラガ男爵護衛任務の依頼料を受け取りに来ただけだ。依頼書に依頼完了のサインがあるのは確認しただろう。なぜこんな面倒なことをしなけりゃならねえんだい」


 ザミールの顔を見るなり、ガリアが声をあげた。彼女は今回の隊長だったから当然だろう。それに対して組合長は悠然と答えた。


「今回の依頼についてはハブラガ男爵から文句が出ている。お前たちが依頼を果たせなかったにも拘らず依頼料を騙し取ろうとしているとな」


「じゃあ、そこにある署名は誰のもんだってんだ」


「お前らが人数を頼んで男爵に署名を強要したと連絡をうけた」


「ここに居るのは三十人だ。男爵の護衛は五十人だぜ。どうやったら男爵に署名を強要できるのか聞きてえな」


「男爵の護衛はそのときには十人に減っていたと聞いているぞ」


「じゃあ、なぜそこまで減ったのか。なぜあたいらが三十人分しか依頼料を請求してないのか聞いたのか」


「残りの者たちは痺れ薬入りの酒を飲まされて倒れていたと・・・」


「そうだよ。あたいは護衛中は自分たちの持っているもの以外は口にするなって言ってたんだ。それは男爵の護衛隊長もそうだ。それをハブラガ男爵の息子が勝手に酒を飲んで、自分たちの護衛の従士たちにも飲酒を許したんだよ。そいつらが酒に群がったらあたいでは魔猟士を止められやしない。それでも三十人は飲まずに我慢してくれた。だからギリギリ男爵やその家族、従者、侍女の命だけは助けられたんだ。それをどこまで聞いてるんだい」


「いや・・・魔猟士が酒を飲んだとしか・・・」


「一方的に男爵側の話だけ聞いて支払いを止めるって訳かい。理事会を招集してもらおうじゃねえか」


「いや・・・理事会がどんな裁定をしようとも支払えないんだ」


「どういうことだ。まさか金を預かってねえのか」


「男爵が後で必ず払うと言うから・・・」


「おめえ、出発のときにあたいに金は預かったって言ったよな。みんな確かに聞いただろう」


 ガリアは振り返ると魔猟士たちの同意を求めた。あちこちからそうだと言う声が上がる。


「理事会を招集してくれ、そこで今回の支払いの件とあんたの処分を決めて貰う」


「な、なんで・・・」


 ザミール組合長は絶句した。しかしガリアは手を緩める気はないみたいだ。


「当たり前だろ。前からあんたの遣り方は気に食わなかったんだ。ゴブリンの件でもあんたがもっと早く手を打ってれば、今、あたいらがこんなに金に困ることにはならなかったし、街のみんなだって高え肉を買う必要も無かったんだよ。それを自分が責められるのを怖がって緊急事態の宣言もせず、辺境伯様に報告さえしなかった。あんたに組合長の資格があるとは思えねえ。おい、リオール、理事会を招集しな」


 ガリアの剣幕に恐れをなしたのか、リオールは会議室を出ると飛ぶように一階まで降りて事務長に話を持ってゆく。事務長は各理事へ連絡係を走らせ、こうして総ての手続きを無視して緊急理事会は招集された。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「ザミール、まずなぜ男爵から依頼料を預からなかったのか釈明はあるかのう」


 理事の一人は校長だった。彼はまず当面の問題から聞き始めた。


「相手が男爵様ですので、後払いでも問題はないと思いまして」


 額から滲み出る脂汗を拭きながら組合長は弁明に務める。


「貴族や豪商の中には身分を傘にきて、何かと難癖を付けて依頼料を支払わない者がおるから、依頼料の前払いが規則となっておる。それを知らぬ訳では有るまい」


「左様ではありますが、男爵様が強く言われるので・・・」


「ならは断れば良い。なぜ受けたのじゃ」


「それは・・・」


「まあ良い。それではなぜガリアから問われた時に受け取っていないと正直に言わなかったのじゃ」


 校長は暫く待ったがザミールから返事は無かった。


「お主は、故意に組合員に不利益な言動を取ったと言うことじゃな。では次になぜ今年の初めの段階でゴブリン異常繁殖の警報を出すことも領主様に報告することもしなかったのじゃ」


「それはまだゴブリンの異常繁殖とは確定できなかったからです」


「『グリフォンの夢』分隊からリーダーが出たという報告を受けたはずじゃな。放置すればジェネラル、キング、クイーンが出ることは容易に予想できたと思うのじゃがどうじゃ」


「まだ駆け出しの学生の報告でしたので」


「ちゃんと証拠は見せたと聞いているぞ。そのときお主は間違っていれば自分が責められると言って警報を出すのを拒否した、それで間違いはないな」


 ザミールはまたも絶句してしまった。


「さて、理事諸君。ザミールの処分についてはどうするべきかのう」


 理事の一人が答えた。年配の女性だが、元魔猟士なのだろう。今でも鍛えられた筋肉を身体に纏っている。


「最終的には退職してもらうほか無いね。三十人分の依頼料百五十両はザミールの建て替え、それくらいの蓄えはあるだろうよ。不足が出れば組合で建て替えるほかあるまい。回収業務はザミールの最終業務で、その件についてのみ組合長権限を認める。あとは、そうだねぇ・・・臨時の組合長として、取り敢えず校長、あんたが兼任してくれ」


「儂が臨時組合長をすると言う点を除いては賛成じゃぞ。儂は校長の仕事が忙しいから兼務は出ぬぬわ。そこの暇人ヤカールが適任じゃ」


「何故にオラの名前が出てくるだ。オラは余生を楽しんでおるだで、組合長なんぞまっぴらゴメンだ」


「確かにザミールの尻を叩くのにはヤカールが適任だね。私も賛成するよ」


「お前さん、ザミールが現役の魔猟士じゃった頃、随分と可愛がっておったのう。その(よしみ)じゃ。付き合うてやれ」


 名指しされたヤカールは暫く考えていた。


「分かっただ。引き受けるだ・・・これで家内に引っ叩かれるが仕方ねえだよ」


「これで決まりじゃな。それでは決を取るぞ。ザミール解任の件、同人の百五十両立替え払い命令の件、不足分について組合立替えの件、同人にハブラガ男爵から立替金回収権限を与える件、暫定組合長をヤカールとする件、同人が奥方に引っ叩かれる件に賛成のもの」


「異議なしだよ」


「異議なし・・・最後のを除いて。それはオラと家内の話し合いに任せてくれ」


「では全件、異議無く了承された。臨時組合長最初の仕事を」


「おう。事務長、百五十両持ってきて一人五両ずつ配ってくれ」


 事務長によって五両ずつ依頼料が立て替え払いされ、この件は落着した。勇人たちが事務所に来てから三時間以上経過していた。


「疲れたね」


 ポツリとジェシーが言った。他の魔猟士たちと分かれて勇人たちは拠点に向かっていた。


「そうだか。オラは芝居見てるみたいで面白かっただ」


「それは言えるかも。でも芝居にしては間が長すぎたわね」


「どっちにしろ、くたびれたよ。五両貰うのも大変だね」


「あのバカやろうのせいだよ。丸刈りくらいじゃ腹の虫が収まらない。切り・・・」


「若い娘がそれ以上言っちゃいけません」


 馬鹿話をしているうちに拠点に着いた。ここにも嵐が待っていた。

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