114 終戦は開戦の十倍難しい?
数時間で別働隊らしき舟が近づいて来た。向こう岸の船着き場には死体や負傷者が散乱していたので彼らにもおおよその事態は分かってるはずだった。彼らは上陸して城壁に見慣れない旗が上がっているのを見ると主だった者数人が車座に座って何やら会議を始めた。暫くするとその一人が部下二人を伴って城壁に近づいてきた。
「そちらの隊長と話し合いがしたい!」
男は城壁のすぐ前まで来ると大声で呼ばわった。
「分かった。あたいが隊長だ。用件を聞こう」
「中に居る者たちと俺達とを黙って立ち去らせてくれ。ドロス島の砦は好きなようにしてもらって良いし、中にあるものは総てあんたたちに呉れてやる」
「それであたいらのメリットはどこにあるんだい」
「あんたたちもここから安全に引き上げられる。そっちの人数は約三十名とわかっている。あんたたちもおれたちが五十名くらいだと知っているだろう。
あんたたちはいつか近いうちにここを出なくっちゃなんねえ。おれたちは向こう岸の葦原の中であんたたちを待ち伏せすることができる。今度はどっちに勝ち目が在るかあんたなら分かるだろう」
「それが守られるという保証はあるのか」
「俺はここの義賊団の副団長だ。俺が人質になる。それでどうだ」
「三十分後にもう一度来てくれ。そのときに返事をする」
「了解した。良い返事を待ってるぜ」
副団長はそう言って引き返していった。ガリアも城壁を降りると全員を集めた。
「聞いていただろう。どう思う」
「あいつ一人じゃ心もとない。ここにいるやつらから五人くらい人質に取ろう」
口火を切ったのはジェシーだった。
「面倒なだけだぞ。誰を取るんだ」
「子供か若い女。裏切ったら山賊団の一味だってことで被害者に渡すんだ」
「あんた若いのに結構えぐいな。まあ、森人がそういうところがあるってのは知ってるがな」
「なんで、私の顔を見るかな」
マヤがガリアの視線を敏感に感じ取って膨れた。それに構わずガリアは話を続ける。
「第一あいつらが裏切ったらあたいらは皆殺しだ。人質を被害者に渡すなんて時間はないよ」
「それもそうだね。じゃあ、まず血祭りに上げてやる」
「それはあたいが許さねえよ。ボントに森人ってやつは・・・」
「まあまあ、そのへんで戯れるのは止めて真面目な話をしよう」
勇人が中に割って入ったがジェシーとガリアから睨まれてしまった。
「この島にいる連中は全員島に残して行こう。島の連中は別働隊に輸送させれば良いんだ。ボートの数も減らして置こう。こちらが何人か正確な数を知られていないのはこちらのメリットだよ。相手が敵対してもボクたちを全員を殺ったかどうか分からない。生き残りが街に駆け込んで領兵が何時押し寄せてくるかも知れない、そんな中で悠長に渡湖作戦をやるのはあいつらだって厭だろう。素直に協定を守るんじゃないかな」
「まあ、落とし所かな。それで行くか。あと鍵は隠そう。相手の副団長を解放する時に教える。解放場所は街道に出てから半里くらい進んだところでいいだろう」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
三十分後に会談が始まり、協定はこちらの主張どおりに纏まった。一時間後に人質として副団長が来た。ここを去る前に勇人たちにはすることが残っていた。山賊の宝物庫の接収だ。
勇人たちは副団長に案内させて宝物庫のある場所に行った。宝物庫は如何にもな外観をしており、大仰な鍵が掛けられていた。
「おい副団長、鍵はどこだい」
ガリアは側に立っている副団長に尋ねた。副団長は黙って壁際に行くと隠し戸棚を開けて鍵を出してきた。
「開けてくれ」
ガリアは用心深く副団長に解錠するように命じた。ときどき仕掛けが有って不用意に鍵を開けた者の命を奪ったりするのだ。
「なかなか用心深いな」
副団長は皮肉を込めた笑いのあとそう言うと鍵を開け、扉を少し開いてその場を譲った。ガリアは少しためらった後、扉の取っ手に手を掛け思い切って扉を開いた。そこには山賊が長年に渡って溜め込んだ金銀財宝が・・・無かった。何もなかった。ガリアはよろよろと宝物庫の中に倒れ込んだ。
「何も・・・ない」
「ははは」
副団長の高笑いが聞こえた。
「何を驚いているんだ。当たり前じゃねえか。ここに金銀財宝がうなるほどあるんなら百五十人で同数の領兵と魔猟士を相手にしようなんて考える訳ねえだろう。三百人を養うってのは大変なことなんだぜ。宝物庫の金が尽きたから義賊団を解散する資金としてハブラガ男爵の金を狙ったんだよ」
勇人はその話を聞きながら見るでもなく何もない床を眺めていた。と部屋の隅にキラッと光るものが有った。思わず近寄って拾い上げる。それは一枚の銀貨だった。
(なんや、アリババや思たのに十セントやったんか)
そっと、それを【亜空間庫】に仕舞った。
「ああ、そうだ。千両箱が有るんだったよ。忘れてた。この際だ景気づけに千両を拝んで見ようか」
ガリアは強いて気を取り直すように言うと勇人に千両箱を出すように指示した。勇人は千両という大金が専用の箱に入っているところを見たことがなかったので、ウキウキとした気持ちでそれを宝物庫の床に出した。
みんなの視線がそこに集まる。分け前のない副団長でさえそれから目を話すことができなかった。ガリアがその前に跪き、箱に両手を掛けて蓋を開けようとする。その姿はまるで千両箱を礼拝している用に見えた。
箱を開けると中には燦然と金色に輝く丸い金属が整然と並んでいた。金貨だ。だが可怪しい。普段目にしている金貨よりも大きい、輝きが美しい、意匠が違う。
「なんだ・・・この金貨は。外国の物か」
ガリアの口から思わず不審の言葉が漏れた。誰かの声が聞こえた。
「これは正金貨だ。俺達にゃ使えねえ」
「本当か」
「ああ、俺は以前貿易商の護衛をやってたんだ。そのときに見せてもらったことがある。これは銀貨百枚を持ってゆくと、これ十枚と替えて貰えるんだが、街での買い物には使えねえ。これで町中で取引すると死刑になるんだ。これが使えるのは外国との取引だけだ。だから持っていて価値があるのはそう言う取引をする奴だけだよ。あとは貴族様だな。闇取引や密輸に使うらしいぞ」
「ははは。これは俺達もお前らも草臥儲ってわけだ。何のために殺し合いをしたのか」
副団長だ。笑いながら泣いている。無駄に仲間を失ったことがよほど悔しいのだろう。
「だれか要るやつは居るか」
ガリアがみんなの顔を見渡しながら言った。その目は力なく濁っていた。
「要らねえよ」
だれもだまっていたが、それでは埒が明かないと思ったのだろう、誰かがそう声を挙げた。その行動に触発されたのか回りで頷く顔やそうだと肯定するつぶやき超えがきこえた。
「しかたねえな。ユージンに預けておくから欲しいやつは此奴に言いな。一人百両渡すよ。良いな、ユージン」
良いなとはいわれたが、ガリアの表情を見れば断ることが出来るという話ではなさそうだ。
「良いよ」
勇人はそう答えるしか無かった。
「おい、副団長、ここに残ってる奴にこれからのことを説明してやれ」
「ああ、そうさせて貰うよ」
「勇人、使いだてばかりして悪ぃが、副団長に付いて行ってくれ」
「分かったよ」
二人はまず牢屋の方に向かった。途中、勇人は副団長に尋ねた。
「あんた、正金貨は要るかい。他の国に逃げるつもりなんだろ」
副団長はギクッとして立ち止まった。
「なぜ分かった?」
「三百人も引き連れてここを出てもこの国に居場所はないだろう。外国に逃げるくらいしか選択肢はないよ」
「それもそうだな。正金貨か・・・要らねえよ」
「それで良いのかな。湖の底の千両箱はもうないよ」
「もう浚ったって言うのか。嘘をつくな、速すぎるだろう」
勇人はそう言われて立ち止まると、そこに三十箱の千両箱を積み上げた。
「僕は嘘は言わないよ」
「・・・前言を撤回しても良いか。一箱で良いから分けてくれ」
「あんたの【虚空庫】には何個入りそうだ?」
「こんなバカでかいもの一箱も入るか。中身だけ貰うよ」
「じゃあ二箱分持ってけよ。中身だけならそれくらい入るだろう。どうせ俺達には使い道もないんだ」
「お前も外国に逃げるようなことになれば重宝するぞ。大事にしとけよ」
副首領は二箱分の正金貨を自分の【虚空庫】に入れながら笑いかけた。勇人は黙って箱だけになったものも含めて全部の千両箱を【亜空間庫】にしまった。
「お前の【虚空庫】、バカ容量だな。あきれるぜ」
二人は牢屋の前に行くと、これからのことを説明した。牢屋の中の連中も副団長の顔を見ると安心したのか素直に聞いている。そのあと戦闘員以外が押し込まれている部屋にも行き、同じように話をした。副団長は食料や替えの衣類など当面必要になるものを準備しておくよう付け加えた。
ガリアは二人が返ってきたのを見ると全員を見渡して指示を出した。
「みんな、撤収だよ」




