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113 ドロス島戦記

「山賊たちって、何処に舟を隠してるのかなあ」


 勇人は峠を下りながら独り言のように呟いた。


「一艘に十人乗れるとして二十艘、少ない数じゃないから何処かに専用の隠し船着き場が在るんじゃないかな」


 耳聡くそれを聞きつけたジェシーが歩きながら話し相手になった。どちらも真剣に話している訳ではない。歩いて帰る途中の暇つぶしのつもりだった。


「峠を降りてすぐの所に在るわけじゃないよな」


「むしろ、ドロス島に一番近い所に作るのが自然だね」


「とすると峠の麓から二、三里というところか。その間街道を歩いて行くなんてことは無いよな」


「葦原の中に間道があるんじゃないの」


 その話を聞いていたイラナが横から口を挟んできた。


「葦原の中の間道を二・五里(約十キロ)。千両箱は五貫(約二十キロ)はあるぞ。それを二個十貫担いでたやつも多かった。担いでそれだけの道を歩くんなら、そんなに早くは行けねえ。走れば追いつくかも知れねえぞ」


「可能性はあるな。やるか」


 ガリアまで話に加わってきた。


「頑張って取り返してもあの男爵が喜ぶだけじゃないか。ボクは嫌だよ」


 ジェシーは全く気乗りしないと言う顔でそう言った。


「ジェシー、それは違うぞ。護衛依頼の対象には当然雇い主の荷物の護衛も含まれるが、荷物が盗まれた場合、護衛失敗となるか今回みたいに護衛対象の優先度から護衛成功と判断されるかどちらかではあっても奪還までは義務に入らないんだ。


 勿論盗まれる途中の荷物は護衛対象だが、盗賊が荷物を持って逃げてその行方が分からなくなったり、普通に考えて奪還するのが不可能な状態になった場合にはその時点で護衛対象からは外れんだ。その後に誰かが盗賊からそれを奪還すれば奪還者のものになるんだ。


 護衛が奪還した場合の処理は微妙だが、今回の場合にはオレたちは峠で契約打ち切りになってるから問題ねえ」


「と言うことは取り返したら三万両がボクたちの物ってことだね」


 勇人はジェシーの目が一瞬$になったような気がした。錯覚だろう、たぶん。


「よし、オレが葦の中の間道を走る。船着き場を見つけたら合図するから他の者は街道を走れ」


 全員がジェシーとイラナのやり取りを聞いていたのだろう。イラナが指示すると即座に走り出した。一人頭千両なのだ、悠長に構えている場合ではない。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 走った甲斐があった。斥候としての高い能力を発揮して葦の間道を街道組より先まで走っていたイラナが街道に飛び出してきた。全員何も言わずに停まる。彼女が街道に飛び出したのは敵が近いからだと全員が理解しているからだ。


「この先に隠し桟橋がある。舟が二十艘くらい付いている結構大きな桟橋だ。幅一間長さ四間くらいの舟だ。一艘だけその倍くらいな船がある。これが輸送用に用意した舟だろう。敵は四十人くらい居る。やつらも着いたばかりで一息ついている。もうすぐ積み込みを始めるぞ」


「よし、マヤ、バペット、こっちへ来てくれ。作戦を話す」


 二人がやってくるとガリアは話し始めた。


「マヤ。間接攻撃隊の指揮を執れ。桟橋を半円形に囲んで一斉射。その後は半数は突撃隊の後衛、間接攻撃持ちを優先的に倒せ。残りの半数は手近な舟の出航準備だ。


 バペットは突撃隊の指揮。間接攻撃隊の一斉射が終わったら直ちに突撃。盾持ちを前にしろ。手当たり次第に倒せ」


 ガリアの指示に二人は黙って頷いて、それぞれ仲間の肩を叩いて回った。肩を叩かれた者は叩いた者に着いて行く。何度も一緒に狩りをしてきたのだろう、この辺りは阿吽の呼吸だった。


 全員が葦原に潜んで桟橋を望んだころ、一休みした山賊たちも動き出した。湖が目の前という安心感と、抜けきっていない疲れがその動きを緩慢にしている。


 ガリアが目配せをするとマヤとバペットが黙って頷き、マヤが手を振り下ろした。十五本の火線が弓矢、【火箭】、【風刃】となって山賊に降り注ぎ、またたく間にその十人が倒れ伏した。注いでバペットが合図も出さずに飛び出す。それに続いて十五人ほどが盾持ちを前に飛び出した。ガブルもその中の一人だ。


 山賊も残っていたのは精鋭らしく、勇人らの先制攻撃を物ともせずに盾持ちが積み込み役を守り、残りの者はこちらの突撃隊に向かってきた。やがて両者がぶつかって乱戦となり、間接攻撃は殆ど出来なくなった。


 相手の間接攻撃隊の人数は三名と少ない。間接攻撃の出来る者はそれなりに高給を得られる仕事にありつけるので盗賊に身をやつすものは相当の訳あり以外には居ないのである。この三人は間接攻撃の素振りを見せた段階でこちらの間接攻撃隊に排除された。


 山賊たちは押されて少しずつ後退しながらも良く守り、最終十人くらいになったところで千両箱の積み込みを終えた。敵の守備隊十人と積み込み役で生き残っていた十人が千両箱を乗せた舟ともう一艘の舟とに分乗して桟橋を離れドロス島へと漕ぎ出した。千両箱を乗せた舟は二丁櫓で、足は速そうだ。


 勇人たちも三艘の舟に分乗して後を追った。如何に二丁櫓と言っても十人の積み込み役と首領らしき人物、漕ぎ手二名の十三名の乗員に六百キロもの荷物を積んでいるのだ。船べりから水が入らんばかりに沈み、速力は上がらない。守備隊の乗った舟はそれに合わせて走るしかなかった。


 勇人たちの三艘は櫓の漕ぎ手を交代しながら走り、ジリジリと山賊たちの舟に追いついてきた。桟橋と島との中間まできたときにはその距離は二、三十メートルになっていた。


 と突然、山賊の首領が何か指示を出し、荷物舟に乗った積み込み役が今度は千両箱を湖に投げ込みだした。【虚空庫】に入れているものまでわざわざ出しして投げ込んでいる。戦利品を勇人たちに渡すまいとして湖に沈めるという暴挙に出たのか。勇人は何とか沈み切るまでに【亜空間庫】に取り込めないかと考えて湖の中に出来るだけ深くその入口を伸ばしてみた。


 すると十一、二メートルのところで湖底につかえてしまったではないか。水面から底は見えないものの意外と浅いようだ。勇人は【亜空間庫】でそこを探って千両箱を回収しながら自分たちの舟が山賊の運搬舟に追いつくのを待った。


 舟に残った千両箱が一個になったときに遂に追いつき、運搬舟の中での戦闘となった。首領のほかは運搬役と船頭という戦闘には不向きな者しか乗っていない舟である。制圧までさしたる時間はかからなかった。こうなっては首領も生き残った者も降参する他無かった。もう一艘の舟も首領が降参したのを見て降参の道を選んだ。


「取り敢えずこれは仕舞っておいてくれ」


 ガリアの要請によって勇人は舟に残っていた千両箱を【亜空間庫】に収納した。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



ドロス島の船着き場は回りを崖に囲まれた小さな入江にあった。木と岩とで作られた城壁が島の奥へと続く道を塞ぐように立っている。島にはここ以外に舟が付けられるような場所はなく、そういう意味でも島は要害の地だった。


「さて、ここまで来たんだがこれからどうする」


 ガリアが独りごちる。目的は果たした。ここで帰るのか、島のお宝もいただくのか。


「わたしたちを襲ったのが百五十人、おそらく別働隊を襲いに言ったのが五十人ですから残っているのは百人くらいですわ。そのうち半数以上は戦闘能力の無い者でしょうから戦えるのは五十人までですわね。叩くのなら今から、別働隊を襲いに行った五十人が帰ってくるまででしてよ」


「そうか。チャンスっちゃチャンスだな。やるか。あとは方法だな。ここまで来て犠牲は出したくねえ」


「それなら捕まえておいた首領を出して降伏勧告をさせてみたらどうかしら」


「一度やってみて損はないな」


 首領を連れてきてその話をすると首領は笑いながら言った。


「俺は降伏した身だ。言われたとおりにするさ。でもな前には堅固な城壁があって、もうすぐ別働隊が帰ってくるんだ。守備隊長はいうことを聞くまいよ。捕まったら縛り首か斬首か犯罪奴隷か。どうせろくな将来は待ってねえんだからな」


 ガリアはそれでもやらせてみたが、案の定彼の言うとおりの結果だった。なにせこちが三十人ほどしか居ないことは手に取るように見えているのだ。その人数では城壁は越えられないと踏んでいるらしい。


「犠牲を出さずに城壁を占領できれば良いんだよな。僕に考えがあるんだけど聞いてくれるか」


 頭を抱えて思案する二人に勇人が口を挟んだ。


「言ってみな」


「まず一号砦の半分を出すしてみんなその陰に隠れる。次にその斜め前に残りの半分を出してそっちの陰に移動する。そのあと前の半分を仕舞って、今居る一号砦の半分の斜め前に出す。でみんなそっちの陰に移動する。これを繰り返して城壁に近づくんだ。


 一号砦の三階の方が城壁より高いから十分近くまで行ったら二つとも並べて出して間接攻撃で城壁の上の山賊を掃討して、そこを占領。あれを占領されたら中に籠っている奴らの考えも変わると思うんだ。


 それでも降伏しなかったら、獲った城壁を足がかりにして今度は内側で同じように一号砦の半分を交互に出して前進するってのはどうだろう。これだったら犠牲を出さずに奴らの砦を占領できるだろう。」


「なるほど。ものは試しと言うこともある。それでやってみるか」


 ガリアは乗り気になっていた。ここまで来て山賊のお宝を諦める手はない。千両箱は一つしか手元に残らなかったのだ。この作戦は半分だけうまく行った。城壁を占領した時点で白旗が上がったのだ。残り半分を実行しなかったことには誰も文句を付けなかった。


 ガリアは投降した者たちを戦闘職とそうでない者とに分けて別々の部屋に入れた。特に戦闘職については牢屋に押し込んだ。盗賊たちは非合法の封魔の枷を持っていたので、全員がそれを付けられて【虚空庫】の中身を強制的に出され、武器になるものは取り上げられた。


 あとは城壁に魔猟士組合ラフィア支部の旗・・・なんてものはないので、適当にでっち上げた旗を作った。後は敵の別動隊が帰ってくるのを待つだけだ。魔導士たちは思い思いに城壁の上でくつろぎ始めた。

2026/7/14 内容を少し変更しました

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