011 魔法世界でも開墾は苦行です
010話が短かったので、もう1話投稿します。
翌日も朝から鍛錬をして、その後朝食を摂った。そのあとシモンと二人でエラドの所に行き、堀の土が乾くまで一週間ほど掛かること、それまで年少の子供たちをエラドの指揮に戻して、自分たちは薪割をすることを告げて了承を得た。
孤児院の裏手の鍛錬場に使われている庭に行くと、孤児院の北側の壁に沿って大量の薪が積まれていた。庭の東側に沿って水田へと続く水路があり、その更に東側に五反ほどの畑があった。そのさらに東側と北側は林になっており、水路沿いの畑との境になった辺りには沢山の切り株と、数本の切り倒された木があった。その木を薪にするらしい。直径が三、四十センチはありそうな大木だ。
シモンは倉庫から木挽きと大斧を持ち出してきた。木挽きで薪の長さに木を伐り、斧で割って薪として実用的な太さに分けるらしい。
(これは大仕事やなぁ)
二人で息を合わせて木挽きで木を薪の長さに切り分けて行き、斧を交代で使って薪にする。十歳の子供には重労働だった。
(やり方を身体が覚えてるんは毎度のことでユージン一号様々やけど、これは効くなあ。何とか楽にならんやろか)
一緒に木挽きで丸太を一つ作り、四、五回ずつ斧を振るうと一休みせざるを得ない状態になった。二人で丸太に座って休みを取る。
「なあ、シモン。もっと楽に薪ができる方法はないのか。例えば太さ三寸くらいの木を使うとか」
「林の奥ではそうしてるよ。昔から木を切っていて、残りの切り株から出てきた新しい幹が二、三寸になったところでまた切るんだ。そうしたら林はいつまでも残るだろ」
確かに直径十センチから二十センチの丸太もあった。
「じゃあ、なぜここではこんな太い木を切ってるんだい。幹の太さが一尺もあるじゃないか」
「ここは、畑と林の境目だろう。そこの木を切って、切り株から生えてくる新しい芽を出てくる度にみんな摘んでゆくと、何回かやってるうちに新しい芽が出なくなってくるんだ。切り株が死んじゃうんだね。そうして何年かすると切り株が腐って無くなってしまう。そうしたらそこを畑にするんだ」
「なるほど。気の長い話だけど、根を掘るよりはずっと良いよね」
よく見ると腐った切り株がある土地が辺りに広がっていた。
(ワイらが力仕事をせんといかんと言う点を除いて、やがな。何か、こうスパッと木切る方法ないんやろか。土魔法使えるんとちゃうか)
「土魔法でスパッと切るというのはダメなのかな」
「うん、土魔法は石や土を切るのは簡単なんだけど、草木や動物なんかの生き物は難しいんだ。チビどもには無理だ。あっ、二つ下のハンナは土魔法が得意だ。でも、植物を切るのにはかなり時間と魔力を使うからこの丸太から一回輪切りにしたら一日終わりかな」
「そうなんだ。やっぱり力仕事をするしかないんだね」
翌日から一週間は畑予定地の伐採と枯れ切り株の伐根作業が続いた。薪を孤児院の敷地まで運んで倉庫の軒下に積んでゆく作業は五歳組から八歳組までの八人の幼児たちの役目だったが、九歳、十歳の三人もこちらに回されて十二人となった。実のところ代掻きの間は実際に代掻きをする十四、十三歳組と来年以降のためにその方法を見学する十二、十一歳組で十分足りる。
勇人は【虚空庫】魔法が使えないのでもっぱら木の伐採と薪作りの仕事に専念した。
見ていると十歳、九歳組の四人はそれぞれに開墾地で割った木を集めて両手を向けている。両手のひらと地面に広げた木が微かに光って見え、木から微かに湯気が立っているところを見ると火魔法を向けているようだ。
「何してるんだ」
勇人は肩で息をしながら一休みしているリーアに尋ねた。
「木を乾かしているのよ」
「薪なんて倉庫の脇に積んでおけば乾くんじゃないのか」
「【虚空庫】には生きてるものは入らないんだ。誰が判定しているのか知らないけどこれが結構厳しくてね。動物の生き死には簡単なんだけど、植物だと切り倒したり刈ったりしても世話の仕方によっては又芽が出たりすることがあるだろ。だから生木の場合はまだ死んだとは言えないんだ。こうやって魔法で熱を加えて水分を適当に抜いてやると死んだということになって【虚空庫】に入れられるようになる」
息が上がっているリーアと説明が下手なアビーに代わってシモンが答えてくれた。
「そうすると米なんかも籾のままでは入れられないわけか。【虚空庫】も不便なところがあるんだね」
「悪いことばっかりじゃないぜ。籾では【虚空庫】では運べないから大量に運ぶときには籾すりをしたものを送るんだけど、籾すりをしても殻付きのままのものが混じってるだろう。それをそのまま【虚空庫】に入れると殻付きのものだけ入らずに残るんだ。そんなのばかり集めてもう一度籾すりをするから、一度籾すりをした中から手作業で殻付きのままのものを選ぶよりよっぽど手間がかからないんだよ」
「なるほど良い面もあるんだなあ」
「そればかりじゃないぜ。獲物を獲って一度【虚空庫】に入れると獲物に付いてたダニなんかも入らずに残るんだ。それに何か白っぽい物も残るけど、これは獲物の中にいる悪い生き物だって言われている。一度【虚空庫】に通した獲物は通さない獲物より長持ちするから、大人が言うとおり獲物を腐らせる悪い生き物なんだろうね」
(なるほど獲物の体内の細菌も生物認定されて外に弾かれるわけか。エラドもそんなこと言うとったな。便利なもんや。ウイルスはどうなるんやろ。聞いても解らんか)
「そうなんだ。【虚空庫】は物を運ぶだけじゃなくって便利な使い方もあるんだね。ところで、リーアは何でそんなに疲れてるんだい」
見たところ他の三人は特に疲れた様子はないのにリーアは座り込んで肩で息をしている。
「リーアは火魔法がヘタっくそだ。【治癒】以外は全部ヘタっくそだ。魔力は無駄に多いのにすぐ疲れる。でも休みながらなら一日できるぞ」
今度はアビーがリーアに代わって答えた。
「どうも魔力や魔法のことは良く分からないなあ」
「使っていれば自然に分かる」
「チュードの僕には無理な話だよ」
これ以上話を続けるとみじめになるだけなので、勇人はこの話は打ち切り、開墾の話に戻すことにした。
「木の枝分かれした部分や根の曲がったところなんかで、薪として使いにくいものもあるだろう。魔力に余裕があったらで良いからそれも乾かして開墾地に置いておいてくれよ」
「オレ、火魔法の達人だ。乾かすのはやってやるぞ。乾かしてどうすんだ」
アビーが答えた。相変わらずぶっきら棒な言い方、しかも一人称は「オレ」。幾ら九歳でもこれはないだろう。
「燃やして灰にして開墾地に撒くんだよ」
「そんなことして、何の役に立つんだ」
「作物がよくできる土になるんだ」
「肥料か。それならそうと言え」
(酸性とかアルカリ性と言うてもわからんやろ。肥料でええか)
「まあ、そんなものだ」
「へぇ~」
アビーは気のない返事をしながらも他の子が残していった薪にはちょっとし難い枝や根を集めるとそれに火魔法を使った。暫くすると枝や根から湯気が立ち始めた。木に含まれている水分が蒸発しているらしい。
「出来たぞ。ここで燃やすんならこれくらいで良いだろ」
暫くするとアビーは勇人に向かってそういった。
「おっ、早いなあ」
勇人は思わずそう言った。リーア以外の二人も同じようなことをしているが、燃えるくらいに乾燥するにはまだ時間がかかりそうだ。
「オレはここで一番の火魔法使いだぞ。他のやつには負けない」
一週間頑張って一畝(三十坪)くらい開墾地が増えた。約一アール、約一〇メートル四方の土地だ。この後は年長の子供たちが元からの畑と合わせて牛と鍬とを使って耕し、畑にしてゆくことになっている。




