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心は人間でありたい

悲鳴が飛び交い、幾戦もの血が流れる混迷した街中で、一人懸命に戦い続ける少女の姿があった。

その正体はセリス・アルマティファであり、小用の為東区を訪れていた際に事件が発生し、それ以降しばらくの間、たった一人で複数の黒い怪物達を相手に剣を振るっていた。


倒しても倒しても、途切れることなく襲いかかって来る怪物達の物量に押され、徐々に溜まっている疲労感を隠せなくなる。極力能力(リボルト)に頼らずに捌いていたが、本格的に行使せざるを得ない状況まで追い込まれていた。


「次から次へと………!もうっ!!」


セリスは水彩剣アートブレイドに力を込めた後、頭の中でイメージしていた風の力をもって怪物達を吹き飛ばす。強烈な風圧を受け、怪物達はドミノ倒しのように次々と倒れていく。

その隙に獲物の水彩剣アートブレイドを操り、容赦なく斬り伏せる。以前大司祭ナーゲルから教えられた情報が確かなものであるのなら、目の前にいる怪物達は元人間。救済を主目的とする聖典教会リベル・サーンクトゥスの道理に反する他、セリス自身にも何とかして『助けてあげたい』という気持ちがあったが、具体的な救出方法は分からない。その上、周囲の状況も鑑みると、そんな余裕などなかった。現在進行形で生存している人達の救助と避難を優先すべく、心を鬼にして怪物達に一撃を浴びせる。


十を超える屍を築いた頃、倒れていた怪物達の中の一匹だけ、勢い良く起き上がって巨大な拳を振るってくる。何とか太刀筋を見切ったセリスはこれを受け流し、ただならぬ気配を感じた為に距離をおく。


「っ、何?この嫌な感覚は?」


「へェ………やるじゃン。俺の攻撃を見切るなんてサ。」


突然怪物が、口のない身体で『会話』をしたことに驚き戸惑う。怪物はゆっくりとセリスとの距離を縮めてくる。


「アンタ、聖典教会リベル・サーンクトゥスの人間だよナ?ラドクリフって男を知っているかイ?」


「どうしてラド君の名前を………!?」


セリスは慌てて口を閉じるが、手遅れだった。怪物は口のないその身体で『笑う』と、漆黒の巨躯を揺らして右手を上げる。


「ラドクリフはどこダ?素直に言えば命だけは助けてやるガ、言わないのであれば痛い目をみるゾ。」


「………お生憎様だけど、教えられないよ。貴方のような危ない人には特にね。」


「そっカ、そうだよナ。なら仕方がなイ。実力行使ダ!」


怪物は上げていた右手をセリス目掛けて振り下ろす。その圧倒的な速さに反応出来なかったセリスは、受け止めることを余儀なくされた。ずしりと重たい一撃に刃が震える。


「やるナ。これを受け止められるとハ。」


「うぐっ………せいっ!!」


撫でるような軌跡で怪物の右手を払い流し、攻めに転ずる。自らが斬った怪物達の死骸を踏み台にして跳躍し、頭部を目掛けて唐竹割りをお見舞いするも、セリスの水彩剣アートブレイドは空を切った。怪物は、尋常ならざる速さで移動し、一瞬でセリスの背後を取ったのだった。


「っ速い!?」


「アンタが遅いんだヨ!!」


怪物の拳が唸りをあげて、セリスの背中に襲い掛かる。先程同様、凄まじい速度で薙ぎ払われる右手を喰らい、セリスは付近の壁に激突した。


「ハハハ、無駄無駄!」


一撃では満足しない。怪物は、壁にめり込んだセリスに更なる追撃をかけるべく、再度距離を詰める。


「うぐ………まだっ!!」


想像以上の強烈な一撃に口から血を流しながらも、セリスは水彩剣アートブレイドを手に取って迎撃準備を整える。肉体的な負荷を考えると、二度目を受ける訳にはいかない感覚であった。縦横無尽に振り回される怪物の両腕を捌きつつ反撃を試みるが、今の体力では正直難しい状況であった。

為す術もなく、そのままじわりじわりと押され続け、背が壁に当たる。ついに追い詰められてしまった。


「ハハハ、中々楽しめたゼ。アンタ、名前ハ?」


「聞いてどうするの………?」


「勲章。………いヤ、ただの自己満足の為サ。いつか俺の倒した奴らのリストを作るつもりだからヨ。」


「借り物の力に溺れている貴方に、そんな事を言う資格があるの?」


「何………!?」


セリスの一言が怪物の癪に障ったようだった。怪物は水彩剣アートブレイドを叩き落として、セリスの首根っこを掴み宙に浮かせる。


「ほら………その態度。図星ってことだよね?」


「黙レ!俺は強くなったんダ!!強く………強ク!!この力があれバ、もう誰にも馬鹿にされることはなイ!」


「人として、大切なモノを失っても手に入れたかったの?」


心理を突いたかのようなセリスの言葉に、怪物は頭を悩ませているような仕草を見せるも、戦意を喪失させるまでには至らなかった。


「何なんだお前ハ………!?俺を悩ませるナ!」


「どうして、貴方はそんな力を手に入れなければいけなかったの?」


「聞いてどうすル………!?」


「私、これでも聖典教会リベル・サーンクトゥスの人間だから。」


「善人気取りカ!?俺はそう言うの大嫌いなんだヨ!!」


「奇遇、だね。私も貴方みたいな自分勝手な怪物は大嫌いなの!」


十分に稼いだ時間を有効に使って、セリスはある『細工』を施していた。怪物に弾き飛ばされた水彩剣アートブレイドから氷のツタを這わせ、怪物の足元まで伸ばしていた。自身の大喝を合図に、怪物の脚全体を凍りづけにする。


「くそッ、謀ったナ!?」


「違う。話を聞かせて欲しかったのは本当だよ。でも、その気にさせる必要があったから………!」


怪物の股を前転で潜り抜け、弾き飛ばされた水彩剣アートブレイドを手にしたセリスは、迷うことなく怪物の背を一刀両断した。怪物は、苦悶の雄叫びを発しながら地面へ倒れ伏すが、立ち上がろうと懸命にもがき足掻く。


「まだやる気!?」


「俺ハ、俺ハ………負けられないんダ。そうじゃなきャ、何の為にこんな身体になったのか分からないじゃないカ!!」


「もう、負けてるよ。人間を捨てた時点で。人に生まれた貴方が人を捨てたら、もうそれは貴方じゃない。」


「くッ………なんだヨ………。分かったようなことばっか言ってサ。お前、ほんっと嫌いダ。」


「奇遇だね。私も、貴方は嫌い。でも、こうなる前の貴方なら、好きになれたかもしれない。話してくれる?」


セリスの不思議と優しい声色に、ついに怪物は抵抗する意志をなくした様子であった。仰向けになって寝転がり、静かに語り始める。


「俺の名前はサィカ。情けない話だガ、俺は昔いじめられいたんダ。同い年の男子連中から、いつもいつも馬鹿にされテ。最初は何てことなかっタ。だけド、日に日にあいつらのいじめはエスカレートしテ………。耐えられなくなった俺ハ、逃げタ。」


セリスは水彩剣アートブレイドを空間に収めた後、黙って頷く。話を聞く姿勢をとったセリスの姿に安堵したのか、サィカと名乗った怪物は言葉を続ける。


「それ以来俺ハ、ずっと家の庭で強くなる為の特訓に励んダ。能力リボルトを開花させテ、能力者リボルターになれバ、俺を馬鹿にしていた奴らを見返せる、ト。………だけド、結局手にしたそれハ、俺の手には有り余る程の強力な『力』だったのサ。強すぎるその力に溺れた俺ハ、力の程を示すのに適した実験としテ、俺をいじめていた奴らを皆殺しにしタ。その時ダ、俺の中のタガが外れたのハ。」


「………沢山の人を殺したんだね。」


「あア、楽しかったんダ。俺を馬鹿にしていた奴らが、揃いも揃って媚びへつらイ、泣きながら必死の命乞いをすル。その時俺は思ったヨ。俺をいじめていた奴らハ、こんな気持ちだったんだろうなあっテ。本当に楽しかっタ。」


殺人と言う名の快楽にその身を委ねたサィカの甘美な咆哮。嬉しそうでもあり、また、己の人生を嘆いているようにも聴き取れた。


「俺の能力リボルト加速アクセラレート。常人の五倍近い速度で走ることが出来ル。尤モ、この身体になってからハ、足以外も速く出来るようになったガ。」


サィカの種明かしで、先程の異常に速い行動の数々に納得がいく。それと同時に、数ヶ月程前にラドから聞いた能力者リボルターの話を思い出した。


「貴方があのサィカ………。だからラド君を?」


「そうだヨ。まだ人間だった頃の俺ハ、街中でアイツに喧嘩を吹っかけたんダ。それまで何人もの馬鹿を殺した俺にとってハ、獲物の一人程度の認識しかなかったサ。でもどうダ?アイツハ、能力リボルトすら使わずに俺を倒して見せタ。確かに慢心していたとはいエ、手加減されて負けるとは夢にも思わなかっタ。」


「………ラド君は手加減なんてしないよ。悪には全力で立ち向かう人だから。」


「嘘をつくなヨ。お前はアイツの何を知ってるって言うんダ?」


「私だって、そんなに多くの事を知ってる訳じゃないよ。でもね、分かるんだ。直接会った貴方は、何も感じなかった?」


サィカは沈黙する。どうやら思い当たる節がある様子であった。


「それにね、ラド君は能力リボルトを使わなかったんじゃない。使えないの。」


「何………!?嘘ダ、そんなノ………。それなのニ、俺の挑戦を受けたって言うのカ!?」


「だから言ったでしょ。ラド君は、悪には全力で立ち向かう人だ、って。」


セリスの嘘偽りなき瞳と声色に、流石のサィカも認めざるを得ないようだった。力なく右拳を大地に叩きつけて軽く唸る。


「ハハハ………まじかヨ。そりゃあ、勝てないよなァ………。俺の敗北は必然だったって事カ。」


サィカは、突如自身の身体に両腕を突き刺し、自害を図る。多量の鮮血が飛び散り、周囲は瞬く間に血で染まる。


「何を!?やめてっ!!」


「いいんダ………これだけやらかしたんだかラ、相応の罰を受けるのは当然だろウ?」


「だからって………!!死ぬ事で現実から逃げないで!!」


「この身体でどうやって生きるっテ?無理だヨ………。あア、でも最後に会いたかったなァ………。ゲンじいちゃン、もう手紙送れないヤ。ごめン………。」


ただ一つの後悔を残して、サィカの魂は世を去った。セリスは、最後までその姿を見届けてから、手厚く葬った後、まだ逃げ遅れている人達の救助へ走った―――――

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